スタートアップを後押しする存在として、VCを始めとする「株主」との関係性は、ときに起業家にとっての悩みのタネになることも。私たちALL STAR SAAS FUNDも投資家として関わる以上、より良い関係を築きたいといつも考えています。
良好な関係を作っていくためにも、ぜひ見直しを勧めたいのが「株主との定例ミーティング(以下、株主定例会)」です。もし、定例会は気が進まなくて億劫だったり、自社の情報共有がメインとなっていたりすれば、この会を「成長の機会」と捉えてみるだけで、その意味合いは大きく変わってくることでしょう。
株主定例会の開催頻度やアジェンダ設定はどうすべきか。いったい何を目的とし、どういった議題を話し合うべきなのか。今回の記事では、まるごと株主定例会だけにフィーチャーしてみました(一部は「取締役会」についても触れています)。
ALL STAR SAAS FUNDのマネージングパートナーとしても、数々のスタートアップと株主定例会に臨んできた前田ヒロが、同じくパートナーの神前達哉と共に、理想的な株主定例会を開くためのポイントを語り合いました。
「ネオ株主定例会」を目指そう!
神前:私自身、特にシリーズBまでの会社の「株主定例会」に参加する機会が多いのですが、マイルストーンとして重要だと捉えています。ポイントは、参加者のモチベーションが最大化されること。起業家や経営者チーム、ベンチャーキャピタルや投資サイドの人間も、その会社にどんどんコミットしてバリューアップしていく想いが相互に大きくなるんです。
ただ、良い株主定例会もあれば、改善すべき株主定例会もある。そんなところから、数々の会社で参加してきたヒロさんと、「必要な前準備」や「立てるべきアジェンダ」といった観点などから、“事業を加速させるための株主定例会”についてお話ししたいです。
前田:まず、<yellow-highlight-half-bold>株主定例会のよくある勘違いは、目的が「株主のためのもの」と思われていること<yellow-highlight-half-bold>。だから、情報共有しかしないアジェンダを組んでしまったりする。そうではなく、株主が持ついろんな知識や経験、視点を取り入れられる良い機会だと捉えることです。開くのが億劫になるのではなく、「開きたくなる株主定例会」にしていきましょう。
神前:言わば「ネオ株主定例会」みたいな(笑)。
前田:そうそう。起業家も株主も「楽しみで仕方ない!」と(笑)。
神前:すごくいいですね。僕はモチベーションの最大化が重要だと話しましたが、そのためには「次の一カ月」や「次の四半期」に対してフォーカスするポイントだけでなく、現状のビジネスの進捗や組織の状況も含めて、透明性高く共有してもらうことが欠かせないと思っています。
前田:それも株主定例会はステークホルダーと信頼関係を構築する場である、という観点で見れば納得ですね。株主定例会に参加するステークホルダーの知識やネットワーク、経験、視点を取り入れて信頼関係を築き、自分たちや会社がより良い方向へ進化するための場づくりにしていった方がいい。
ステークホルダーのために適切な判断は何か。中長期で最も大事なことは何か。目標でもある企業価値を高めるにはどうすべきか。そういったテーマから巻き込んでいけると、資金調達、採用、ブランディングにもつながっていく。信頼関係が強いとそれらのレバレッジが増えていくので、株主定例会を活用しないのは機会損失だと思うくらいでいいでしょう。
1on1のフォローアップとの使い分けは?
神前:起業家や経営チームの成長機会と捉えたとき、意識すべき観点はありますか?
前田:経営陣だけで物事を考えていると視野が狭くなりがちですから、外部の視点が入ってくることによって、目線を上げられたり、より高い目標を定めたりすることができます。たとえば、「COOを採用したい」というスタートアップが、自分たちに必要と思われるCOOについてディスカッションして、それを経て募集要件を決めていくような連携もしやすい。
他社の人材やオペレーションの洗練度合いを聞くのは、自社のレベルを高めていくためにも参考になるはずです。自社よりも一回り、二回りと先に進んでいる会社がどういった取り組みを、いかなる体制で、どういう考えを持って進めているのか、といった情報や事例を得られるのは、視座を上げる機会になるんです。
神前:そういった視座を上げてくれるような人を投資家として選んだ方がいいということでもありますか?
前田:そうですね。そもそも信頼関係を構築するためには、信頼できる人をステークホルダーに加えないといけないんです。会うたびに警戒してしまうとか、自分をさらけ出しづらいとかになると、うまく関係を結べません。安心して信頼できる相手、そういうマインドを持てるような方を巻き込むことが大切です。
神前:株主を巻き込むという意味では、1on1のフォローアップとも会の性質が異なりますよね。1on1のフォローアップと、株主定例会を分けることのメリットは何でしょうか?
