■「今週のSaaSxAIニュース」ピックアップ!

AIはSaaSを破壊するのではなく、SaaSへの需要を高めている
Battery Condensing the Cloud「AI Is Growing Our Appetite for SaaS, Not Destroying It」の一部を日本語で紹介したものです。全容はリンク先をご覧ください。
マイクロソフトのSatya Nadella氏に代表されるように、「AIエージェントがSaaSモデルを完全に覆す可能性がある」と指摘する著名なテクノロジー業界のリーダーの論調があります。このBattery Venturesの記事では、この「AIエージェントがSaaSビジネスを終わらせるのか?」という問いに対する見解を述べています。
AIがSaaSを終わらせる可能性がある理由
- 顧客側での完全カスタマイズの実現
AIによって各企業の特定ニーズに合わせた完全なカスタマイズソフトウェアの開発が顧客側で可能になる。 - 会話型インターフェースの台頭
SaaSの複雑なソフトウェア操作より直感的な会話型インターフェースが好まれるため、SaaSのGUIの価値は低下する。 - 開発コストの激減
AIによるコーディング自動化で開発コストが下がり、SaaS採用の経済性が変化することで、従来のSaaSの長期的な価値提案が難しくなる。
Battery Venturesが今後もSaaSが存続すると考える理由
- UI設計、データモデル、独自データの価値
無限の選択肢があっても、専門家がキュレーションした体験には価値がある。顧客は、SaaSの反復的なユーザーフィードバックと洗練されたキュレーションによって形作られたインターフェイスを買っている。また、長年にわたって蓄積された独自のデータセットは、顧客に豊かな体験と優れた予測能力を提供する。 - すべての作業が会話型インターフェースに適しているわけではない
複雑なワークフローやデータが豊富な作業には、従来型のグラフィカルインターフェースが適している。 - カスタマーサービスと専門知識の提供
SaaS企業は単なるソフトウェアではなく、専門知識とコミュニティも提供している。顧客は専門家のガイダンスにも対価を払っている。 - 保守、更新、継続的コスト管理
AIであろうとなかろうと、ソフトウェアは継続的なアップデート、セキュリティパッチや規制への対応などのメンテナンスが必要になる。SaaS企業はセキュリティパッチや規制変更への対応などの複雑な作業を担当しており、問題発生時に責任を負う対象として価値がある。 - 業界標準化のメリット
標準的なツールの導入は新入社員の生産性向上につながる。給与計算やITヘルプデスクなど差別化要素の低い機能では標準化が利点になる。
AIがSaaS企業にとって絶好の機会
- AIは脅威ではなく成長機会
AIはSaaSの終焉ではなく、成長の機会を提供してくれている。コードのコスト低下により、ソフトウェア創造は爆発的に増加している。 - 価格戦略の見直し
一方でAIがもたらす価格圧力は現実になっており、シート(ID)単位の従来型の価格モデルから、消費ベースまたは成果ベースの価格設定へのシフトが予想される。 - SaaS企業の取るべき戦略
SaaSのCEOやリーダーにとって、AIを積極的に採用し、ドメインの専門知識、独自のデータ、エコシステム、キュレーションされたユーザーエクスペリエンスなど、独自の強みを倍増させるという使命は明確です。
SaaS・AI企業がIPOを目指す上で重要な5つの条件と重要な指標
INSIGHT PARTNERS「The metrics that matter for a successful exit」の一部を日本語で紹介したものです。全容はリンク先をご覧ください。
このInsight Partnersの記事は、エグジット戦略は単なるタイミングの問題ではなく、初日から明確な戦略的アプローチが必要だということを詳細に解説しています。成功する企業は、成長の軌跡、回復力、そして将来性を明確に伝える指標に焦点を当て、潜在的な買収企業や公開市場の投資家にとって魅力的な機会として自社を位置づけています。ここでは日本のエグジットとして主流となっているIPOを中心に解説します。
IPOを目指す企業に必要な5つの条件
- 大きな市場機会に取り組む
投資家は長年にわたる絶え間ない成長を期待しているので、地理的な拡大であれ、プロダクトの拡大であれ、追撃できる市場があることを確認したい。 - 強力な競争優位性
Moatは、「顧客や投資家から求められ続けるビジネスであること」を投資家に証明できるほど、幅広く防御可能なものでなくてはなりません。 - 安定した高成長 - 規模が大きい
投資家は、一般的にARRが$100M以上で、数年にわたって40%以上の成長実績があることを求めます。 上位のSaaSは通常、NRR 120%を超えています。 - 利益創出への明確な道
ほとんどのハイテク企業は、規模を拡大しながら高成長を遂げる戦略を採用しており、顧客獲得に多額の投資を必要とすることがよくあります。 ユニットエコノミクスに焦点を当てることで、キャッシュの使い方が長期的に利益を生み出す効率的な成長を促していることを示すことができます。 - 卓越したチーム
