採用(あるいは、仲間集め)の課題は尽きないもの。組織の規模感ごとに悩みもさまざま起きますが、中でも「初期フェーズ」においては、その後のカルチャーや成長角度も占う大切な時期です。SaaSスタートアップであれば必須の「開発環境」を整備するために、各社頭をひねっています。
CFOや経営企画向けのプランニング・クラウド「Loglass」を開発・提供するログラスでは、CTOの坂本龍太さんが採用にも強くコミットし、成長を支えます。
創業して2年2ヶ月あまりで、正社員は内定者を含め19名、副業人材も合わせると40名を超える規模に拡大。そのうち、エンジニアは正社員9名、合計で20名以上を占めるといいます。さらに正社員エンジニアは7名がリファラル採用で加入しました。
坂本さんはビズリーチで「初の新卒社員」としてキャリアを始め、SaaSビジネスを経験。「将来、自分が起業するならSaaS事業だ」という思いを胸に、さらにサイバーエージェントへ転職。ログラスを共同創業した布川友也さんと出会い、「経営管理SaaS」というアイデアを共に実現させました。
ログラスでは、いかにして開発組織の採用率を高めているのか。坂本さんのスケジュールや採用の主戦略に置くスカウトを含め、その考えを聞きました。
朝6時半からエンジニアスカウトを送る
自分よりも優秀な領域を持つエンジニアを採用することにしています。だから、今いるメンバーも優秀ぞろいで、彼らに仕事を任せられるようになってきたんです。僕はその分、スカウトや採用に力を割くことにしています。
だいたい朝の6時半からLAPRASでエンジニアスカウトを2時間半。9時からはビジネスサイドのスカウトをビズリーチで1時間するのが定番ですね。ビジネスサイドの採用では、ログラスのビジネスサイドメンバーたちとDiscordの音声チャットに集まって、「この人イケてない?」「いや難しいんじゃない?」なんて言いながら探しています。
初期プランで送れる1000通のスカウトはすでに使ってしまって、最高のプランで1年間契約し直したところです。さらに追加で300通買いました。ただ、もともとはリファラルを重視して、それだけに注力していました。スカウトに注力し始めたのは、採用計画に対し十分な面談が組めなくなってきたことと、副業人材だけを探すことに決めたからです。
2020年末から2021年2月にかけて事業が軌道に乗り始め、作るべきものがはっきりしてきたんです。大きな機能開発の計画が見えてきた段階で、当時6人いたエンジニアの数ではこの課題は倒せないと感じ、組織をスケールしない限りは解決できないと考えました。そこで組織拡大を図るために、スカウト媒体の活用に振り切ったのが変化点でしたね。
毎日のスケジュールとしては、基本的には面談のある日が多いです。ビジネスサイドの一次面接にも入っているので、1日2件から3件は担当します。並行してCTOとして開発レビューをしたり、プロジェクトのミーティングに出たり……といった日々を送っています。
スキルもいいけどマインドセットが大切です
現在のエンジニア組織に至るまで、まずは「僕が全く強くない領域」を重点的にカバーできる人の採用から始めました。インフラエンジニアとフロントエンジニアは必須ですから、起業を決めた瞬間に目ぼしい人に声をかけ、創業前から副業で携わってくれた方が、今はジョインしてくれています。
そこにプラスして譲れなかったのは、マインドセット。ちゃんとスタートアップが好きで、活躍したいと思ってらっしゃることが重要。また、「コードや特定技術が大好き」という気質はもちろん歓迎なんですが、僕らはSaaSを作っていますから、「お客様へどのように価値を出していくか」を考えるのが好きなエンジニアは、優先順位を高く置いています。
起業前に声をかけたのも「確実にこの人がいると成功するだろう」と僕が確信していたようなメンバーです。人間的にもホスピタリティがあって優秀で、スキルも抜群。スタートアップ的な短期間集中型で結果を出すことにも励める人で、「この人しかいない!断られたらどうしよう」と感じるくらい。「一旦は立ち上げまで手伝ってください!」と副業で加わってもらったんですよね。
ただ、副業からジョインまでは1年ほどと長かったです。やっぱり日々、僕らがちゃんと成長していく姿を見せ続けていくと、副業の方もキャリアを考え直すきっかけができるようです。最長だと、2年前に声をかけて副業で加わり、声をかけた日のちょうど2年後に入社してくれた人がいます(笑)。
声をかける優先順位も「見える化」したアタックリスト
副業で声をかける人は、ログラスのメンバーと何らかの仕事を一緒にしたことがある人が基本です。入社後ミスマッチを考えすぎず、選考プロセスを省略化できるのがよいですね。スカウトの際にも、専門技能をお持ちだったり、今はまだ転職できるタイミングになかったりする人は、ひとまず副業での参加から巻き込むケースもあります。