前田:1on1のメリットはディープダイブができることです。たとえば、1時間をフルに使って人事評価制度だけを議論してもいい。そういったことは他のメンバーもいるので、株主定例会ではやりづらいはずです。「このテーマは、この株主が長けているから1on1でディープダイブしていこう」と使い分けていくと良いのではないでしょうか。
ケイデンス経営を進めるきっかけにもなる
神前:僕自身が思ったのは、中長期的に考えた時に「ボトルネックになりそうなこと」はストレートにフィードバックしてあげればいいかなと思っていて。
シリーズA〜Bの会社を見る時には、どこの項目は今だと評価されていて、どの項目がNGなのか、と伝えるようにしています。「採用や組織づくりは素晴らしいけれど、目指す状態と比較すると市場の成長やポテンシャルが過小評価されているから、戦略を一緒にもっと磨いていきましょう」といった話ができるのがとても良いなぁと。
前田:そうですね。世の中の流れやマクロの情報、実際に上場している企業のデータから逆算する機会になります。より評価されるためにどういうステップ踏めばいいか、といった情報の読み解き方になっていくので、そのギャップを埋めるのは大事ですね。
神前:株主定例会の目的は、信頼関係を築き、起業家や経営陣が成長できる機会でもあるというお話もありましたが、もう一つは経営におけるマイルストーンになるとも思うんです。
前田:確かに、このALL STAR SAAS FUNDのブログでも紹介した、PayPalやYammerを率いた経営者のDavid Sacksさんが書いた「ケイデンス経営」の記事に似ている観点かもしれません。月次や四半期といった株主定例会があることで目標も定まりますし、それへの締切も引かれることで、良いケイデンスが生まれやすい。
神前:マイルストーンに紐づくところとしては、仮説検証の場になるのも良いですね。「その仮説にはどういった背景で至ったのか。その仮説が失敗するとしたらどういったリスクがあるのか」みたいなところを洗い出せて、PDCAが回っていく場になるな、と。
前田:僕もそれは賛成です。たくさんの失敗事例や成功事例を見てきているので、仮説の筋の良し悪しには意見が出せますし、見落としている視点や要素を拾い上げる機会にもなりますから。
神前:株主定例会の意義を一旦ここで整理しましょう。大きく3つが挙げられそうです。
1つ目は、「ネオ株主定例会」にできると、起業家や経営陣が成長する場として活用できる。ステークホルダーとの信頼関係を構築していく練習の場にもなるからです。
2つ目は、次の一カ月や四半期に取り組むべきことが言語化され、双方が合意できている状態が生まれ、モチベーションが最大化される。
3つ目は、ポートフォリオになる会社の情報を持つVCや投資家から、先行事例の共有といったマクロな視点が供給され、仮説や戦略をブラッシュアップしていく場にできる。
これらが株主定例会の3つの意義といえるでしょう。
株主定例会は「月1回」を基準にする
神前:これら3つの意義を達成するための株主定例会について、開催頻度や巻き込むべき参加者など、どういったオペレーションを組むべきでしょうか?
前田:僕としては毎月開いた方が良いと考えています。頻度はどのフェーズのスタートアップでも同じです。四半期に一回といったように頻度を下げてしまうと、開催時間が限られているために、共有する情報量を減らしていこうとする働きが生まれやすいからです。
特に、経営者が常に考えていること、感じている課題、打っている施策といったことが共有されなくなってしまう。スタートアップはたった1カ月で別会社と思えるくらいに変化が激しく、それに追いつくためには、話を毎月聞くくらいでないと足りません。そこで本当に話し合うことがなければ、15分で会が終わっても構わないんです。
月に一回、現状の報告と成果の上がったこと、うまくいかなかったことのリカバリー策といった振り返りをする。それらを経験学習で回していかないと組織としての学習も進んでいかないですからね。
神前:なるほど。スタートアップ経営は時間が本当に限られていますから、意思決定する納得感や覚悟の問題について、株主がコミットできることで、いち早く決断できる局面もあると思うんです。
未知のことに臨んだり、会社の方向性を決めたりする時に、不安を覚える経営者は多いはずですが、そこで株主からの視点も取り入れることで、タイムロスをなくし、情報収集コストを下げることも可能になるはずです。
前田:そうだね。心配事は減ると思います。「自分の判断は適正だったのか」ともやもやしているのと、ステークホルダーみんなから「いいね、その方向で行こう!」と言われているのとでは、進め方や自信みたいなものが全然違うじゃないですか。
神前:あれこれ考えたり不安になったりするのは相当なコストですから、それを短縮できる意味では、株主定例会は非常にROIが高い施策ではないでしょうか。
前田:ええ、非常にROIが高いと思います。
神前:そうなると、株主定例会に集めるべき人選は、どうすべきですか?経営者自身だけでなく、取締役やCxOレベルはぜひ参加したほうがいいですか?
