カスタマーサクセス担当者を中心に、2022年開催時には約1,400名の参加登録があり、多くの反響をいただいた山田ひさのりさんとの「CS集中講座」。以前の開講時には下記のように5本の記事化もしています。
https://blog.allstarsaas.com/tags/saas-cs-intensive-course
2023年1月から3月にかけて実施した「CS集中講座」では、情報を一部アップデートしつつ再講演を行なうとともに、ALL STAR SAAS FUNDの投資先向け限定勉強会で大好評だった内容についても公開しました。CSマネージャー向けに、より発展的な内容となっています。
テクニック論ではなく、「カスタマーサクセスとして、どういった切り口で事業と向き合っていくか」というスタンスや思考プロセスの重要性を、山田さんは伝えてくれました。今回は2023年3月28日に開催した『サクセスの定義とCSメトリック』より抜粋した記事です。
もはやCSの範囲だけには留まらない内容となってきた本講座。CSをストレッチする上でも「押さえておかなければいけない考え方のポイント」を紹介してはいますが、適宜、みなさんの職域や事業に置き換え、考察できる内容となっています。
それでは以下、山田さんの講演録スタイルでお届けします。
「CSの真の責務」と「CSにおけるサクセスとは何か」をおさらい
まずは、「CSの真の責務」と「CSにおけるサクセスとは何か」をおさらいしましょう。
改めて、「CSの真の責務」はPMFの加速です。顧客が解決したい課題と、自社のプロダクトやサービスが適切にフィットしているかを確認し、ズレがあれば是正するように働きかけることです。CSは顧客とプロダクト・サービスの関係性に注目し、随時調整が必要であればそれを実施する役割を担っています。
最近ではPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)やCRO(チーフレベニューオフィサー)がこの役割を担うこともありますが、CSが一番敏感に反応し、適切な対応ができる立場にあると私は考えます。
そして、「CSにおけるサクセスとは何か」で言えば、サクセスとは状態のことであり、プロダクト・サービスを通じて顧客に価値が伝達され、顧客の求めるビジネス成果を創出した状態が一定期間継続していることを指します。一般的な誤解として、顧客に与えるものはサクセスではなくビジネス成果だと理解することが重要です。
プロダクト・サービスの価値を伝えることと、ビジネス成果を創出することは異なる概念であり、それらを混同しないように注意してください。
サクセスには継続性が重要であり、プロダクト・サービスが価値を発揮し続けることで、顧客がビジネス成果を創出し、サクセス状態になります。CSの役割は、まず提供価値の明確化と最大化を行ない、顧客に価値が伝わることを確認します。その後、顧客がアカウントプランやサクセスプランを通じてビジネス成果を出すことをサポートし、提供価値とビジネス成果の組み合わせパターンを把握して、適切な対応を行なうのです。
それでは、ここから本題です。今日はこれらのサクセスの定義を踏まえて、「CSメトリック」という指標の必要性についてお話ししたいと思います。
NDRを上げるためのチャーン低減とアップセル
まず、NDR(ネット・ダラー・リテンション、売上継続率)を上げるためには、いくつかの収益ポイントが必要になります。第3回の講義で説明させていただきましたが、まずはチャーンを減らすのが先決です。一方で、アップセルは基本的にサクセス状態にあることが前提ですので、まだうまく使いこなせていないお客さまにその提案は難しいですよね。
クロスセルや従量課金は、戦い方においてかなり有利です。例えば、現在導入しているSaaSの成果が出ていなくても、課題次第で別のプロダクトを提案することができます。また、従量課金は、提供するサービスやプロダクトの価値と密接に関連したプライシング体系になっている場合、お客さまが納得して支払っていただけるケースが多いです。そのため、プライシングを調整することが効果を生むこともあります。