ターゲットリストは、人脈を掘り起こす「メモリーパレス」のワークをやって、300人や500人と書き出していって……「スキル」と「カルチャーフィット」、あとは「職種」と分けつつ、Facebookの友人は全部を洗い出してリスト化しました。全体のポイントは明確にしつつ、声掛けの優先順位は、カルチャーフィット、スキル、職種でしたね。
リストは、スプレッドシートにまとめ、優先順位も点数化して見えるようにしていました。加えて、副業の方で協働してくれる方がいたら、「良い人いないですか?」と、さらに教えてもらうようにもしていました。このやり方は創業時から一貫していましたね。
現在の優先順位は、PMFを強く感じられるようになってきましたので、ビジネスサイドを優先しています。ただ、まずは「自分よりも優秀であること」が絶対条件。そういう人が採用できないと、組織の成長が止まっちゃうと思っているんです。それだけは、妥協しないで続けています。
正直、創業当時は売上もなかった時代で、僕らも「五反田のマンションでスタートアップやってます」っていうだけの会社(笑)。ただ、それは結構、僕は良いポイントだと思っています。マンションの一室でスタートアップに励むフェーズなんて、普通はそれほど見られるものじゃないし、人生で出会う機会もないから、みんな割と関心持ってくれるんですよ。
コロナ禍の前は、週に1回は「寿司パーティー」を開いてました。近くの「スシロー」でテイクアウトしても、一人当たり1000円くらいで賄えますからね。そこで寿司をつまみつつ、会社説明をしていくのを、本当に毎週やってました。
「寿司パーティー行きませんか?」って口実があると、声をかけやすいんです。それで関心を持って来てくれる人に、自分たちのありのままの姿を見せると、面白がってくれる人も必ずいるだろうと続けていましたね。めちゃくちゃ泥臭く、毎週、寿司食べてました(笑)。
現場のエンジニアがチーム開発の重要性を理解している
エンジニア採用には、現場のエンジニアたちも相当協力してくれています。これは、僕もなぜかはわからないんですけど、「バズる記事を書く人」が社内に多くて。月に1回ぐらいは1万PV以上の記事をリリースしてくれるおかげで、認知度はかなり上がりました。
僕らもSNSには注力しているし、メンバーの中にはフォロワーが1万人いる者もいたりするので、Twitter経由でも知られる存在になれてきたかな、とは思っています。
あと、ログラスで特筆すべきは「ウルトラスーパースカウトタイム」。必ず週に1時間、みんなでスカウトを打つんです。その上で、月に最低60通は、優秀なエンジニアに質の高いスカウトをコンスタントに送っています。
エンジニアが協力してくれるのは、今いるメンバーがチーム開発を経験している人ばかりなのが大きいでしょうね。その上で、ログラスというゼロイチのフェーズにある環境で、過去最高の開発組織を作りたいとみんなが思っている。言わば“強くてニューゲーム”って感じです。
優秀なメンバーをそろえない限りは勝てないことが肌身でわかっているし、事業やサービスを伸ばすためにできることは何かを考えられる人が集っていて。採用する側としても、そういう人をちゃんと押さえるように意識しています。
例えば、「開発上で困難に立ち向かった経験」はよく聞きます。中でも、「お客さまやビジネスサイドと関わって解決していった経験」は深掘りします。技術にプラスアルファで「事業を前に進めること」に関心がある方かを判断するには、必ずビジネスサイドを巻き込んでの改革経験が必要だと思っていますから、重視している観点です。
実際の選考に関しては、候補者それぞれをメンバーにリクルーターのような立場で見てもらっています。DMで連絡したり、次の面接内容を伝えたり。あと、ログラスでは「お試し副業」というシステムがあるので、オンボーディングの役割についても、エンジニアの各メンバーに依頼していますね。
副業必須の採用は「包み隠さずお見せする」
ログラスは今、採用候補者に関しては「副業必須」にしており、まずは副業から携わってもらうことが前提です。
経歴書でわかりにくい部分を重視するのも理由の一つですが、現在は創業メンバーとしてジョインしていただくタイミングなので、採用コストも離脱コストも大きい。100人のうち1人が抜けるわけでなく、十数人のうちの1人ですからね。それならば入社前にコストを払っておくことが結果的に大きなプラスだという考えです。
入社前ギャップも本当にゼロにできるように、NDAを結んだ上で社内Slackにも入ってもらい、隠すべきデータ以外は全て見せています。入社後のイメージを完全に想像できるかたちで見せて、僕らとしても入社後の活躍を想像しなくてもわかる域に持っていきたいんです。