前田:これは企業のサイズ感にもよりますが、あまり多くならないのであればVPクラスも巻き込んでいいのかなと。特に、エグゼキューションやKPIといった現場での話が多いなら、なおさらですね。
むしろ、内容がM&A、IPO、今後の戦略、ガバナンスといったハイレベルな話になるなら、CxOレベルで固めていった方がいい。内容に応じて臨機応変に変える形で構わないでしょう。「今月の株主定例会はCxOクラスだけ参加させ、来月はVPを巻き込んで執行に寄せた話をする」といった柔軟性を持たせてもいいでしょう。
株主定例会のNGは「決定すること」
神前:株主側からすると、大前提として、あらかじめアジェンダと資料はちゃんと前日までには送っていただけるとうれしいですね。そして、当日の時間配分は会議時間が60分だとすれば、情報共有が15分で、ディスカッションに45分かけられると理想なのかなと。
前田:そうですね。状況共有はできる限り最小限に、議論の時間はできる限り最大限に、という方針でいいでしょう。時間も、必ずしも1時間だけでなく、2時間で設けている会社もあります。けれど、ほぼ全ての会社で議論が中心に来るのは間違いないです。
神前:株主定例会のファシリテーションは誰が進めるといいでしょうか?
前田:ファシリテーションが上手い人に任せる、というのでよいのでは。会社によってはCEOやCFOが務めていて、ある程度は成熟した会社になってくると社外取締役が担う場合もあります。大事なのは本当にファシリテーションができるか否か。もっとも、アーリーステージのスタートアップなら、ほとんど起業家本人が担うことが多いですね。
神前:「株主定例会のNG」を問われれば何が挙がりますか?
前田:判断材料や判断軸を整理する場であって、必ずしも重要な決定をする必要はない、と僕は考えています。議論したものを持ち帰り、あらためて決定して、ステークホルダーに報告という形でよい。
神前:可能性をテーブルに一度上げて、見えていなかった判断軸を検討するのが大切なわけですね。
前田:結局のところ、事業理解が最も深いのは実際に経営されている方々です。「株主がこう言うから」という判断ではなく、「自分たちが最も事業を理解している」という自信のもとで判断してもらった方がいい。
逆に言うと、意見が分かれた時ならば話し合いをした方がいいのですが、ベースにあるのは事業の解像度が高いという自信を持って、適切な判断をしていくことへの意識ですね。
神前:オペレーションの各論になりますが、株主定例会向けの資料は用意した方がいいでしょうか?個人的には、資料は不要派です。ただ、情報整理だけは必要なので、事前にNotionを使って話したいトピックのコメントをまとめておくのがいいかな、くらいです。
前田:そこは賛成で、株主定例会のためだけに資料を作らなくていいでしょう。基本的にはGoogle DocsかNotionで十分。会社のオペレーションを磨いていけば、必然的にそれらの議論に必要なデータやKPIも整理されていき、グラフ化され、予実もどんどん良くなっていくので、株主定例会のアウトプットの質も高まっていくんですよね。
つまり、自分たちの会社を良くしていこう、オペレーションも磨いていこう、情報整備していこうという意識を高めていけばいくほど、必然的に株主定例会も良くなっていくのです。
企業フェーズごとに扱うべきトピック:PMF前〜シリーズA
神前:ここからは企業フェーズごとに、扱うべきトピックなどの具体論に入っていければと思います。まずはPMF前、特にシリーズAくらいまで。SaaSでいうとARR0〜1億円未満くらいの規模感です。まだまだプロダクトに集中している時期です。
前田:株主定例会の内容も、とにかくプロダクト、マーケット、お客様がメインになるかなと思います。
PMF前は顧客解像度を高めていく行為が多いですから、「この1カ月でお客様から得られたインサイトは何か」「新しいインサイトを元にマーケットの見え方は変わるのか」「新しいインサイトを元にプロダクトのロードマップを変えるのか」といったように、ラーニングとアンラーニングから、自分たちの行動をいかに変化させたかを議論するでしょう。
神前:それから、シリーズA前とPMF前のアジェンダとしては採用、特にエンジニア組織とハイクラス人材が重要な時期だと思いますから、そのあたりの進捗ですね。キャッシュの状況は全フェーズ必要ではありますが、「何に、どれくらい使ったのか」は透明化した方がいいのかなと。
