■「今週のSaaSxAIニュース」ピックアップ!

インテルの失敗から学ぶAI企業への3つの教訓
Battery「Only the Paranoid Survive: Lessons from Intel and Andy Grove for Today’s AI Startups」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
インテルを世界的な企業に育てたAndy Grove元CEOは、20年以上前に『パラノイアだけが生き残る』という時代の転換点での経営に関する名著を書きました。その後、インテルはモバイルや現在のAIブームに乗り遅れ、NVIDIAにその座を奪われました。このBattery Venturesの記事では、かつてイノベーションのリーダーだったインテルの没落の理由と、現在のAI企業が学ぶべき重要な教訓を解説しています。
インテルの没落
インテルは、PCとサーバーで90%以上のシェアを誇り、市場を支配しました。しかし、売上至上主義路線によって、その後モバイル、クラウド、AIの波で重要な新興市場を逃します。この主な原因は、創業者主導のマインドセットから、既存市場保護に固執するセールス主導の経営にシフトしたことによる「慢心」でした。
インテルの失敗からAI企業が学ぶべき3つの教訓とは?
- 「創業者モード(Founder mode)」を維持する
創業者は、常に事業のあらゆる側面に関与し続けることが重要です。特に技術サイクルが短くなっている現代では、隣接市場や新たなユースケースを見過ごしてはいけません。 - 顧客と近い距離に居続ける
インテルの失敗は、「プロダクトの革新には、顧客との近接性が重要である」ことも示唆しています。インテルは時間の経過とともにエンドユーザーから遠ざかり、SIerに販売することに注力するようになりました。一方のNVIDIAは全く逆のアプローチで、顧客ニーズに基づいた完全なソリューションを作り上げることに注力しました。実際のユーザーからのフィードバックを直接得ることが非常に重要です。 - プロダクト主導であり続ける
プロダクト主導のカルチャーを維持することは、イノベーションに常に重要です。Grove氏が退任以降、インテルはイノベーションよりもセールスと市場保護に重点を置くようになってしまった。これがその後の技術革新に乗り遅れた原因になっています。今日のAIのもたらす価値の大半は、アプリケーションとミドルレイヤーで生まれます。エンドユーザー(顧客)にできるだけ近づき、顧客がプロダクトからどのように価値を得ているかを確認し続けることがAI企業が進むべき道です。
AIイネーブルド・サービス構築の重要な5つの学び
EMERGENCE「The AI-Enabled Services Playbook」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
AIと人間の専門知識を組み合わせることで、レガシーサービスプロバイダーよりも速く、より良く、より安い成果を提供する「AIイネーブルド・サービス」を提供するAIスタートアップが増えてきています。このEmergence Capitalの記事では、SaaSとの共通点と決定的な違いについて、5つの重要な学びをまとめています。
- 学び1:早期にドメインエキスパートを採用する
従来のSaaSではプロダクトを販売しますが、AI対応サービスではあなた自身を売ることになります。プロダクトではなく成果を提供することが求められるため、ドメイン知識への顧客からの信頼は企業の存在に関わる問題です。同時にテクノロジーへの専門性も重要になるため、ドメインエキスパートとAIエキスパートのペアが理想的な創業チームです。 - 学び2:幻のPMF(Product Market Fit)に注意する
AI対応サービスにおける「PMF」は、SaaSとは異なる存在です。高い売上成長とNDRは、真のAI活用の欠如を隠す可能性があります。これを『幻のPMF』と呼びます。AI対応サービスにおける真のPMFには、コストに関して非線形にスケールできることを証明する必要があります。 - 学び3:早期にパートナーシップを開発する
既存企業とのパートナーシップは、AI対応サービスの初期成長の促進剤です。既存企業は即時の市場信頼性、確立された流通、専有データセットへのアクセスを可能にします。これらの利点を活用するために、AIイネーブルド・サービススタートアップは従来のSaaSより深いパートナーシップモデルを模索しています。一部のスタートアップは、パートナー企業からエクイティでの資金調達をしたり、完全に買収したりします。 - 学び4:新しいプライシングモデルでより高額な契約金額を得る
AIイネーブルド・サービスは、従来のSaaSとは異なり、テクノロジーと労働力の両方を提供することになるため、より高いACVを引き出せます。このプライシングモデルには大きく2つのタイプがあります。- 労働時間ベース:契約サービスに使用される労働時間数に基づく価格設定。初期段階ではマージンを保証しますが、自動化が増加するにつれて、共食いするリスクがあります。
- 成果ベース: 提供される最終アウトプットの価値に基づく価格設定。インセンティブを調整し、長期的に利益率を拡大できますが、AI機能がまだ初期段階にある場合、初期の収益性に悪影響を与える可能性があります。
- 学び5:SaaSと同じく、デモが非常に重要になる