IPOは資金調達のイベントですが、同時にマーケティングの一大イベントでもあります。 最も成功した永続的な公開企業は、継続的に自社のストーリーを明確にします。
耐久性のあるビジネスであることを証明する指標
- 成長速度はどの程度維持できているか
顧客維持率が高いほど、長期的な価値が大きくなります。特に小さな市場で事業を展開する企業にとっては重要なので、解約率の低さは重要です。 - ビジネス効率はどの程度良いか
耐久性の第2の要素は効率性です。考慮すべき重要指標には以下が挙げられます。- 売上総利益率: 粗利率ともいいます。多くのSaaS企業では、業務にAIを追加するコストが高いため、これが縮小しています。
- 設備投資(CapEx): 長期的な資金の使い方は? AIエージェントやその他の高価なサービスを導入しない限り、ソフトウェアはそれほど設備投資を必要としない傾向にあります。
- ARRに対する自己資本比率:キャッシュをARRにどれだけ転換できるか。
- Payback period:ブッキングをキャッシュに変換するのにかかる期間。
- 市場規模:新プロダクト、市場、買収など、時間をかけてどのように市場を拡大できるか。

Box CEOが語るAIエージェントの実践例・課題・今後の展望
The MAD Podcast with Matt Turck「Box’s Big AI Leap: Aaron Levie on Agents & the Future of Workd Building the Future w/ Travis Kalanick | EP #164」の一部を日本語で紹介したものです。全容はリンク先をご覧ください。
Matt Turck氏のPodcastインタビューで、BoxのCEO Aaron Levie氏が、同社のAIへの取り組みやエンタープライズAIの導入状況、エージェントアーキテクチャ等について語りました。その中から、Boxがどのようにコンテンツプラットフォーム上でAI機能を構築しているのか、そしてエージェント実装における実際の課題、AI文化を育む取り組みなど、主なポイントをご紹介いたします。
- 活用されていない企業データはAIの宝の山
Levie氏によれば、企業データの約95%はほとんど活用されていません。原因は、データ活用にかかるコストや時間、専門知識不足によるもの。AIはその壁を取り払い、契約書一式の分析や営業資料からのパターン抽出など行い、従来は不可能だった深いリサーチなど、新しい価値を生み出します。"単なる効率化"ではなく「できなかったことができるようになる」ことこそが、真のインパクトだと強調しています。 - ソフトウェア連携の主流はAgent to Agentへ
今後2年以内に、ほとんどのエンタープライズソフトウェアがエージェントを介して相互通信できるようになる、とLevie氏は予測します。Box内のエージェントがSalesforceなど他システムのエージェントと対話し、ユーザーに代わって知識や機能にアクセスするような形で高度なワークフローが実現します。AnthropicのMCPのような標準も登場していますが、多様な方式が併存し、開発者はAPI統合かエージェント統合かの選択を迫られるでしょう。 - AIエージェント実装に立ちはだかる技術的ハードル
Boxが直面した課題は多岐にわたります。複数エージェントを連携させた際の誤差の累積、検索品質のばらつき、機密情報が誤って共有されるガバナンス問題、長文処理時の精度低下などです。Levie氏は、ステップ数の少ないタスク中心の課題設定や、人が結果を検証しやすいワークフロー設計を推奨しています。 - 社内全体でAI文化を醸成するデモ&コミュニケーション
Boxでは週次の全社会議で社員がAI活用事例を共有し、全員が積極的にAIを使う文化を作っています。AI活用の推進にはエキスパートの役割が重要となり、サポート部門でもAI機能への理解は必須、エンジニアはAIインフラ構築に貢献します。こうしたカルチャーの浸透には約18ヶ月を要しました。テック企業であっても相応のチェンジマネジメントが必要だと示唆しています。 - AIマネタイズはプレミアム価格より市場拡大が鍵
Boxは、AIとエージェントを成長ドライバーに据えていますが、「AIを追加したからといって容易に価格を引き上げられるわけではない」とLevie氏は警鐘を鳴らします。真の成長機会は、新しい市場やユースケースを開拓してTAMを広げることにあります。既存機能にAIを付けて値上げするAIプレミアムには限界があるという見解です。

不況期でも生き残るための指針
OnlyCFO「Guide to Survive a Recession」の一部を日本語で紹介したものです。全容はリンク先をご覧ください。
トランプ関税による影響がどこまで景気に影響を与えるかは依然不透明ですが、景気後退を予測する確率が高まっている状況のなか、企業に求められるのは不況に対処するプランニングです。今回は、OnlyCFOの記事より、景気後退期にスタートアップ企業が実行すべき3つのポイントを紹介します。
