経営者としての成長とは、自分の手から離す、ということでもあります。
スタートアップの成長に伴い、CEOが直面する壁の一つが「権限移譲」です。特にアーリーフェーズではCEOが営業からマーケティング、採用まですべての領域に関与しがちです。しかし、企業の持続的成長のためには、CEOの役割を「全社戦略の立案と未来図の創造」へとシフトさせる必要があります。
この権限移譲のプロセスは、多くの起業家にとって困難な課題となることが多いでしょう。いつかは考えはじめなくてはいけないとわかっていつつも、なかなか時間を取れない起業家も多く、「部分的な権限移譲」に留まってしまうケースも散見されます。
「誰に任せるべきか」「いつはじめるべきか」「どのように進めるべきか」……権限移譲にまつわる基本的とも思える疑問を解くヒントを、権限移譲を成功裏に実践してきたログラス代表取締役CEOの布川友也さん(@Fukahire109)の経験と洞察から学びましょう。
2019年の創業以来、ログラスは急成長を続け、予実管理SaaS/PaaS市場でシェアNo.1(※1)を獲得。シリーズA以降、累計導入社数は6倍以上に拡大し、シリーズBラウンドで70億円の資金調達に成功、累計調達額は100億円に達しています。
「良い景気を作ろう。」をミッションに掲げ、新しいデータ経営の在り方を提案するログラス。その成長の裏には、巧みな権限移譲戦略がありました。
※1:富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場 2024年版」予実管理ソフトウェア、SaaS/PaaS、ベンダーシェア、金額ベース、2023年度実績
ログラスの年次で振り返る、権限移譲の進め方
前田:今回は「権限移譲」というテーマで、高成長を実現するためにCEOから他のメンバーや経営陣にいかにボールを渡せるか、そのスピード感の重要性についてお話を伺っていきたいと思います。
まずは、権限移譲がどのようなペースで進んでいったのか、2019年からさかのぼって振り返っていきましょう。ログラスのシード期である2019年、このときの従業員人数と役割分担から教えてもらえますか。
布川:2019年は、私と共同創業者、そしてCTO(現取締役)の坂本龍太さん(@http204)の3人でスタートしました。役割分担としては、私が営業、資金調達、ピッチやPR、プロダクト開発の一部責任、そしてバックオフィス全般を担当。共同創業者がプロダクトマネジメントとフロントエンドのエンジニアリング、坂本がバックエンド全般を担当していました。
つまり、ビジネスサイドのほぼすべてを私が担っていた時期ですね。社員数としては、副業やアルバイトも含めて15名から20名くらいまでは、自分で管理していたかもしれません。
前田:では、2019年から2020年にかけて、最初に権限移譲したのはどの部分でしょうか。また、権限移譲が必要だと感じたきっかけは?
布川:大きなきっかけは、バックオフィス業務の煩雑さと、クリティカルで時限性のある仕事の存在でした。
前田:なるほど。給与計算や振込など、期日までに処理しなければならない業務は、日々の仕事に追われていると抜けてしまう可能性がありますからね。従業員への負担やフォローの問題にもなりかねません。
布川:そうですね。まず、2020年頃に権限移譲を進めたのは、社労士との給与計算のやり取り、給与の振り込み、労務に関わる入社手続きなどのバックオフィス業務でした。現在も在籍してくれているパートタイマーの方に権限移譲したのですが、パートタイムということもあり、すべての業務を一気に移譲することはできませんでしたが、少しずつ権限を移譲したり、社労士に外注したりすることもはじめました。
前田:その時期に、他に権限移譲したものはありますか?
布川:カスタマーサクセスも権限移譲しました。2020年7月にクラウド経営管理システムの「Loglass」というプロダクトをローンチしたのですが、このときの社員は5名だけです。ビジネスサイドは、共同創業者が退職していたので、私と坂本、エンジニア6名、そして現在は経営企画にいる矢納弘貴さん(@h_yanou)がCS担当という構成でした。
ただ、私がセールスとプロダクト全般を、矢納さんがCSを担当したのは、権限移譲という流れとは違ったところもあります。新たにCSが必要になった際に私の手が回らず、ピンチになったときに彼がいてくれたので、任せるしかなかったという感じでしたね。
2020〜2021年:急拡大の影にあった、ログラスの“採用暗黒期”
前田:2021年では、どういった変化がありましたか。
布川:2021年後半から営業やCSがジョインしはじめ、ビジネスサイドへの権限移譲が本格的にはじまりました。
ただ、コロナ禍の影響で一時期は会社の稼働がほぼストップし、顧客の獲得ペースも遅くなった時期があったんです。ただ、2021年には顧客数が増加し、大口顧客も獲得できたことで社員も急増していきました。特に、エンジニアやプロダクトマネージャー、デザイナーは順調に増員されていました。
大きかったのは、現在はグロース戦略部の部長である佐々木仁保さん(@ikasas_y)と、現在エンタープライズセールス部の部長である髙橋優斗さん(@yuto_1933)が営業担当者として入社したことですね。2021年の9月20日のことです。それまでビジネスサイドは、私と矢納さんの二人体制で維持していたんです。
前田:つまり、それまではチームのほとんどがプロダクト側だったということですね。
布川:営業の採用と権限移譲については、2020年の後半からずっと危機的な課題として認識していました。2020年の年末には尻に火がつく状況にしようと「もし、2020年の年末までに営業を採用して権限移譲できていなかったら、人生の黒歴史になるほどの罰ゲームをやる」と決めたくらいで……。
前田:どんな内容か気になりますが、切羽詰まった状況なことは伝わりました(笑)。
布川:ところが、私自身が強い思いを持って「1人目営業」をやっていたため、なかなか適任者に出会えなかったんです。今思えば恥ずかしいのですが、2021年まで採用媒体の契約も一切していなくて。ビズリーチやYOUTRUSTは未契約、Wantedlyは契約していても積極的にスカウトを送っておらず……当然、応募も来ないので採用もできないですよね。
2020年から2021年にかけては、採用活動をほとんど行なっていなかったので、ある意味では暗黒期だったと言えるでしょう。
「1人目営業」は2人同時に採用すべし?CEOのプレッシャーに耐え、型化できる人材が必要
前田:最初の営業担当者である佐々木さんと髙橋さんが2021年に入社し、権限移譲を進めた際の学びや、最初の営業担当者として適した人材について、何か教訓はありますか?
