皆さんは、Snowflake(スノーフレーク)というSaaS企業をご存じでしょうか?SaaSに関わる方や株式投資をされている方であれば、一度はこの会社の名前を聞かれたことがあるでしょう。
Snowflakeは、2020年9月に米NASDAQに大きな驚きと共に上場しました。その逸話の1つが、ハイテク株、特にIPO株を嫌煙する伝説の投資家ウォーレン・バフェット率いる、あのバークシャー・ハサウェイがSnowflakeのIPO時に$250M(当時の為替レートで約260億円)を投じたことです。しかし当時のSnowflakeは、粗利率60%足らずの赤字企業。それでもSnowflakeは伝説の投資家をも動かしたのです。
そんなSnowflakeのCEO Frank Slootmanさんが、2022年11月17日開催「ALL STAR SAAS CONFERENCE 2022」に登壇決定!
ちなみにFrankさんの経歴について、少しだけ。1社目のData Domainは数千億円規模でイグジット、2社目のService Nowは10兆円の評価がつき、そして現在はSnowflakeのCEOと、シリコンバレーで指折りのプロ経営者の一人といっても過言ではありません。
この記事では、生きる伝説とも呼ばれるSnowflakeの成長の要因について解剖します。
(著・湊 雅之)
クラウド化の時代、“センターポジション”を抑えたSnowflake
Snowflakeは、クラウド時代にあったデータ活用をワンストップで実行できる、データウェアハウスを提供するSaaS企業です。従来のデータウェアハウスに比べて柔軟性が高く、AWS、GCP、AzureなどのIaaS上で動作することがユニークなポイントの1つと言えるでしょう。
現代の企業は、ECサイトのようなウェブ、IoT、クラウド、古いオンプレミスソフト等、それぞれに膨大なデータを抱えています。これらのデータをビジネスにどう活かすかが生命線ですが、それぞれのデータは、さまざまなシステムの間でサイロ化されているため、適切なデータ分析を行なうことが困難とされていました。
この問題を解消できるのが、Snowflakeの強み。これらをクラウド上で集約し、企業にとっての唯一信頼できる情報ソース(Single source of Truth)を構築することができるのです。
また、そこからデータを活用するところでもSnowflakeは力を発揮します。
Snowflakeは、高速のデータ分析を実現する上で、計算とデータのストレージを完全分離した独自のアーキテクチャーを構築。結果、複数のワークロードを大規模で並列処理することできるため、膨大なデータを高速で処理できる、というワケです。
つまり、Snowflakeは「全てのデータがクラウド化」する時代に合わせて、企業が簡単、安心、高速にデータ分析を行なうための企業の「中央データシステム」のような存在と言えます。
また、Snowflakeのユニークな点は、クラウドデータウェアハウス業界の先駆者として、Amazon、Google、Microsoftのような大手テック企業とも闘い続けている点にあります。Snowflake創業後の2013年にAmazonがSnowflakeの競合プロダクトであるRedshiftをローンチして以降、常に大手テック企業の脅威にさらされてきました。
しかしSnowflakeは、特定のクラウドに依存しない、スイスのような中立的な立場でユニークなポジションを築き、業界内で高いブランドを構築することで、この厳しい闘いを乗り越えてきました。大手テック企業も参入してくれたお陰で、急速に市場が広がったことが、Snowflakeが急成長できたとも言えるかもしれません。
ステージに合わせて戦略的にリーダーを選ぶ、ユニークかつ柔軟な経営
さて、次はSnowflakeが生まれた歴史についてフォーカスしましょう。
Snowflakeは、2012年夏にアメリカ・カリフォルニア州サンマテオで産声を上げました。当時オラクルで働いていた、2人の仲の良い、ベテランフランス人エンジニア Benoit Dageville(現President of Products)とThierry Cruanes(現CTO)と、その後、オランダのデータベーススタートアップの共同創業者だったMarcin Zukowskiの3人が中心となって設立されたスタートアップです。
3人は「クラウドネイティブなデータウェアハウスをゼロから創る」という大きな夢を持っていました。BenoitとThierryは、オラクルでレガシーアーキテクチャーの開発に携わっており、当時注目されていたHadoopの欠点を理解していたことが背景にはあります。このYouTube動画で2人がSnowflakeの創業ストーリーを語っていますので、ご参考まで。
Snowflakeがとても興味深い点が、3人の創業者が、創業から現在に至るまで一度もCEOになったことがない、ということです。初代CEOは、Snowflakeの創業に関わった、最初の投資家であるSutter Hill VenturesのMike Speiserです。最初の2年間(2012-2014年まで)として就任していました。
その後、マイクロソフト元幹部Bob Mugliaが2代目CEOに就任。2014年から上場前の2019年5月まで着任しました。その後Snowflakeの上場に向けて、米有数のSaaS上場企業ServiceNowのCEO職から引退していたFrank Slootmanが3代目CEOとして就任し、現在に至ります。
