BtoBビジネスの組織に増えている“Sales Operations”なる役割。「Sales Ops」や、単に「Ops」とも記されるケースも目にしますが、その内実は各社各様のようです。
しかしながら、THE MODEL型の体制を構築する企業においては、チームがより良くワークするためにもSales Opsの意義を知り、必要とあらば導入を考えたいところでしょう。
今回はSmartHRの工藤慧亮さんに、自社での事例も踏まえ、「SaaS企業におけるSales Opsの役割」についてお話を伺いました。freeeでのインサイドセールスやOpsでのチーム支援を経験した後、SmartHRにジョイン。現在はセールスプランニングとして、営業企画や営業推進の業務を担当されています。
まだ事例が少ない日本企業において、チームの立ち上げから実践までを経験されてきた数少ない人材である工藤さんから、Sales Opsの3つの役割、プレゼンスを高めるポイント、具体的な課題解決のエピソードなど、 導入や改善のための要素を教えていただきました。
下記はそのインタビューから抜粋し、構成したものです。全編はPodcastでも配信しているので、ぜひ併せてお聞きください。聞き手は、ALL STAR SAAS FUNDの神前達哉です。
(※以下、断り書きのない限り、Opsはすべて「Sales Ops」の略です。)
Opsが担う「3つの役割」
──そもそもSaaS企業、特にBizDevの領域において、Opsが必要になる理由、その必要性をどのように捉えていらっしゃいますか。
役割としては、「重要度は高いけれど、緊急度の低い課題」を解決していくのが基本だと考えています。短期的な売上や目の前の課題に注力してしまいがちなところ、Opsがチームとなってそれらに取り組んでいく。その点では、初期段階の組織よりも、課題が増えていく急拡大期に必要とされるでしょう。
──中長期的な視点で売り上げを最大化するために、営業活動の効率化や円滑化につながる課題の解決を、先んじて行っていくのがOpsのミッションなのですね。具体的に、どういった役割を担っていますか?
私が担当しているOpsの領域では、主に3つの役割があると捉えています。オペレーション、アナリティクス、イネーブルメントですね。
オペレーションは他部署との連携を構築し、改善すること。人をいたずらに増やしていくよりも、ツールを導入して解決を図るのも重要です。導入すべきツールの選定や管理、これらからデータを収集するといった一貫性の担保を含め、オーナーシップを持ってプロジェクトを動かしていきます。
次に、アナリティクス。セールスに必要なデータ収集や、貯まったデータを用いた売上予測などを担います。たとえば、Salesforceを使っているのであれば、そこへ適正にデータが入力されるような状態を保つのも役割の一つです。
最後に、イネーブルメント。分析したデータを基に実行していくことです。営業力強化の観点でのトレーニングやオンボーディングが一例です。全体戦略に基づく戦術を進めていく、より広い意味での「実行」だと捉えています。
アイディアに「確からしさ」を担保する
──3つの役割は、以前に工藤さんがnoteでも詳細にまとめてくださっていましたね。中でもアナリティクスは特徴的で、データドリブンで営業を科学し、より効率的な営業活動につなげていくのがSaaSの主流になりつつあるとも感じています。アナリティクスを進める上でのポイントは何でしょうか?
短期的な分析の重要性です。BIにデータを蓄積して、1ヶ月や2ヶ月かけて検証するというよりは、「3日程度で検証できる、感覚的なことを裏づけるための分析」をする。それによって、思いつきに対しても背中を押せるんですね。そういったエビデンスは、日々の会話やミーティング、チケットの中でも必要だと思います。
たとえば、「リードタイムを短くしよう」という仮説に対して、「現状のリードタイムは本当に長いのか」を検証する。スピード感を持って、ある意味では「質よりも量」を重視した分析を担っています。
──定性評価になりがちな営業組織のジャッジメントに対して、説得力を持ってPDCAを回していくためにアナリティクスという機能を持つイメージでしょうか。
そうですね。メンバーの感覚に基づく良いアイディアに、僕らが「確からしさ」を少しでも担保したり、後押しできたりするようになりたいんです。
前提として、貯めていくデータとオペレーションの組み方は、フェーズごとに議論があるかと思います。ただ、最低限どこまでデータを取ったのか、何のために仕組みを作るのか、どういったツールを導入するのかは、常に立ち返って考えられるようにしたいですよね。そのためにも、Opsが担う役割としては必要ではないでしょうか。
また、仕組みづくりには、一般的には内部からの戸惑いや無意識的にも抵抗感が伴いがちです。それを「行動を変えるべき気づき」として提供するのがイネーブルメントでもあります。「営業力強化の研修」といった形に落とし込むことで、メンバーが納得感を持って取り組めるようにするんですね。
