サービスをグロースさせる役割として、期待のかかるインサイドセールス。しかしながら、その経験者の絶対数が少ないこともあってか、各社が手探りで採用に当たっている様子もよく見受けられます。
そこで、2020年12月に『インサイドセールス 訪問に頼らず、売上を伸ばす営業組織の強化ガイド』を上梓し、自らもビズリーチで人材管理クラウド「HRMOS」事業部のインサイドセールス部部長を務める茂野明彦さんに、採用と組織づくりの観点でお話を伺いました。
茂野さんは人材系スタートアップを経て、2012年にセールスフォースに入社。インサイドセールスとしてのキャリアをスタートさせました。経験を積んだ後、2016年にビズリーチへ。会社全体でのインサイドセールスチームの立ち上げに従事してきました。
現在は、採用から入社後の活躍まで、さまざまなデータを連携させ、従業員一人ひとりを可視化できる人財活用プラットフォーム「HRMOS(ハーモス)」シリーズのインサイドセールス責任者を担います。加えて、2020年12月からは、スタートアップの創業期の経営チーム組成など、採用や経営戦略面の支援を行なう「BizReach 創業者ファンド」パートナーに就任し、出資先への支援も行っています。
30代で、自らのキャリアにおける専門性を「インサイドセールスに据えよう」と決めた茂野さんは、「単なる経験者では組織立ち上げは難しい」と言います。経営者と採用候補者が知るべきインサイドセールスの実状を、たっぷりと聞かせていただきました。
調べるほどに良い仕組みだと思えた
実は、インサイドセールスに対して、最初はネガティブだったんです。
セールスフォースに転職するまで、人材系のスタートアップで8年を過ごし、最後の2年間は自分で研修事業を立ち上げ、26人ほどのメンバーを率いていました。最初は営業として面接を受けたのですが、ITやソリューションセールスの経験がないことを理由に「インサイドセールスから始めてみませんか」と言われ、自分のキャリアが狭まったように感じました……。
ただ、インサイドセールスのことを、すっかり勘違いしていたと後でわかりました。難度の高い仕事で、調べるほどに良い仕組みだと感じました。効率的なグロースを仕掛けられ、問い合わせや商談化の創出につなげられるためマーケティングにとっても良い組織ですし、営業組織にも貢献できます。
僕は、いわゆる「テレアポ文化」がとても苦手でした。電話をかけることだけにリソースを消費していくだけでは、誰も幸せにならないだろうと思ったんです。
すこし余談ですが、「アポ」という言葉も会社内では使わないようにしています。僕らは商談の機会を創出しているのであって、アポイントだけを獲得するチームではありません。言わば「0→1ではなく0→2まで」を求められる仕事です。
そういった仕事に取り組むなかで、インサイドセールスを据えるプロセスは優れており、ネガティブな思いはなくなりました。旧来的な新規開拓の手段を用いずとも、マーケティングがブランディングを担って見込み顧客をつくり、インサイドセールスが営業に適切なタイミングでそれをつなぐ。そして、営業はお客様と向き合う時間に日々集中できるからです。
異業種転職が多いのも現在のインサイドセールス
本腰を入れてインサイドセールスに取り組もうと考えられたポイントのもう一つは、お客様から「インサイドセールスって何?」とよく聞かれるようになった2013年の頃だったことも大きいですね。
マーケットはまだないけれど、これから大きくなるはずだと感じたから、キャリアをインサイドセールスに投資しようと決めたんです。僕はキャリア観において、20代から50代までのいわゆる「VSOP」を大事にする派です。20代は「V(Vitality&Variety)」ですから、いろんなことに挑戦してきました。
30代の「S(Speciality)」では、僕はインサイドセールスをスペシャリストに据えようと考えました。さらに、「再現性がないことはスキルとは呼べない」という自分の定義に則り、セールスフォースの素晴らしい組織で学んだインサイドセールスの再現性を証明するためにも、ビズリーチへ転職しました。
