SaaS起業家やSaaS企業に投資・支援を行なうベンチャーキャピタル「ALL STAR SAAS FUND」では、国内外の情報を常にウォッチし、最新の動向や優れたノウハウを収集・発信しています(この「ALL STAR SAAS BLOG」も情報発信の場の一つです)。
日々の動向や注目すべきポイントについては、毎週の「SaaS Weekly」という連載記事でも配信しています。現在は「AIの話題抜きにはSaaSは語れない!」と、タイトルも「SaaSxAI Weekly」に改めていますが、国内外の良質な記事の紹介や、海外メディアのコンテンツの一部を日本語訳するなどしています。こちらも併せて、ぜひウォッチを!
さて、今回はそんな「SaaS Weekly」の特別版ともいえる、2024年を通じての「今読むべき/知るべきトレンド」について、ALL STAR SAAS FUNDの投資チーム3人がコメント付きでピックアップしました。
担当はマネージングパートナーの前田ヒロ(@djtokyo)、シニアパートナーの湊 雅之(@saas_junkie)、パートナーの神前達哉(@tatsuyakozaki)です。特に注目に値する「AI投資」と「バーティカルソフトウェア」から考察します。
<1>:AI投資
前田ヒロ「Coatue EMWカンファレンス2024:テクノロジー市場の展望とAI革命」
米投資ファンド「Coatue」は、ニューヨーク、ロンドン、香港といった5つの拠点を構え、200社を超えるテクノロジー企業のポートフォリオを持つ有力企業です。そのCoatueがスタートアップ・カンファレンス「East Meets West(EMW)」を毎年開催しており、彼らの動向は参考になる点がとても多いです。
2024年度のカンファレンスで、Coatueが行なった「市場動向」プレゼンテーションでは、パブリック市場(公開市場)の回復力と、“変革をもたらす力”としての人工知能に焦点を当てた、現在のテクノロジー業界の包括的な分析が提供されています。
このプレゼンテーションでは、パブリックおよびプライベートのテクノロジー市場に関する貴重な洞察を提供し、次のスーパーサイクルとしてのAIの可能性を探求するとともに、ユニコーン企業の現状を検証。さらに、米国市場でのIPOを目指す企業に求められる要件についても詳しく説明しています。
このプレゼンテーションは、投資家、起業家、テクノロジー専門家にとって特に注目に値するでしょう。Coatueが持つ市場への深い専門知識と、マクロ経済トレンドに関する将来を見据えた視点が組み合わされた内容です。進化するテクノロジー投資の展望とAI主導型経済における次なる機会を理解するための重要なリソースとなっています。
記事はこちら:Coatue’s 2024 EMW Conference
前田ヒロ「テックリーダーが語るAIビジネスの真髄」
独立系VCポッドキャスト「The Twenty Minute VC(20VC)」による、著名なテックリーダーであり起業家のBret Taylor(ブレット・テイラー)氏を招いた回は必聴です。彼との深い対話を通じて、AI技術の現状と未来、そして彼の会社であるSierraと広範なAIの展望について議論が展開されています。
ブレット・テイラー氏はGoogle でキャリアをスタートし、Google マップを共同で作成。その後はFacebookのCTOやSalesforceのCo-CEOを歴任し、現在は企業向けの会話型AIプラットフォーム「Sierra」のCEO兼共同創業者を務めています。
このポッドキャストでは、AIのビジネスモデル、AIエージェントの概念、消費者インターフェースの進化、そしてマーク・ザッカーバーグなどのテック業界リーダーとの協働や影響力のある取締役会の経験から得られた洞察など、重要なトピックをカバーしています。
起業家、テクノロジスト、ビジネスリーダーにとっては特に価値があると感じます。なぜなら、AIの実装方法、自動化と人間の相互作用のバランス、そしてAIを活用したソリューションの構築に関する実践的な洞察を提供しているからです。
ブレット氏の豊富な経験と、AIの技術的側面とビジネス的側面の両方に関する深い分析は、AIがこれからの数年で「ビジネスオペレーションと消費者体験をどのように再形成していくのか」を理解したい方々にとって、必聴のコンテンツとなっています。
Youtubeはこちら:Bret Taylor: Why Pre-Training is for Morons & Companies Will Build Their Own Software | E1209
湊 雅之「AIファースト企業として勝つための6つの必須要件」
AIと大規模言語モデルの進化により、ヘルスケアやリーガルなど、業務フローが複雑な業界で、従来のSaaSでは解決できなかった問題に着手できるようになりました。今後、SaaSとAIをうまく組み合わせた新たなプラットフォーマーを生み出す大きなチャンスが到来していると言えます。
では、業種・業界に特化したプラットフォーマーが勝つためには、どのような要件が必要なのでしょうか?アメリカの老舗VCで、名門の一つにも数えられる「Bessemer Venture Partners」が提起したこの記事では、業種・業界特化のSaaSスタートアップが、どのようなデータ獲得戦略を取るべきかを解説。具体例を踏まえて、AI企業として圧倒的なポジショニングを築く上での重要なポイントが見えてきます。
記事はこちら:Six imperatives for AI-first companiesSix imperatives for AI-first companies
湊 雅之「マルチモーダルが解き放つバーティカルAIの新たな可能性」
従来のSaaSやAIの多くは、テキストベースが主流でした。一方で、ビジネス上の業務は、お客さまとの対話や複雑な画像やグラフデータの推論など、非テキストベースの情報を介して行われます。AIの進化により、この構造・非構造データの活用が急速に進むようになりました。特に人手不足が今後さらに深刻化する日本においては、従来のSaaS・AIでは成しえなかった高度な省人化・無人化を実現する可能性を秘めています。
「Bessemer Venture Partners」による記事では、音声や画像などのマルチモーダル活用バーティカルAIのユースケースを解説しています。
記事はこちら:Part II: Multimodal capabilities unlock new opportunities in Vertical AI
神前達哉「AIの普及とSaaSのプライシングへの変化」
アメリカの投資会社「Altimeter」に勤めるJamin Ball(ジャミン・ボール)氏は、SaaS企業に関する週次データを分析し、ニュースレター「Clouded Judgement」を運営しています。彼が「Is Seat Based Pricing Dead?」のタイトルで配信したレターが参考になりました。
歴史的に、クラウドソフトウェアビジネスは、ユーザー数に基づいて定期的な料金を請求していました。しかし、AIのビジネス活用が普及する中で、AIによって、「より少ないリソースでより多くのこと」が実行できるようになったことは、プライシングモデルに大きな影響を与えます。
つまり、1ライセンスあたりの利用価値が増大するとACVが圧迫され、利益率が低下していくのです。例えば、ZendeskはAIボットによって完全に解決された自動チケットの数に基づいた価格設定をすでにスタートさせています。
記事はこちら:Clouded Judgement 6.14.24 - Is Seat Based Pricing Dead?