SaaSでは、デモはプロダクト価値を示すために使用されます。しかし、AIイネーブルド・サービスではデモが忘れられがちで、創業者はピッチデッキやトークトラックに終始しがちです。顧客が直接AIを使用するわけではないため理解できますが、これは大きな間違いです。デモがなければ、購入者はあなたが他の同様のピッチを持つサービスプロバイダーと何が違うのかを目で確認できません。カスタマー向けデモを構築することは無駄に感じるかもしれませんが、それは最高のGTM投資となるでしょう。

AIの世界においてもB2Bソフトウェアベンダーが重要であり続ける理由
20VC with Harry StebbingsのYoutube「Jake Saper, GP @ Emergence Capital: "We Sold Salesforce Early and Lost Out on Billions"」の一部を紹介したものです。全内容はリンク先をご覧ください。
Emergence CapitalのGeneral Partnerであり、Veeva、Zoom、Salesforceなどの北米の著名なSaaS企業への投資で知られるJake Saper氏は、「BoltやCursorのようなコーディングを容易にするAIツールを使ったとしても、B2Bソフトウェアベンダーは不可欠であり続ける」と話しています。僕も、彼の見解に完全に同意です。重要だと思った彼が挙げた3つの理由をまとめました。
- 専門的な視点
ソフトウェアベンダーは、単なるコード以上に問題解決に対する独自の視点と経験を提供します。顧客はベンダーから購入することで、さまざまなユースケースにわたって特定の問題解決に専念してきたプロフェッショナルの専門知識を得ることができます。これらのベンダーは、一般的なAIモデルではアクセスできない独自のデータを蓄積しており、汎用AIソリューションでは実現できない独自の価値を提供しています。 - メンテナンスの負担軽減
カスタム開発をすると、メンテナンスが重大な課題となります。AIツールで作成されたカスタムソリューションは驚くほど早く陳腐化してしまいます。ソフトウェアベンダーは、このメンテナンスとアップデートの負担を顧客から引き受け、継続的に価値を提供し続ける重要な役割を担っています。 - 明確な説明責任
説明責任は、ビジネスにとって非常に重要です。顧客は「責任の所在」を求めており、ソフトウェアが期待通りに機能し、ダウンタイムを最小限に抑え、問題が生じた際に迅速なサポートを受けられることを期待しています。ベンダーは明確な責任を持ち、場合によっては特定の成果を保証することで、顧客側へ安心感を提供しています。

AIスタートアップがかつてのエンタープライズソフトウェアの黄金期から学べること
BCV(Bain Capital Ventures)「What’s Old Is New: AI Apps Go Back to the Future」の一部を紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
BCVのAjay Agarwal氏による記事をピックアップしました。現在のAIイノベーション時代は、1994-2000年のエンタープライズソフトウェアの黄金時代から得られる示唆が大きいという説です。
- トップダウンセリングが復活している
- CxO陣のAIへの関心が非常に高まっており、新技術導入を積極的に推進している。よってトップへの直接的な販売アプローチが再び重要性を増している。
- 成功するAIアプリケーション企業は年間100万ドル規模の契約を、リカーリングで締結することができている。
- よってスタートアップ創業者が効果的にビジョンを伝え、CxOに直接訴えかける能力が重要になっている。
- 実装・サポートの重要性が高まっている
- AIの業務活用に向けては初期だけでなく継続的な実装サポートが不可欠。
- プリセールスエンジニア(Field Design Engineer, FDE)やプロフェッショナルサービス(PS)チームの役割が拡大しており、データの取り込み、モデルの調整、ソリューションの継続的改善が顧客成功の鍵となる。
- 高品質な実装サービスが持続可能かつ収益性の高いビジネス要素となる。
- 戦略的な行動喚起(call-to-action)を販売する
- この世代の最高のAI企業は、LLMやモダンなテクノロジー機能を販売するのではなく、グローバル企業に戦略的な「行動喚起」を販売することが大切。経営幹部は機能や性能を買いたいのではなく、戦略的な変革を買いたい。
- たとえば、Siebel Systemsは、見込み客や商談を管理するためのデータベースを販売していたわけではなく、顧客中心主義の精神と顧客関係を管理するためのソリューションだった。
- よって、明確で高い視点のメッセージが契約規模の拡大と販売サイクルの短縮につながる。顧客はAIが生産性を向上させ競争力を維持するための戦略的パートナーを求めている。
■ 資金調達ニュース
[海外]
サイバーセキュリティ
- Chainguard - クラウドネイティブなソフトウェアサプライチェーン攻撃を防ぐSaaS。Kleiner Perkinsリードで$350M@評価額$3.5Bで資金調達が進行中(Yahoo! Finance)
- Cybereason - エンドポイント検出・対応(EDR)サイバーセキュリティSaaS。Softbank、Softbank Vision Fund2などから$120Mを調達(Fintech Global)