さて、NDRを上げるための戦術や変数がいくつかあるわけですが、自社のSaaS事業を成長させるための要素としては、まずチャーンを低減し、リカーリング収益を増やすことです。そして、チャーンを低減するにはビジネス成果を出さなければいけないのですが、そのためには、「高活用状態」を作り出し、プロダクト価値伝達量を大きくすることが求められます。
また、エクスパンションの積み増しには、アップセル、クロスセル、従量課金が関係しています。アップセルには、高活用状態が前提になりますし、プロダクト戦略に沿った商品が必要です。従量課金に関しては、プライシングの工夫が必要です。提供しているプロダクト・サービスの価値に連動して費用がついてこないと、納得して払ってもらえません。
ただし、クロスセルや従量課金に関しては、CSだけでは対応できない領域です。そこで、CSの基本的な戦い方としては、チャーンを低減し、アップセルを促進するため、高活用状態を作ることに最大限の力を入れるべきだと思います。
高活用状態を作るためにできること
さて、チャーンを減らしてアップセルを促進させるための高活用状態を作る方法についてお話ししましょう。
まず最初に、月並みかもしれませんが、オンボーディングに力を入れることです。オンボーディングはCSの基本にして奥義だと、私は思っています。だから、きちんと練り込んだオンボーディングプログラムを作って、お客さまに取り組んでもらい、できるだけ多くのお客さまを高活用状態に導くことが大切です。
次に、リニューアルとアダプションの話ですね。リニューアルについては、お客さまが高活用状態であれば、納得して使っていただけるし、多くの場合ビジネス成果も出ている状態ですから、結果的にチャーンは自然と遠ざかります。そして、アダプションの話ですが、これはCSの専門家なら理解していても、プラクティスが確立されていない部分でもあります。
オンボーディングが成功した後、リニューアルまでの期間で、CSMはどのような働きをすべきか、ということが最適化されていないと感じています。オンボーディングやリニューアルはプロセスドリブンで、オンボーディングの進捗度やリニューアルの実施時期といった観点でCSMの業務をデザインしやすいのですが、アダプションのKPI設定には悩みがあると思います。アダプションフェーズでは、目標設定が難しいですよね。
多くの企業は、お客さまのステージやヘルススコアを作って、その向上を目標にしています。ステージ制を敷いているところも多いですね。ただ、それがなかなか上がらずに滞留して、有名無実化するのが、よくあるパターンです。
私の見解としては「お客さまの状態に注目しすぎるから」なのだと思うんです。お客さまではなく、プロダクト価値の伝達量に注目すべきだと提言したいです。プロダクト価値が伝わっているかどうかと、お客さまのステージが上がるかどうかは、似ているようで大きく異なります。ステージが上がった判断はつきにくくても、プロダクト価値の伝達量はログを見ていればわかるので、だいぶ追いやすいんです。
では、アダプションフェーズでCSMをどう評価するか。つまり、KPI設定とニアリーイコールなのですが、ここからまた話が込み入るので、じっくり聞いていただけると嬉しいです。
よくあるCSMの評価方法としては、チャーンレートやNDRがあります。NDRはエクスパンションも含めて評価するのが海外ではトレンドになっています。ただ、ここには大きな矛盾があるんです。
まず、同じ解約しなかったお客さまでも、低活用のお客さまもいれば、高活用のお客さまもいるわけです。それに対して同じ評価を与えるのは適切でしょうか?また、エクスパンション目標をCSに持たせていない場合、NDRは成り立ちません。国内のCSでは、エクスパンション目標を持っていないケースがよくありますし、売り物がない場合もあります。
また、1人あたりのCSMあたりのARR額によって評価やグレードを決める方法もありますが、これも適正案件数はわかるものの、CSMが良い働きをしているかどうかとは関係ありません。多くのお客さまを持つことと、そのお客さまをうまくサポートできることは、全く別の話です。つまり、CSMが良い仕事をしているかどうかを評価できる方法が必要だと、私は考えています。
それこそが、CSメトリックという考え方なのです。
CSメトリック=プロダクト提供価値の伝達量(=チャーンの先行指標)
みなさん、「ノーススターメトリック」を聞いたことがありますか?