オペレーション、アナリティクス、イネーブルメントという3つのサイクルでのPDCAを意識するのが大切だと考えています。
THE MODEL型では、それぞれの組織にOpsは置ける
──ここからは実例として、「SmartHRにおけるOpsの定義」をお聞かせください。
SmartHRでは、私も属しているセールスプランニングという部署がOpsの役割を担っている位置づけです。加えて、カスタマーサクセスやインサイドセールスにも、それぞれにOpsは置かれています。さらに、会社全体を横断的・縦断的に、開発からビジネスコーポレートをつないで俯瞰的に課題を解決していく「全社Ops」というチームもいます。
THE MODEL型では各組織で課題があります。解決すべき重要度合いも各組織で異なりますから、それぞれでスピード感を落とさずに解消を図るのがOpsの仕事になるでしょう。とはいえ、定義でいえば、海外事例などを見ても一様ではなく、僕らとしてもOpsをどういった組織として位置づけるかは、今まさに揉んでいる最中です。
「中長期的で、重要度が高く、緊急度が低い問題」を解決していく組織である
ただ基本的には、「中長期的で、重要度が高く、緊急度が低い問題」を解決していく組織であることに変わりありません。
──SmartHRでは、先ほどの3つの役割は、異なる人が担当していますか。それとも、一人で複数兼務するのでしょうか。指揮体制について教えていただけますか。
あくまで弊社の場合ですが、直近ではオペレーションの領域をビジネスサイドを全体的に見ている全社Opsに移管したところです。
理由は、「セールスのオペレーションを整える」という課題があったとしても、前段階のインサイドセールスや、後段階でのカスタマーサクセスと、必ず調整しなければならなくなっていたからです。解決したい問題も増えるなかで、セールス内だけの改善を考えてもスピードが遅くなってしまうのが課題でした。
そこでオペレーションに関しては、ビジネスサイド全体を俯瞰している全社Opsへ移管して、セールスプランニングからSales Ops的な依頼をかけていくスタイルに切り替えました。ですので現在は、セールスのための分析と、イネーブルメントのヘッド部分を引き続き担っている形です。
──なるほど、セールスだけにフォーカスするのではなく、BizDev全体でOpsを回していくイメージですね。
さらに今後はアナリティクスに関しても、マーケティングに新設したデータマーケティングという部門に移管をしていく予定です。マーケティングだけではなくビジネスサイド全体の分析を、より担うように変わっていきます。
マーケティングも実際に数年の営業活動を経て、 Salesforceにどんどん情報が貯まってきていますから、そこからいかに示唆を得られるかが非常に重要です。セールスプランニングから切り離して、より詳細な部分にまで踏み込めるように役割が変わっていくのでしょう。
SmartHRでOpsが解決してきた課題たち
──組織の拡大に合わせて、 Opsも専門化されていくのですね。これまでにOpsが解決できた取り組みとして、具体例を教えてください。
大なり小なりの取り組みはあるのですが、今回は3つ挙げます。
一つは、エンタープライズのお客様が増えていく中で、「グループ企業を持つ親会社との商談アサイン」に関する課題です。親会社と子会社を紐付けて営業担当に集約したいという課題に対して、インサイドセールスとセールスが一貫して商談のアサインと獲得をできるように、Salesforceでフローで整えました。
次に「アップセルの売上集計の簡略化」です。もともとSmartHR事業単体で運営し、プランも一種類しかない状態から、現在は3つのプランと追加オプションを持つようになってきました。単体の基盤のうえに無理やり追加要素を乗せていくような状態で、入力や集計が煩雑になる問題が起きていました。
それらを入力しやすくし、各企業ごとにいかなるプランが提案され、プロダクトごとの合計金額や受注金額をすぐに把握できるようにしました。会社全体として、それらの売上は経営企画が集計していますが、経営企画ヘのデータ連携もスムーズになりましたね。
最後はイネーブルメントの領域として、「営業力強化の外部研修企画」や「セールスのスキル獲得状況の把握」です。これまで、営業としての成長を可視化できておらず、定性評価に頼っていたところを、ある指標のもとでレベル感を認識できるようにしました。「課題ヒアリングの能力はどの程度にあるのか」といったことが、わかりやすくなったんです。
現在はテスト運用の段階ではありますが、実現に向けて動いているところですね。
──お話を聞いていると、ビジネスやレベニューの拡大に対して、Opsはなくてはならない組織になりつつあると感じました。
