シリーズBラウンドで総額4.5億円を調達したことも話題となった、日本のキャリアSNS「YOUTRUST」。マッチングに限らず、働く人の可能性を広げる「キャリアSNS」としての進化を続けています。
「メンバーのみんなが毎月の売上も伸ばしてくれていますし、キャリアマッチング事業としてはPMFしたと感じています」
そう話すのはYOUTRUSTの創業者で代表取締役CEOの岩崎由夏さん。新卒でDeNAへ入社し、新卒採用や中途採用の現場、子会社出向での経営企画などを経験します。
「中途採用担当が最も長いキャリアなのですが、私が担当していた当時はダイレクトリクルーティングのツールがまだなく、エージェントさんがメインの転職チャネル。ただ、彼らのビジネスモデルが転職者の年収をベースにした成功報酬のため、転職者本人の意向よりも紹介先企業の利率の大きさに誘導されてしまうシーンも多く見てきたんです」
その後、自身も転職を検討し始めた頃、エージェントから出された求人票を見て、人事畑にいた岩崎さんは提示された先が「フィーが高い会社」ばかりであることに気づきます。この環境を前向きに変えるには、自ら会社を興して事業を作り、求職者にとってフェアな転職チャネルを作ればいいのではないか。その考えを元に、YOUTRUSTを創業。
人材の流動性を高め、「日本型キャリアをゲームチェンジ」する存在として期待のかかるなかで、すでにYOUTRUSTを通じた転職や副業も進んでいます。今回は岩崎さんに、それらの経験や現況をもとに、副業をうまく活用している会社の共通点や、副業でジョインした候補者を本採用に繋げていくための心構えを教わりました。
情報量に差がある会社は馴染みにくい
──岩崎さんが客観的に見て、「副業採用がうまくいっている会社」に特徴はありますか?
岩崎:副業を「採用チャネル」と認識して設計されている会社さんは上手ですね。よくある失敗パターンが、「副業ではなくて転職してほしい」と働きかけてしまうこと。成功パターンの方たちは、副業中は普段のコミュニケーションから「私はあなたと一緒に働いていきたい」と言い続けたりもしています。「転職を見据えて、副業に誘う」というか(笑)。
ハウツー的な観点では、情報がオープンな会社だと副業の方も馴染みやすいですね。副業が成り立つのは、裏返すと自分の実力にも一定の自信がある、言わば「仕事ができる人」。解くべきお題や情報を渡されれば、自力で解決できる人たちです。
そういう人に「あなたは副業なので情報はここまでしか渡せません」と線引きしてしまうと、副業している方からすれば、実力を発揮しづらくなって面白くないんですよね。
──確かに情報量が違えば課題の特定に時間がかかりますし、どれだけ貢献できるかの見通しも変わってきてしまいます。
岩崎:強い人であればあるほど、ただ情報を渡して動いてもらうほうが楽しんでもらえます。「この会社で自分はこれをやるべきだ」「この会社は自分が助けなきゃ」と思ってもらえたら、良いループが生まれるはずです。
──以前にログラスの坂本龍太CTOにスカウト戦略を伺った時に「自分たちの困っている姿を見せたほうがいい」とおっしゃっていて、親しい話だと感じました。
岩崎:すてきですね!おっしゃるとおりです。
──ただ、「弱み」や「困った姿」を見せるにしても、企業側が自分たちの課題や情報を整理しておかないと、うまくいかないような気もしました。
岩崎:そうでしょうか?私は全然、整理なんかできていなくていいと思っていて。そもそもスタートアップなんて、情報整理ができる日は一生こない気もします(笑)。カオスであることを前提にそのまま見てもらって、その状況が楽しめないようなら、きっと性に合っていないのかもしれません。そういう方なら、割り切って業務に邁進してもらえばよくて。
