■「今週のSaaSxAIニュース」ピックアップ!

ポストAI時代のソフトウェアの重要な5つのMoatとは?
OnlyCFO's Newsletter「Software Moats are Gone!」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
AIの進化により誰でもアプリケーションが作成できるようになったことで、ソフトウェア開発の時間差による参入障壁はなくなり、SaaS・ソフトウェアはコモディティ化するのではという意見があります。ソフトウェアビジネス自体の参入障壁は下がるなかで、重要なMoatについて考察した記事です。
2025年に重要になる5つのMoat
- 顧客からの信頼
信頼は最も持続可能なMoatであり、時間をかけて構築されますが、一瞬で失われることがあります。ソフトウェアベンダーへの信頼は、顧客のデータを大切に扱ってくれることや高品質のプロダクトを開発し続けてくれること、セキュリティの堅牢さなどによって時間をかけて作られます。 - ディストリビューションとネットワーク効果
競争の激化やコンテンツの爆発的な増加により、以前よりターゲットとする潜在顧客へリーチすることは難しくなっています。そのため既存顧客と強力な流通網を持つベンダーは大きなアドバンテージを持っています。 - データ
価値のある独自のデータは、強力なMoatになります。 誰もが同じAIモデルにアクセスできるのであれば、手持ちのデータから独自の価値を提供する能力は、最後の大きな差別化要因の一つです。 - 法規制への対応
ソフトウェアはすぐ作れても、複雑な規制環境をうまく乗り切るには深い専門知識と時間がかかります。 - マルチプロダクト/コンパウンド
複数のプロダクト展開をする企業は、異なるプロダクトから得られるデータがより充実し、より強力なディストリビューションを持ちます。また複数のプロダクトを提供することで、よりよい顧客体験を生みだすこともできます。 - AI自体はMoatではない
オープンソースAIとAPIの普及により、単にAIモデルを持っているだけでは持続可能なMoatにはなりません。AIと人間独自の判断力、創造性、顧客理解を組み合わせることが、持続可能な優位性につながります。
転換点を迎えた一般消費者向けAIの5つの主要カテゴリ
Bessemer Venture Partners「Consumer AI's tipping point」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
ここ最近のアメリカ・中国などのAI技術やアプリケーションの進化は、非常に目をみはるものがあります。このBessemer Venture Partnersの記事では、モデルコストの減少、マルチモーダル技術の発展、高度なAIエージェントの台頭が、B2C(一般消費者)市場にどのような影響を与えるかをまとめています。一般消費者の行動変容は、企業の行動や企業向けツールであるB2B SaaS/AIにも影響するため、今後のこの変化は新たなB2B SaaS/AIのカテゴリリーダーを生む可能性があります。この記事で予測している、今後成長が見込まれる消費者向けAIサービスの5つの主要カテゴリは以下の通りです。
- AI専門家サービス
AIは、旅行代理店、ファイナンシャルアドバイザー、フィットネスインストラクターなど、従来専門家が提供していたサービスを消費者向けに自動化します。 - 次世代マーケットプレイス
AIが需要と供給の間の摩擦を減らし、マーケットプレイス内のサービス検索・アクセスを支援する新しいタイプのプラットフォームが増加しています。 - ジェネレーティブ・ゲームとソーシャル体験
オンラインゲームとソーシャル体験の融合が進み、AIを活用したインタラクティブな体験が新しいUGC(ユーザー生成コンテンツ)プロダクトの波を作りはじめています。 - 新たなショッピングと商品発見体験
AIを活用した自然言語検索や多モダリティソリューションにより、製品検索、スタイリング、フィッティングなどの体験を向上させます。 - デザイン作成・生産性ツールの民主化
AIによって専門知識や多大な投資なしにアプリ開発や動画制作などが可能になり、専門家や富裕層向けだったツールやサービスが一般消費者に広がりつつあります。

お金よりも優れたAI戦略が必要
Every「You Don’t Need More Money—Just A Better AI Strategy - Ep. 50 with Mike Maples」を日本語で紹介したものです。全内容はリンク先をご覧ください。
