SaaSの終焉は本当か?-SaaSを社内開発するか?それとも外部調達するか?
OnlyCFO's Newsletter「Build vs Buy | The End of SaaS?」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
AIの進化によりソフトウェア開発が日増しに誰でもカンタンできるようになってきています。大手フィンテック企業Klarna CEOは、先日のカンファレンスコールで「SalesforceとWorkdayを切り離し、AIを活用して内製化する」といった発言で波紋を呼んでいます。SaaSはAIに喰われるのか?それともAIと共に進化、ないしは多くの企業で利用され続けるのか?この記事では、今後5-10年起こるであろう、このテクノロジーシフトについて、意見を述べています。
- Klarnaの発表に対する2つの極端な意見
前述のKlarna CEOの発言を受けて、SaaS企業の未来について2つの極端な意見が出ました。1つ目は、「SaaS終焉論」。これはSaaS企業の売上がゼロになる、Salesforceを置き換えられるならすべてのSaaSは内製できるというものだ。2つ目は、「Klarna・SaaS企業の終焉説に対する懐疑論」。しかしこの意見は、ソフトウェア産業に従事している人達のバイアスのかかった意見の可能性がある。この記事のスタンスは、その中間だ。Klarnaが言う程良いものでもない一方で、このような事例は今後1-2年で多く見られるようになるだろう。 - Klarnaの主張に対する疑念
Klarnaがこの2つのSaaSを完全に切り離せるとした場合、これはSaaS企業にとって破壊的になりうる。なぜならSaaSの中でもSalesforce、Workdayの2つは非常に強いMoatを持っているからだ。ただKlarnaの発表には以下のような疑問が残る。AIは効率化を促進するが、この2つのソフトウェアを完全に置き換えることは非常に難しいだろう。- Klarnaは本当にAIでWorkdayやSalesforceが行っていることを全て再現できるのだろうか?
- システムの統合はどうなるのか?
- Workdayが提供している給与コンプライアンスはどうなるのか?
- 適切なCRMなしでどうやって上場できるのか?
- このすべてを社内で構築する価値が本当にあるのだろうか? 社内のエンジニアの時間を奪うだけではないか? など
- KlarnaがAIで実現したこと
Klarnaは以前からAIの活用を大きく主張してきた。以下はその一部である。たしかにKlarnaは他社よりもAIによる効率化を積極的に推進してきた。ただIPOを控えたKlarnaがAI発表による無料マーケティング、AIリーダーとして見られることが彼らの評価にとって良いことかもしれない。- AIでカスタマーサポートを50%削減
- KlarnaのAIアシスタントは従業員700人分の仕事をこなしている
- KlarnaはAIの導入により従業員を3,800人から2,000人に削減する計画
- Klarnaの主張はIPOに向けたマーケティングなのか?
KlarnaはAIにより、確かに節約を実現しているだろう。特にSalesforceやWorkdayのように複雑なプロセスにも対応できるSaaSは、社内プロセスがシンプルであれば単純化でき、SaaS支出を節約できる。ただ、Klarnaの主張を額面通り受け取るのは注意が必要そうだ。- KlarnaはAIのリーダーとして見られたい
- Klarnaは、AIの話題から無料でマーケティングできることを期待している
- KlarnaはIPO前に注目を集めたい。AIのリーダーであることは高い評価につながるからである
- Klarnaは2021年に過剰な採用を行い、人員削減の理由を正当化するためにAIの話を利用している可能性がある
- ソフトウェアを社内構築するか?外部調達するか?