そうですね。セールスに特化しているからこそ、売り上げ目標を達成するというKGIに向けてフォーカスできています。THE MODELの流れからしても、インサイドセールスとカスタマーサクセスをブリッジする部署ですから、マネージャーと連携して貢献できているのは、僕自身も面白く、良い経験をしていると思っています。
Opsメンバーは社内からのコンバートを第一に
──ここからはタレントの話として、「Opsに向いてる人の資質や経験」について、工藤さんはどのようにお考えですか。
自社セールスを経験している人が最も向いている
Opsに限った話でいえば、自社セールスを経験している人が最も向いているのではないでしょうか。
中でも、自分自身で売上を高めていくことに限界を感じ、「もっとメンバーの役に立ちたい」とか、「自分の売上を倍にするよりも、チーム全体の売上を1. 2倍に乗せたい」とかいったことに、関心を持てる方であればなお良いです。営業が必要としている細かな情報にアンテナを張り、小さな課題もしっかり拾っていけるはずです。
あとは日々、周囲の目線を忘れずに、しっかりコミュニケーションが取れるのは大前提ですね。定量的な目標よりも定性的なミッションが主になりますから時間もかかってきます。Opsというチームは、仮に社内で信頼を失うと、取り戻すのが非常に難しいからこそ、コミュニケーションの必要性は非常に高いです。
──初めてOpsを立ち上げる起業家や経営層の方に向けて、ぜひアドバイスをください。
社外から担当者を採用するのはオススメしません。会社ごとの状況をキャッチアップしていくのに時間がかかりますし、社内の情報を知っている人は、社内にいるはずです。Opsであれば、セールスメンバーからのコンバートが最もワークするのではないでしょうか。
あとは、Opsに任せきりにならずに、一緒に取り組んでいく雰囲気を、ぜひ継続して持っていってもらいたいですね。
──チームを立ち上げるタイミングは、どのように判断すればよいでしょうか。
SaaS企業であれば、THE MODELを敷いていらっしゃるのがほとんどかと思います。それであれば、マーケ、IS、セールス、CSという流れをブレークダウンし、プロセスを細かく切ってデータを計測できているか否かを解いてみると、答えが出やすいはずです。もし、一段階もブレークできない場合は、喫緊に立ち上げるべきです。
たとえば、来期の売上を考えるうえでは、受注率は非常に参考になります。初期フェーズで科学的に受注率が割り出せないのは無理もありませんが、そもそも受注件数を計測できていないような状況は、往々にあり得るのではないでしょうか。すでにプロセスを切り、問題が発見できているなら構いませんが、不透明であればOpsの設置は効果的といえます。
最初は兼任で0. 5人分のヘッドカウントから始めて、より本腰を入れる段階に来てからヘッドカウントを1にし、チームを作っていくのも良いでしょう。
セールスプランニングへ名称を改めた理由
──マネージャーが短期的課題に向き合うのに対し、Opsが中長期的課題に向き合うという役割の切り分け方なのだと思うと、とても納得感があります。必要な役割だからこそ、Opsのプレゼンスを高めるために実行されてきたことなど、何かあるのでしょうか?
Opsの定義が各社で定めにくいことにも起因しますが、「オペレーションを整える=何でもツール屋さん」のようなイメージを持たれる方も結構いらっしゃいます。でも、そうはなりたくはないんです。
SmartHRでは、もともとSales Opsというチーム名を冠していましたが、そのせいでオペレーションに偏りすぎて、会社の戦略に対してどのように戦術を考えていくか、といったことにあまり時間を割けなかったんです。チーム名称に引っ張られてしまったわけですね。
そこで名称をセールスプランニングと改めました。いわゆる営業企画を主体として、オペレーションという役割も担うチームだと定義し直したのです。
他にも、社内外に向けてnoteを書くのも、活動に興味を持ってもらえたらいいなと思って始めたことです。
──社外へ発信することによって、社内のプレゼンスも高まると。
そうですね。noteで書くと、 意外とSlackで共有するよりも読んでもらえるというのは、僕自身のハックの一つです(笑)。もちろん、期が始まる最初のキックオフで、自分たちの役割を伝えていくようなことは続けていますけれど。
──ありがとうございます。最後に、工藤さんのこれからのビジョンや、Opsに携わる方へのメッセージをいただけますか。
Opsという領域は2〜3年前には全く聞かなかったはずが、最近では他社も含めて耳にするようになってきたと思っています。僕の野望はOpsが一同に集うイベントを打って、いろんな会社さんの事例を聞きたいですね。
役割としても、3つの役割だけでなく、もっと上流の領域でいかに戦術を考えていくかにシフトしてきていますし、そういったお話をみんなでわいわいとできるといいな、と。ぜひ、Opsのプレゼンスを皆さんで一緒に上げていきましょう!