布川:大きな教訓としては、CEOからぶつけられる熱量やプレッシャーに耐えられる強靭な精神を持っている人が適任だということです。明確に「1人目営業」にはプライドが高すぎる人は向いていませんね。
実は、Treasure Dataの太田一樹CEOのアドバイスに「とにかくアンラーニングする能力があり、必死に食らいついてやれる根性を持つ人を、2人同時に採用するように」と助言をもらっていて、このタイミングで佐々木さんと髙橋さんを同時に採用していたんです。
同時に採用する理由は「2人とも売れなければプロダクトの問題、一方が売れて他方が売れなければ能力の問題、両方が売れれば最高の結果となる」からです。1人だけ採用すると問題がどこにあるのか判断しづらくなるわけです。
振り返ってみると、CEOが営業をしていた状況から初めて営業担当者として入社するということは、実質的にCEOが営業マネージャーであり、その新入社員が部下という構図になります。そのため、CEOの視点から「なぜこの顧客に売れないのか」「こうすれば売れるだろう」といった、時に理不尽にも感じる指摘を受けることにもなりかねません。特にCEOの営業スキルが高いほど、そういった状況になりやすいです。
重要なのは、そういった状況にも半年ほど耐え、自分にインストールして、営業の型化ができること。CEOの言うことは、創業者特有の「下駄」を履いていたり、想いだけで売っていたりするので、必ずしも体系的ではありません。それを受け止め、一般的な営業手法に落とし込んで整理し、日々の業務に活かせる人材が理想的ですね。
前田:最初の頃は、営業プロセスにどの程度関与していましたか?同席して進めていたのか、こまめに相談に乗りながら進めていたのか。
布川:最初は営業に100%コミットしていました。すべての案件に同席し、案件終了後のレビューやクロージングも一緒に行ないます。文字通り「べったり」の状態でした。
前田:手を離してもいいと感じた瞬間や、自身の関与を減らせると思ったシグナルはありますか?
布川:完全に自分の実力だけで獲得してきた案件が出てきたときですね。ほぼサポートなしの状態で、いわゆるインバウンドや通常のリードから受注を獲得したときです。
前田:つまり、コールドリードを最初から最後まで1人でやり切れれば、営業として独り立ちできると判断したということですね。
布川:当時はそういった判断基準でした。今はより体系的に型化されていますね。
2022年〜2023年:プロダクト、採用、プライシングを権限移譲
前田:2022年はどうでしたか?従業員数は50人から60人くらいだったでしょうか。
布川:そうですね。2022年は63人ほどに増えた時期です。2021年に営業が入ってきて、2022年の頭にシリーズAの資金調達を行ないました。2022年は、私がプロダクトから少し距離を置こうと試行錯誤していた時期でもありました。
最初の1〜2年はCEOがプロダクトのほぼすべてを握っているものです。ただ、SmartHRの創業者である宮田昇治さんがお話しされていたように、CEOがプロダクトのすべてを掌握し続けると、進化が止まったり、ドメイン知識が不足したり、スケールが遅れたりする可能性がある。そこで、このタイミングでプロダクトマネージャー(PdM)に権限移譲しようと。
ただ、正直に言うと七転八倒しましたね。プロダクトのすべての責任を1人のPdMが負うことの難しさを痛感しました。そこで、ドメインエキスパートとPdMを分割するなど、徐々に2022年から2023年にかけて改善を進めていきました。2022年の終わり頃には、私がプロダクトに直接触れなくてもスプリントが回り、チケットが消化されていく流れができました。
前田:では、2023年はどうでしたか?