Snowflakeはステージに合わせて、適切なタイミングに適切なリーダーを戦略的に選ぶことで、驚異的な成長を維持してきた異例の企業と言えます。
5つの数字で見るSnowflakeのスゴさ
さまざまな観点から見ても、異次元と呼ぶにふさわしい。時代の潮流を的確に捉え、そして戦略的かつ柔軟な経営を続け、成長してきたSnowflake。そんな同社のCEO、Frank Slootmanさんが11月17日、ALL STAR SAAS FUND主催「ALL STAR SAAS CONFERENCE 2022」に登場します。ここからは、当日のセッションをより深く理解できるようにSnowflakeのスゴさを示す5つの数字をもとに予習していきましょう。
(1)米ソフトウェア史上歴代No.1のIPO
まずSnowflakeが「伝説」と言われる1つの理由が、米ソフトウェア史上で最も大規模なIPOだったためです。Snowflakeは2020年9月16日に米NASDAQ市場に上場しました。当初の株価は、75~85ドルで予想されていましたが、120ドルで公開されました。初日の取引で株価は、300ドルまで急騰しました。これにより、時価総額は$75B(当時の為替レートで約7.8兆円)に迫りました。Snowflakeは公開初日に時価総額が2倍超になった、史上最大の企業となったのです。
それだけではありません。IPO時にSnowflakeは$3.4B(約3,600億円)を調達しました。このIPO規模は、SaaSを含む全てのB2Bソフトウェア史上歴代No.1。TwitterやLyftすら上回る、歴代のテックIPOとしても6番目に大きい規模です。
歴代No.6だったら、そんなに大袈裟に言うことないんじゃないか?と思われる方もいるかもしれません。しかし、この事実は、現在に至るまでのSaaSブームを加速させる契機となる一大ニュースだったのです。
出典:Reuters 写真:Brendan McDermid
(2)現在に至るまで全SaaS上場企業でNo.1のマルチプル
華々しい米ソフトウェア史上最大のIPOという記録を残したSnowflakeの快進撃は、現在も続いています。2022年現在のテック株がクラッシュした状況(2022年10月14日時点)においても、Snowflakeは18.5xという、全ての米SaaS上場企業の中で、最も高いEV/Revenueマルチプルをつけています。現在においてもその存在感は突出しています。市場がクラッシュする前の2021年11月には、一時85xを超えるEV/Revenueマルチプルをつけていました。
(3)ARR$100M達成後の高成長を支える、異次元のNRR
Snowflakeが市場から高い評価を受ける最大の理由が、ARR$100Mを超えた後にも高成長を続けている点です。直近12ヶ月間の業績でも、売上$1,638M(2022年10月15日現在の為替レートで約2,400億円)でYoY+92%という、この売上規模では異次元の高成長を維持しています。
この大規模×高成長を維持しているエンジンは、Net Revenue Retention(通称NRR)の高さです。Net Dollar Retention(NDR)とも言われます。NRRは、既存顧客からの追加受注や減約などの受注金額が1年間でどの程度変化するかを表すSaaSの重要指標の1つです。
特にSaaSでは新規顧客獲得より、既存顧客からの追加受注を取る方が営業効率が良く、将来の利益創出がしやすくなるため、規模が大きくなるととても重要になります。
110~120%で非常に優秀と言われるSaaSのNRRにおいて、Snowflakeは171%と突出しています。
(4)赤字でも高いFCFマージンと改善する収益体制
2022年に入って金融市場は、SaaS企業への評価が、成長一辺倒から「成長と利益」のバランスを重視するようにシフトしました。しかし、Snowflakeは直近Q2決算でも営業損失$207.7Mで、営業利益率は-42%と赤字です。
この環境変化にもかかわらず、なぜSnowflakeは、引き続き市場から高い評価を受けているのか、2つの要素から説明したいと思います。
1つ目は、Snowflakeは、すでにキャッシュフローポジティブであるという点です。直近Q2決算では、調整済みフリーキャッシュフロー(FCF)は$59Mも創出しており、FCFマージンは+11%です。そもそも企業価値は、利益ではなく、将来期待されるフリーキャッシュフローの累積の現在価値なので、グローバルの投資家は利益よりもフリーキャッシュフローをより重視します。
しかもSnowflakeはFCFマージンを改善しており、FY23期末には+26%になるというガイダンスを出しています。
2つ目の要素は、粗利率の改善です。FY21ではSnowflakeの粗利率は69%と、SaaS企業としては決して高くない水準でした。しかしFY24には74%、FY23現在では75%と、FY21から6%も粗利率を改善しています。そしてFY29のターゲットとして、粗利率は~78%、営業利益率も黒字化を果たして~20%にするとしています。
(5)急成長する巨大なデータウェアハウス市場
