SaaSビジネスにおいても欠かせない、成長ドライバーのひとつが「セールス」です。
時代とともに変わるポイントもあれば、時を経ても通底する“営業の本質”もある。その両面を理解しながら、自社のプロダクトをより多くの顧客に提供していくためには、何を理解すべきなのでしょうか。
今回はそれを知るべく、外資系企業の営業職のトップセールスとしてキャリアを築き、直近ではアプリ市場データの収集・分析サービスを手掛ける米スタートアップのAppAnnieの日本法人代表も務めた向井俊介さんが登場。向井さんはAppAnnieから独立後、ALL STAR SAAS FUNDのアドバイザーとしても参画し、支援企業をセールス面からサポートしています。
売りにくい物を、いかに売るべきか
前田:早速なんですが、向井さんの自己紹介をお願いできればと思います。
向井:新卒は日系の大手上場企業に営業職で、企業向けのネットワーク機器を売っていました。メインのクライアントは新聞社で、僕らの商品が止まると「翌日は白い新聞が出るよ」なんてプレッシャーをかけられたのも、ハードでしたが良い経験でした(笑)。
その会社には5年半ほど在籍しましたが、入社して4年ほど経った頃に、「IT戦略」や「経営戦略」を学ぶことで、自分の仕事への疑問がわきました。というのも、売っていたネットワーク機器は高価格帯でハイスペックな特定メーカーのモノが主軸だったので、クライアントの要件を満たすことを考えると、他社製品を交えて提案するほうが本来IT戦略に向けて支援する形としては理想なんですよね。でも会社としては高価格帯でハイスペックな製品で構築できる技術力が売りだったこともあったので、これでは支払って頂く対価以上の価値を提供できていないのではないか、と思ってしまったんです。
転職を考えたところ、あるヘッドハンターから「データや情報は、ROIは出づらいけれど、買った金額よりも何倍、何十倍、何百倍にも価値が化ける可能性がある」と言われたことが、当時の僕には妙に腹落ちしました。外資系という新しいフィールドにも魅力を感じ、ダン&ブラッドストリートへ転じて、さらにガートナーへ移っていくと。
前田:基本的には営業職を続けていったんですか?
向井:そうですね。ガートナーでは営業力が特に磨かれました。調査会社としてのレポートが有名ですが、実はメイン収益は「アドバイザリーサービス」。世界中に抱えるIT専門家やアナリストに問い合わせられる、という顧問弁護士に近い契約を売ることなんです。ターゲット層もCIO(Chief Information Officer)などのクラスで、正直効果が見えにくいので非常に売りづらい商材です。
そういうとき、会社目線で「ガートナーはすごいです!こんなレポートが出たんですよ!」と言っても独り善がりになってしまう。それぞれのお客さんが何に困っていて、何をしたいのかを寄り添って考える……お客さんの目線で物事を見る力は、かなり養われました。
前田:そういった提案は、ガートナーの上司や先輩にも教えられたのですか。
向井:教えられましたね。可愛がってくれた上司からは「人としてお客さんと信頼を作っていくことは、絶対に蔑ろにするな」と言われていました。お客さんのために自分は何ができるかというマインドとスタンスでコミュニケーションを取っていれば、後から結果は必ず付いてくると。実際、その通りになりましたし、今でも大切にしている経験です。
前田:それこそが「売りにくい物をいかに売るべきか」に繋がってくるんですかね。
向井:ええ。なぜ、情報やデータが売りづらいかというと、費用対効果が見えにくいから。直接的に収益やコスト削減に貢献できるものではなく、情報やデータに触れた人たちが何かしら行動を起こして初めて価値が出ます。アナリストと話したり、レポートを読んだりするだけでは意味がないんです。
お客さんにも「使うことで価値が出る」と、ちゃんと伝えるのが売るためのポイント。だからこそ、どのような仕事をしていて、メンバーとどういった会話して、付き合っているベンダーはどこで、どういうプロジェクトに取り組んでいて……と、お客さんの一通りを把握しないと、僕らの持つ情報やデータを、どう活用できるかもわかりませんよね。
孤独な経営層と結んでおくべき「2つのポイント」
前田:会話を重ねて相手を深く知り、「ガートナーが提供する価値」と「お客様の目指したい方向性」が合った時に、初めて本当の意味での営業が始まる感じですかね。
向井:もうひとつ、前提として押さえておくべきなのは、売り先となるお客さんの職務レベルが上がれば上がるほど「孤独」ということです。悩んだ時に相談できる相手がいない。それを認識しておくと、一回りも二回りも年齢が下であっても、ガートナーのレポートを読み、アナリストとのコミュニケーションを重ねた立場の人間として、彼らと会話ができる。
それは他のSIerやITベンダーとはできないような会話なんですよね。そういう意味では、共通の話題があるので距離は縮めやすかったといえます。そして、会話の端々にガートナーのエッセンスが含まれますから、いつの間にか商談に発展していくことも多かったです。
話しているうちに「向井君のところって、こんなことまで相談できるの?それなら、契約の内容が知りたいから見積もりも出してよ」みたいに。だから、意図的に関係を築き、僕らの商材を提案するという営業スタイルにはなることはそう多くはなかったです。
前田:最初の接点から、どれぐらいの期間で提案まで持っていけるものですか?
