「起業家とともに、100年続くSaaS企業をつくる」
私たち、ALL STAR SAAS FUNDが掲げるミッションは、常に100年先を見つめています。SaaS専業VCとして、シードからプレIPOフェーズまで「顧客を最優先に考え、社会的インパクトを最大化する一流のSaaS企業をつくること」を支援してきました。
なぜ、100年先を見ているかと言えば、「SaaSの普及率は20年以内に90%になる」ともいわれる現状があるからこそ、SaaS企業は長く、健全に存在し続けなければ、顧客のビジネスをいずれ成功へ導けなくなってしまうからです。だから、私たちの思う「一流」の条件には、100年先も続くようなソフトウェア企業であることを求めていきたいのです。
では、どうすれば「100年続く」ミッションを実現することができるのか。私たち自身はそのために、何を学ぶべきなのか。長期に及ぶハイパフォーマンスの実現を続ける方、カルチャーや伝統を守り続けながらも、進化させる活動を実践している方、常に挑戦を選択し、本気で世界を変えに行こうと取り組んでいる方たちへの連載インタビューから、紐解いていきます。
初回には、ALL STAR SAAS FUNDにとって最大のLPである、Sequoia HeritageのFOUNDING PARTNER / CEOのKeith Johnsonさんにご登場いただきます。アメリカの著名な機関投資家であり、長期的視点での投資を続けています。
ALL STAR SAAS FUNDのマネージング・パートナーである前田ヒロを聞き手に、Keithさんご自身やSequoia Heritageの投資哲学、組織づくり、そして「100年続く」ための観点を教えていただきました。
※記事の最下部でインタビュー動画もご覧いただけます。
Sequoia Heritageは、ゼロから立ち上げたスタートアップでもあった
前田:メディアに登場するのは稀なKeithさんと、こうしてお話しできる日を、とても楽しみにしていました。
Keith Johnson(以下、Keith):こちらこそ。確かに私は普段、あまり表に出るタイプではありませんが、今日は嬉しいですよ。
前田:まずは、Keithさんが投資家に至るまでのストーリーを聞かせてください。投資という世界に入ったきっかけは何でしたか?「この仕事に情熱を持っている」と気がついたのはいつ頃だったのでしょうか?
Keith:私は数学が得意で、競争することも好きでした。その2つが自然と交差していた分野が「投資」でしたね。私のキャリアは、意外にも10代の頃にはじまりました。私が育った地域では、住民に「年間配当金」が支払われる制度があり、それで資本金を手に入れる機会に恵まれたのです。
ただ、当時の私は投資について全く知らず……それがかえって、投資の世界に興味を持つきっかけとなりました。大学を卒業する少し前からは株式リサーチにも取り組むようになり、その頃には「バイサイドの投資家になりたい」と決意を固めていました。
そこから私は2社で研鑽を積みました。キャリアがスタートして5年ほど経過したところで、南カリフォルニアの富裕層向けに銘柄選びを担当した際に、ビジネスが大いに成長し、2000年代初頭に売却できたんです。それ以降は、年金プランやファミリー・オフィスの運営も手がけ、そこからスタンフォード大学の「エンダウメント(※アメリカでは「大学基金」を指す)」に参画しました。
前田:どうしてその転身をされたのでしょうか?