でも、人間は誰しもが頼られたり、全部見せてもらったりして、嫌な気は持たないように思います。「ありのままを見せます」というスタンスに嫌悪を抱くことのほうが少ないはず。YOUTRUSTでもそのように取り組んできましたが、これまで「失敗した」と感じることはなかったです。
──特にリファラル採用だとすれば、飾らない自分たちを見せるべきですしね。
岩崎:YOUTRUSTは私自身が転職活動をした時に「欲しかったもの」を作った、というのが前提にあるサービスです。正直に言うと、転職を考えた時、社外の信頼している友人たちから誘ってほしかったんです。「今さら履歴書や職務経歴書を書いて、猫をかぶって面接受けに行くのも気が引けるなぁ」と……。
とはいえ、Facebookに「転職を考えています。私を欲しい会社はありますか」と書くのも、さすがに元職場の方に迷惑をかけたり、要らぬ憶測を生んだりしてしまうと感じて、それでどこにも気持ちを表せずに悶々としてしまったんです。
それなら自分でサービスを立ち上げてみよう!と。社外の信頼してる友人へ転職意欲や副業意欲を伝えられ、相手から「転職を考えているなら、うちに来てよ!」と声をかけてもらえる世界を作りたかった。今は「日本を良くしたい」「人材の流動性を上げたい」と広く日本にとって「善」なことをしようと事業を進めていますが、実はそういう個人的なモヤモヤが起業の出発点でした。
日本でもリファレンス文化は広がっていく
──従来の転職によるキャリア形成は履歴書や職務経歴書を通して自らを伝え、時にエージェントに代弁してもらうのが常套手段だったわけですが、将来的に「キャリアの伝え方」として期待できる動き、伝達手段に起きる変化をどのように考えますか?
岩崎:特にインターネット業界は変化が起きているとは感じますが、やはりリファラルは重要ですよね。履歴書とか職務経歴書には出てこないような特性や強みが決め手になり得る。たとえば、「この人がいるだけでチームの士気が上がる」とか。逆もしかりで、「経歴はピカイチだけれど周りとの相性を考慮すると、自社が最適解ではない」という人もいたり。
今後は、そういった履歴書や職務経歴書に出ない特性や強み・弱みが、もっと重視されていくのではないでしょうか。「back check」さんといったリファレンスチェックサービスも出てきていますが、そもそも欧米ではリファレンスを取られるのも当然の世界。人材流動性が上がれば共通の知人も増えますし、日本でもリファレンス文化は広がっていくはずです。
それに、履歴書に人事の経験しかなければ、営業に配置しようとは考えにくいものですが、人となりをわかっていれば「案外セールス向きだよね」といった転換は起こりえます。個人としても採用側としても、それによって前向きに変化できるのは良いことです。
──確かにアーリーなスタートアップになればなるほど、「ポジションにハマらない仕事」が出てくるものです。パーソナルな強みやユニークさの理解があれば、フィットしたポジションを渡せる可能性も上がりますね。
岩崎:スタートアップ初期は全部やらないとなりませんからね。ユーザーインタビューも、セールスも、採用も、ファイナンスも……そういうアーリーステージにおいては、スキルよりも「臨機応変さ」が欲しい。でも、それって履歴書には出にくいんですよ。
正社員も副業も同等のスタンスに
──YOUTRUSTで副業に携わってもらった人に、その後に入社も検討してもらうために続けている工夫や、あるいは大事になってくるポイントはありますか?