何かしらの失敗が起点で「副業必須」にしたわけではないです。これまでリファラルで入ってくれた方が一旦は全員が副業経由だったこともありますが、そのほうが結果的に僕らへの理解も深く、オンボーディングの手間も減ってよかったんです。やっぱりちゃんと一緒に働いてみないと見えない部分って、たくさんあると思っているので。
副業加入後のプロセスは試行錯誤してきました。かつては、まず2〜3週間程度は、チケット管理ツールの「Jira」に貯めてあった「副業専用チケット」を拾ってもらい、実際に取り組んでもらう「ワークサンプルテスト」を行いました。チケットの内容は、正社員の工数としては緊急度を上げられないが、将来的には重要な改善点です。僕らが仕事をガッチリと設計するよりも、まずは得意を活かせる課題から始めてもらおうと。
ただ、このやり方だといくつか問題がありました。見極めまでにそもそも2〜3週間かかる、実際に価値のあるタスクを依頼するために一定の報酬が発生する、大きめのタスクをお願いしたくても適正サイズのものがないことがあるなどです。大きめのタスクを任せられると良いのは、エンジニアメンバーと情報のやり取りが必要になるので、そこで仕事の進め方をチェックできるからです。
他にも、タスクの説明コストも毎度のことで馬鹿にならないくらい大きかったり、取り組んでいるタスクが違うので候補者間の比較が難しかったり……と、このテスト方法も見直しを図っています。
現在のワークサンプルテストは、フロントエンドエンジニアについては模索中なのですが、バックエンドに関しては、すべての候補者に「全く同じ、数時間程度でこなせる、ちょっと大きめのタスク」に取り組んでもらっています。
あくまでテストとしての実施なので報酬は発生しない形を取ります。これで候補者間の比較が可能となり、タスク説明のドキュメントも使い回せます。それでいて、弊社のすべてのコードを包み隠さず見ていただけるアトラクト要素としてのメリットは変わりません。
一方でアトラクトとしては、「ひとまず副業から始めましょう」というコミュニケーションも継続しています。スカウトでもリファラルでも、専門技能をお持ちの方や転職時期の検討中という人には、一旦3ヶ月の期限を切りつつ、副業で巻き込みます。Jiraの「副業専用チケット」を拾ってもらい、重要だが緊急性はないタスクについてコミットしていただきます。
そういった方々でも馴染みやすいように、たくさんのドキュメントも用意しています。オンボーディングに関しては、調べたら回答がある状態になるように、これまでConfluence、Google docsに分散していたドキュメントをNotionに全てをまとめていますね。
ジョインをしてもらいたくなったら、「僕らの困っている姿」を見せたほうがいい
そして、副業からいざジョインをしてもらいたくなったら、きちんとその方には「僕らの困っている姿」を見せたほうがいいな、と僕は思っています。「このイシューで困っていて、あなたがいれば解決できる!」と、その方の存在意義と、僕らが好きな理由を伝えるようにしています。
困った姿を見せるのは効きます。エンジニアとしては、やっぱり困っているところに行きたいんですよね。「助けたい」マインドを持つ人が多いというか。僕らが最も採用力があったのは、最初期だと思っています。毎日めちゃくちゃに困っていて、すごく困った顔をしていたはず(笑)。それを見せないと、「別に俺がいなくてもいいかな」と思われるんじゃないかなって。
あとは、スタートアップで働くことの楽しさも、ちゃんと見せ続けることが大事かなと思っていて。そういう意味では「包み隠さずお見せする」という方針が重要だと感じています。
スカウトリストの作成も副業人材と進める
他にも体系化しているルールとしては、3日程度で取り組んでいただけるテストも、複数設けています。
例えば、コードを書くことに対しては心配がない人なら、「一緒に仕事を進めていくときに、どういった議論ができる方なのか」を見るために、新機能についてディスカッションするための課題に取り組んでみる。
コードを書く力量がまだ見えない人なら、「この画面にこういった機能を追加してください」と実装をお願いして、できた段階で意図を説明してもらう「ワークサンプルテスト」ですね。
採用活動をスムーズにするためにカジュアル面談も行っていて、僕は基本的にほとんど出ていますが、僕以外のエンジニアでも出席できるようにしています。会社紹介だけでなくエンジニア組織の紹介資料も作って、話すべき内容は事前にまとめています。
あとはスカウトを送る際のリスト作成を、一部アウトソースしています。ログラスは月によって返信率が30%〜40%以上のときもあって、非常に高いんです。嬉しい反面、そこまで頑張るとスカウトを1時間に2通くらいしか送れない。ピックアップまで含めると膨大な時間がかかってしまうので、副業で人事の方にスカウト候補の抽出を依頼しています。