Keith:より幅広く投資対象を持てる機関投資家としてのアプローチに魅力を感じていました。さまざまなアセットクラスに対して、よりオープンに投資できますからね。
スタンフォード大学で働くようになって3年ほど経った頃、Sequoia Heritageの立ち上げを頼まれました。「スタンフォード大学で手掛けていた一部を、プライベートセクター向けに展開するビジネスを立ち上げてほしい」と。これがここでのキャリアのはじまりです。
前田:Keithさんは「自分のやるべきこと」にかなり早い段階で気づいていたのですね。
Keith:アメリカでは多くの人が12歳くらいから投資をはじめ、重要性に気づきます。その環境において、私はよりジェネラリストな手法を選んだといえるでしょう。網の目を広くして、少しずつ自分の好きなことに絞り込んでいったのです。
Sequoia Heritageは単なる投資運用ビジネスを行なったのではなく、ゼロから立ち上げたスタートアップでもありました。だから、私には起業家の感覚もあったのだと思います。ゼロから築き上げ、私が夢見ていた「チームとしての情熱」を結集させて投資を行なうのです。
ここまでの成功は素晴らしいものであると感じていますが、誰もまだ「任務達成(mission accomplished)」とは考えていません。
数学好きな青年が身につけた、投資への情熱
前田:Keithさんの原点といえる経験はなんですか。幼少期から今を振り返ってみると、自分に影響を与えたエピソードがあれば教えてください。
Keith:私はアラスカ州のアンカレジで育ちました。アラスカには、1.3平方マイル(※約3.4平方キロメートル)に1人の割合で人が住んでいます。広大で、険しく、自然がすぐ隣にある場所なんです。
そのような土地で学ぶのは、基本的なサバイバルスキルと自立した思考です。私が投資をはじめたのは、親がやっていたからでもなく、偉大な人たちから指導を受けたからでもありません。ほとんどのことが、ボトムアップでした。投資という世界に強い興味があり、また情熱も抱いていました。
私が数学を得意だったことは話しましたが、学べば学ぶほど、応用数学が好きになったんです。モデル化して、予測し、反復する能力。そして、それらに取り組む能力が身につきました。習得までに他の人よりも多くの時間を要してしまったかもしれませんが、確信に満ちた能力の一つだったと感じます。大学へ進んだのも、投資に応用できるスキルを身につけるためと言ってもいいでしょう。
もう一つ、既成概念にとらわれない考え方も学びました。私の両親はとても興味深い人たちで、アラスカがまだ州になる前に移住しました。移住者には家の売り手として土地が割り当てられ、両親も土地を所有することになりました。水道も電気もない土地を、自分たちの手で改良していかなくてはいけなかったんです。
当時、母には3人の幼い子どもがいたのですが、水を運んだり、氷に穴を開けて水を引き出したりと、森の中にいるような環境から家をつくり上げていきました。そうして、貯金ができるようにまでなって、父は石油会社で電気技師としてのキャリアもスタートさせました。さらには投資もはじめるようになったと言います。
子どもの私では詳しいことまで分かりませんでしたが、不動産投資や未公開株取引をいくつか手掛けていたようです。アラスカで最初のスポーツクラブに投資して、そのジムはアラスカでは独占的な存在になりました。
両親が持っていた直感や素質、闘争心、そして精神は、私たちにも受け継がれていきました。ただ、その当時は気がつかなかっただけでね。
最高の投資に挙げられる共通点は「Moatがあること」
前田:Keithさんは、さまざまなアセットクラスに投資していますよね。全く異なる幅広い投資カテゴリの中で、さまざまなエクイティ投資をされていますが、投資先を判断する基準や、優れた投資を行なうための共通点はありますか?