布川:2023年は権限移譲に対する解像度もより上がってきて、この年に最も力を入れたのは「採用の最終判断」です。
具体的に言うと、ログラスには7つのグレードがあり、グレード4までがプレイヤーランク、グレード5以上はプレイヤーとマネジメントの両方が存在します。それまでは私がすべての候補者の最終面接を行い、すべての判断を下していました。ところが、人数が増えすぎて限界を感じたため、この部分をCxO陣に権限移譲することにしました。
最初は、CxO陣が最終面接を行ない、その様子を動画で撮影してもらいました。私はあとからその動画とCxOが書いた評価をすべてレビューして、必要に応じてコメントをするというプロセスを約3ヶ月間続けたんです。毎日のように最終面接の動画を見続け、5人のCxOに対してフィードバックを行なうのは非常に大変でしたが、その甲斐あって、みんなの目線が揃いました。ログラスが採用で大切にしていること、その判断基準やレベル感などが統一されていきました。
現在では、COOの竹内將人さん(@takeuchiloglass)やCTOの伊藤博志さん(@itohiro73)を中心に、かなり任せられるようになっており、とても価値のある権限移譲だったと感じています。
もう一つ、2023年に大きな権限移譲がありました。それはプライシングの権限移譲です。ディスカウントの可否や上限、価格の引き上げ、新しいプランの価格設定など、これまで基本的に私がすべて決定していましたが、当時のPMMのトップで、現在はVP of Revenueである浅見祐樹さん(@yukiasamin)へ権限移譲しました。これも採用の場合と同様に、最初は私がすべてチェックし、必要に応じて修正を加えるというプロセスを約1年間続けることで実現しましたね。
面接の権限移譲は見るべきポイントの定義が鍵に
前田:採用の権限移譲、特に各CxO陣のレポートラインの最終面接の移譲についてのお話が興味深いです。最初はCxO陣の面接を録画で確認されたとのことですが、どのような点を確認し、すり合わせようとしていましたか?
布川:私たちは4つの主要なポイントを設定しています。
まずは「ミッションへの共感力」。過去の経験から、組織の目標やミッションに共感する能力を見ています。次に、会社の価値観との適合性を示す「バリューフィット」。そして、採用候補者の「素養とポテンシャル」、また「グレードの妥当性」も見ていますね。
これらの項目について、具体的な質問と期待される回答、よくあるNGパターンなどを構造化しました。注視しているのは、ミッションへの共感力、私たちは「染まる力」と呼んでいます。さらに「好奇心」や「やりきる力」から見える行動原理、そして素直さやレジリエンスも欠かせません。
また、面接官の質問の深掘り能力も重要視しており、表面的な回答で終わらせず、構造的に行動を引き出せたかどうかも確認しています。例えば「人生で心血を注いだ経験について教えてください」という質問をしたときに、何らかの返答をもらったあとで、「その当時の目標と現実のギャップはどこにあり、あなたはどういった役割で能力を発揮しましたか?」と深掘りをしなくてはなりません。この深掘りレベルは、矯正していくように努めました。
前田:面白いですね。これらの基準は独自に開発したものですか、それとも何か参考にしたものがありますか?
布川:質問項目は先輩経営者からのアドバイスを参考に、自分たちなりにアレンジしています。一方で、期待される回答パターンは、私が約300人ほど面接してきた経験から帰納的にグッドポイント/バッドポイントを導き出すことができています。
前田:この権限移譲のプロセスはどのくらいの期間で完了しましたか?
布川:竹内さんの場合、2023年6月に開始して、11月頃に完了しました。他のCxOも同様に約5ヶ月ほどの期間でした。
前田:最終面接をCxOに任せ、布川さんは一定グレード以上の候補者にのみ会うという形になっているのでしょうか?
布川:現在、ログラスはグレード7までありますが、グレード4までの採用はCxOに完全に権限移譲しています。私はグレード4までは内定後のアトラクト面談のみ行ないます。グレード5以上は私が最終面接、オファー面談、アトラクトまですべて行なっています。
前田:なるほど。高いグレードの人材は組織への影響力も大きく、布川さんとの距離も近いので、直接見極める必要があるということですね。
布川:その通りです。
2024年:ファイナンスや本部長制への移行を進めた
前田:では、現在進行形の2024年について伺います。今年はどのような権限移譲が進んでいますか?
布川:2024年はシリーズBの資金調達があったこともあり、最も大きな権限移譲はファイナンスでした。ファイナンスと言っても、単なる資金調達だけでなく、日々の投資家とのコミュニケーション、投資家との定例ミーティング、バーンレートのコントロール、口座残高の管理など多岐にわたります。
バックオフィス業務はVPoAの滝田光さん(@Hi_Tacky)へ移譲していましたが、ファイナンスの実務や資金の使途判断などは、これまでCEOである私が常に見ていました。この部分の権限移譲は大きな変化でしたね。シリーズBの資金調達も、完全に権限を移譲した状態で実施できたことは進歩だったと感じています。
もう一つの大きな変化としては本部長制への移行です。これまでログラスは、私がCEOとしてトップに立ち、その下にCxO陣、さらにその下に部長という階層構造でした。言わば、ログラスというピラミッドで、1つか2つの事業をすべて運営していた状況です。
それを、ログラスという大きな枠組みの中に、新たに「本部」というピラミッドを作り、そこへ既存事業の権限をすべて移譲しました。そして、非連続的な新規事業についてはCxO陣が担当する体制へ一気に切り替えています。これは今年の6月に実施し、VPのアサインメントという形で外部にも公表しました。私個人というよりも、会社全体の意思決定としての権限移譲だったと言えるでしょう。
「一子相伝」方式で行き詰まり…専門チーム立ち上げの契機に