ノーススターメトリックとは、プロダクトや事業全体で追い求めるべきKPIを全社で決める試みのことで、まるで北極星のように目指すべき目標を示してくれるものです。
これをCSの観点で考えると、CSメトリックがその役割を果たしてくれます。CSメトリックは、プロダクトが健全に利用されていることを示す指標で、プロダクト提供価値の伝達量と言い換えられます。この指標はチャーンの先行指標としても活用できます。
価値伝達量が最大になっているということは、お客さまがプロダクトやサービスの価値を十分に感じているということです。現在はビジネス成果が出ていない場合でも、価値伝達量が最大化されれば、ビジネス成果が自然と出るように設計されているプロダクトは多いです。ですから、プロダクト価値の伝達量を最大化するのは、そもそも絶対的に良いことだと私は考えています。
チャーンの先行指標にもなる理由は、高活用状態のほうがチャーンが少ないからです。価値伝達量がミニマムになっている場合には、危険だと考えるのが普通ですよね。
ただし、組織全体でコンセンサスがとれる値を探索・発見するのは非常に難しいことです。プロダクトによっても異なりますし、ほとんどのベンダーが発見に至らずに諦めてしまうことが多いです。ただし、保持できた場合には、以下の3つの用途で活用できるメリットがあります。
1つ目は、顧客へのプロダクト提供価値伝達量を計測できること。価値がどれだけお客さまに伝わっているかを計測できるようになります。これが、もともとやりたかったことです。ただし、アウトカム(ビジネス成果)が出ているかどうかは別の問題です。
2つ目は、顧客ごとのROIが算出できること。価値伝達量が最大化されている状態だと、工数の単価などをかけて、疑似的にROIを算出できます。これにより、お客さまごとのROIを計算することができるので、ROI算出の基礎として活用できます。
3つ目は、各CSMや組織全体のパフォーマンスを計測できること。価値伝達量を組織全体で、例えば「すべてのお客さまのCSメトリックを数値化し、半年や1年、四半期などの期間で上がっているのか下がっているのかをチェックする」と決めれば、自分たちが良い支援をできているかどうかがわかります。
CSメトリックはいかに設定するか、3つの事例から考える
ヘルススコアがなくても、CSメトリックさえあれば、カスタマーサクセスはうまくいくと僕は思っています。ただ、ヘルススコアはお客さまとの関係性や問い合わせの量など、価値伝達以外の重要な側面も見ていくんです。だから、CSメトリックはヘルススコアの大事な要素で、含めるべき項目だとは思います。
それでは、CSメトリックが具体的にどんなものか事例を挙げて説明しましょう。3つの事例を紹介しますが、プロダクトごとに違うので、一概にこれが正解とは言い難いです。ただ、どんな考え方で選ぶかは事例を見て理解してもらえると思います。
まず、ある採用管理SaaSのCSメトリック例を紹介します。ここでのCSメトリックは「決められた期間あたりの応募者数と選考コメント数が同程度ある」というものです。つまり、採用管理SaaSを使うことで、応募者に面接官がきちんとアテンドされ、その人に対するレジュメが登録され、面接後のフィードバックがスムーズに返る、という採用フローが実現されているのかを見たいわけです。
ただ、一時的に応募者が多すぎたり、顧客規模に左右されたりしてしまう変数があると、うまく働きません。例えば、採用が一時停止している期間や、採用目標を達成しているため応募が少ない場合、そのSaaSが使われにくくなってしまうからです。そんな時でも機能してほしいので、そういった変数に依存しないメトリックを選びました。
具体的には、「応募者数を母数に、選考コメント数が1に近づく」というものです。例えば、1週間で100人が応募して、100人にコメントが返されたら、値は1になります。もし選考が滞ってしまうと、この値がどんどん下がっていくわけです。これが、このプロダクトで「健全に利用されているかどうか」を示す指標です。
このSaaSの目的は、採用業務をスムーズにすることです。応募してきた人にも早くレスポンスを返すことが重要だと思います。このメトリックが実際に機能していると、現場の方々も納得できると思うんです。いろいろな条件を考慮しながら、最適なメトリックを選んでいくのが大切です。
2つ目のCSメトリックの例として、ドキュメント作成・管理SaaSを紹介します。ここでのCSメトリックは「決められた期間あたりのドキュメント閲覧単価が安くなる」というものです。ドキュメントは作っただけでは意味をなさず、参照されることに価値があるという考え方が根底にあります。
このプロダクトには「制作アカウント」と「閲覧アカウント」という2種類が存在していて、閲覧アカウント数の方が圧倒的に多く、この割合差が一定以上ある場合は、継続率が高くなることがわかっていました。そして、月額利用料が高くても閲覧者数が増えることで、相対的に利用率の割高感は減少し、ROIも示しやすくなるということが現場で理解されていました。
過去には「アカウント無制限プラン」を提供していたこともあり、その顧客たちをどう扱うかが焦点にもなったんですが、これは顧客ごとにラダーに押し込むことで、疑似的に閲覧単価を算出できるようにしました。式としては、お客さまの総MRR額をドキュメント閲覧者数で割り、1人あたりの閲覧単価を算出しています。似たような例では、マーケティングのSaaSにおいても同様に、MRRをメッセージの数で割って単価を出すようなメトリックを用いていました。
SansanにCSメトリックを当てはめるとしたら?