- セールスの先行指標を把握する
営業人員を増やしすぎることがないよう、セールスの先行指標を十分確認する。先行指標が弱まっているなら、当初の計画通りに採用を続けるべきではありません。多すぎる営業担当者が少ない案件を追いかけることになり、最終的に優秀な担当者が離れていくことにつながります。 - LTVよりもCAC Paybackを重視
AIと景気後退は、解約率の不確実性を高めています。その結果、LTVのような解約率を織り込んだ指標の意味は大幅に低下しています。ユニットエコノミクスはCAC Paybackで判断し、セールスのリスクを軽減するべきです。 - AI導入の加速
不況はAI導入を加速させ、機能に実装し単価を高めていくこととコスト削減のための社内でのAI活用を推進するという2つの方向性が存在します。

スタートアップがプレシード資金を最大限に活用し、成長を加速させる方法
Crunchbase News「How To Leverage Your Pre-Seed Funding For Rapid And Successful Growth」の一部を日本語で紹介したものです。全容はリンク先をご覧ください。
プレシード資金はスタートアップにとって重要なステップですが、その使い方次第で将来が左右されます。以下は、資金を効果的に活用するためのポイントです。
- 資金の目的を明確にする
プレシード資金は市場調査や仮説の検証、MVP (Minimum Viable Product:実用最小限の製品)の開発に活用します。この段階では、市場のニーズを見極め、持続可能な収益モデルを確立することが重要です。 - 売上を重視する
資金の使い道で最も優先すべきなのは、収益の実証です。顧客へのアンケートやインタビューなど低コストで市場モデルを検証し、収益性を明らかにします。 - 効率的な製品開発
基本的なMVPの開発に集中し、ユーザーからのフィードバックを活かして改善を重ねます。無駄な研究開発費を抑えることが大切です。 - 柔軟な計画を立てる
ベスト、ベース、ワーストシナリオを準備し、変化に対応できる柔軟性を確保します。どのシナリオにも具体的な行動計画を含めることが鍵です。 - 資金管理で注意すべきポイント
予算の使い方を誤ると、スタートアップが深刻なダメージを受ける可能性があります。特に以下の3点に注意してください。- 高額な人材採用を控える
- オフィス移転は慎重に行う
- マーケティング予算は段階的に増やす
- 次の資金調達に向けた準備を進める
プレシード段階から次の資金調達ラウンドを見据えて、投資家とのネットワーク構築やピッチ資料の改善、成長目標の設定に取り組みます。
プレシード資金は、スタートアップが市場を深く理解し、顧客と積極的に対話し、アイデアを実現するための貴重な機会です。売上を重視し、計画的に資金を管理しながら、成功への基盤を築いていきましょう。
■ 資金調達ニュース
[海外]
バーティカル
- Auradine - ビットコインマイニングとAIデータセンター向けコンピューティングソリューション。シリーズCで$153Mを調達。投資家はStepStone Group、Maverick Siliconなど(Yahoo! Finance)
- Crux - クリーンエネルギー、鉱物、製造プロジェクトの資本市場からの資金調達を支援するSaaS。シリーズBで$50Mを調達。投資家はLowercarbon Capital、Andreessen Horowitzなど(FinSMEs)
- IUNU - AIと画像認識で温室効率を監視するAI。S2G Investments、Farm Credit Canadaなどから$20Mを調達(GeekWire)
- ConductorAI - 政府機関の承認処理を変革し、数週間かかるプロセスを数分に短縮するAI。シリーズAで$15Mを調達。投資家はLux Capital、Altman Capitalなど(BusinessWire)
- Capsule - ブランド企業のメディアライブラリにある映像からクリップの順序、タイトルやグラフィックを追加する場所の提案まで行う動画エディターAI。シリーズAで$12Mを調達。投資家はInnovation Endeavors、Hubspot Venturesなど(TechCrunch)
エンタープライズ
- Hammerspace - Metaや米国防総省も利用する、AIモデル構築のためのデータ処理を最小限の労力で実行するデータ処理SaaS。Altimeter Capital、ARK Investなどから$100Mを調達(TechCrunch)
- Doss - 在庫管理、受注処理、会計、生産を統合管理できる適応型統合基幹業務(ERP)ソリューション。シリーズAで$18Mを調達。投資家はTheory Venturesなど(Yahoo! Finance)
- Toku - 企業のERPと銀行や決済レールを接続し、決済のオーケストレーションと自動回収を可能にする売掛債権管理SaaS。シリーズAで$48Mを調達。投資家はOak HC/FT、Gradient Venturesなど(Yahoo! Finance)