前田:レベニュー全体への権限移譲はどのように進展していったのでしょうか?プライシングなども含めて聞いてみたいです。
布川:SaaSのレベニューサイクルは基本的に、マーケティングからリードが入り、インサイドセールスが架電し、BDRがアポイントを取り、フィールドセールス(FS)が成約に持ち込むという流れです。FSの権限移譲はCEOからはじめましたが、インサイドセールスやマーケティングは、むしろ外部から専門家を招き、現状のレベルアップを依頼するという形でしたね。
2022年には多くの営業担当者が入社し、髙橋さんや佐々木さんが次の世代を育成する役割を担いました。この時期を「一子相伝時代」と名付けるなら、1対1でびったりと付いて、属人的に営業を育てる形でした。ただ、正直に言えば、立ち上がりに時間がかかり、中には育成がうまくいかずに退職する人も出てしまいました。
人数が増えるにつれて「一子相伝」が成り立たなくなり、若干の混乱状態に陥ったこともあります。営業担当者の中には、「俺の商談動画を見ておいて」と言われるだけで、適切な指導を受けられない人まで出てきました。
2023年に入ってさらに人員が増加して、竹内さんも加わり、より効率的な業務体制を構築しようとしたタイミングで、「営業の型化」の必要性も議論されるようになりました。営業資料の標準化、プレイブックの作成、オンボーディングコンテンツの開発などがはじまりました。しかし、セールスイネーブルメントの経験者も社内に少なかったため、まずは単に資料や動画を用意するだけの状態からスタートしたんです。
2024年になって、矢納さんを筆頭にようやく専任のイネーブルメントチームが発足し、状況が改善しはじめました。オンボーディングがより丁寧になり、業界別のユースケースや事例も充実してきました。
最近の進展としては、デモ環境の自動構築ツールの開発があります。ログラスのデモ環境は複雑で、以前はSQLを書けるレベルの人でないと構築が難しかったのですが、プリセールス担当の漣竜弥さん(@SAZANAMi_ry)が内製ツールを開発してくれたことで、営業担当者が自分でデモ環境を作れるようになりました。
「動画コンテンツ」や「営業ロープレ」が有効な場面も
前田:セールスの権限移譲でよく課題になるのが、プロダクトへの理解や、プロダクト思想の浸透の難しさだと思います。この点について、克服するために何か取り組みましたか?
布川:過去の取り組みとしては、ログラスを用いた予算策定の実践講座など動画コンテンツを用意しました。受講すればドメイン知識やプロダクトの知識が一気にアップグレードされる、というものです。ただ、プロダクトの進化が速いため、コンテンツがすぐに古くなってしまい、更新が追いつかなくなりました。現在はほとんど使われなくなってしまいました。
2021年頃には、営業担当者も含めて実際に予算策定を体験する会を開催し、実務を社内で体験するという取り組みもしていました。2022年後半から2023年にかけては、営業のロールプレイングも当たり前に行なっていましたね。
前田:それは素晴らしい取り組みですね。現在は行なっていないのですか?
布川:現在は人数が増えすぎて実施できていませんが、良いコンテンツだとは思っているので、どこかでまた実施したいですね。
前田:現在、課題理解やプロダクト理解を深めるための取り組みは、具体的にどのようなものがありますか?
布川:現在は、オンボーディングコンテンツに組み込まれています。例えば、食品製造業の顧客であれば、製品ラインナップが多様で、各製品の原価や人件費が異なるという課題があります。そこで、ログラスのどの機能を使って食品別の利益率を算出できるか、といった具体的な課題とソリューションをセットにしたコンテンツを社内で作成しています。特に営業担当者には、オンボーディングの初期段階でこういった説明をするようにしていますね。ただ、やや教科書的な学びになっているのは、課題といえば課題かもしれません。
オペレーションの「中身」を定義する
前田:現在、レベニューの管理は権限移譲済みでしょうか?
布川:完全に移譲しましたね。竹内さんが入社したことが大きな転換点でした。竹内さんは2022年5月に入社したので、ちょうど2年半前です。
竹内さんは、最初は社長室長のような立場で、経営企画のトップとして入社しました。当初は営業部門は別の管轄でしたが、徐々に竹内さんへ権限を移譲していき、約半年かけて移譲を完了したところで、竹内さんがCOOに就任しました。その時点でレベニューの管理は、ほぼ竹内さんに任せる形になりました。
前田:竹内さんにレベニュー管理を任せる際に、特に課題だった点や意識すべき点はありましたか?また、なぜ竹内さんがそれほどスムーズに責任を引き受けられたと考えますか。
布川:営業やCSは私が直接管轄していましたが、竹内さんには最初、部門の横串を刺すように、KPIやオペレーションの改善提案をしてもらいました。徐々に現場のKPIマネジメントや具体的な業務にも関与し、商談の動画なども参照して、改善点を洗い出したんです。
前田:つまり、布川さんと竹内さんが二人三脚で、レベニューを一緒に見ていく中で課題を洗い出し、KPIマネジメントなどから、徐々に役割を広げていったということですね。
布川:そうですね。最初に権限移譲したのはセールス部門でした。当時、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスという4つの機能がありましたが、まず営業部門を任せました。
竹内さん自身はログラスのプロダクトや商談の詳細については深い知識がなかったので、案件の具体的なレビューや商談のサポートは引き続き私が担当するという、ややアンバランスな権限移譲からはじめました。その後、インサイドセールス、マーケティングと順に移譲し、最後にカスタマーサクセスですね。部署ごとや機能ごとの段階的な移譲でした。
前田:竹内さんがそれほど速いスピードで各機能を掌握できた理由は何だと思われますか。彼の過去の経験や性格など、どの要因が大きいのでしょうか?