岩崎:体験設計には力を入れています。「採用選考のステータス管理」に近いような取り組み方です。ジョインして1週間は「要ケア週間」として誰とコミュニケーションを取っているかをチェックして、2週目にはコミュニケーションの変化からチームに打ち解けてきた様子を見て取り、第3週も……というように、チームメンバーとの関わりをウォッチします。
──なるほど。そこで大事になるのは、副業の方をどういった認識で会社として受け入れるのかを、事前に取り決めておくことではないかと考えます。もしそうならば、YOUTRUSTでの捉え方を教えてください。
岩崎:雇用ステータスを気にしないのが最重要です。先ほど、よくある失敗として情報量の線引きを挙げましたが、同じように「正社員だから/副業だから」といった線も引かれがち。そうではなく、全員が同レイヤーのメンバーであるという扱いをすること。副業中の人もお客様扱いをされると、やりたい放題は動けなかったり、忖度しちゃったりする。
その人が持つ本来の力が見えなくなりますし、なおかつ本人としても楽しくないですよね。YOUTRUSTとしては、NDAをもちろん結んだうえで、副業であっても正社員と同等の情報アクセス権限をお渡ししています。コミュニケーションとしても「全社会議」といったものにも参加してもらう。同等の情報を同等のスタンスで渡すのが大事ですね。
──細かく制限するのではなく、本当に全てをオープンにすると。
岩崎:そうですね。「もう全部見せるから助けてほしい!」というスタンス(笑)。
これは会社カルチャーの作り方にも関わりますが、現時点ではYOUTRUSTの社員で副業を経ずに入ってきた人はいません。自分自身が副業出身者であるからこそ、私よりも「副業で働くこと」という心情がよくわかっているはずです。そういった会社の成り立ちや系譜の影響があるかもしれません。
「レジュメは本人のことを10%も表現できていない」
──中途採用をメインとすると、優秀な方や頭が切れる方などにたくさんお会いすると思いますが、岩崎さんは他のインタビューで「優秀さ」の定義を「信頼される人」とおっしゃっていました。どういう経験から、そのように思われたのでしょうか。
岩崎:具体的な経験があったというよりは、経験の“チリツモ”ですね。前職時代に一緒に働いていて、一生モノの仲間になった人たちって、人材業界で一般的に言われる「レジュメがきれい」な人ばかりではないんです。元飲食店の店長、結婚後に派遣社員を経ている、職務経歴書だけ見ればジョブホッパー……みたいに。
でも、仕事はものすごくデキますし、誰もが一緒に働いていて気持ちが良く、その人がいるだけでチームが一つになれる。そういった人たちを間近でたくさん見てきていて、「経歴だけで人を測ることなんてできない」と思えたのが、私にとっての原体験です。未だに彼らとは家族ぐるみで仲がよかったりもしますし。
「レジュメに書いてあることは、実はその人の10%も表現できていないのではないか」と自分自身が採用を担当していて、なおかつ自分のチームでも人を受け入れて、すごく思うところがあったんです。だから、残りの90%をYOUTRUSTで表現できるのではないか、と。
──それらを表現するために、YOUTRUSTにはどういった機能を搭載していますか?
岩崎:「紹介コメント」はその一つです。自分自身ではレジュメに表現できないことを他者に書いてもらえます。たとえば、「岩崎はうそをつかない」とは私自身ではレジュメに書かないじゃないですか(笑)。
でも、周囲の人や関係者からのエピソードを集めると、「確かに岩崎さんはうそをつかない」という安心感や信頼が生まれやすい。これはリアルでも同じような流れですが、インターネット上でも通用すると考えています。mixiにも似たような機能がありましたね。
レジュメだけ見るとよくわからなくても、共通の知人から「会えばいいと思いますよ」と言われたら、一度は会ってみようとなる。つまり、自分が信頼してる友人からの紹介は、候補者の重要な情報に変わるのです。そこは今まで転職においてロスしていた機会なのではないかと考えています。
こういった一つずつの機能を活用して、これまでレジュメでは弾かれていたかもしれないようなご縁が生めるのではないか、とサービスを作っています。
──その世界観で生まれる新しい出会い、すてきですよね。
岩崎:<yellow-highlight-half-bold>「信頼とは何か」というと、未知に対して橋を架ける情報<yellow-highlight-half-bold>なのだと思います。友達がおいしいと言っている、口コミが非常に良い、という情報によって、私たちは知らないお店にも飛び込みやすくなる。
採用も同じです。知らない人を採用するのは怖いから、従来は「東京大学卒」や「元マッキンゼー」みたいな要素が貴重な信頼情報だった。でも、これからはそれでは測れない、その人をもっと表現できる「良さ」が信頼情報になる。ただ、その情報はこれまでデジタルには載ってこないままで、個々人の感覚のなかに記録されてきました。
それらのデジタルではない情報をYOUTRUSTに載せ、それによって安心してご縁が広げられる場所を作りたいですね。何より、自分たち自身が信頼される人であることは常に意識しています。「YOUTRUST」という名前を持つ以上は、「中の人」が信頼できないようなことはあってはならないし、私たちもそれに足る存在であろうとしています。
「日々楽しく使う体験」から人生が変わる影響を
──今後、YOUTRUSTが目指す世界観やサービス観の展望は?