Keith:投資という観点で、私たちが行なってきた「最高の投資」に挙げられる共通点は、「Moatがあること」だと思います。Moatを理解し、それを強化する創業者がいること。彼らはその過程で、小さなことを、正しく行なうために時間をかけているんです。創業者は細部にまで気を配ります。特に、採用に関してはそうです。
最近、Amazonの初期ビジネスの構築に深く関わった人と話をする機会がありました。初期段階で、Jeff Bezosが深く採用に関与していたことを聞けたのは、学びになりました。あれほどの組織を築き、成功するためには重要なのでしょう。
前田:全ては「人」であり、優秀な人を採用して彼らがパフォーマンスを発揮できるようにする。これは僕も本当に大切なことだと考えています。
Keith:もっとも、「投資」でも「投資家」でも、いずれの観点でも数字で表せるようなアプローチはないでしょうね。まず、必要なのは、その人がどういう人なのかを理解することです。相手のモチベーションの源泉を理解するために十分な時間を費やしている人は多くありません。投資家に会ったとき、投資家サイドが本当にやりたいことは、相手の将来の決断に対する現在的な価値を分析することだからです。これは非常にダイナミックな話です。
彼らはどのような私生活を送っているのか。投資家が取る投資アプローチは彼らの性格に合っているのかどうか。これらの要素がうまく組み合わさるのだろうか?または、ただ大儲けできると思ったから、アプローチをしているのだろうか?……などね。
そうして時間をかけて偉大な投資家たちを知っていくうちに、いくつかの共通点があることが分かってきます。彼らは非常に意欲的で、ある種のニッチな分野を開拓し、それを独自の方法で継続的に、繰り返し築き上げ続けていることです。そして、彼らはボールから決して目を離しません。だから、最後にはパフォーマンスに繋がるのです。
今、多くの投資組織が進化しています。そのせいで、チームや事業規模の拡大に気を取られて、本来の使命を忘れてしまう。生き残りをかけて戦っているのですから、立ち上げたばかりのファンドにとっては、どれも当たり前のことのはずなんです。つまり、組織の進化と動機のどちらも重要ということです。
前田:たくさんのレッスンやインサイトがある話です。僕も絶対にボールから目を離さないようにしようと改めて思いました。そして、最初に目指していたものとは全く違うものに変化してしまうことは避けなければなりませんね。
必要以上に大きな資本が、企業を傷つけてしまう
前田:次にお聞きしたいのが、やや戦術的な質問になりますが、ファンドサイズに関して、ファンド運営者へのアドバイスはありますか?
Keith:まず、「このマーケットの中では、どのようなアプローチが適切なのか?」「その中で、適切なファンドの規模とは?」を考えていきます。
そもそも「なぜ、適切なファンドサイズが必要か」を考えてみましょう。私たちは、資本が企業を助けてきたシーンを見る一方で、多すぎる資本が企業を傷つけてしまうこともあることを知っています。必要以上に大きな資本が簡単に手に入ってしまうと、非効率な経営に繋がるだけでなく、資本への「感謝」を忘れてしまいます。そして、経営に必要な企業カルチャーも築かれなくなってしまう。
Amazonのような企業を見ても、彼らは初期の頃から本当に厳しく経営してきました。AWSがマーケットに登場したときに投入されたコストは、当時では信じられないほど小さかった。そして、消費者と顧客にしっかり焦点を当てたサービスでした。、ファンドの規模を拡大する際には、このようなことを考えなければならないのです。
どうも、次の大きな小切手を書くことや、スーパープロラタをサポートすることに焦点を当てる人が多すぎます。もっと見つめるべきは、求めている結果を長期的に得るために、「企業にとって適切な資本額がいくらなのか」ということです。
私たちがパートナーシップを組んでいる他の企業を見ていても、やはり彼らは経営が非常にうまくて、資本への感謝の念を持ち続けています。資本面でパートナーを組む相手についても、とても慎重な姿勢を保っていますね。
前田:確かにボトムアップで考えて、企業にとって、ビジネスチャンスにとって、何がベストなのかをいつも考えていようと意識しています。資本が多すぎれば、かえって非効率になるということには、とても共感します。それで支援先の企業を台無しになる可能性だってありますよね。きっとこれからも僕たちは、何が正しいかを考え、奮闘し続けるでしょう。それは、私たちが常に考えるべきことですから。
「これは本当に意味があることなのだろうか?」
前田:Sequoia Heritageの人材マネジメントについても、ぜひ聞かせてください。タレントをどのように見極め、育てているのでしょうか?