布川:単純に竹内さんの能力が高いのは大きいです。前職のココン株式会社で取締役COOを6年間務めていたので、オペレーションの構築にはかなり長けていますから。
ただ、「オペレーション」と言っても曖昧だと思うんです。具体的には目標設定、計画立案、そして実行のサイクルを確立することです。3ヶ月、半年、18ヶ月といった時間軸ごとに計画を立て、採用計画を先行指標とし、マーケティングのKPI、営業のKPIと続きます。
SaaSスタートアップとしては当たり前のことかもしれませんが、数字だけでなく内容も含めた時間軸ごとの計画を立て、週次定例や月次報告などでPDCAを回す。そして、適切なマネジメントを行ない、うまくいかない場合は人員の異動や教育を行なう。これがオペレーションの原理原則だと僕は考えています。
竹内さんはこの概念をしっかりと理解していたので、どの部門でもオペレーションを構築できたのではないでしょうか。
ログラスには、それまでマネジメントという概念がほとんどないような状態だった中で、竹内さんは過去のマネジメントでの失敗経験から学び、サーバントリーダーシップを実践するタイプです。メンバーに任せることが上手で、オペレーションを構築した後はメンバーに託し、問題が起きそうなときだけ介入するというバランスが取れていたのも良かったと思います。
CEOの「限界」がプライシング権限移譲の決め手に
前田:プライシングに関する権限移譲は、なぜ必要だったと考えますか?
布川:プライシングを権限移譲しなければ、と思ったトリガーは、主に2つあります。
1つ目は、営業現場からのディスカウント承認依頼に対して、私がボトルネックになっていたことです。CEOである私は、基本的にディスカウントを抑制する立場で、現場とのパワーバランスにも差がある。「プロダクトの価値を棄損してはダメだ、この交渉条件はログラスにとって不利ではないか」といった私の意見は通りやすくなってしまう。しかし、案件数が増えるにつれて、私がすべてを処理しきれなくなり、意思決定の遅延が発生しはじめました。
2つ目は、プロダクトの機能が急速に増えていく中で、権限を持つ私が各機能のプライシングをすべて決める状況に限界を感じたことです。プロダクトの権限移譲は既に進んでいましたし、個別のプライシングの妥当性を検証するほどの解像度もない。それならば、CEOからの権限移譲も必要ではないか、と。
権限移譲の進め方としては、最初の3ヶ月でプライシング全体のグランドルールを浅見さんと一緒に作りました。具体的には、アカウント数に応じたディスカウントテーブルの作成や、ログラスの市場におけるポジショニングの明確化などです。
SaaS製品は基本的にスケールアップしていくにつれてディスカウントテーブルが深くなっていくものだと考えますが、そのルールが不明瞭だったんですね。そこでスプレッドシートで、「このプランなら、何アカウントまでは、何パーセントまで」といったルール設定をしていったんです。
ポジショニングの明確化も大切でしたね。例えば、ログラスをホテルに見立てるなら、外資系の一流ホテルなのか、比較的安価で便利なビジネスホテルなのかで、サービスや向き合い方も全然違いますよね。ログラスはホテルでいえば、品質の高さとお客さまへのサービスが売りであって、相応の価格はするけれども、カスタマーサクセスがどこよりも手厚いプレイヤーだろうと。
それゆえに、ハイプライスでもお客さまに選んでもらえる存在であるべきだ、というふうにコンセプトを決めました。そうすることで、競合他社がログラスより低い価格でサービス提供を提案してきたとしても、そこに合わせる必要がないようなサービスを提供しなければならないという意識が高まります。
そして、必然的にディスカウントテーブルも決まり、現場から出てきた意見への対応や、オプション機能の取り扱いといったマニュアルが出来上がっていきました。これらを2ヶ月ほどかけて浅見さんと細かく決めていったんです。
その後、浅見さんにプライシングの回答を任せつつ、私も裏で確認する体制を1年ほど続けました。気になる点があれば適宜フィードバックし、必要に応じて現場への修正指示もしながら、浅見さんがすべて判断できると確信が持てた時点で、完全に権限を移譲しました。
前田:その1年間で主にすり合わせたのは、プロダクトの価値に対する感覚と、顧客対応の方針について、ということですね。
布川:その通りです。現場の目線だと、どうしてもディスカウントを早く提示したがる傾向にありますが、価格を下げることは中長期的には顧客の期待値を下げ、企業の利益や成長可能性を制限することになります。この視点を浅見さんにも理解してもらうことに注力しました。
また、新機能をフリーミアムで提供するか、有料オプションにするかといった判断にも、この考え方が関わってきます。
前田:つまり、適切にプライシングの権限移譲を行なうためには、プロダクトへの深い理解と、会社の中長期的なビジョンの理解が重要ですね。
布川:はい、そうだと思います。
プロダクトの権限移譲、失敗から学んだ4つのポイント
前田:プロダクトの権限移譲は最も難しい部類の一つだと想像していますが、実際はどうでしたか?
