SaaSのゼロからIPOへの道:2024年のメンドーザラインを再考する
Scale Venture Partners「The path from zero to IPO: Revisiting the Mendoza line in 2024」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
6年前にScale Venture Partnersは、「SaaSがIPOを目指す上で成長率はどうあるべきか?」を解き明かす上でのベンチマークとして、「Mendoza line(メンドーサライン)」という概念を提唱しました。当時のメンドーザラインは、ARR $100M(約150億円)でYoY+30%をIPOの基準とおいたときに、成長維持率(Growth persistence rate)は「前年度成長率×85%」になると仮定して、現状のARR規模で求められる成長率を割り出すというものでした。例えば、ARR $10MでYoY+77%であれば、6年後にはIPO水準に到達するということになります。
しかし、昨今のSaaSのIPOでは、IPOの基準が以前より上がってきていることが指摘されています。この記事では、IPO時点のARR $250M(約225億円)でYoY+25%を基準とした「新・Mendoza line」を提唱しています。この場合、ARR $10M時点でYoY +100%以上の成長が必要になることになります。グローバルでベンチャー資金を集め続けるには、この新メンドーザラインより上にとどまれるかどうかが、カギになります。グローバルで評価されるSaaSスタートアップを目指す経営者の方には、事業計画を作る上で参考になると思います。
米国の公開市場におけるソフトウェアとAIの現状
Coature「Coatue View on the State of the Markets」の一部を紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
米国の上場・未上場の両方で活躍する著名な投資家であるCoatueが、現在の市場状況についてのプレゼンテーションを公開しました。以下が主なポイントです。
- 過去1年間でNASDAQが30%上昇し、市場は安定しはじめている
- NVIDIAの価値は過去12ヶ月で数倍に増加したが、P/E比率は変わらず妥当な水準にある
- 市場が下落すると、最も安全で大規模な株が早く上昇する
- 多くのイノベーションは、AIのコア・インフラにあり、次の段階ではより多くのAIソフトウェアアプリケーションや、物理世界で機能するAIが見られるようになるだろう
- 公開市場では、特にP/E倍率を見ると、今回のAIバブルはインターネットバブルのようではない。弾けるような水準ではない
- ソフトウェア企業は過去1年間で成長率が低下している
- AIが注目を集めているが、ソフトウェアは復活する。ただし、遅れているだけだ。クラウドやアプリケーション層は最終的に新しい波の恩恵を受けると予想される
- より多くのパッシブインデックス投資家/ETFが大企業を好む一方で、アクティブ投資家の減少が構造的にスタートアップの上場を遅らせ、規模を大きくしている
- 公開企業は非常に妥当な倍率で取引されており、高品質であるため、ユニコーンスタートアップが最後のラウンドの評価額に到達するのが難しくなっている。現在、25年分のユニコーンが上場を待っている状況だ
- 同時に、PEとM&Aがこのエコシステムにおいてより良いパートナーとなり、良い出口戦略になりつつある
従量課金体系の3つの区分
Bessemer Venture Partners「Linear, volumetric, or bundling: Which type of usage-based pricing is right for you?」の一部を紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
利用従量課金の設計はSaaS全体に普及しトレンドになっています。特にAIの普及は、ライセンス課金モデルからの転換を促進しています。このモデルを採用している企業は、2019年には30%、2021年に41%、そして2023年は79%に到達すると予測されています。利用従量課金は従来の課金体系と異なり、「顧客が成功すればするほど自社の売上も高まる」という矛盾が少ないWin-WInの課金モデルであることが利点ですが、すべてのビジネスモデルに当てはまるわけではなく、リスクも存在します。この記事では、利用従量課金の種類別ごと利点とリスクをそれぞれ解説をされていて、プライシングの設計を見直されている方には要注目の内容になっています。
- Linear usage-based model(リニアモデル)
- プライシングロジックの例
- API calls (例.Courier)
- Active user (例. Slack)
- Document / per case (例.CS Disco)
- メリット
- 各ユニットの粗利益を維持できる
- リニアモデルは、ネットワーク効果がグループの使用に影響を与える生産性ツールやコラボレーションツールによく見られる
- 多くの場合、フリーミアムやPLGの成長ビジネスでよく活用されている
- デメリット
- 売上の季節変動性でボラティリティが発生すること。最低利用枠を設定しているものが多いが、投資家からの予測可能なARRよりも低く評価されうる
- 例えば、アドテクノロジーの分野では、しばしば季節的な利用状況に左右され、四半期ごとに一貫性のない「塊」のような収益傾向が生じる
- Bainの調査によると、サブスクリプションモデルを好むユーザーの90%以上が、予測不可能なことが使用ベース価格の主な欠点であると感じている
- 最ツールをより完全に使用する意欲を失わせる可能性がある。例えば、アクティブ・ユーザーを増やすごとにコストがかかると、顧客は従業員にアカウントを割り当てるのを惜しむようになり、各アカウントから得られる収益が制限されることになる
- プライシングロジックの例
- Volumetric usage-based model(使用量ベースの量的課金モデル)
使用量ベースの量的課金モデルでは、顧客は製品の予想使用量に基づいた割当量を購入する。そして、顧客が使用量を超過すると、料金設定が変更される- プライシングロジック