AIは確かに社内構築の時間とコストを一気に下げた。ただこれはSaaS企業がソフトウェアの構築だけを提供していると仮定した場合の話だ。作るか?買うか?を判断する上では、以下のような点を考える必要がある。- ソフトウェアのメンテナンス
- ソフトウェアのサポート
- 事業として非コア業務に取り組むことで生まれる機会損失
- 思想的なリーダーシップと何を構築すべきかのアイディア
- ベンダーが持つデータというMoat
- 時間と共に蓄積する技術負債と人的コスト
- 企業側がソフトウェアを低コストで素早く構築できるからといって、構築すべきとは限らない。今後このようなことは起こるだろうが、一夜にして実現するものではないことは確かだ。 その間、賢明なSaaS企業は新しい環境に適応していくだろう。
AIの活用で上手くいっていること
SaastrのYoutube「LIVE from SaaStr Annual 2024- Legends Stage A Stage - Thursday」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
高成長中のリーガルSaaS企業IroncladのCEOとAndreessen Horowitzのパートナーが最近SaaStrで、AIで上手くいっている事と上手くいっていないことについて講演しました。以下が主な要点です。
- AIを使ったオンボーディング
新規顧客のオンボーディングにAIを活用する事例が増えています。Ironcladはオンボーディングの際にお顧客が使用する契約書を取り込み、その情報をもとに設定の好みを理解します。他の企業では、ユーザーがプロダクトをより積極的に使用できるように様々な利用シーンのテンプレートを生成するためにAIを使用しています。 - マニュアルなプロセスの自動化
要約と文字起こしが有用なユースケースとなっています。Dropbox AIには保存されているドキュメント要約や検索機能が充実しています。また、病院向けのSaaS企業で、通話の文字起こしとフォームへの記入を行うユースケースも存在します。 - 独自のAIを構築する代わりにLLMを使用
Ironcladにとっては、独自のAIを構築するのではなく、GPT-4のようなものを使用し、ファインチューニングとRAGを行うアプローチが良い方法となっています。 - バーティカルデータの活用
独自のデータを使用することで、精度を向上させ、ユーザー体験を向上させることができました。 - トップからのリーダーシップ
AIプロダクトの構築は、より迅速に物事を進めるために創業者が主導すべきです。
エンタープライズ
- Glean - 社内データの選別、情報の検索、迅速な回答を行なう会話型AI。シリーズEで$260M超を調達。評価額は$4.6B。投資家はAltimeter、DST Globalなど(CNBC)
- SafetyCulture - 職場の安全性管理SaaS。£85Mを調達。評価額は£1.3Bでユニコーンの仲間入り。投資家はAirtree Ventures、Blackbirdなど(TFN)
- MirrorWeb - ウェブ、モバイル、Eメール、ソーシャルメディアなど、さまざまなチャネルにおける企業コミュニケーションの監視・コンプライアンス管理を支援するSaaS。グロースラウンドで$63Mを調達。投資家はMainsail Partners(Fintech Global)
- Finally - 中小企業向けに特化した会計管理AI。シリーズBで$50Mを調達。投資家はPeakSpan Capital。加えてEnricaより融資枠$150Mも獲得(TechCrunch)
- Smartcat - エンタープライズ向けの自動翻訳AI。シリーズCで$43Mを調達。投資家はLeft Lane Capital(TechCrunch)
- Fiddler - エンタープライズ向けAI監視SaaS。シリーズBで$32Mを調達。投資家はInsight Partners、Lightspeed Venture Partnersなど(PR Newswire)
- Bounti - 営業、マーケティング、カスタマーサクセスチーム向けAIエージェント。シードで$16Mを調達。投資家はGV、Floodgateなど(PRMNTS)
- Datricks - AIを活用したコンプライアンスとリスク管理SaaS。シリーズAで$15Mを調達。投資家はTeam8、SAPなど(CTech)
- Landbase - 営業・マーケティングチームの市場開拓を最適化するために設計されたエージェントAI。シードで$12.5Mを調達。投資家は8VC、First Minute Capitalなど(SaaS News)
バーティカル
- Qualifyze - 製薬業界特化のサプライヤーリスク管理SaaS。シリーズBで$54Mを調達。投資家はInsight Partners、HV Capitalなど(TechCrunch)
- Mangomint - スパ・サロン特化SaaS。シリーズBで$35Mを調達。投資家はAltos Ventures、OpenView Venture Partnersなど(PR Newswire)