- Blue Onion - 正確な財務データを提供しAIによる自動化を支えるCFO向け財務データ基盤SaaS。シリーズAで$10Mを調達。投資家はViola FinTech、YCなど(Yahoo! Finance)
フィンテック
- iCreditWorks - 組み込み型POS融資ソリューションを迅速に展開できる、高度に設定可能でモジュール化されたPlatform-as-a-Service(PaaS)ソリューション。Comvest Partners、Baringsなどから$60Mを調達(Yahoo! Finance)
- Onfly - 中南米最大の出張と経費管理をアプリのようなシームレスで直感的な体験で提供するFintech×SaaS。シリーズBで$40Mを調達。投資家はTidemark、Endeavor Catalystなど(Yahoo! Finance)
- BKN301 - イタリア発のBanking as a Serviceオーケストレーター・プラットフォーム。シリーズBで€21.5Mを調達。投資家はCDP VC、Azimut Libera Impresaなど(Fintech Global)
ヘルスケア
- hellocare - バーチャル看護、患者エンゲージメント、病院での在宅サービスなどバーチャル・ケアAI。HealthQuest Capital、Bon Secours Mercy Healthなどから$47Mを調達(Yahoo! Finance)
- Assort Health - 医療機関の年間数百万件の電話を管理するヘルスケア特化音声AIエージェント。シリーズAで$22Mを調達。投資家はFirst Round Capital、Chemistryなど(Yahoo! Finance)
サイバーセキュリティ
- Exaforce - 企業が人手による SOC 作業を 10 分の 1 に削減し、セキュリティの成果を劇的に向上させるAIエージェント。シリーズAで$75Mを調達。投資家はKhosla Ventures、Mayfieldなど(Yahoo! Finance)
- Virtue AI - AIの安全性に特化した統合AIセキュリティおよびコンプライアンス・プラットフォーム。シード・シリーズA合計で$30Mを調達。投資家はWalden Catalyst Ventures、Lightspeed Venture Partnersなど(Yahoo! Finance)
ハードウェア×AI
- Revel - 製造業、自動車、医療機器、産業オートメーション分野向けに重要なハードウェアを制御するAI。シード・シリーズA合計で$30Mを調達。投資家はThrive Capital、Felicis Venturesなど(Yahoo! Finance)
- Scout AI - 防衛ロボット工学のためのAGI。シードで$15Mを調達。投資家はAlign Ventures、Booz Allen Venturesなど(Yahoo! Finance)
その他
- Safe Superintelligence - OpenAI共同創業者の元チーフサイエンティストが設立した、安全で人の価値観に沿ったスーパーインテリジェンスAI。評価額$32Bで$2Bを調達。投資家はLightspeed Venture Partners、Andreessen Horowitz、Alphabetなど(TechCrunch)
- Goodfire - AIモデル内部のニューロンを解読し、その内部思考に直接、プログラム可能なアクセスを提供する「AIの思考解釈を行なう」AI。Menlo Ventures、Anthropic、Lightspeedなどから$50Mを調達(Yahoo! Finance)
M&A
- Windsurf - Cursorなどに並び人気のAIコーディングアシスタント。OpenAIが約30億ドルで買収される方向で交渉中(TechCrunch)
[国内]
- RightTouch - 問い合わせ前の顧客行動をリアルタイムに解析・検知し、ノーコードで適切なチャネルへ誘導できるWebサポートプラットフォームの他、カスタマーサポートの体験や企業内における業務フロー全体を最適化するためこれまで4つのプロダクトと生成AI機能群を提供。グローバル・ブレインとGMO VenturePartnersへの第三者割当増資、商工組合中央金庫からの借入によるシリーズAで8億円超を調達(PR Times)
- Knowhere - IT技術を駆使して選手のパフォーマンスをデータで可視化し、効率的なトレーニングと怪我の予防を実現するツールを提供。グロービス・キャピタル・パートナーズをリード投資家とし、総額4.8億円の第三者割当増資を実施(PR Times)
- ayumo - 大阪大学と国立病院機構による研究成果を活用し、独自の歩容認証技術により歩行動画から運動機能評価が可能な、深層学習モデルを活用したサービスを開発。大阪大学ベンチャーキャピタルをリード投資家として、プレシリーズAで1億円を調達(PR Times)