ビズリーチではインサイドセールス組織の立ち上げから携わり、セールスとの連携や後にはBtoBマーケも兼務。デマンドジェネレーションに力を注いできました。組織が大きくなったきたタイミングで、「インサイドセールスは事業ごとに細かなパートナーであるべき」という考えもあり、全体を再編することになりました。
今、ビズリーチでは事業ごとにマーケティングとインサイドセールスが分かれており、僕はHRMOSにおけるインサイドセールスの立ち上げを経て、責任者を務めているというのが現状です。並行して、それこそ『インサイドセールス』というタイトルの本を書いたりと、この役割をもっと広めようと活動したりもしています。
そのような活動をするのは、異業種からの転職する際にも良い職種の一つだからです。そもそも異業種転職は難しいと言われていますが、僕もインサイドセールスでなかったら、セールスフォースに転職することは難しかったはずです。
実際に、インサイドセールスの業界で活躍している方は、異業種から転職されている方が多いです。後で採用についてもお話しますが、アパレル業界やホテル、ウェディング業界などの人材も活躍しています。生産年齢人口が減っていく日本においては、業界や業種の未経験者も採用していかなければならないと考えるなかで、インサイドセールスは個人のキャリアにも効くし、企業の人材獲得においても貢献できます。
だからこそ正しい情報を発信して、適する組織が創れるように、インサイドセールスの価値を発信していきたいんです。
インサイドセールス経験者が採用できても、組織は立ち上がらない
組織の役割や立ち上げの困難などの細部は『インサイドセールス』でも書かせていただいていますから、今回は「一人目のインサイドセールス」から始まる採用についてお話しましょう。まずは、何よりも立ち上げを担えるパワーのある人をしっかり採れることが大切です。経験者だからといって立ち上げをすべて任せられるほど簡単なものでもありません。
理想の候補者を描くなら、数年単位でインサイドセールスに関わったことがあり、他部門との折衝経験を持つ方でしょう。パイプライン全体に関わる職種ですから、その質や量についても意見ができ、部門間の調整や設計に解像度を高く持って取り組まなければいけません。常に問われるピープルマネジメントの能力をはじめ、人材採用や給与査定、目標設定の経験といったものを持ち合わせていると望ましいです。
肝心なのは、経営層が「インサイドセールス経験者を採用できたから、これで組織が立ち上がる」とは思わないことです。たとえば、toCとtoBの営業であっても、同じ役職名でも業務内容は違いますし、業界によっても勝手が異なりますよね。
経営者からすれば、「インサイドセールスの経験がないからわからないことが多い」というのは本音のはずなんです。だからこそ、経営層は必要要件の解像度を上げ、その経験に合うか否かを見極めていかなくてはなりません。
何を任せたいのか、どこまでが必要要件なのかを考え抜いて、ジョブディスクリプションを明確にすべき。特にSaaSベンダーの場合は、自社の状態を理解した上で、採用する人材にどういった業務範囲を担ってほしいのかを考えることです。
The Modelを取り入れるならば、マーケティングのキャンペーン管理やセールスのフェーズ管理もできているけれど、実行者が不在という状態なのか。あるいは、マーケティングはリードを生み、セールスの売上も伸びているけれど、部門間のやり取りが明確になっていないのか。
どちらのケースであっても、採るべきインサイドセールスと期待する役割は異なってきます。俯瞰して見ることで「何ができていて、何ができていないか」と「経営者が求めるAs-isとTo-beのギャップがどこまでのレベルなのか」を、考えた上でアサインすることが重要です。
そこへ掛け合わせるべきはグロースへの思想です。最近は「Product-Led Growth」か「Sales-Led Growth」かといった話もありますが、何を中心に、どういったコンセプトでビジネスを展開していくのかを考え、それに合う人材を見つけること。
インサイドセールスに限りませんが、組織カルチャーにフィットしない人を採用してしまうのは一番の痛手ですから。
言語化することでカルチャーもアイデンティティも保たれる
組織カルチャーは、やはり言葉で作られていくと思うんです。