そんなふうに外部パートナーと一緒に動くときは、フィードバックをたくさん出すようにしています。「ピックアップしてくれたこの方、こういうところがすごくよかったです」とか。もちろん、「こういうところが合わないと思う」といった逆のこともあります。自分たちが欲しくなるペルソナをきちんと設定して共有していますね。
エンジニア採用は「パーティー、媒体、スポンサー」を武器に
もし、あらためて創業時から採用活動を始めるとしても、「寿司パーティー」は毎週やりますね。コロナ禍で難しくなったのが痛いですが、すごく価値があったと思っていて。当時のつながりの人もたくさんいらっしゃいますし、毎週集まれる場を作っておいて呼び込み、一時的にですがスタートアップの職場に来ていただき語り合うのは、ログラスのわかりやすい魅力づけになったんじゃないかと。
ただ変えるとしたら、もっと早くSNSも使って、自分たちに合うスカウト媒体を見極めるべきでした。Offers、YOUTRUST、Forkwellと色々試して、結果的にうちのエンジニア採用はLAPRASに落ちついたんですが、特性を見極めて使い込むのが大事。同じようなステージのスタートアップに話を聞いてみてもよかったのかもしれません。
あとは、積極的に発信して露出するのも必要ですね。うちのあるエンジニアがYouTubeライブで開いた勉強会の動画に、ログラスが2回ほどスポンサーで就いたんです。その動画はアーカイブに残って、未だにそこを経由する方もいて。例えば、記事を書く時間がないなら、社外勉強会のスポンサードをして、名前を知られるだけでも反応は変わってきますね。
「技術的に面白い、かつ、ビジネスに貢献するポイントを探し出す」ということが大事
エンジニア採用を進めたいCTOや経営者なら、「技術的に面白い、かつ、ビジネスに貢献するポイントを探し出す」ということが大事かなとは思っています。「このあたりが技術的にチャレンジング」みたいに、システムごとに面白さって必ずあるものです。それをきちんと探し出して、それを魅力的に伝えることを常に考えるのが重要。
その魅力が技術で倍になれば、ビジネス的にもこれくらいのインパクトがあって……と、きちんとエンジニアの言葉で話すことができれば、耳を傾けてもらいやすくなるはずです。
アーリーステージの企業へ転職する際のポイント
アーリーステージのスタートアップに転職を考えているエンジニアの方には、まずは創業者が「何が何でも事業を続けたい」という思いや原体験を持っているのかを、重視してみると良いと思います。原体験は、きちんとお客さんのペインや、自分自身も解決するペインを理解した人たちが作っているサービスであるかに関わるので。会社のブランドもない中で、新しいマーケットを開拓し、サービスと組織を作り上げる日々は非常に地道で、目先のリターンだけで続けるのは本当に難しいです。
ログラスも、代表の布川が上場企業の経営企画の課題をしっかり理解し、その上で泥臭く100社以上にヒアリングし続け、実際に課題を抱えるお客さんときちんと話せることが重要でした。もし彼が「VRで、AIで、ブロックチェーンな……」とバズワードな事業構想を言っていたらログラスは生まれていないでしょうね。
あとは、VCからの求職情報を見逃さないこと!メディアに情報が露出していないけれど、筋の良いスタートアップはたくさんあると思っていて。本当にアーリーで入るなら、僕はシード期から入ったほうが価値があると考えています。取るリスクも大きいけど、リターンも大きいですからね。
それに参加するなら、「まだ誰も知らないけど、VCが推しているスタートアップ」を探すためにも、ぜひVCとも会ってみてほしいな、と思っています。
個人的には、同じようなことをするなら、大企業で新規事業に取り組むより、スタートアップでやったほうが面白いですよ。資金も裁量権もありますし、新しいアクションを取るにも自分たちで決められる自由さもあって、スピード感もある。なおかつリターンも望めるのは本当に楽しい世界。その分、本当に苦しいこともあるけど、それも含めての良い環境です。
スタートアップで全身全霊、毎日取り組んだほうが、人生絶対楽しいです!
株式会社ログラス
坂本 龍太 取締役 CTO
鳥取県境港市出身。2013年初の新卒として当時60名程度であったビズリーチに入社。同社が1500人まで急成長する中で、求人検索エンジン、採用管理SaaS、新規SaaS事業の開発責任者など、新規事業を中心に経験。サイバーエージェントに移り、AIチャットボットサービスの基盤を担当。2019年5月に株式会社ログラスを共同創業、CTOに就任。