Keith:Sequoia Heritageにおいて重要なポイントは、「私」ではなく常に「私たち」という概念を大切にしていることです。私たちのチームに投資家として参画した初日から、私たちは相手に意見と視点を求めます。そして、他の多くの組織とは異なるかもしれませんが、過去の経験に基づいた議論ではなく、常にフレッシュな視点でアプローチしようともします。
そして、こんな風に問うのです。「これは本当に意味があることなのだろうか?」と。たとえ、そのカテゴリーが過去に見たことがあるものだったとしても、過去にその相手とのパートナーシップを検討したことがあったとしても、いつもフレッシュな視点で物事を見ようとします。
前田:チームを組織する上で重視するバリューなどはありますか?
Keith:会社やチームの構築について考えるときに重要なバリューはいくつかありますね。
まずは、クリアで簡潔かつダイレクトなコミュニケーションです。ときには人々を警戒させることもありますが、時間と共に信頼に繋がり、どのようなスタンスで物事に取り組んでいるのかをしっかり理解できるようになります。そうすれば、より効率的に目標に向かって進められます。
次に、強いオーナーシップ精神が必要です。人々はあなたが取り組んでいることを信じ、納得する必要があります。みんなとペースが揃わなかったり、同じ情熱で前進していなかったりする人って、簡単に見つけられますからね。
Sequoia Heritageが有する資本は決して小さいものではないと自負しますが、投資チームは6人、全体組織でも22人しかいません。そのため、私たち一人ひとりの仕事が重要です。長年の経験から学んだことは、金銭や報酬は確かにあれど、それ以上に大切なのは、どんな仕事であれ、「全てが組織にとって重要である」と感じられることなんです。
特に、小さなチームでは顕著です。ですから、私たちは資産に比例してチームを増やすことがないよう、慎重に判断してきました。それがSequoia Heritageの成功にも大きく貢献してきたと思います。
前田:私も、オーナーシップを持ち、モチベーションの高い人たちが集う小さなチームが好きなんです。間違いなく私たちが目指しているものだと感じました。
片足で入って、片足で出ていくようなことは絶対にしない
前田:KeithさんはSequoia Capitalの偉大なリーダーたち、たとえば、Michael Moritz、Doug Leone、Roelof Bothaといった方々と親交がありますね。ぜひ、Keithさんの視点から、「Sequoia」という存在を特別にしている彼らの仕事ぶりや特質は何だと思いますか?
Keith:私がSequoia Heritageを設立したばかりの頃、Sequoia Capitalの投資会議に定期的に参加する機会に恵まれました。私はただそこで耳を傾け、プロセスを観察していました。どのようにして、この小さなグループが多くの「不釣り合いな勝利」を収めることになったのか……その秘密を知りたかったのです。
会議の議論には衝撃を受けましたし、ときには不安にさえなりました。本当に激しい議論が行なわれていたんです。Sequoia Capitalは投資検討をするときにコンセンサスアプローチを採用しています。投資案件を成功させるためには、チーム全員がその案件を支持しなければならないわけです。もし、チーム全員の支持が得られなければ投資は成立しません。だからこそ、健全な議論が交わされています。しかし、議論が終わって会議室から一歩出ると、彼らはまるで何事もなかったかのようにしているのです。
彼らは、ダイレクトに、ときには対立しながらも、全ての投資案件に心を込めて、真実を探究しようとします。そこに圧倒的な情熱を持っているのです。彼らは初めから、決して満足することはない、腰を落ち着けることのない人々の集団なのです。「常に何かできること、より良くできることがある」と考えているようです。一般的に見て、この小さなグループが多くの「不釣り合いな勝利」を収めることになった秘密は、この情熱にあるのではないでしょうか。
先ほどMichael、Doug、Roelofの名前を挙げましたが、彼らは全く違うタイプの人たちです。それがまた、長年にわたってSequoia Capitalのプラスになっているとも感じます。彼らがもたらすさまざまな視点や個性を見れば、本当に優れたコミュニケーターであることがすぐに分かるでしょう。パートナーとの間でも、対外的に難しい話をすることも多いでしょうが、難しいメッセージも含めて、非凡なる「上手に伝える力」を持っていますね。
もう一つ言えることがあるとすれば、これは私自身も経験したことですが、彼らは支持すると決めたら、一切の躊躇をすることはありません。人々や企業を支援するときも、片足で入って、片足で出ていくようなことは絶対にしない。実際に意味があり、ビジネスを成り立たせるのに十分な意義がある支援をします。
これらはSequoia Heritageでも大事にしていることです。私たちがパートナーシップを結ぶときは、成功のためにできる限りの支援をしたい。投資先が成功した理由の一部になりたいのです。
後継者計画はビジネスとして、独立した事業体として、正しいことを
前田:Sequoia Capitalは、事業承継に成功した唯一のベンチャーキャピタルだと思います。Keithさんのご経験を踏まえて、後継者計画についてアドバイスをいただけますか?私自身、まだまだ30年、40年と現役を続けていくつもりですが、それでも今の段階からプランを考えるべきでしょうか?