あるときに、僕は「インサイドセールスは車のエンジンだ」と言っていました。会社が成長し、前へ進むために必要な組織だったからです。次には「飛行機のエンジンだ」とも言いました。僕らのチームが止まったら会社が墜落するほど、大きなパイプラインを担っていたからです。
立ち上げ期の組織では「ミッドフィルダーだ」と呼びました。攻めにも守りにも行くし、業務要件定義なんてないほど、毎週毎月やることが変わるくらいに、マーケットとビジネスをつなぐ存在である覚悟が必要だったからです。
ビズリーチでは、当時の“Customer makes Bizreach”という言葉をカードにして、いつでも見返すことができるようにしていたこともあります。「お客様がビズリーチを創っていて、すべての起点は顧客である」というカスタマーファーストの意識が浸透していきました。
組織のカルチャーや価値を浸透させる必要は、インサイドセールスがパイプラインの中間地点を担うことが多く、マーケやセールスに比べて評価もわかりにくくなってしまうケースがあるからです。「自分たちが何者か」というアイデンティティを持たないと、意義を見失うことになりかねません。
そして、言葉の浸透は面接でも必要になってきます。僕たちが大切にしている言葉や価値観に合う人なのかを、面接を通じて聞くことができるからです。先ほど、異業種転職の話もしましたが、僕は現職の業界などは全く気にしません。
例を挙げるなら、チームで売上の最高記録を出した人の前職はウェディングプランナーでした。他にも金融、証券会社、メーカー営業、OA機器代理店など、バックグラウンドは様々な方が活躍しています。トレーニングの体制さえ整えれば、成長機会は本当に多い職種ですから、短期で活躍することも可能です。
活躍しやすい人の共通項をあえて出すなら、ステークホルダーを見極め、適するコミュニケーションに変えられる方
インサイドセールス業界をさまざまに見てきて、活躍しやすい人の共通項をあえて出すなら、ステークホルダーを見極め、適するコミュニケーションに変えられる方。そして、基本的に競合他社がおり、高単価の商材を扱ってきた経験があるような、いわゆる「BtoBセールス」には親しい部分が多いともいえます。それらの経験が役に立つシーンもあるでしょう。
他責傾向がある人を見抜くための質問
面接で現職は気にしませんが、カルチャーフィットの部分や思考力に関しては注意深く見ます。レスポンスのスピードや内容を確かめるために、あえてテンポを早めて質問することもあります。
インサイドセールスはお客様から受けた質問の「さらに先」の質問を想定しながら話す「思考の持久力」が必要です。僕たちも面接で、抽象、具体、抽象、具体と質問を繰り返しながら、会話に付いてきてくれるか、深く考えてくれているか……といった点を探っていきます。
また、インサイドセールスは他責傾向があると務まりません。なぜなら、「受注が決まらないのはリードが少なく質が悪いせいだ」など、他部署と連携して動いているために、言い訳を効かせようと思うと、すぐに理由を見つけやすいポジションでもあるからです。
自責か他責かの傾向を見極める質問としては、「トップの人材との差異に対して、どのような理由があるか」を聞く
自責か他責かの傾向を見極める質問としては、「トップの人材との差異に対して、どのような理由があるか」を聞くこともあります。「今、同期と比べて何番目に付けていると考えますか」といった質問ですね。もし、「同期は20人いて3番です」と返されたなら、その理由を問います。それを具体的に説明できなかったり、「商材やテリトリーが違う」といった環境要因を挙げたりするようなら、他責傾向があるとも考えられます。
一方で、その差異を「トップ層の共通点と自分が至らない理由」といった内容で説明できれば、成長意欲もあり、自責傾向で捉えていると僕は捉えます。このような人材は成長機会さえ提供できれば伸びると信じていますから、採用に傾きますね。
他にも「判断に迷うような問い」を投げかけることもあります。「あなたが面接官で、採用すれば成功する可能性が50%と思える人が来た。あなたの今月の採用目標はあと1人で、内定を出せば目標は達成できる。さて、採用しますか?」「月末最終の18時、あと1件であなたのセールス目標は達成です。ただ、今の電話先は商材を何もわからないであろう老人です。さて、売りますか?」など。