- 前述のリニアなプライシングとの違いでいうと階段上になっているのが特徴。例えば、携帯電話のデータ通信プラン。毎月の使用量が決まっており、それを超えると超過料金を請求される
- 超えた場合はボリュームに応じて課金され、通常の値段より割引になることが多い
- メリット
- 企業も顧客も予算をより正確に予測することができる
- 使用量を増やすためのインセンティブとして「割引」を活用でき、利用料増加への意欲減退を抑制することができる
- 急激な利用料拡大によりホスティングなどの追加費用がかかる場合は、事前警告でSaaS企業のキャッシュを保護することができる
- デメリット
- 顧客が十分に使用できない可能性のあるものに対して前払いをすることを嫌がる可能性があることです。ジムの会員権のように、支払ったものを十分に使ったとしても、ほとんど使わなかったとしても、同じ料金が発生するのと同じように
- 透明性について。特に、価格設定モデルが営業担当者個人の裁量に任されている場合、割引曲線について顧客を混乱させ、不満の原因となる可能性がある
- プライシングロジック
- Bundling usage-based model(バンドルモデル)
バンドルモデルでは、含まれる機能が多いほど、単位使用量あたりの価格が高くなるプライシングを採用している- メリット
- 基本的な購買層に対してより低い参入価格を提供し、カスタマーサクセスやプロダクトの活用により成長戦略を描きやすい
- 価値の低い機能であっても、開発費をかけたからには顧客に使ってもらいたい場合、この機能をバンドルすることは素晴らしい選択肢になりうる
- 小規模の顧客が製品の魅力に取りつかれるようにするための「ランディング・オファー」を生み出しやすい
- デメリット
- 「無料」であっても、マネタイズのための適切な制限を設定することが不可欠だが難しい
- 基本的な機能を制限することは、顧客がソリューションを試してみる意欲を失わせる可能性がある
- メリット
バーティカル
- Helsing - 防衛システムからの情報を処理し、ドローンやジェット戦闘機の戦闘能力を高め、戦場での判断を支援する防衛セクター特化AI。シリーズCで€450Mを調達。評価額は€5B。投資家はAccel、Lightspeed Venture Partnersなど(TechCrunch)
- Skild AI - ロボットの頭脳となるAIモデル開発スタートアップ。シリーズAで$300Mを調達。評価額は$1.5B。投資家はLightspeed Venture Partners、Coatue、Sequoia Capital、アマゾン創業者ジェフ・ベゾスなど(PYMNTS)
- Harvey - 裁判記録から重要な情報を自動的に抽出することができる「Assist」など、弁護士向けのAIツールを複数提供。評価額$1.5Bで$100Mの調達活動を実施中。アルファベット社のGVが本ラウンドをリードする見込み(Silicon Angle)
- Hayden AI - スマートシティ実現のための交通特化ビジョンAIプラットフォーム。シリーズCで$90Mを調達。投資家はRise Fund、Drawdown Fundなど(Yahoo!Finance)
- HERO Software - 配管工事、太陽光発電の設置などの中小の職人向けSaaS。シリーズBで€40Mを調達。投資家はEight Roads Ventures、Cusp Capitalなど(tech.eu)
- Canoe Intelligence - オルタナティブ投資家向けの投資文書とデータ管理・ワークフロー自動化を支援するFintech x AI。シリーズCで$36Mを調達。投資家はGoldman Sachs、F-Prime Capitalなど(Yahoo! Finance)
- Gymdesk - フィットネス・ウェルネス業界特化メンバー管理SaaS。$32Mを調達。投資家はFive Elms Capital(FinSMEs)
- Buildots - イスラエル発の施工管理AI。$15Mを調達。投資家はIntel Capital、OG Tech Partnersなど(Yahoo!Finance)
ヘルスケア
- Regard - 患者の健康データを分析することで、医師が時間を節約し、診断の精度を高めるAI。シリーズBで$61Mを調達。投資家はOak HC/FT、TenOneTenなど(TechCrunch)
- Courier Health - ライフサイエンスメーカー特化CRM。シリーズAで$16.5Mを調達。投資家はNorwest Venture Partners、Work-Benchなど(Mobi Health News)
サイバーセキュリティ
- Sola Security -Palo Alto Networksに$300Mで事業売却したガイ・フレッチャー氏が設立したサイバーセキュリティSaaS。シードで$28Mを調達。投資家はS Capital、元セコイア・キャピタルのチェアマンMichael Moritzなど(CTech)
- Command Zero - 複雑なセキュリティ環境のために設計された、ユーザー主導でのサイバー調査を支援するSaaS。シードで$21Mを調達。投資家はAndreessen Horowitz、Insight Partnersなど(The SaaS News)
データ統合・管理
- Volumez - クラウド対応データ・インフラSaaS。シリーズAで$40Mを調達。投資家はKoch Disruptive Technologies、Viola Venturesなど(CTech)
- Soda - データ品質管理AI。$14Mを調達。投資家はSingular、Point Nineなど(FinSMEs)
エンタープライズ
- Rohirrim - RFP(Request for Proposal)処理プロセスを加速化するAI。Bessemer Venture PartnersとIBM Venturesから資金調達を実施(ET CIO)
その他
- Captions - 動画作成・編集特化の生成AIプラットフォーム。シリーズCで$60Mを調達。評価額は$500M。投資家はAndreessen Horowitz、Sequoia Capital、Kleiner Perkinsなど(BusinessWire)
- Fireworks AI - コンパウンドAIシステムを構築するための推論生成AI。シリーズBで$52Mを調達。評価額は$552M。投資家はSequoia Capital、NVIDIAなど(FinSMEs)