伝説的な投資家であり「Pattern Breakers」の著者であるFloodgate FundのMike Maples氏とのポッドキャストエピソードをピックアップしました。「カウンターポジショニング」の重要性やAI領域で勝利するための戦略などの考えが面白いです。以下が主なポイントです。
- 戦略的優位性としてのカウンターポジショニング
カウンターポジショニングとは、スタートアップが大手競合に対して優位性を獲得できる最も強力な方法の一つです。これは、大手企業が簡単に真似できないビジネスモデルを採用することで競争優位性を生み出す戦略です。
Maples氏は、例としてText IQを挙げています。同社は、AIを活用した法的調査向けの文書分析を提供し、業界標準とは異なる成果ベースのプライシングを導入しました。このプライシングモデルは競合他社にとって対応が困難でした。なぜなら、彼らはビジネスを完全に再構築しない限り対応できなかったからです。カウンターポジショニングが有効なのは、既存企業が現行のビジネスモデルに深く依存しており、プロダクトマネージャーからCFOまで全員が既存の枠組みの中でしか考えられず、迅速な方向転換がほぼ不可能だからです。 - 人類の歴史における9つのビジネスモデル
Maples氏によれば、人類の歴史には基本的に9つのビジネスモデルしか存在せず、最も新しいサブスクリプションモデルでさえ約250年前に生まれたものだといいます。技術的な「大きな変化」が起きると、一部のビジネスモデルは魅力が増し、他のモデルは魅力が薄れます。AI技術の台頭により、どのビジネスモデルが最も有利かという変化が起きています。スタートアップは大手競合と直接競合するのではなく、AI時代に適した魅力的なビジネスモデルを活用して市場に参入するべきです。 - ドメイン専門知識の重要性
「AIラッパー」(LLMにUIや追加機能で差別化するサービス)に対する批判がありますが、Maples氏は深いドメイン専門知識とAIの組み合わせが大きな価値を生み出すと主張しています。例えば、Applied Intuitionのような企業は、AI機能と自動車製造業などの専門知識を組み合わせることで成功しています。この専門知識により、OpenAIのような大手AIプロバイダーでも簡単に解決できない複雑な業界特有の問題に対処できるのです。
大多数の人が持っていない専門知識を「AIラッパー」に組み込むことができれば、それは優れた企業を構築する道になり得ます。AIが技術的能力を広く普及させるにつれて、ドメイン専門知識の価値はますます高まっていきます。 - パターン認識 vs パターンブレイキング
Maples氏は、パターン認識(確立されたフレームワークを見つけて適用する能力)とパターンブレイキング(既存のモデルに合わない新しいアプローチを創造する能力)の違いを強調しています。AIは確立されたパターンの識別と適用に優れていますが、真のイノベーションはしばしばそれらのパターンを破ることから生まれます。
最も成功している企業とリーダーは、既存の戦略的フレームワークに従うだけでなく、新しいフレームワークを作り出す能力を持っています。既知のパターンを活用しながらもそれらを破る柔軟性を持つことが、AI時代における根本的な課題です。単にAIを使って確立されたやり方に従うのではなく、最も成功するビジネスはAIを活用して従来のアプローチが通用しなくなったときを見極め、まったく新しい方法を開発するでしょう。

ソフトウェア企業の粗利率の重要性
OnlyCFO's Newsletter「Do Gross Margins Matter?」の一部を紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
今週はOnly CFOによる、テック企業における粗利率の重要性についての記事を紹介します。粗利率は評価額にも大きく影響を与える財務指標です。
- ソフトウェア企業は、20%以上のフリーキャッシュフローで大規模に利益を生み出せる事業であることから、これまで高い売上マルチプルで評価をされ続けてきました。しかし、粗利益率の差は決して無視することはできません。粗利率が50%の収益の事業と80%の収益の事業では評価は大きく異なります。
- 重要なのは粗利益はすぐに改善できるものではない。したがって、製品を根本的に変更するか、粗利益率の改善について説得力のあるストーリーがない限り、投資家の多くは、粗利益率の低さが当面続くと想定し評価額を割り引きます。逆にOPex(営業費用)はARRの成長に伴って急速に減少するポテンシャルがあり、売上の拡大に伴い、一定の収益割合に収斂していきます。