向井:1ヶ月から1年までケースバイケースです。ただ、共通しているのは「必要だと思われたとき、すぐに声が掛られる関係を築いておくこと」でした。もうひとつ、大事なポイントは「売り急がないこと」。
手元にパイプラインが少なく、狙うターゲットが高いほど、営業は今あるものを全てクローズしたがりますよね。「今なら値段が安くなります」といったコンペリングイベントを作ったり、必要でない人にも提案へ行ったり。営業という職務における責任があるので当たり前ではあるのですが。
でも僕の経験上、そうして得たお客さんは1年の契約期間が終わると、そのまま解約に至るケースが多くなる。あくまで、お客さんが必要だと思ったときに買える関係性を続け、定期的に連絡を取っておくことが大事だと捉えています。
前田:なるほど。すると、ニーズが表れた時に連絡できる関係性をたくさん作っておくと。目標達成のためにも、パイプラインを増やすことが重視されるわけですね。
向井:そうです。だけど、やっぱり物事そんなに綺麗にいかない(笑)。
並行して、どうしても数字が足りない時に、ストレートにお願いできる関係値を作っておくのも大事です。数ヶ月かけてコミュニケーションを重ねていけば、そういった相談ができる相手も築けるはずです。「よしわかった、他の部門から予算を聞いてみよう」と契約してもらうこともよくありました。
いつでも連絡がもらえる関係と、ストレートにお願いできる関係が作れれば、セールスとしてはさらに動きやすくなるんじゃないでしょうか。
持てるパイプラインに限界はない
前田:ちなみに最も多い時で、どれぐらいのパイプラインを持たれていたんですか?
向井:一般的にBtoBのIT業界においては、パイプラインは金額ベースでターゲットの3倍は持っておくべきと言われますね。僕もそれくらいは当然に持っていましたが、多い時では瞬間風速的には5倍から7倍ほどでしょうか。
前田:ちなみに、持てるパイプラインの限界があるとは考えますか。「20社以上は状況が把握できなくなるからためたほうがいい」みたいに。
向井:僕自身は限界を感じたことがないですね。というのも、毎日連絡しなければいけない人なんて、通常はいないものです。極端な話、「毎日5人に連絡する」と決めて、営業日20日続ければ100人に連絡できる。それで、毎月ないし隔月で連絡ができていれば、単純計算で100社はコンスタントにつながれますよね。
Facebook Messengerのようなチャットツールでもいいし、メールや電話も併用すれば、それほど時間は掛からない。15分もあれば、5人には連絡取れます。「最近はどうですか」とか、「こんなレポートが最近出たのでお送りします」とか。「面白いイベントがあるので、特別にご招待します」といった、ライトな連絡を絶やさないのが実は大事です。
前田:レポートやイベントも含めて、会うきっかけを作るのが重要なんですかね。
向井:重要です。そして、「会う」にも大きく2つのパターンがあります。まずは、セールスがアジェンダを用意して、相手と会う理由を設けるケース。もうひとつは、セールスが自ら積極的に訪問していくケースです。
僕は、どちらかというと後者寄りでした。「面白いネタがアメリカのアナリストから上がってきたので、今度立ち寄っていいですか?」とか、「相談したいことがあり、30分だけいただけませんか?」とか、カジュアルに会いにいく機会をつくっていました。
リードからCSまで全てを一人でやってきた
前田:プランニング、ネタ作り、面会とやることは様々ですが、当時の向井さんの「時間の使い方」が気になります。
向井:決めていたのは「最低、週に10件は面会する」です。すると、日に2件は最低ライン。前後の移動時間を入れても、まだ週あたりの稼働時間の3分の1程度ですから、残りでリサーチ、資料や提案書の制作、見積もりの算出、アカウントプランの準備などをこなしていました。
前田:当時は自分でリード作りもしていたんですか?あるいは、誰かが渡してくれたのか。
向井:いやぁ、いいことを聞いてくれました。僕がまともにBtoBのマーケティングに触れたのは、App Annieに入社してからなんです。それまでは自らリードを取って、ナーチャリングして、クオリファイして、アポから商談化して、交渉と契約を経て……と、クローズまで全て一人でやっていたので。
前田:すっごく大変ですね。
向井:それが当たり前だと思ってたんです。特にガートナーのような年間契約のアドバイザリーサービスだと、契約の更新も含まれるので、CS(カスタマーサクセス)みたいな動きも含まれてきます。今で言うと、マーケティングからCSまで全部ですね。