Snowflakeがこのような力強い実績を叩き出し続けている背景には、クラウドデータウェアハウスという巨大な急成長市場を選んだことが大きく影響しています。Global Market Insights社の調査によると、世界のデータウェアハウス市場は、2018年は$13B(現在の為替レートで約1.9兆円)でしたが、2025年までに$30B(同約4.5兆円)と7年間で2.3倍に拡大すると予測されています。つまり、この7年間で約2.6兆円のホワイトスペースが世界で生まれることになります。
現在のようにSaaSのようなクラウドソフトウェアや新しいデバイスが増えるにつれ、生成されるクラウドデータは爆発的に増えるにつれて、Snowflakeのようなクラウドに特化したデータウェアハウスの需要はさらに高まります。まさにゴールドラッシュの「ジーンズとツルハシ」のような存在です。
VC目線で見たSnowflakeのスゴイところ
これまでSnowflakeの数字で見えるスゴさや成り立ちについて、解説してきました。最後にVC目線で見た、Snowflakeのスゴさをあげていきます。
1) メガトレンドに沿った巨大な急成長市場に集中
1つ目のSnowflakeのスゴさは「全てのデータがクラウドに移行する」というメガトレンドを一早く考え、起業して行動を起こした点でしょう。それができたのも、創業者2人がオラクルのベテランデータアーキテクトという、ドメイン・エキスパートだったことが大きいです。この2人でなければ、当時のデータウェアハウスの課題とクラウド化の将来性に気付くことは難しかったと思います。
また、このデータウェアハウス市場が大きく拡大したことには、大手テック企業が多数参入したことの影響も大きいと思います。この厳しい戦いの一方で、市場全体が急拡大するクラウドデータウェアハウス市場を捉え、独自のポジショニングを築いたことが、Snowflakeが異次元の成長ができた大きな要因であると考えられます。Snowflakeの成功事例は、成長する市場選びがスタートアップにとって、非常に重要であることを教えてくれています。
2) 勝つためにCEOを戦略的に変更
前述の通り、Snowflakeの創業者3人は一度もCEOになっていない異例の企業です。彼らはエンジニアであり、経営のプロではありません。そのため、その時々に合わせて、外部から一流のプロ経営者をCEOとして招聘するという超合理的な経営判断が成功した稀有な例とも言えます。
これができたのも、最初の投資家であるMike Speiserの貢献も大きいと思います。この経営面をある意味外注することで、ビジョナリーな創業者がプロダクトと顧客に向き合い、現在に至るまでプロダクト責任者・CTOとして開発に向き合い続けたことが、Snowflakeがプロダクトとして強力なポジショニングを築けた要因になったと考えられます。
ソフトウェア業界が成熟して、プロ経営者の層が厚いアメリカならではのユニークなやり方と言えます。
3) 競合につけ入るスキを与えない、顧客志向への徹底
Snowflakeは、Amazon、Google、Microsoftという強敵のいる市場においても勝てている要因は、徹底的に顧客志向であろうとした姿勢にもあると思います。他のベンダーが提供するデータウェアハウスは、その性質上、自社提供のクラウドにロックインしようとする力学が働きます。しかし、特定の会社にクラウドがロックインすることは顧客は望みません。そのためSnowflakeは、これら3社のクラウド上でも動くようにサービスを提供しており、各社の顧客でありながら、競合であるという不思議な関係になっています。
またSnowflakeの最も顧客志向であろうとする姿勢はさまざまなところで散見されます。例えば、現CEOによる著書『Amp It Up』によると、「顧客の課題全体を解決するプロダクトを最高速度で作る」というSnowflake独自の開発哲学があります。部分的なソリューションを提供することは、顧客が自分で残りの課題解決のソリューションを見つけなければならず、結果として競合に付け入るスキを与えてしまうからです。その他にも、Snowflakeは1社1社の顧客にテイラーメイドのセールス・マーケティング活動を行なう、ABM(Account Based Marketing)を徹底している事例としても有名です。(エンタープライズ特化であることも背景にはありますが)
4) 急成長市場×利用量ベース課金の破壊力
Snowflakeが、SaaSで一般的なIDベースのアカウント課金ではなく、顧客の毎月の利用量に応じた課金であることは前述しました。これ自体は新しくはないですが、前述の最も顧客志向であろうとする姿勢にもつながります。なぜなら顧客にとって、より柔軟でわかり易い価格体系だからです。
それだけでなく、クラウドデータという急成長市場であることと、この利用量ベース課金の掛け算が爆発力のある成長を促しています。ID課金では必ずしも市場全体の伸びと連動しません。一方で、伸びている市場での利用量ベースの課金は、セールスが労力をかけずとも、市場と連動して売上が成長することになります。この市場の成長性を自社の売上に直結でき、かつ顧客にとっても透明性が高いこの課金体系は、Snowflakeの成長の大きな源泉になっていると思います。
とにかく、圧倒的な数字を誇る、まさに生きる伝説的存在となったSnowflake。
2022年11月17日、SnowflakeのCEO、Frank SlootmanさんにSnowflakeのスゴさの秘密、そして裏側に迫ります。皆さま、奮ってご参加ください。