Keith:考えるべきです。歴史的に見ても、Sequoia Capitalは非常にうまくやってきたことですし、Sequoia Heritageとしてもチャレンジしています。カルチャーやアプローチ、人間関係をチームに浸透させるには長い時間が必要です。
私は今47歳で、もうすぐ48歳になりますが、すでに3代目の世代育成に取り組んでいます。近い将来、私がどこかへ行く訳でもありません。ビジネスが私自身や他の誰かに依存しないことが重要だと考えています。そして、それ以上に、他のファウンダーやパートナー、投資マネジャーに影響を与えられるようなコミュニティをつくることが大切です。
結果として、オペレーションの面においてもレバレッジを効かせられるようになりますし、より良い組織になることに繋がります。次世代に投資せず、人を育てなければ、それは組織のトップとして、あるいは創業者として、創造し、革新することを制約してしまうことになるからです。
私には素晴らしいパートナーたちがいます。彼らがどんな大変な仕事も率先して対応してくれます。彼らがいてくれるおかげで、私は他のことに時間を使え、結果的にビジネスを良い方向に導くことができています。だから、後継者計画はとても重要だと思います。年齢の問題ではなく、ビジネスとして、独立した事業体として正しいことをすべきなのです。
前田:次の世代を育てる際に、特に意識していること、心がけていることはありますか?
Keith:正直に言うと、私たちは自身のことを「最高の育成者」とは言えません。トレーニングにおいて特に優れたことをしたとは言えませんし、最高の教師だったとも思えません。
ただ、私たちは、若い人たちに大きな責任を与え、彼らがそれにどう対処するかを見ています。「なんてこった……!」となるような、起業家的なアプローチですね。「今の自分がやっていることは、2つも3つも上のポジションが担うことじゃないのか?」「この瞬間、自分はどう対処すべきか?」と思わせるようなことです。
これも私がSequoia Capitalから学んだことです。時間をかけて人がどう進化していくかを見極めるには、責任の重い仕事をさせるのが最善です。もちろん、私たちは良い仕事をし、模範となり、サポートをします。でも、その間のステップやプロセスを考えることは、それぞれに任せています。起業家的なエネルギーを持って問題を解決できるかどうかを見極めているのです。
日本ではSaaSが持つ価値は明らかになっている
前田:Keithさんは日本に住んでいたことがあるそうですね。何歳の頃でしたか?
Keith:19歳のときでした。学校で応用数学を学んでいた頃に、日本語の勉強もしていたんですよ。
前田:当時と比べると日本が変わっていく様を感じたのでは、と思います。どんな変化が起きましたか?また、将来の日本にとって楽観的に感じる変化はありますか?