更新ができれば自分の数字が堅く担保され、新規を純増で取れば取るほどグロースしていく。アップセルも当然狙える。セールスの観点からいうと、いい環境ではあります。
前田:そして、新天地であるApp Annieへ移られていくと。App Annieで今の向井さんを作り上げているような経験は、どんなものがあると思いますか。
向井:そういう意味で言うと、一番の土台になっているのはガートナーでの経験です。ガートナーでの売り方と、App Annieでの売り方って、ほとんど一緒なんですね。ROIは出ないし、何かしら意思決定して、施策を打ったりすることでデータに価値が出るわけですから。
D&Bの時代から遡れば合計13年、データや情報の世界で営業してきましたが、売り方そのものは全て一緒です。「App Annieならでは」を考えるなら、マネージメントですかね。
前田:ぜひ、チームとして目標達成するために取り組まれたことなど、聞きたいです。
向井:ベーシックなところでは、ビジネスマナーの浸透からやりました。これまで新卒採用のない会社に10年以上勤めているので、みんなが何かしらの「色」を持っています。年齢、バックボーン、得意不得意の領域をはじめ、教えてもらったこともバラバラ。
まさに「自分の常識は他人の非常識」が起き、僕の目線では看過できないことが散見されました。その多くがビジネスマナーであったので、口うるさく基本的なことは正してきましたね。たとえば、ミーティングで先方と対峙した際の姿勢や振る舞い。椅子の背にもたれる、肘をつく、気になるしゃべり方などです。
あとは、僕の中で良くないと思っているのは自分たちを「我々」と呼ぶこと。偉そうに聞こえますし、「私たち」か、あるいは「弊社」でいいだろうと。言葉遣い一つとっても、それこそ大手企業の年長者の方とお会いするときに、「我々」と若輩者が口にするのが気にかかるかもしれない。そういったことの積み上げが信用を作っていくので、蔑ろにしてはいけないんです。
前田:面白いです。基本の基本から入っていったんですね。
向井:基本すぎて忘れている人たちが多いようなことばかりです。でも、私たちはいずれ、エンタープライズの相手を目指していくわけです。その商談先は、日本でいえば大企業なんですよね。態度一つで、決まるものも決まらなくなるというリスクは、潰しておきたい。個人的には、“昭和のコミュニケーション”も手段として持っておくほうがいいと考えます。
チャーンレートを激減させた、CSとセールスの分離化
前田:他にもマネージャーとして、チームの数字達成のために行ったこと、中でもインパクトのあったことはありますか?
向井:CSとセールスの役割を明文化し、活動を分けたことですね。
たとえば、新規契約ができた後に、CSはLTVを長くするための定期的な活用支援とコミュニケーションを図る。一方のセールスはアップセルを取りにいこうとする。それぞれの活動は、実はコンフリクトします。
当時のApp Annieの組織はCSと営業が一つのクライアントに対して担当がそれぞれ付いていました。そうすると定例ミーティングで、CSが活用サポートの議題を話した後で、セールスが新しい機能を売り始める。CSからすると「定着もしていないのに次の売り込みをしないで」と思うでしょうが、セールスからすれば職務を全うしているだけです。
僕がマネージャーになって最初に手を付けたのは、この両者の動き方。まず、CSとセールスは一緒に動かなくてよく、それぞれの役割分担も明文化して決めました。
CSはお客さんのカウンターパートのメインで使っていただいている窓口の方と、その裏にいるユーザーの方々とコミュニケーションを取って、活用と定着にむけてとにかくサポートする。一方でセールスは別の部門、上層部、子会社といったところへ赴き、グループアップセルのような形で、収益を高めていく活動に専念する。
CSのサポートが効いて定着してくると、クライアントから次なる要望が上がってきます。そこでCSはセールスに対して、要望をもとにした提案を依頼する形でパスを出す。とにかく、いがみ合うことなく、お互いに気持ちよく働るような動き方に、ガラッと変えました。
セールスには「CSのサポートがあって、その契約が継続するからこそアップセルが実現できるんだ」と一人ひとりに話して、理解をしてもらって。感情的な返答もありましたけれど、絶対に分けて動いた方が効率が上がり、空気も良くなると信じていたので、ルールとして断行しましたね。
前田:細かいところですが、CSからセールスにパスをする目標数値は持たせましたか?