布川:おっしゃる通りで、ログラスの歴史でも、最も上手くいかなかった権限移譲の一つではないでしょうか。その経験も踏まえると、プロダクトの権限移譲にはいくつかのポイントがあると考えています。
1つ目は、細かく分割すること。最初は「プロダクトオーナー」という大きな役割を設けて丸ごと移譲しようとしましたが、これは無理でした。プロダクトオーナーには、CEOレベルの熱意、PDM以上の機能優先順位付け能力、プライシングの権限、日々のスクラム管理など多くの要素が含まれています。1人に任せるのは現実的ではありませんし、大きなものを一気に渡すのではなく、やはり細かく分割して移していくしかないですね。
2つ目は、同時に移譲しすぎないこと。プロダクトロードマップ、プライシング、日々のタスク管理などを同時に移譲すると、意思統一がしにくくなります。まずは一つの権限、例えばプロダクトロードマップの決定権だけを移譲するなど、段階的に進めるべきです。また、適切な移行期間を見ておくことも大切で、ログラスでは失敗も含めて1年近くかかりました。
3つ目は、グレーゾーンを許容すること。権限移譲の過程では、移行期間で完全に白黒はっきりさせるのではなく、お互いが意見を出し合える「グレーな期間」を設けることが重要です。この期間中は、権限を渡す側も受け取る側も「移譲を取りやめる可能性がある」という前提に立って、柔軟な対話を心がけたいところです。
4つ目は、会議体への権限移譲も検討すること。特定の個人にすべての権限を移譲するのが難しい場合、定期的なロードマップ会議のような場を設け、営業トップやCS、PDM、CxOクラスなど関係者全員で話し、意思決定を行なう方法もあります。
前田:権限移譲の順序について、おすすめの順番はありますか?
布川:やはり最も移譲が難しいのは、プロダクトロードマップの決定権と、それに対する責任の所在です。会社の命運に関わる上に、ビジネス戦略とも密接に関連するためです。
そこで移譲の順番としては、日々のタスク管理やスプリントの計画などのPdM的な作業を早期に実行し、次にルールを決めれば比較的簡単にできるプライシング、そこからプロダクトロードマップ、Go-to-Market戦略の優先順位決め、という進め方が良いのではないかと思います。
有能な人材が自然に権限を受け取っていく流れも効果的
前田:プロダクトの権限移譲について、斉藤知明さん(※現在の執行役員CBDO @tomosooon)を通じて、さらに須加拓さん(※現在のプロダクト本部長/事業執行役員VPoP、@HiroshiSuka)へと進めていったそうですね。CEOとして何か特別な仕掛けをしたり、促したりしたことはありましたか?
布川:斉藤さんと須加さんは私が採用したのですが、権限移譲については、彼らの卓越した能力によって自然に進んだんです。
斉藤さんはとても優秀で、入社後すぐにプロダクト開発の全体を把握し、高品質なロードマップを提案してくれました。みんながそれに向かって、開発の優先順位を検討するなど意思決定が上手く流れていったので、言わば彼の能力で自然と権限が移譲されていった感じです。
須加さんも同様で、起業経験があり、大手企業でも100人以上のメンバーをマネジメントした経験を持っています。彼も斉藤さんの描いた世界観を自ら理解し、咀嚼していける能力があり、権限移譲が進んでいきました。結論として、ログラスにおいてプロダクトの権限移譲は、非常に高い能力を持つ実力者によって自動的に実行された、と言えるでしょう。
前田:そこがポイントなのでしょうね。
布川:そう思います。スタートアップにおいては、権限移譲する側が無理して細かくオンボーディングするよりも、有能な人材が来て、自然に権限を受け取っていくほうが効果的だと思います。
権限移譲をする際に気をつける「ボールの渡し方」
前田:権限移譲の「ボールの渡し方」について、特に意識していることは?また、社内コミュニケーションの面でも工夫されていることはありますか。
布川:ありますね。最近ではかなり型化できてきました。
権限移譲の際には、まず移譲する権限の内容、タイムライン、対象者を明確に定義します。例えば、プライシングならば「プライシングオーナーとは何をすべきか」という要件定義、権限移譲までのタイムラインとメンバーを決めます。
また、撤退基準も必ず事前に設定します。「何月何日の時点でこの撤退基準に該当していたら撤退します」と定義し、そこまでは週次や月次で進捗を定期的にモニタリング。それから、先ほど話した「グレーゾーンの許容」も欠かしません。移行期間中は互いの介入を許容しますし、移譲する側は「補助輪」だと思ってもらう。
実は最近、竹内さんと話して納得したことがあったんです。竹内さんは以前に「権限移譲したから、もうミーティングに出なくてもいいし、そちらのほうがメンバーもやりやすいだろう」と手を引いたことがあった。ただ、結論それではうまくいかなかったそうです。
そこで、権限移譲後も「ミーティングには出るけれど、なるべく発言しない」というスタンスで、ただ「これはまずいな」と思ったら問いだけを立てる。例えば、短期的な施策ばかり話している時間が10分続いたら、このまま話が続くことを危惧して、「ちなみに今日話そうとしていたのは、どういった施策でした?」と。そういうように臨むと、会議の雰囲気もとても良くなったと聞いています。
グレーゾーン期間に、どれぐらいの介入度で、権限移譲先の人と触れ合うのか。ここには職人技があり、スキルが求められるところだとも感じます。
前田:権限移譲の進捗や完了状態について、定期的な確認はしているのでしょうか?