- 粗利益が重要になるタイミングは売上規模や成長率などによって異なりますが、要点になるのはスタンダードよりも低い(下位25%程度)場合は、改善のストーリーが求められるということです。
■ 資金調達ニュース
[海外]
バーティカル
- Peregrine - 公共セクター向けに犯罪削減、災害管理、不正検知などのソフトウェア。評価額$2.5BのシリーズCで$190Mを調達。投資家はSequoia Capital、Goldcrest Capitalなど(FinSMEs)
- Odeko - 中小規模のカフェなどの飲食業向けオール・イン・ワンSaaS。シリーズEで$96Mを調達。投資家はB Capital、Balius Partnersなど(Yahoo! Finance)
- PetScreening - 不動産オーナーや管理者向けにペット関連のコンプライアンス管理を支援するSaaS。シリーズBで$80Mを調達。投資家はVolition Capital、Guidepost Growth Equityなど(Yahoo! Finance)
- Mews - ホテル向けプロパティマネジメントSaaS。シリーズEで$75Mを調達。投資家はTiger Global、Battery Venturesなど(Skift)
- Zeitview - 電力、公共、通信などの重要インフラ検査AI。Climate Investment、Union Square Venturesなど$60Mを調達(BusinessWire)
- VerAI - 重要鉱物の隠された鉱床を高い精度で特定するAI。シリーズAで$24Mを調達。投資家はInsight Partners、など(Yahoo! Finance)
- Instant - オーストラリア発のEC事業者特化のマーケティングSaaS。シリーズAで$18Mを調達。投資家はHummingbird Venturesなど(Deal Street Asia)
エンタープライズ
- Darwinbox - インド発の雇用、オンボーディング、従業員管理などのオール・イン・ワンHR SaaS。Partners Group、KKRなどから$140Mを調達(TechCrunch)
- Firsthand - ブランド企業が消費者のエンゲージメントを高める広告・マーケティング特化のAIエージェントプラットフォーム。シリーズAで$26Mを調達。投資家はRadical Ventures、FirstMark Capitalなど(EIN News)
- Auxia - GoogleとMeta出身者が設立した、顧客接点(Eメール、アプリ内、SMSなど)でパーソナライズされたコンテンツを自動配信するAIエージェント。シード・シリーズAで$23.5Mを調達。投資家はVMG Technology Partners、MUFG Innovation Partnersなど(Yahoo! Finance)
- Helios - グローバル企業向けに各地域のワークフォース管理を支援するAI。シードで$15.5Mを調達。投資家はファミリーオフィスや大企業など(Yahoo! Finance)
- Zocks - 顧客との会話を分析して重要な情報を取得し、主要な業務システムや記録システムに自動入力するAI。シリーズAで$13.8Mを調達。投資家はMotive Ventures、Lightspeed Venture Partnersなど(Yahoo! Finance)
- Ceramic - 企業が独自の生成AIモデルをより効率的に構築・修正するモデル訓練SaaS。NEA、IBMなどから$12Mを調達(FinSMEs)
ハードウェアAI
- Figure AI - ヒト型ロボットとAIを開発。評価額$40Bで$1.5Bの調達中(MSN)
- Flock Safety - 車両のナンバープレート読取・監視を企業や公共機関向けに提供。評価額$7.5BでAndreessen Horowitzリードで$250Mの調達を実施中(Tech in Asia)
- Aescape - マッサージAIロボット。Valor Equity Partnersなどから$83Mを調達(FinSMEs)
- Viam - ロボット、スマートホーム、産業オートメーションなどの物理デバイスの構築、監視、データ管理を支援するAI×SaaS。シリーズCで$30Mを調達。投資家はUnion Square Ventures、Battery Venturesなど(Yahoo! Finance)
サイバーセキュリティ
