マルチプルの変化から見るSaaSバリュエーションの勝者と敗者
OnlyCFO's Newsletter「Cloud Valuations | Winners, Losers, and Insights」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
過去2年間の米国上場SaaS企業80社のEV/Revenue(企業価値/売上高)マルチプルを比較して、勝者と敗者、その違いが何から生まれているのか?を考察した記事。これは日本もアメリカも共通して言えることは、現在の厳しいマクロ環境でも、力強い財務結果を出せるか否かが本質的に問われているように思います。
- 2021年対比で現在マルチプルが上がったSaaS企業は、不動産バーティカルSaaS AppFolio 1社のみです。
AppFolioは2021/11時点では10.6xでしたが、現在10.9xに上がっています。それは2.5年前から変わらず優れた売上成長率を維持し、収益性も改善し続けているからです。 - マルチプル評価の勝者と敗者を分けるのは、①優れた売上成長性、②収益性(利益)の継続的な改善です。
- ①優れた売上成長性で重要なのは、売上耐久力(今年の売上成長率を昨年の売上成長率で割ったものです。Benchmark ビル・ガーリーが競争優位期間(CAP)という概念について、最近語っていますが、CAPとは「企業が突出したリターンを生み出す、つまりMoatの寿命」を指します。多くの企業・投資家は、CAPが現実より長く続くと想定しがちです。そういった企業は、売上の伸びが急速に落ち込むと、激しく暴落します。高成長の誇大広告は非常に危険です。
- ②収益性(利益)の継続的な改善は、2021年以降、多くのSaaS企業がFCFマージンを改善したが、実際には成長が劇的に鈍化した割には、25%以上のFCFマージンを出せている企業はほとんどありません。同じSaaSと言えど、現実は大きな利益を生み出せるSaaSは限定されます。それを証明したSaaS企業が高い評価を得ています。
米国のソフトウェア不況はまだ続く
David Cummings on Startups「Software Recession Continues」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
セールスフォースに買収されたPardotやセールスエンゲージメントSaaSユニコーンSalesLoftを創業した、SaaSの連続起業家兼投資家であるDavid Cummings氏のブログ記事より。アメリカは、AI以外のソフトウェア不況が2年半以上経った現在も続いている背景を解説した記事です。
アメリカでソフトウェア不況が続いている大きな理由は、以下の2点です。
①米国ソフトウェア企業の顧客は、他のソフトウェア企業であり、ソフトウェア業界全体に投資が集まらなくなったことで、エコシステム全体のお金の流れが止まってしまったこと
②非ソフトウェア企業に売っているケースでも、高いインフレ率によって成長が遅くなったり、停滞してしまっていること
この背景を是とするならば、日本のSaaSスタートアップを取り巻く需要環境やインフレ環境は大きく異なるため、アメリカほど、ソフトウェア不況にはなっていない、ないしは影響は非常に軽微であることは肌感覚とも合致します。
Go-To-MarketでSaaS起業家のよくある間違い
SaaStrのYoutube「Top 10 GTM Mistakes I See Founders Making Today with Jason Lemkin」の一部を紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
SaaStr CEOのJason Lemkin氏は、SaaSスタートアップの起業家がGo-To-Marketで起こしがちなミスについて語っています。以下、主要ポイントです。
- プロダクトをデモできない、またはうまく販売できないセールスの責任者を雇ってはいけません。初期段階では、マネジメントや戦略を組み立てることができる人ではなく、販売できる人が必要です。
- 初期段階のスタートアップでは、デマンドジェネレーションができないマーケティングのVPを雇わないでください。
- VPは長い間あなたに報告し続けなければなりません。SalesのVPを雇ったからといって、セールスからすぐに手を引いてはいけません。
- マーケティング予算を大幅に削減しないでください。予算を削減することは、将来の成長の可能性を削減することを意味します。資金が尽きかけていて会社が倒産寸前でない限り、マーケティングのVPを信頼して適切な予算を見つけてもらう必要があります。
- AIはすべてのB2B分野で機能するわけではありませんが、お客様の予算の多くがAIに費やされています。AIがうまく機能しないと思っていても、AIを使用している競合他社と同等の機能を揃えるべきである。
- 成長は利益よりも2倍価値があります。利益を成長よりも優先してはいけません。T2D3はIPOに必要な条件です。まだ未上場スタートアップである場合、Rule of 40ではなくRule of 80を考えるべきです。
- 有名なSaaS企業出身だからといって、その人物を雇ってはいけません。人々はトップSaaS企業からの人材を雇いたがりますが、企業の段階や規模が異なります。その人物を100%確信してから雇う必要があります。
- 紹介は時間がかかり、ROIが見えにくいですが、それを増やす努力をするべきです。真のカスタマーサクセスが責任を持って、トップ顧客を満足させるようにしてください。
Gen AIのトレンド、資金調達環境、SaaSメトリクス指標
Emergence Capital「Beyond Benchmarks 2024」の一部を紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
Salesforce、Zoom、Veeva Systems、Doximity、Boxなど、100社以上のSaaS企業に、初期フェーズから投資を実行してきたEmergence Capitalから出された、最新のレポートをピックアップします。それぞれのフェーズでのベンチマークになる指標や、各職種の採用人数の目安などが整理されています。
- ARR成長率の鈍化
- 2023年においてSaaS企業が直面した課題は「成長率の鈍化」でした。顧客側でのライセンスの見直しや購入における精査などによって、従業員を減らしランウェイを伸ばすことに苦心しました。
- 資金調達環境
- 2021年の活況と比較し保守的な傾向が続くがGenAI関連は他のSaaS企業と比較し、1.5-2倍のプレミアムが付いています。