岩崎:ざっくり言うと、転職エージェントさんたちよりも大きなチャネルを作らなければなりません。そこで、転職や副業をすでに検討中の人、あるいは潜在層の人にも使っていただけるようにする。それこそ、日本で働くデスクワークの誰もがYOUTRUSTと接点を持っている世界にしなければならないと思っています。
その目的のためにSNSを志向しています。海外ではLinkedInが担っている部分ですが、日本ではまだそれほどの広まりはありません。普段からキャリアを考え、信頼を蓄積し、マッチングが生まれるようなSNSを作っていきたいですね。
──「キャリアのSNS」は、岩崎さんはどういったものをイメージしていますか。
岩崎:いわゆる「意識が高い」とか、「頑張って発信せねばならない世界」とかいうよりは、楽しんで使っているのが最も良いのかなと。
TwitterやInstagramも、大半の人たちが目的を持っては使っていないはず。単に「楽しいから」や「友達とつながってる感覚があるから」が使う理由で、それなのに人生に何かしらの影響がもたらされている。
そういう意味でYOUTRUSTも、「キャリア」だからといって形式ばったり、張り切って猫をかぶったりするのではなく、楽しくて使っているうちに「すてきな人や会社と出会えました!」みたいになりたいです。すこし堅い言い方をするなら、自分がその職場にいる意味を考え、自らの存在意義も考えるような場になれたらいですね。
──岩崎さん自身が注目しているトピックや興味はありますか?
岩崎:私自身はジェンダーに関心がある人間です。自分自身も女性で起業家ですから、日本ではまだ珍しい存在。本当の意味での「男女の機会の均等」は全然まだですから、自分自身もいろいろな経験をしてきて、YOUTRUSTとしても貢献できるところがあるのではないかと思っています。
ただ、これは人生としての個人的なコミットですね。次の世代には、自分たちと同じような思いはさせたくないと思っていて。まずは自分がロールモデルになるためにも、YOUTRUSTを成功させて、「普通」の私だって大成功できる!というのを証明したいですね。
──その姿は誰かの勇気になりそうです!
岩崎:それなら嬉しいです。そこから、「自分でもできるかも」と思ってくれる人が増えるといいなって思っています。
──その考えも、YOUTRUSTにすごく注入されていますね。
岩崎:そうですね。ロールモデルって、何も「あの人になりたい!」という強い憧れだけではありません。「自分と似たような大学出身」「似たようなジェンダー」「同じ地元の出身者」みたいな近しい点もきっかけになります。その人が成功すれば「私もできるかもしれない」と思いやすくなります。
逆もしかりで、似たような社会的ロールの人が華々しくなっていないと、「自分も無理かな……」と刷り込まれてしまう。だからこそ、今までに「大成功した人たち」というジャンルにはいなかった私のような属性の人間が、大きな成功を収めたことを背中で表現できたら、「私も!」って思えるかもしれない。そんなことを勝手に妄想して生きています(笑)。