布川:実は、形式的な進捗確認はあまりしていません。むしろ、日々の業務遂行が想定通りに行なわれているかを継続的に観察しています。寿司職人の修行のように、3ヶ月ほど横について細かく指導し、その後に独立させるようなイメージです。
前田:権限移譲が上手くいかない場合、どのように対応していますか?
布川:私個人の方法としては、まず高い期待値を設定し、相手がパニックになる瞬間を見極めます。与えたいロールから、一旦はハイボールを投げてみて、どんなふうに反応するのか見てみるんです。そこで、パニックゾーンから役割を徐々に減らして、期待値をコントロールしながら、適切なレベルを見つけていきます。
当然、フェーズが上がってきてマネジメント人数も増えてくると、ロールが足りなくなります。ログラスでは「Feed Forward」(ログラスのValueのひとつ)と呼んでいる1on1フィードバックで、「3ヶ月後には現状の権限レベルだと目標まで未達成になるだろうから、そのときは見直しをしましょう」といったように期待値をコントロールしていますね。
ただ、私たちの反省としては、そこまでドラスティックに撤退の判断ができたかといえば、やり切れてないことのほうが多いかもしれません。ただ、権限移譲が進んでいることを思うと、「ドラスティックな判断がなくとも上手くいっている」と捉えるのか、「上手くいってないことに蓋をしている」と評価するのは、どちらの見方もあり得そうです。
前田:なるほど。もっとも最終的には、組織全体のアウトプットを最大化することが目的ですから、権限移譲ができていれば成功と見なしてもいいのかもしれませんね。
布川:おっしゃる通りです。ただ、現状の対応が最適なのかどうかは、常に検討の余地があると感じています。
バリューを体現し、ミッションへのコミットは、権限移譲の前提条件
前田:権限移譲を行なう際、その人物が成功する確率をどの程度見込んでいますか?8割程度の成功確率がないと任せられないのか、それとも50%程度でも試してみるのか。
布川:基本的には、8割程度の成功確率がある人物をアサインする方針でした。ただ、最近の急成長に伴い、『爆速成長マネジメント』に近い考え方と言えるかもしれませんが、すべての権限移譲先に「8割の成功確率がある人材」を見つけるのは難しくなっています。2024年に入ってからは、5割程度の確率だったとしても任せる決断をする場面が出てきています。
前田:では、権限移譲する相手を選ぶ際、どのような点を重視していますか?
布川:まず、CxOクラスとVPクラスでは少し基準が異なります。
CxOクラスの場合は「逃げない姿勢(GRIT)」が大切で、困難な状況下でも踏ん張れる人材を重視します。判断するための要素としては、過去の経歴であったりとか、これまでの行動パターンや対応から読み取ったりすることを意識しています。やはり、スタートアップであれば「踏ん張ればフェーズが変えられる」という局面も往々にしてあります。良くも悪くもコミットメントが高いことは、CxOの要素の一つと言っていいでしょう。
一方で、VPクラスの場合は、CxOの要素があることは望ましいのですが、それ以上に執行能力がより重視されます。具体的には、18ヶ月レベルの計画を立て、着実かつレベル高く実行できる能力です。
それから、最近は人材における「アルファ型/ベータ型」という考え方にも共感しているんです。アルファ型は、ある種の狂気性やドラスティックさを持ち合わせており、自ら変化を作り出し、ドラスティックな意思決定ができる人材といえます。ベータ型は、晴れのときも雨のときも淡々と、与えられた役割を遂行できる人材です。どちらが良い悪いではなく、両タイプをバランス良く配置することを意識してみています。
前田:会社の価値観(バリュー)の体現度合いは、人材選定にどの程度重視しますか?
布川:絶対的に重要です。バリューを体現し、ミッションにコミットしていることは、権限移譲の前提条件です。これがない人物には、重要な権限は絶対に移譲しません。
前田:つまり、バリューをしっかり体現できている人材にのみ、権限移譲の機会が与えられるということですね。
布川:その通りです。これは普遍的な原則だと考えて良いでしょう。
前田:権限移譲の際、メンタル面でのケアをどの程度意識していますか?ストレスや過労のキャパシティは人によって異なると思いますが、その点についてはいかがでしょうか。
布川:正直に言うと、私はメンタル面のケアをほとんど意識していません。なぜなら、権限移譲の対象となる人材は、高いグレードにあり、マチュアであることを前提としているからです。彼らは自身のメンタルコントロールができると考えています。また、期待値を下げたり出力を弱めたりすると、本来あるべき姿に“AMP IT UP”されない可能性も出てきます。
ただし、過去に権限移譲の方法について社員からフィードバックを受けたことがあります。具体的には、私は常に高い目標を設定し、足りない部分を指摘し続けるコミュニケーションスタイルを取っていました。しかし、これでは達成した部分に対する称賛が欠けていることに気づきました。そこで、積み上げた部分に対して感謝やリスペクトを伝えるよう心がけるようになりました。これは私のマネジメントスキルの不足点だったと反省しています。
OKRと行動の一致度が高いほうが、パフォーマンスは上がる
前田:ある人から、「布川さんは選択肢から1つにフォーカスさせるのが上手い」と聞きました。この観点で、何か特別な考えはありますか?