それでは、もう1つの例として、名刺管理ツールの「Sansan」で考えてみましょう。Sansanは実際にはこのメトリックを使っていませんが、私が疑似的に出してみました。それは「決められた期間あたりの他者人脈参照数が最大化する」というものです。
これは「人脈をビジネスに活かす」というSansanの価値観が前提にあります。名刺をデジタル化することはもちろん、セミナーのエントリーを擬似的に名刺代わりにしたり、メールのやり取りの回数が多い人を算出したりと、さまざまなデジタル接点を管理できます。
人脈をビジネスに活かすためには、他人の人脈を参照することが大事だと考えられています。自分の人脈を見るのは当然ですが、それよりも他人の人脈を頻繁に参照することに価値があるとされています。
特に縦割り組織のお客さまにおいては、自部門をまたいだ人脈参照に価値があるという意見もあります。大きな企業では、隣の部署が何をしているかすらわからないことがありますから、隣の部署の人脈を見ることが非常に重要なんですね。そこで、一旦は人脈は等価で考えて、「他人の名刺はすべて価値がある」ということで整理しました。
他者人脈の参照には、システムからの参照も含めましょう。例えば、CSMが情報を抜き出してマーケティングオペレーションに活用することも、他人の人脈を有効に使っていると言えます。
お客さまによっては、アカウント無制限プランを契約しているケースもありますが、アカウントを持っているだけで実質使っていない人もいます。これを整理するために、WAU(週単位のアクティブユーザー)が一定パーセント以上のアカウントを「アクティブアカウント」として、他者人脈参照数をカウントしました。
式は次の通りです。他者人脈参照数をアカウント数で割り、スコープはアクティブアカウントのみとします。これが高くなることを良し、と設定したわけです。
さて、これまで見てきた3つの例は、すべて割り算で表されていますね。なぜかというと、事業の成長に伴ってお客さまの規模も大きくなるため、それに左右されないように割り算で求めているからです。
そして、これら3つの例はすべて異なりますが「健全に利用されている」という点では共通しています。採用管理では短期間で応募者にコメントが返されていますし、ドキュメント管理では参照数が圧倒的に多く、Sansanでは他人の人脈がちゃんと見られています。
CSメトリックは価値伝達指標なので、アーリーフェーズでも定義可能
みなさんの事業にとって、こういった数値はありませんか?
今日は、これがCSメトリックであり、アダプションのKPIになるのだと、私は提案したいのです。あとは向上に努めるだけです。ちなみに、それぞれのプロダクトが異なる価値を提供している場合は、プロダクトごとにCSメトリックを定義したほうが適切だと考えます。
CSメトリックを設ける際には、できるだけ1つに絞ったほうが運用しやすいと思います。複数のメトリックを持つこともできるかもしれませんが、1つにまとめたほうがシンプルで管理しやすいですよね。
そして、指標には「使用している機能数」は含めないほうがいいでしょう。多くの機能を使っているかどうかは、お客さまの満足度とは必ずしも関係ないと思うからです。私が支援しているSaaSでも、多機能を使っているからといって価値を発揮できているとは限りません。むしろ、特定の機能を補助するために他の機能を使っているケースも多いです。
CSメトリックは価値伝達の話なので、アーリーフェーズでも定義できます。私が実際にやってみた経験からも、ローンチ後3年や4年と経たなくても、初年度からでもCSメトリックは設定できました。むしろ、早ければ早いほど良いと思います。ただし、プロダクトがまだ成熟していないアーリーフェーズでは、メトリックが変わることもありますので、それは注意が必要ですね。
さらに、CSメトリックはすぐに効果を検証できます。以前にヘルススコアに関する話でもお伝えしましたが、チャーンした案件のCSメトリックが良いか悪いかを調べるだけで検証できるからです。もし悪かったら、このメトリックが当たっていると言えますし、良かったら何か機能していないということになります。実際に毎月チャーンしている案件があるわけですから、そのCSメトリックを調べてみるといいでしょう。
アカウント数に関係なく、CSメトリックには3倍もの差が出る
実際に私が取り組んだ案件で、CSメトリックを用いた結果についても紹介しましょう。
