BDR(Business Development Representative)とは、インサイドセールスの役割の一つです。SDR(Sales Development Representative)がインバウンドリードに対応するのに対し、BDRは全く接点のない企業との商談機会を生み出します。
BDRのアプローチは新規顧客の獲得に大変有効ですが、そのノウハウは各社手探りであまり確立されていません。
そこで今回は、インバウンド商談をメインとしてきたSmartHRで初のBDRチームを立ちあげた関西支社長の大辻さん、立ち上げメンバーの畑さん、牧野さんと一緒にBDRによるアプローチの疑問点を解説していきます。
そもそも、BDRとは
アウトバウンドで見込み客を獲得するインサイドセールスの役割です。主にリード獲得が難しいエンタープライズの高役職者などを個別にターゲティングします。
その結果、有名企業や業界知名度の高いターゲット企業との商談機会の獲得、高役職者と早期に面会できることによる商談期間の短縮、部門単位ではなく全社的な大規模提案が可能となります。
ターゲット企業に対して、フィールドセールスとの連携を強く持ち、共に戦略を練ってアプローチしていきます。
ーSmartHRはリードも多いと思いますが、BDRチームを作ったきっかけはなんですか?
大辻さん:2015年11月18日のサービスリリース以来、オンラインやオフラインを活用したマーケティング戦略によって、インバウンドからの商談獲得をメインとしてきました。しかし、そうして獲得できる商談数もいずれは限界がくると考えています。マーケティングの取り組みを最大限成果に結びつけるためには、今のうちからアウトバウンドで商談を獲得できる仕組みをつくっておくことが必要だと思い、まずは関西支社でBDRチームを立ち上げることにしました。
BDRの働き方
SDRとの大きな違いは注力する企業/業界が決まっていることです。そのため、担当しているフィールドセールスとの密な連携が欠かせません。
フィールドセールスのテリトリー分けが業界なのか、地域や企業規模なのかによって、BDRのテリトリー分けも決まってきます。隔週程度のペースでミーティングを行って、ターゲット企業の選定、提案内容、アプローチする役員情報などを連携しましょう。
インサイドセールスから見れば、フィールドセールスは顧客でもあります。彼らの営業進捗、達成までに必要な新規商談の件数や金額などもすり合わせ、必要な商談が提供できるようにしましょう。
ー関西支社では、フィールドセールスとBDRとの連携はどうなっていますか?
畑さん:週1回のミーティングで案件状況の確認、ネクストアクションをすり合わせています。自分が提供した商談のあとは、商談履歴からBDRにできることがないかを確認するようにしています。
牧野さん:案件創出以外では、グループ企業や大手企業の案件を前に進めるための新たな顧客開拓も行っています。効果的に繋がりを持つために、フィールドセールスにはお客様が気にされているトピックやワードが何か、商談の中から情報収集してもらうようにしています。
ー1日のスケジュールや毎日見ている数字など、PDCAの回し方を教えてください。
畑さん:毎日見ているものは「BDRダッシュボード、新規リード、TODO、社内情報、Salesforceの活動履歴」です。まず自分のTODOを見て、午前中は電話、情報収集、手紙作成のいずれかをします。午後は電話と手紙作成に加えて、社内情報のキャッチアップ。新規受注や事例が出てきた際は、新たな業界へのアプローチ方法を見つけるための情報収集をする時間を重視して作っています。
牧野さん:毎日確認しているものは、「タスク管理ボード、新規リード、BDRダッシュボード」です。その週にやるべきこと、その日にやるべきものは可視化しておき、タスクが終わったら消していくというやり方をしています。金曜日の時点で、残タスクが0になるのが目標です。
基本的には午前と午後に電話を1時間ずつ設けて、それ以外の時間に手紙作成、次のアプローチ先となる業界や企業の選定、情報収集を行っています。
手紙でのアプローチ
SaaS界隈のアウトバウンドには「手紙を送る」というアプローチをとる企業が多くあります。いきなりのコールドコールではなく、事前に提案内容をお送りし、電話する理由を作ることができる点で有益な手法です。
大量に届くDMや営業チラシと差別化するために、品質の高い紙を用いたり、あえて封筒に会社のロゴを載せないといった工夫がされます。
文面に関しても、一律の内容ではなく、独自性を出すことが大切です。受け手の立場で考えれば、テンプレートのご案内文では興味が湧かず、時間と割こうとは思いませんよね?