向井:いえ、持たせていないです。CSからすると、目の前でサポートしているお客さんから要望が上がった場合、それに応えないと満足度が減るわけです。ただ、売るのはセールスですから、パスが必ず渡るようにはなりますよね。
前田:なるほど。CSの仕事を全うしたら、必然的にパスの機会も生まれる。
向井:そこで気をつけなければいけないのが、CSとセールスがバラバラに動くので、お互いがシンクしておくことなんですね。当該アカウントに対しては、ウィークリーでの情報共有ミーティングをするようにしていました。
前田:そのシンクロが非常に大事だ、と。
向井:これ以外の働きかけもありましたが、App Annieは日本のチャーンレートが世界で最も低く維持できていましたから、一定の成果は出たんじゃないかと思っています。
プロダクト愛が深いほど、陥りがちな罠がある
前田:そして、向井さんはApp Annieから独立しました。今後の活動に繋がってくる考えやミッションは、どのように持たれていますか。
向井:2020年7月から独立起業して、BtoBセールスの領域でアドバイザーとして仕事をはじめました。それに際して、僕には大事にしているポイントが2つあります。
一つは、「東洋医学的な改善」をサポートすること。営業代行や目先の数字を作るための手助けは、誰か他の人に任せるとして……僕だからできる「属人化しがちな営業活動の本質を言語化し、実行できる状態にする」といった動きを通じて、東洋医学的に少しずつ企業の体質を改善していくことを望んでいます。
そして、どこかのタイミングで僕が不要になるのが理想ですね。お客さんが自走し、僕からインプットされた情報やインサイトを応用し、組織が勝手に強くなっていくように回してもらえたらベストです。
もう一つが、すぐ身近な人たちの幸せや成長に貢献すること。僕は外資系の営業畑で、10年以上もグロースにコミットし続けてきたので、僕の会社のグロースにはあまり興味がわかないんです。僕自身は安定していればよくて、一方でグロースにコミットしているクライアントに寄り添っていきたい。ビジネスのスケールは小規模になったとしても、その分濃度を上げていきたいですね。
ただ、この2つは根っこでは一緒だと思います。「自分の持っているものを使って、うまくいくことをサポートしてあげたい」といえます。
前田:間近で拝見して、向井さんのコーチングスタイルは素晴らしいとよく感じます。色んな会社のアドバイザーをする過程で、決まってテコ入れを始める部分はあるんでしょうか?
向井:今はそこも含めて、反応を見ながら進めているのが正直なところです。ただ、一つ挙げるとしたら、本質的なところを常に意識するようにしています。
「あるある話」をすると、志や熱量が高く、プロダクトに愛がある人ほど、主語が「弊社は」や「私は」と自分になりがちなものです。でも、対価を払って活用し続ける人たちからすると、プロダクトが生まれた経緯の美しさには興味がないんですね。ビジネスにもたらす価値と将来にむけた約束を、正確に理解してもらうほうが「買う理由」になる。
熱量が高過ぎて、自分たちのプロダクトが素晴らしいと思えば思うほど、商談の場で目の前のお客さんの課題や問題に寄り添えないようなことが起きがち。だから、本質的には「主語は買い手だ」と常々言うようにしています。そこはスタンスとしてブラさずにいますね。
「価値」や「課題」といった言葉を、まず正確に定義する
前田:他に向井さんがよくされるアドバイスはあります?