神前達哉「OpenGovの18億ドルでの買収から学ぶ、バーティカルSaaSの成功則」
自治体向けに会計、計画、予算編成、市民サービス、および調達などのSaaSを提供する「OpenGov」が、Cox Enterpriseに18億ドルで買収されました。買収までに12年という期間を費やしていますが、そのアプローチを見るとバーティカルSaaSのPlaybookにおける重要なポイントが明かされたと言えます。ここで書かれていることは「バーティカルSaaSの成功則」に挙げられるでしょう。
バーティカルSaaSはマルチプロダクトかが全てであり、OpenGovもご多分に漏れず、そのスイートを拡張していきました。さらに非連続な打ち手として買収も積極的に実施。調達プラットフォームのProcureNowや資産管理SaaSのCartegraphなどがワンストッププラットフォームの確立に一役買っています。
記事はこちら:#062: OpenGov Acquired for $1.8B, Building SaaS For Law Firms, Average Churn Rates
<2>:バーティカルソフトウェア
前田ヒロ「バーティカルSaaSバイアウト:産業変革への新たな投資略」
AIソリューションを提供する「AltaML」のシニア・アナリストであるEvan Lyseng(エヴァン・ライセング)氏は、ニュースレター「Cautious Optimism」を運営しています。
Cautious Optimismで発表された「Turning Customers into Investments」という記事では、従来の産業を変革する可能性を秘めた新たな投資戦略「バーティカルSaaSバイアウト」について探求するなど、インサイトに富んでいます。
この記事では、ホリゾンタルSaaS市場が飽和状態にある一方で、特に従来からテクノロジー導入に消極的だった業界における、業界特化型のソフトウェアソリューションには「大きな未開拓の可能性がある」と論じています。
著者は2つの主要なアプローチを提示しています。一つは、事業運営会社を買収する前にテクノロジーを開発する「ソフトウェアファースト」アプローチ。もう一つは、ソフトウェアソリューションを実装する前に従来ある企業を買収する「オペレーターファースト」アプローチです。
この記事は、MetropolisやElectric Sheep Roboticsなどの具体的なケーススタディを用いながら、ソフトウェア投資機会について新鮮な視点を提供し、このハイブリッドアプローチの課題とリスクについても慎重に検討しているため、お勧めです。特に、従来型のベンチャーキャピタルとプライベートエクイティの投資モデルの架け橋に関心のある起業家や投資家にとって、非常に価値のある内容となっています。
記事はこちら:Turning Customers into Investments
湊 雅之「マルチモーダルが解き放つバーティカルAIの新たな可能性」
従来のSaaSやAIの多くは、テキストベースが主流でした。一方で、ビジネス上の業務は、お客さまとの対話や複雑な画像やグラフデータの推論など、非テキストベースの情報を介して行なわれます。
AIの進化により、この構造・非構造データの活用が急速に進むようになりました。特に人手不足が今後さらに深刻化する日本においては、従来のSaaS・AIでは成しえなかった高度な省人化・無人化を実現する可能性を秘めています。
「Bessemer Venture Partners」による記事では、音声や画像などのマルチモーダル活用バーティカルAIのユースケースを解説しています。
記事はこちら:Part II: Multimodal capabilities unlock new opportunities in Vertical AI
神前達哉「バーティカルSaaS×ロールアップ戦略」
バーティカルSaaSがステークホルダー向けにプラットフォームとして拡張していく戦略の中で、ソフトウェア開発で得た知見を踏まえて、実業を買収し、ロールアップしていく戦略が国内外でも増えてきました。
10年以上にわたってバーティカルSaaS企業へ投資を続け、この領域を志す起業家にナレッジ提供や支援を行なう「Tidemark」が、ロールアップのあり方についてまとめた論考は、この戦略に対する良い補助線になってくれるでしょう。
記事はこちら:Are Tech-Enabled Vertical Roll-Ups the Future or the Past?