布川:私は「フォーカスさせるのが上手い」というより、「決めさせる」ことが得意だと自負しています。選択肢がAとBあるなら、まずはどちらかに決めて検証するよう促します。人は迷いながら行動すると生産性が低下すると考えているからです。
私自身、サラリーマン時代に起業への思いを抱えながら働いていた頃は、人生のパフォーマンスが低かったと感じています。やはり、自分の魂のあり方と現実の行動が一致したとき、人は大きなエネルギーを発揮できる。それゆえに「自分がやるべきことをちゃんと決めきる」といったことは、フィロソフィーとして持ち続けている観点ですね。
それから曖昧な表現も好みません。例えば、OKRで具体性に欠ける目標を立てたメンバーがいるならば、「それでは3ヶ月後に達成できるかどうか判断できないだろう」と指摘します。具体的に決めることで、人は初めて行動できるのです。
前田:目標も選択も明確に絞り込んでいくということですね。
布川:その通りです。若さゆえの考え方かもしれませんが……ただ、常に実利を得ることを意識しています。
前田:確かに、意識が分散していたり選択が曖昧だと、エネルギーや推進力が弱まりますね。一点突破的に選択と集中を行なうほうが、検証のスピードも速くなります。
布川:結果を出す人とそうでない人の差は、OKRと実際の行動の一致度にあります。本当にやるべきことと日々の時間の使い方が一致している人が成果を上げています。これは自分自身にも言えることで、カレンダーワークをもっとドラスティックにして、特定の目標にのみ集中する時間を作るなど、徹底的に「決めきる」ことを常に意識し、周囲にも伝えようとしています。
今回、ログラスの権限移譲についてお話ししていて感じたのは、権限移譲に関して体系的にアプローチしている部分と、比較的柔軟に対応している部分があることに気づきました。今後はさらに改善の余地があると感じています。
ログラスは積極採用中!非連続な権限移譲が起きるチャレンジングな場
前田:採用の権限移譲について、現場に入っているメンバーや採用補佐的な役割の人たちが自身のOKRやKPIを持っている場合、優秀な人材や事業を伸ばせる人材の採用にバイアスがかかる可能性はありませんか?
布川:その懸念は理解できます。そのため、最終的な年収決定やグレード決定、そして最終承認は私が行なうようにしています。最終面接では必ずSからDまでのランクづけを行ない、「ミッション共感力」や「成果志向」といった各評価項目に点数をつけて総合評価を出しています。
点数が低い場合や、評価と推薦が一致しない場合は、なぜそう判断したのか、どのような点から評価したのかを詳しく聞くようにしています。これにより、採用担当者の内省を促し、評価基準の統一を図っています。
ただし、会社の規模が大きくなるにつれて、採用のすべてを完璧にコントロールすることは難しくなります。例えば、年間100人の採用のうち5人程度が私の求める水準と異なっていても、全体への影響は限定的です。そのため、ある程度は割り切る部分もありますね。
前田:確かに、認識合わせは難しい部分ですね。
布川:はい、多くの会社で、成長段階に応じて入社してくる人材の質や雰囲気が変わるのはよくある話です。CEO個人の水準に固執しすぎると、かえって会社の成長を妨げる可能性があります。もちろん、採用の質は維持しつつも、多様な強みを持つ人材を受け入れる柔軟性も必要だと考えています。
前田:200人くらいを超えるあたりから変化が感じられる。という話をよく聞きます。
布川:例えば、社員数120人から200人に成長するなら、80名の入社ですから、最終面接に進む候補者は3倍と見積もっても240名ほどですよね。それならCEOが1日1人ペースで対応できる範囲ですから質を担保しやすい。しかし、社員数200人から400人規模になろうとすると、仮に3倍だと年間600人との面接が必要となり、CEOがすべてをカバーするのは物理的に不可能になります。そこで必然的に権限移譲が進むのだと思います。
前田:採用以外にも、物理的に不可能になる要素はありそうですね。
布川:その通りです。ログラスも現在200名規模に差し掛かり、様々な権限移譲が進行中です。これを上手く乗り越えられるか、それとも一時的な停滞期を迎えるか、重要な分岐点だと認識しています。
例えば、本部長への権限移譲については、竹内さんとも意見が分かれました。短期的には現状維持が効果的かもしれませんが、長期的な視点で考えると多少のリスクを負ってでも権限移譲を進めるべきだと判断しました。
竹内さんは「あと1年間は現在のCxO直列体制のほうが最大戦速ではないか」という意見で、それについては私も事業単体で見れば賛同です。ただ、海外開発拠点や関西オフィスの立ち上げといった「2年以内にやっていくこと」を考えると、私が取締役会や新規事業創出といったことに関われないのが見えてくる。
そう考えると、仮に5割の確率で失敗するとしても権限移譲したほうが良いのではないか、と今はチャレンジしているところなんです。もしかしたら3ヶ月後には、また違うこと言ってるかもしれないですけれど。
前田:これからも多くの学びが出てきそうですね。
布川:はい、非連続な権限移譲が内部から行なわれていくことで、これから入社する若手社員にもたくさんのチャンスが生まれていくとも考えています。積極的に採用活動もしていますから、ぜひ飛び込んでもらいたいです。
前田:なるほど、ログラスは権限移譲を進めていく真っ最中で、まさに今後チャレンジする場としての環境を提供していく、ということでしょう。今日は実践知からの学びをシェアしていただき、ありがとうございました!