なぜ、あなたに手紙を書いたのか。どんな点でお役に立てそうなのか。そういったことを、ラブレターのつもりで綴ってみましょう。また、差出人は自社の役員など高役職者にしておくと、開封率が上がります。
ー手紙のアプローチでは、どのような成果が見えてきましたか?
畑さん:手紙のアプローチを始めたばかりのころは、「高役職者に刺さるポイント」が分からなかったので、最大行動数から分析しました。幸いにもアポ率は10%を超えていたので、成功だったと思います。ただ、この段階では手紙の内容よりも電話のトークでカバーしていた面が大きかったです。
2ヶ月目は、トークだけではこれ以上のアポ率向上が望めず、手紙の内容を変える必要が手に取るようにわかってきました。手紙の時点で商品提案ではななく、各社の経営課題を解決する提案をしないと全く話を聞いてもらえないのです。
特に秘書がいる高役職者においては、商品提案だけでは断られてしまうことが顕著でした。
BDRのアプローチはアポインターではありませんから、1分以内に相手に関心を持ってもらうには、それ相当の時間をかけて個社ごとの提案準備をする。だからこそお客様の心に刺さる提案ができるのだと感じています。
個社にあった提案を練る部分はまだまだ課題があります。毎月の活動で実数値だけでなく、次はどんなアクションを取るべきか、自分たちの本来の目的は何だったのかを見つめ直し行動に移している状況です。
牧野さん:手紙の内容は、高役職者に宛てるからこそ、会社の全体感を見据えた話でなくてはなりません。ただ、あまりに抽象的な話では興味を持っていただけない。提案の粒度は試行錯誤していますが、思っていた以上に手紙を見ていただけ、その上で判断されているという感覚も掴めてきました。
アウトバウンドコールのコツ
手紙を送ったからといって、必ず電話に出てもらえるとは限りません。大手企業であればあるほど、受付や秘書の方にまず電話がつながります。
「単なる営業電話だ」と思われないよう、まずは手紙を送付していること、役員からの連絡であることなどを、初めに伝えると効果的です。
高役職者宛の電話は、直接お話できるまでには、数回のご連絡を要すことがほとんどです。窓口となっていただく方のお名前を記録し、毎回ゼロからのご説明とならないように留意します。
そして、お話したい方にまでつながったら、お手紙に書いた「なぜ、あなたに連絡したのか」をお伝えしましょう。いきなり自社サービスを説明しては、ただの営業電話と変わらず、関心を持っていただけないからです。
ーBDRからのアポイント率などに良い影響は見え始めましたか?
大辻さん:アポイント率には高い結果が出ていると感じます。弊社はCMや各種広告、イベント出展などで事前にマーケチームがSmartHRを認知しやすい状況をつくってくれているのも、よく働いています。実際に、役員クラスの商談獲得も増えました。
また、BDRチームを立ち上げて早々のことですが、フィールドセールスと相談しながら作った社長宛ての手紙をきっかけに受注できたケースもあります。BDRの活躍の幅を感じた、良い体験でした。
ーアウトバウンドは「お断り」が多い大変なお仕事ですが、メンタルコントロールはどうしていますか?
畑さん:私は「改善点がわからない」とメンタルが落ち込むタイプなんです。「断られる=何をどう変えれば?」と考えるほど、思考の沼にはまっていきがち。そうではなく、受注例から良かったポイントを探したり、SDRでうまくいっている人から話を聞いたりする中で、自分の改善点を見つけるようにしています。
牧野さん:「振り返り時間の設定」と「メリハリ」を意識しています。良かった電話でも悪かった電話でも、時間を決めて振り返り、引きずって考えないようにしています。また、「今日は流れが悪いな……」と思う日はコールをストップする場合もあります。リストの整理といった単純作業を進めたりしながら頭を切り替えて、次の日から明るく電話ができるように気持ちを整理しています。
ーBDRでキャリアを作る方へのメッセージをお願いします。
牧野さん:とにかく意識していることは「受け取り手の気持ちを考える」ということです。相手はご多忙の中、お手紙を読んでいただく、電話に出ていただくので、そのお時間を頂戴できるだけの努力が業務にも反映されると考えています。
たとえば、きちんとお客様の業界事情を分析しているか、人事労務領域のトピックを押さえられているか、相手に感謝の気持ちを持って電話をかけているか、といった点です。私たちも引き続き実践することで、分析力やコミュニケーション力を向上できばいいですね。