前田:そうですね。成長に対して適切な投資ができているか、という視点を持つことは非常に重要です。です。「いつお金がなくなっていく予定で、この調子だと、それまでにどんなマイルストーンを達成できるのか」は、常に話した方がいい内容。場合によってはブリッジラウンドをはさんで、もう少し資金やランウェイを確保しないといけないかもしれませんし、場合によっては「PMF手前だからアクセルを踏んでいきましょう」といった判断が出るかもしれない。その認識合わせが大切ですね。
企業フェーズごとに扱うべきトピック:PMF直後〜シリーズA調達
神前:次は、PMF直後からシリーズA調達をしたタイミングです。
前田:このフェーズから「成長のエンジン」をつくり始めるんですよね。成長するための基盤とは何かを考えると、おおよそ人材、オペレーション、戦略に集約されるので、そのあたりの内容が増えていきます。MRRやキャッシュの予実管理も始めたほうがいいでしょう。
また、KPI管理が重要にもなってきます。追うべきKPI としては、SaaSですから当たり前ですがMRRですね。MRRの予実はとても大事です。月次のMRR目標とMRR実績を照らして、達成度合いを確認したいところです。
新規MRRの増額も、新規MRRが100万なのか、300万なのか、500万なのか、といった金額ベースでわかることと、その割合が既存と新規で分かれるのかも見ておきたい。新しく100万円のMRRを取ったとして、既存と新規で50%ずつなのか、あるいは70%と30%なのか。
なぜこのあたりの数字が大事かというと、組織がレベルアップして、人が増えていき、キャパシティが大きくなっていくほどに、新規MRRの額も比例して大きくなっていくはずなんです。そのトレンドラインを追うことは、ヘルシーな事業成長が実現できているかの指標になってきます。
たとえば、3カ月前は新規MRRが300万だったのに、今月は100万になっている。人が増えたはずなのに下がっているのは何かしらの理由がある。既存と新規の割合についても、既存の割合が高いということは、アップセルが高まった一方で、新規獲得が鈍化している証拠になります。現在はMRRの目標を達成していても、あまりにも既存顧客に依存すれば、将来的にアップセルできる割合は減っていくので、必然的に全体のMRRが鈍化します。
あとはARPAですね。ARPAはトレンドラインとして正しいかどうか、ちゃんと伸びているかどうか。あとはチャーンレートと更新率。グロスチャーン、ネットチャーン、契約更新率、リニューアルレートがどういった水準にあるのかは見るべきでしょう。
これはPMF前のフェーズから重要なKPIですが、キャッシュバーン、ARPU、バーンレートは常に追いかけた方がいい。もし、欲を言うのであれば、パイプラインも見たいですね。次の四半期にどれぐらいのパイプラインが入ってくるのか。
過去のトレンドで「パイプラインの25%がクロージングされる」と見えてくれば、現在のパイプラインが足りてるか否かがわかりやすくなりますから、あとは、採用に関するKPIですね。このあたりがPMF直後のフェーズで、僕が押さえてほしいKPIですかね。
神前:補足するならば、PMF直後は組織がスケールしていくので、組織の状態や離職者といった感度も高めていくべきところですから、「離職の理由」もちゃんと共有していけるといいかなと思いますね。このタイミングで組織状況が急激に悪化したり、「30人の壁」を超えないといけないといったトピックも議論の中身になるかと思います。
前田:そうですね。成長のエンジンをつくる上でも、人事採用系の話は重ために出てくるかと思います。評価制度を制定し、それに対する社員満足度を図ったり、社内サーベイの結果をレビューしたりするのもいいでしょう。新しくオンボーディングしたマネージャーや役員のパフォーマンスチェックも出てくる。このあたりをクリアしないと、次のグロースフェーズに入りづらいのかな、と思います。
企業フェーズごとに扱うべきトピック:シリーズB〜IPO前
神前:では、シリーズBからIPO前くらいのグロースフェーズについて。株主定例会に加えて、取締役会や株主総会も開かれてくる時期でしょうか?