Keith:私が日本に住んでいたのは30年近く前、90年代半ばに比べれば、若い人たちの関心が、ここ数年でもよりアントレプレナーシップに大きく変わったのではないでしょうか。
私が日本で暮らしていた数年間は、まだインターネットがそれほど普及していませんでした。テクノロジーの変化の多くは、若い世代によってもたらされました。彼らは、より起業家精神旺盛なグループですよね。何か偉大なものを築き上げようとして、そこに落ち着こうとしない人たちです。
日本では、従来の方法とは異なる形でテクノロジーが進化し、採用され、成長し続けています。こうした日本人の特徴があるにもかかわらず、なぜ日本にはプログラマーやテクノロジーのタレントがいないのでしょうか?人々はまだ理解している途中にあると思いますが、こういったテクノロジースキルによって何が達成できるのか、少しずつ理解しはじめているようにも感じています。そういう意味で進化はしていますし、明るい未来があるはずです。
前田:私も同じ考えを持っていますね。この点においては、楽観的にならない方が難しいくらいです。出会う才能や人々を見ていても感じますし、日本の起業家精神はどんどん高まっていますから。それで言うと、日本のソフトウェア市場、特にSaaS市場について、どのような魅力があるでしょうか?
Keith:私は日本が大好きで、日本人が大好きです。その理由の一つは、細部にまで気を配り、顧客やカスタマーサービスを大切にするところです。この分野では、間違いなく世界標準です。そして、人口が減少していく環境でありながら、日本企業には明らかに非効率性が存在し、オペレーションの在り方とギャップがある。それを解決するためのごく自然な方法が、テクノロジーです。
日本人はテクノロジーやハイエンド・テクノロジーに長けていますから。今までSaaSが、日本市場でもっと大きな役割を果たさなかったのが不思議なくらいでした。将来的にSaaSが重要な役割を果たすことも明らかではないでしょうか。
前田:私も、SaaSがマーケットに浸透していくことは避けられないと見ています。多くの人々や企業がSaaSを採用するでしょう。Keithさんがおっしゃったように、より良いサポートやカスタマーサクセスを実現するためにも。
長続きするビジネスのためには、「永続的」のイメージを変える
前田:今日、Keithさんにお話を伺いたかったのは、ALL STAR SAAS FUNDが大切にしている「100年続くSaaS企業をつくる」というミッションを、活動や実績で体現されている方に学びたかったからなんです。改めて、ありがとうございます。では最後に、Keithさんの視点から、「次の100年」にどういった景色を見てみたいか、聞かせてくれませんか。
Keith:100年という単位で考えるのは難しいですね。私はいつも、5年から10年単位で考えるのですが、それでもマーケットの大半とは異なると思います。だって、人々が株式を保有する期間を長期的に見ると、今や6ヶ月にも満たないのですから……。
では、「何が長続きするもので、耐久性がある」と言えるのでしょうか?私は、バリューこそ長続きするものであり、それに投資し、信じ、教える価値があると考えています。そして、創業者の特徴や、彼らの野望も長持ちするものだと思います。
テクノロジー企業にもサイクルがあって、自己改革を続けなければ成熟し、衰退していきます。ただ、私たちは、そうしなければならないのです。数年ごとにビジネスを中断し、近代化させて、耐久性を高めなければなりません。
「永続する」とは、ただ起こることではないのです。「永続的」というと、どこかに座ったままセメントで壁をつくり、誰も中に入れないような建物をつくって、戦っているようなイメージを持ちませんか?でも、私にとっては全く違うんです。
長続きするビジネスを構築するためには、より現代的で、新しい材料を使い、建物をつくり上げて、嵐を少しでもうまく切り抜けるようにすることです。常に、そうするのです。
前田:素晴らしいコメントです。ちなみに、ここまで読んでくださった方へ何かメッセージはありますか?
Keith:「猿も木から落ちる」という言葉がありますよね。たとえそうだとしても、とにかく働き続けて、挑戦し続けて、やり続けてください。失敗は成功の母です。だから、失敗を祝福し、求め続けてください。私も日々、学び続けています。