- Pentera - セキュリティのペネトレーションテストを実行するSaaS。シリーズDで$60Mを調達。投資家はEvolution Equity Partnersなど(TechCrunch)
- Sola Security - ユーザーがニーズに合わせて独自のサイバーセキュリティ・アプリを設計できるローコード/ノーコードSaaS。シードで$30Mを調達。投資家はS Capital、元セコイアGP Mike Mortizなど(TechCrunch)
ハードウェア×AI
- Flock Safety - ナンバープレートリーダー(LPR)、銃声検知、AI対応ビデオカメラなどで犯罪解決のためのAI×SaaS。評価額$7.5Bで$275Mを調達。投資家はAndreessen Horowitz、GreanOaksなど(TechCrunch)
- Shield AI - 最先端の自律性ソフトウェアプロダクトと防衛航空機を構築するディープ・テックAI。評価額$5.3BのシリーズF-1で$240Mを調達。投資家はL3Harris、Andreessen Horowitzなど(Yahoo! Finance)
- Dexterity - AIを搭載した産業用ロボット。評価額$1.65Bで$95Mを調達。投資家はLightspeed Venture Partners、住友商事など(Yahoo! Finance)
エンタープライズ
- Omni - アドホックなデータ分析を実行し、チャートやレポートを作成できるBI SaaS。シリーズBで$69Mを調達。投資家はICONIQ Growth、Theory Venturesなど(TechCrunch)
- Bria - 企業向けに著作権の問題がクリアされた画像生成AI。シリーズBで$40Mを調達。投資家はRed Dot Capital、Maor Investmentなど(TechCrunch)
バーティカル
- Infinite Uptime - センサーとAIを使って工場が機械の問題を検出する保全予防AI。シリーズCで$35Mを調達。投資家はAvataar Ventures、StepStone Groupなど(TechCrunch)
- Daupler - 自治体や公益法人向けに重要なインフラや公共サービスのインシデント管理を支援するSaaS。シリーズBで$15Mを調達。投資家はAqualateral、Burnt Island Venturesなど(Yahoo! Finance)
フィンテック
- Lynx - 医療費の支払いと管理を簡素化するFintech x SaaS。シリーズAで$27Mを調達。投資家はFlare Capital Partners、CVS Healthなど(Yahoo! Finance)
- Synctera - 口座、カード、決済商品など、フィンテックや組み込み型で銀行商品を立ち上げ・運用を支援するBanking as a Service。Fin Capital、Diagramなどから$15Mを調達(TechCrunch)
ソフトウェア開発支援
- Anyshpere - AIコーディング・アシスタント「Cursor」を提供。評価額$10BでThrive Capitalリードの資金調達ラウンドを実施中(TechCrunch)
リーガルテック
- Norm Ai - 規制、法律、企業方針、法的義務をコンプライアンスAI。Coatue、Craft Venturesなどから$48Mを調達(FinSMEs)
ヘルスケア
- Motivity - 自閉症の子供を治療する応用行動分析(ABA)SaaS。Five Elms Capitalから$27Mを調達(Yahoo! Finance)
その他
- Reflection AI - 元DeepMind研究者が設立した、スーパーインテリジェンス(コンピューターが関与するほとんどの作業を実行できるAI)開発スタートアップ。シリーズAで$105Mを調達。投資家はLightspeed Venture Partners、CRVなど(Silicon ANGLE)
- Cartesia - 音声に特化したリアルタイム生成AIモデル。シリーズAで$64Mを調達。投資家はKleiner Perkins、Index Venturesなど(Yahoo! Finance)
- OpusClip - 長い動画を高品質のバイラルクリップに変換し、ユーザーがTikTokやYouTubeのショートムービー、リールで共有できるAI×SaaS。シリーズで$30Mを調達。投資家はMillennium New Horizons、DCM Venturesなど(FinSMEs)
M&A
- Moveworks - エンタープライズ向けの自動化・AIツール開発。ServiceNowが$2.85B(キャッシュと株式)で買収に合意(TechCrunch)
[国内]
- VARIETAS - 大手企業向け対話型AI面接「AI面接官」を開発・提供。ALL STAR SAAS FUNDとグローバル・ブレインから総額6億円を調達(PR Times)
- GROWTH VERSE - AI SaaS開発とM&A・アライアンスで事業拡大。シリーズBで4.9億円を調達。投資家はBIPROGY、静岡キャピタル、ディーエムエスなど(PR Times)
- メダップ - 病院経営を改善するためのプロダクトの研究開発および販売。りそな銀行よりベンチャーデット等による1.3億円の資金調達を実施(PR Times)
- BizDB - ストックオプションの発行・管理を支援するSaaS「Kachiluストックオプション」を展開。総額3600万円の資金調達を実施(創業手帳)