前田:「取締役会の進め方」については、今回はざっくりとお話しましょう。
グロースフェーズに入ってくると、考える時間軸が伸びていくんですよね。来月、来四半期といったように、今期よりも来年、再来年、その翌年という話が中心になってきます。
よくあるテーマのひとつが、「リーダーや役員の構成を今後どうするか。リーダーシップをどういうふうにアップグレードしていきたいか」であったり、「成長が鈍化し始めるタイミングはいつか、鈍化させないためにどういう手が打てるか」であったり。
このフェーズは、コホートで物事を見るようになるんですよね。今まで単純にMRRを見ていたのが、製造業のMRR、コンサル会社向けのMRRといった領域別、あるいは中小企業や大企業のMRRといった規模別のコホート分析を始めて、伸びしろのあるセグメントを特定することが、グロースフェーズでは効果を発揮し始めます。
神前:ありがとうございます。あらためて株主定例会に話を戻すと、シリーズBくらいまでの会社に向けたTipsや、先行事例などを紹介できればと思うのですが、いかがですか。
前田:「できれば」というレベルですが、事前にアジェンダや情報を共有しておくと、みんなの頭が整理された状態で挑めるので、より有効的に時間を使えるはずです。とはいえ忙しいのは間違いないので、事前準備ができないという経営者もいると思うんですけれど、そこを何とか頑張れると理想ですかね。
神前:僕が以前に体験したこととして、事前に動画で内容を共有する、という会社がありました。動画があるとVC内でも広報やマーケティングといった他チームにも共有しやすかったので、とてもありがたかったです。
それから、マーケ、セールス、カスタマーサクセス、プロダクトエンジニアといった各ファンクションを、それぞれ「天気予報」みたいに状況を報告してくれる企業も、組織の状態と事業の進捗がわかりやすかったです。
逆に、手ぶらで来てしまうと掘り下げる質問も出づらかったりするので、何かしらで自分たちの経営状況や進捗を整理する上でも、一度まとめておくのがいいのでしょうね。
前田:そうですね。できる範囲で、できるツールで、という工夫はあってもいいはずです。
あとは、マインドとして「オープンであること」は重要で、結局は行き着くところかな、と思います。隠されると本質的なフィードバックもしづらいですし、株主定例会の意味がなくなるといいますか。自分をさらけ出すことを恐れず、共有していった方がより良い状態へ絶対に進むはず。そのプロセスを信じて挑んでもらいたいところです。
それから株主定例会には楽しく向かって生きましょう!パーソナルトレーナーがついているジムみたいな気分で、より自分が強くなっていく、より新たな発見を探しに行くというスタンスだと、経営というものがより楽しく感じられるはず。
もちろん状況によっては明るくはなれないときだってあります。悪いニュースが多いと楽しみにするのは難しいかもしれません。ただ、そういう事柄ばかりでないときは、株主定例会そのものを楽しみとして向き合ってくれると、株主としてもありがたいです。
補足:ALL STAR SAAS FUND投資先の「嬉しい事例」
神前:最後に、ALL STAR SAAS FUNDの投資先で開かれた株主定例会で、印象に残っている企業の特徴などを、補足的に紹介できればと。僕はJapanFuseの石田寛成さんが、株主定例会後に必ず「今後に対しての意思表明」をリアクションしてくれるのが好きです。
前田:彼は毎回、すぐに「やる気マックスです!」みたいなツイートをしてくれるので、こちらも嬉しいですよね。
神前:そういった前向きな機会にできるといいですからね。
アセンドの株主定例会もすごく好きです。Notionで事前に情報共有してくれるのもそうですが、その中身の言語化がとても精緻であることと、株主定例会の中身も文字に起こして言語化してくれるので、後からしっかり振り返りやすいところが助かっています。もう一点はキャッシュフローを全て書いてくれること。何にどれぐらいお金を使ったのかがちゃんと見える化されていて、とても信頼が置けます。
アセンドは「笑える要素」もさらっと出してきて、「合宿やりました!」「こんな採用できました!」といった共有もあり、株主定例会そのものを楽しみにしてくれている感じが伝わってきます。彼らもこちらのフィードバックをどんどん吸収していこうとする雰囲気があり、魅力的だなと思います。
前田:そうですね。アセンドは自分たちの考えを整理した状態で挑んできますし、整理した状態で共有してくれるから、フィードバックしやすいですよね。整理するという努力が見えているので、有意義なディスカッションがしやすいのかなと。
あとは、SmartHRも毎回の会を楽しみにしている企業です。今は取締役会になっていますが、とにかくいろんな視点で、さまざまな角度から会社を見るのがすごい。「こんな観点からのアジェンダをあげるんだ!」と驚きがあって面白いんです。
「10年後どうなっていきたいか」「経営陣の役割」「会社のカルチャー」といった、あらゆる角度でアジェンダを組んで、みんなを巻き込み、ディスカッションする。こちらも刺激的で、学びにもなるので楽しみなんです。