向井:価値や課題という言葉を正確に理解しましょう、と。
便利な言葉で口にしやすいですが、それぞれの定義や意味を問うと、人によって異なる答えになりやすい。特に同じ会社のなかで、それらが違うのは大問題だと思っていて。言葉の定義はとても大事だと捉えていますから、まずは「御社の中では、“課題”をどういった定義で使っていますか?」と話すようにはしています。
要は、ビジネスの世界でスムーズにコミュニケーションが取れるようにしたいわけです。そのためには、使う言葉の定義は揃えた方がよく、商いがどういうふうに行なわれているか、といった本質を見失わないようにしなければいけません。テクニックやメソッド、フレームワークといったプロセスにたどり着くのは、その後です。
前田:なるほど。たしかにそのあたりを固めてから戦術へ進むのが大事ですよね。
向井:リードナーチャリングやカスタマーサクセスという言葉はみんなが知っていても、それを本当に自分たちに適用すべきなのか判断が付いてないケースも多いです。だから僕からすれば、例えば2000くらいのハウスリードがある状態ではインサイドセールスなんか要らないですよ、と言ってあげなきゃいけない。
それより前にすべきことは、オーガニックでもなんでも構わないから、例えば月に安定して1000以上、年間1万を越えるような、定期的かつ大量なリードを獲得する状態をつくること。
その状態であれば、リードスコアリングをして、インサイドセールスが捌きながらコミュニケーションを取らないと溜まっていく一方ですから、初めて「効率化」が正義になる。そういった順番が逆になっているケースも、多いんじゃないかなと思っています。
これは先ほども話したように、僕一人がマーケティングからCSまでやっていた経験があるのも大きいです。「そもそも分業する必要ある?」というスタンスは常に持つようにしていますね。
前田:耳が痛い話です……!
向井:営業のマインドでも、SMB、ミッドマーケット、エンタープライズと明確に分け過ぎている気もしていて。極論を言ってしまうと、セールスとマーケティングにおいては、toCもtoBも本質は同じではないかと。結局、人と人の商売ですから。
大手企業も中小企業も、セールスもマーケも、根っこは「誰に対して、どんな行動変容と意識変容をしてもらって、購買に繋がるジャーニーに乗ってもらうか」は一緒なんですよね。その「相手は誰か」を忘れないようにできれば、初めてエンタープライズを攻めていくとしても、これまでのやり方を踏襲すればいいだけのことも多い。
あまり難しく考えず、「結局のところは人だ」と忘れないようにしてもらえたら、より良くなるんじゃないでしょうか。
いつも拠り所になるには「商いの基本」
前田:急成長したSaaS企業を早くマネしたくなるのは、僕でも罠にハマりやすいなと感じています。そこを先急ぐと、落とし穴がある。
向井:そう思います。だから僕のアドバイスは、即効性のあるテクニックというよりは、本質の理解からくる体質改善になるわけです。言葉の分解から、丁寧にしていきたいですね。
本やメディア、イベントなどを通じて、世の中にはセールスに関する情報がものすごく増えてきています。「何が正しく、何をしたらいいのかわからない」と思う状態は、この先も永遠の課題として続くんじゃないかなと思っています。
最近なら、オンライン商談のTipsとかマナーとか、そういった情報もチラホラと目に付くようになってきましたが、この世界に絶対な正解はありません。
では、何を拠り所にするか。それこそ、商いは人と人で行なわれているという本質です。
受け取る側の相手は、企業規模を問わずに「人」なので、その人にどうあってほしいか。それが、相手に対して興味関心を起こし、寄り添うスタンスを生む、とても大事な一歩目になると思います。特にSaaSは長期的なコミュニケーションで信頼関係を築かなくてはなりません。耳障りの良い小手先のテクニック的な情報に惑わされ過ぎずに、常に相手は人であることを忘れずに仕事をしてもらいたいです。
前田:向井さんがALL STAR SAAS FUNDのアドバイザーになってくれたことで、実際に支援先からも「感謝や賛辞の声」が多く届いていて、ありがたい限りです。
向井:とんでもないです。
前田:僕らのファンドに参画しようと思った理由を聞いてもいいですか。
向井:まずはヒロさん自身が、10年、20年、30年、ないしは50年続く、日本のSaaS企業という目線で物事を考えているVCだということ。僕が外資系の日本法人を渡り歩いたのも、世界中で価値を発揮しているプロダクトを、日本に提供するという役割に惹かれたからです。それが日本発のSaaSで実現できるならベストじゃないですか。
日本発のグローバルナンバーワンサービスを、さらに日本の企業が活用して価値を享受するような一端を担えるなら、これほど嬉しいことはないな、と感じて参画を決めました。
前田:今回は名言が数多く聞けたと思いますし、向井さんがなぜ信頼されているのかを、よく理解できるセッションになりました。本当にありがとうございます。