このような質問は、「数字に対する必達度合い」を試されているのか、あるいは「倫理観を試されているのか」みたいに、深く考えるはずですね。悩んだ結果、自分が「正しい」と思うほうを答えるしかありません。そこで本質が見えてきます。もちろん、ここで見る「正しさ」は会社が目指したい方向性やフェーズによっても変わってくるでしょう。
つまるところ、インサイドセールスを採用しようとする面接官にも、非常にインサイドセールス的な思考力と深堀り能力が求められるのです。こう話すと「質問力を鍛えるためにできること」を聞かれますが、僕は「事前によく考える」だと答えます。
面接官としてトークスクリプトも用意するのではなく、目の前の候補者に興味を持って深堀りして、考えることをおすすめします。
もし、トークスクリプトが欲しいのでしたら、「自分はこの質問をなぜ聞きたいのか、何が聞きたいのか」といった、「質問することで展開されるであろうストーリー」について考えます。そのためにレジュメも読み込みますし、HRMOS採用を使って面接の履歴も追います。面接官ごとに見極めるべき引き継ぎ事項を確認し、質問履歴から不足点を深堀りします。その場のフィーリングで問いを投げるのは相手に失礼で、やってはいけないと思うからです。事前の準備も仮説も必要です。
あとは、「頭では、分かっていても口が覚えていなければ話せない」なんてよく聞きますから、僕もロールプレイングはしつこいくらいにやってきました。ちゃんと繰り返せば自然にしゃべれるようになるものです。
このように明かしてしまうと「面接対策されるんじゃないですか?」なんて言われますが、僕は「喜んで!」と思うんです。面接対策するほど入りたい会社になれているわけだから、それほど幸せなことはありません。
自らの存在価値を、自ら証明していく仕事
これからインサイドセールスを担う方にぜひやっていただきたいのは、やはりコミュニケーションに尽きます。対外部署とたくさんコミュニケーションをする仕事ですし、その頻度も高め続けていくことで、僕らが介在する価値を証明していかなくてはならない。
リードをセールスに渡すときに「自動受付システムにして、チャットボットも入れて、ウェブサイトから日程予約ができるようにしたら良い」と言われることも、経済合理性がそれで合ってしまえば、あり得なくはない。でも、そこで自分たちが居る価値を答えられば話は別です。
いくつか現在の利点を挙げるなら、「ネガティブなことの早めの報告」と「変数に対して構造的に説明が可能」ということでしょうか。単に「リードが減ったから商談が減りました」だと、どの変数を検証すべきかもわからない。リードソースごとに確認し、定性的なコメントも残していく必要があるでしょう。検証のために録音を聞き直すのか、メンバーに尋ねるのか、実際に電話してみるのか……そして、今、何が起こっているのかを報告するのです。
マネジメント側もコミュニケーションに尽きます。テレワークに移行したこともあり、サーベイを活用しています。月1回はパルスサーベイを、あとはクォータリーで長めのサーベイを。パルスサーベイはバイネームで開示するルールで、本人たちもわかった上で提出してくれますし、それに対してのサポートも当然します。
あとは、業務でない1on1も実施すること。僕らの場合は、マネジャーとメンバーは週次で、僕とメンバーは月次で1on1を実施しています。そこで役立つツールといえば、もちろんHRMOSの1on1支援機能です。
最後に、繰り返しにはなってしまいますが、インサイドセールスを担い始めた30代の人は、ほとんどが異業種から転職した方ではないでしょうか。業界を知らない方でもチャレンジできる職種ともいえます。
特にスタートアップの場合は、この会社のビジョンを一緒に達成したいと思える会社を選んで、門を叩いてみてほしいです。その入り口として、インサイドセールスは間口は広い職種だと思いますので、それをきっかけでチャレンジしてもらえる人が増えたら、僕はとても嬉しいです。企業も、たとえ異業種からの転職であってもその意欲を信じて、採用を前向きに検討してほしいですね。