この例では、あるホリゾンタルSaaSにおいて、CSメトリックを当てはめました。青いグラフが「CSMが担当しているアカウント数=プロダクトで配布しているID数」を示しています。グラフの一番下には、それぞれのCSMの名前が記載されています。
アカウント数は、CSMの経験年数や入社時期によって差があります。CSMの経験が長い人ほど多くのアカウントを持っていて、最近入社した人ほどアカウント数が少ないです。そこで、各CSMごとにCSメトリックを出してみたんです。赤い線グラフがCSメトリックで、良いところと悪いところの違いを示しています。
残酷な結果ではありますが、最もCSメトリックが高い人と最も低い人とでは、3倍の差があることがわかりました。つまり、お客さまがプロダクトを健全に利用している度合いに、3倍の差があるわけです。結構、驚きますよね。
契約アカウント数が多い人は、多くのお客さまを担当しているために手が回りにくくなり、お客さまの規模が大きくなればサポートも複雑になるため、CSメトリックが下がる傾向があります。逆に、契約アカウント数が少ない人は、それだけ支援しやすくなるので比較的CSメトリックが高くなります。もっとも、あくまでパーセントで見た話ではあります。
この結果から、契約アカウント数以外にも2つの変数があることがわかりました。まずはお客さまの難易度です。カウンターパートが気難しい場合、導入目的が曖昧な場合などがそうです。しかし、これは営業の仕事と同じで、難しいお客さまかどうかは運の要素もあります。ただ、営業とCSの違いは、CSはお客さまを選べないという点です。
もう1つの変数は、CSMの経験年数です。同じ給料で働いているのであれば、同じCSメトリック値が望ましいですよね。アカウント数がほぼ同じ10,000から15,000の範囲であるCSMたちの間にも、CSメトリックにはかなりのばらつきがあることがわかりました。どれぐらいのばらつきを許容するかは、目標次第ですが、同じ範囲のアカウント数を持つCSM同士では、できるだけ同じCSメトリック値を目指したいと考えるのが妥当でしょう。
CSメトリックがきちんと計測できるようになると、どのCSMがパフォーマンスが良いか、という話ができるようになります。これにより、CSMの働きぶりを評価しやすくなり、お客さまへのサポートも向上することが期待されます。
CSメトリックは割り算で、分母を固定し、分子を積み上げで計測する
最後に、CSメトリックの運用方法についてお話ししましょう。
先ほどもお伝えした通り、割り算を用いて算出する方法が、最も機能すると考えられます。CSメトリックを計算する際、分母はお客さまの流入量によって変わりますから、分母は固定したほうが計算が簡単になります。例えば、「第一四半期が始まった際のアカウント数」で分母を固定して、それ以上増えないものとして計算します。
一方、分子の上げ幅を「四半期ごとの目標」として設定することで、積み上げ方式で計測できます。これは過去の経験からも実用的な方法だといえます。
月単位でCSメトリックを計測することで長期的なトレンドが把握できます。月ごとや四半期ごとのCSメトリックを見ることで、チームがお客さまに対して良いサポートが提供できているかどうか、つまりはプロダクトの価値伝達量が多くなっているかどうかもわかります。
さらに、チーム個人ごとにCSメトリックを算出し、組織平均と比較することで、「誰が優れているか、誰が劣っているか」といった会話ができるようになります。確かに、これはちょっと残酷な面もありますが、これまでチャーン率だけで判断していた「隠れた部分」を明らかにすることができます。結果をもとに、個々のチームメンバーに適切な目標を設定するのも良いでしょう。例えば、「給与レンジに応じて、ある程度のCSメトリックを達成してほしい」といった話もしやすくなります。
数年間にわたってCSメトリックを計測し続けることで、組織全体の適正値がわかるようになり、適正な人員数も割り出せるはずです。ただし、プロダクトの進化に伴ってCSメトリックも変化することがあるため、大きなアップデートがある場合や定期的に見直すことが必要です。しかし、プロダクトの提供価値を大幅に変えるようなアップデートはそう頻繁には行なわれないので、見直しを行なう頻度は、それほど高くなくても大丈夫だと思われます。
著者:山田ひさのり
『カスタマーサクセス実行戦略』の著者。ゲームプログラマーとしてキャリアをスタートし、Web開発のPG/SEを経て事業開発にキャリアチェンジ。その後、Sansan株式会社にてCS部門の責任者を歴任。現在はsasket LLCを設立し、2年間で約20社へのCSアドバイザリーを経験。