- SpecterOps - アイデンティティベースの攻撃経路の特定・除去に特化した業界初のサイバーセキュリティSaaS。シリーズBで$75Mを調達。投資家はInsight Partners、Ansa Capitalなど(Fintech Global)
- Cloudsmith - JFrogなどに変わる次世代ソフトウェアサプライチェーンセキュリティSaaS。シリーズBで$32Mを調達。投資家はTCVなど(TechCrunch)
- Crogl - サイバーセキュリティ担当者が日々のアラートを分析し、セキュリティ・インシデントを発見・修正を支援するAIアシスタント。シリーズAで$25Mを調達。投資家はMenlo Ventures、Tola Capitalなど(TechCrunch)
- Knostic - AIへのアクセス制御に特化したサイバーセキュリティSaaS。シリーズAで$11Mを調達。投資家はBright Pixel Capital、DNX Venturesなど(CTech)
フィンテック
- Quantexa - マネーロンダリングや詐欺と戦うAI。評価額$2.6BのシリーズFで$175Mを調達。投資家はTeachers' Venture Growth、British Patient Capitalなど(TechCrunch)
- Ramp - 法人カードと経費管理SaaSを提供するFintech×SaaSデカコーン。評価額$13Bで$150M分のセカンダリーセールスを実施。既存株主にはThrive Capital、Khosla Ventures、General Catalystなど(TechCrunch)
- FairPlay - 有色人種、女性、その他不利な立場にあるグループが与信判断の際のバイアスに対処するFintech×SaaS。Infinity VenturesなどからシリーズAで$10Mを調達(Fintech Global)
AI・ソフトウェア開発支援
- Turing - OpenAIなどのLLM構築の支援や、企業向けの生成AIアプリの作成など、AIプロジェクト特化のコーディングプロバイダー。評価額$2.2BのシリーズEで$111Mを調達。投資家はマレーシアの政府系ファンドKhazanah Nasional Berhad、Westbridge Capitalなど(TechCrunch)
- LlamaIndex - 非構造化データAIエージェント構築支援オープンソースSaaS。シリーズAで$19Mを調達。投資家はNorwest Venture Partners、Greylockなど(TechCrunch)
ヘルスケア
- Freed - 医師を医療文書作成作業から解放するノート作成AI。シリーズAで$30Mを調達。投資家はSequoia Capital、Scale Venture Partnersなど(Yahoo! Finance)
- Heidi - カルテ前のサマリー作成、治療に関する臨床ガイドライン、患者とのやり取りなどのヘルスケア特化自動メモ作成AI。Headline、Possible Venturesなどから$16Mを調達(Tech Funding News)
リーガルテック
- Numeral - EC事業者・SaaS企業の売上税(Sales Tax)コンプライアンスAI。シリーズAで$18Mを調達。投資家はBenchmark、Y Combinatorなど(Yahoo! Finance)
その他
- Zhipu - 清華大学からスピンアウトした中国版OpenAI。Hangzhou Municipal Construction Investment Group、Shangcheng Capitalなどから$140Mを調達(TechCrunch)
[国内]
- Vpon Holdings - 独自のAI技術とデータを強みとしたクロスボーダービジネス支援を提供。総額700万米ドル(約10億5千万円)を調達。投資家はアリババ・台湾・アントレプレナーズ・ファンド、中華開発資本、Cool Japan Fundなど(PR Times)
- Live Search - 不動産会社向けに物件撮影サービスや物件写真データベースを軸としたBPaaSを運営。シリーズBファイナルクローズで累計調達額8億円超に到達(PR Times)
- コズム - AI・IoTの力で製造業のDXを推進。デットファイナンスによる資金調達で累計調達額2.4億円に(PR Times)
- ジョシュ - 医療介護業界向け情報連携プラットフォーム「連携ジョシュ」の開発・運営。シードラウンドで、ANOBAKA、デライト・ベンチャーズから資金調達を実施(PR Times)