- 企業パフォーマンス指標
- 2023年のプロダクトリリースのうち、約60%がGenAIを活用したものでした。Gen AIへのパラダイムシフトは始まったばかりであり、どのスタートアップも実験的に開発をすすめているが、当面の課題は独自のデータやIPを保有しながらマネタイズを行うかである。
エンタープライズ
- Lumos - SaaSなどの従業員IDを統合管理するSaaS。シリーズBで$35Mを調達。投資家はScale Venture Partners、a16zなど(Yahoo! Finance)
- Hydrolix - ログデータの保存をより安く、速く可能にするデータレークSaaS。シリーズBで$35Mを調達。投資家はS3 Ventures、Nava Venturesなど(TechCrunch)
- WitnessAI - 安全なAI利用のためのデータコンプライアンスSaaS。シリーズAで$27.5Mを調達。投資家はGV、Ballistic Venturesなど(FinSMEs)
- Finout - イスラエル発のクラウドコスト見える化・最適化SaaS。シリーズBで$26.3Mを調達。投資家はRed Dot Capital、Team8など(CTECH)
- Verse - 企業がクリーンエネルギーの利用状況を計画・管理するSaaS。シリーズAで$20.5Mを調達。投資家はGV、Coatueなど(Yahoo! Finance)
- Osome - シンガポール発の経営管理・会計支援AI×SaaS。シリーズBエクステンションで$17Mを調達。投資家は非公開(Tech in Asia), a Singapore-based an online bookkeeping and accounting software provider, raised $17M in Series B funding (read here)
- Patronus AI - LLM利用のコンプライアンス遵守状況を把握するSaaS。シリーズAで$17Mを調達。投資家はNotable Capital、Lightspeed Venture Partnersなど(TechCrunch)
- Merit - UAE発のカスタマーエンゲージメントSaaS。プレシリーズBで$12Mを調達。投資家はAlistithmar Capital i-Capなど(The SaaS News)
AIファースト
- Scale AI - AI開発のためのデータラベリングサービス。シリーズFで$1Bを調達。投資家はAmazon、Metaなど(TechCrunch)
- DeepL - ドイツ発の翻訳AI。評価額$2Bで$300Mを調達。投資家はIndex Ventures、WiLなど(TechCrunch)
- H - フランス発の生成AIモデル開発スタートアップ。旧社名はHolistic AI。シードで$220Mを調達。投資家はAccel、エリック・シュミット氏、Amazonなど(TechCrunch)
- Suno - 音楽特化の生成AIプラットフォーム。$125Mを調達。投資家はLightspeed Venture Partners、Matrix Partnersなど(Silicon Republic)
- Atropos Health - 高品質の臨床エビデンス獲得の自動化を支援する生成AI。シリーズBで$33Mを調達。投資家はValtruis、Cencora Venturesなど(Yahoo! Finance)
- Coactive Systems - 画像や動画データを利用しやすくするAI。シリーズBで$30Mを調達。評価額は$200M。投資家はEmerson Collective、Bessemer Venture Partners、a16zなど(FinSMEs)
バーティカル
- Vitesse - イギリス発の保険会社向けオールインワンの財務・支払管理SaaS。シリーズCで$93Mを調達。投資家はKKR、Octopus Venturesなど(TechCrunch)
- OneStock - フランス発の小売業特化の受注フルフィルメント・可視化SaaS。グロースラウンドで$72Mを調達。投資家はSummit Partners(tech.eu)
- Gorgias - フランス発のEC事業者向けAIカスタマーエクスペリエンスSaaS。シリーズC2で$29Mを調達。投資家はShopifyなど(BusinessWire)
- Nory - アイルランド発のレストラン向けオペレーション管理SaaS。シリーズAで$16Mを調達。投資家はAccel、Cavalryなど(tech.eu)
サイバーセキュリティ
- SOCRadar - エンタープライズ向けにエンド・トゥ・エンドでのサイバー脅威検知や保護を支援するSaaS。シリーズBで$25.2Mを調達。投資家はPeakSpan Capital、Oxxなど(The SaaS News)
- Footprint - 銀行、フィンテック企業、マーケットプレイス企業向けKYC認証、不正アクセス検知SaaS。シリーズAで$13Mを調達。投資家はQED Investors, Index Venturesなど(Morningstar)
ソフトウェア開発
- Codesphere - ドイツ発の既存のクラウドソフトウェアを柔軟にカスタマイズできる開発者向けDIY SaaS。シリーズAで$18Mを調達。投資家はCreandum(tech.eu)
- IVRy - 対話型音声AI SaaS。シリーズCで30億円を調達。投資家はALL STAR SAAS FUND、フェムトグロース・スリー投資事業有限責任組合、SMBCベンチャーキャピタル、BRICKS FUND TOKYO、Boost Capital(PR Times)
- mov - AI店舗支援SaaS「口コミコム」および業界最大級のインバウンドビジネスメディア「訪日ラボ」を運営。シリーズBファーストクローズで総額約15億円を調達。投資家はCoral Capital、SMBCベンチャーキャピタル、千葉道場ファンド、KDDI Open Innovation Fund、NTTドコモベンチャーズ、楽天キャピタル、i-nest capital(PR Times)
- フォワード - AIを活用したキャリアコンサルタント業・ビジネススキルのオンライン教育事業のサービスを開発・提供。プレシリーズAで1億2,000万円を調達。投資家はJAFCO、三菱UFJキャピタル、Structured、個人投資家1名(PR Times)
- Buzzreach - 臨床試験に関わる業務効率化プラットフォームシステム事業等を展開。資金調達額は不明。投資家は住商ベンチャー・パートナーズ(PR Times)