- Polly - 住宅ローン事業者向けの住宅ローン価格決定支援と、ワークフローの自動化により利益率最大化を支援するSaaS。シリーズで$25Mを調達。投資家は8VC、Menlo Venturesなど(Fintech Global)
- Connectly - 企業が様々なメッセージング・プラットフォーム上で顧客に製品販売を自動化する、会話型コマースAI。シリーズBで$20Mを調達。投資家はアリババ、Unusual Venturesなど(SaaS News)
- Sedric - 金融機関特化のコンプライアンス対応SaaS。シリーズAで$18.5Mを調達。投資家はFoundation Capital、Amex Venturesなど(CTech)
- Retraced - ファッションブランド特化のサステナビリティSaaS。シリーズAで€15Mを調達。投資家はPartech、Alstin Capitalなど(Tech.eu)
ソフトウェア開発者支援
- Mintlify - ソフトウェアドキュメント作成・管理のための次世代SaaS。シリーズAで$18.5Mを調達。投資家はAndreessen Horowitz、Bain Capital Venturesなど(TechCrunch)
- StackGen - インフラとアプリケーションコードを共通のプログラミングモデルと共通のプログラミング言語に統合する開発者向けSaaS。シードで$12.3Mを調達。投資家はThomvest Ventures、WestWave Capitalなど(PR Newswire)
- Pin AI - ユーザーが自分のデバイス上で直接AIモデルをホストできる、オープンソースのAIインフラ。プレシードで$10Mを調達。投資家はAndreessen Horowitz、Hack VCなど(Silicon Angle)
フィンテック
- Form3 - 金融機関が複数の決済スキームに接続することを可能にするFintech×SaaS。シリーズCエクステンションで$50Mを調達。投資家はBritish Patient Capital、Visaなど(Tech.eu)
- Paymob - エジプト発の決済インフラFintech×SaaS。シリーズBエクステンションで$22Mを調達。投資家はPaypal Ventures、Endeavor Catalystなど(Fintech Futures)
サイバーセキュリティ
- Aembit - 人間以外のアイデンティティとアクセス管理(IAM)SaaS。シリーズAで$25Mを調達。投資家はAcrew Capital、CrowdStrikeのFalcon Fundなど(Fintech Global)
- P0 Security - クラウドIDセキュリティのパイオニア的なSaaS。シリーズAで$15Mを調達。投資家はSYN Ventures、Zscalerなど(Fintech Global)
ヘルスケア
- Pieces Technologies - 入院患者ケアチームを支援する臨床特化の生成AI。グロースラウンドで$25Mを調達。投資家はChildren's Health、Concord Health Partnersなど(PR Newswire)
リーガルテック
- Jus Mundo - グローバルな法律専門家のためのリサーチ支援・生産性向上を支援するAI。シリーズBで€20Mを調達。投資家はActon Capital 、True Global Venturesなど(PR Web)
その他
- Nirvana - トラック運送業者向けにIoTとデータ分析によるデジタル保険と安全性支援AIを提供。シリーズAで$24.2Mを調達。投資家はNorthzone、Lightspeed Venture Partnersなど(PR Newswire)
- Every - テックスタートアップ創業者向けに、銀行、カード、請求書決済、企業財務、税務、人事、給与、福利厚生を1つのプラットフォームに統合したオールインワンSaaS。シリーズAで$22.5Mを調達。投資家はRedpoint Ventures、Y Combinatorなど(FinSMEs)
- FastLabel - データセントリックなAI開発に必要なデータ収集・生成からアノテーション、モデル開発、MLOps構築までの全工程を支援。シリーズBエクステンションでパナソニックくらしビジョナリーファンドから資金調達。シリーズB全体の合計調達額が12.5億円(PRTimes)
- ChillStack - AIを用いた高精度な不正検知サービスやサイバーセキュリティサービスを開発・提供。グローバル・ブレインが運営するフコク CVC ファンドなど4社から資金調達ならびに融資を実施。累計調達額は約3.5億円(PRTimes)
- CONOC - 建設業界向けに全ての業務を包括的に一元管理できるプラットフォームの構築を目指すスタートアップ。プレシリーズAエクステンションで約2億3000万円を調達。投資家はウィルグループ、GAインベストメント、ブルーテックなど(PRTimes)
ALL STAR SAAS FUND
9/17/2024