カスタマーサクセス担当者を中心に、2022年開催時には約1,400名の参加登録があり、多くの反響をいただいた山田ひさのりさんとの「CS集中講座」。以前の開講時には下記のように5本の記事化もしています。
https://blog.allstarsaas.com/tags/saas-cs-intensive-course
2023年1月から3月にかけて実施した「CS集中講座」では、情報を一部アップデートしつつ再講演を行なうとともに、ALL STAR SAAS FUNDの投資先向け限定勉強会で大好評だった内容についても公開しました。CSマネージャー向けに、より発展的な内容となっています。
テクニック論ではなく、「カスタマーサクセスとして、どういった切り口で事業と向き合っていくか」というスタンスや思考プロセスの重要性を、山田さんは伝えてくれました。今回は2023年3月14日に開催した『事業フェーズで理解するCSの注力ポイント』を抜粋した記事となります。
B2Bスタートアップの創業から5年程度までの組織を例に、CS組織をどのように成長させ、各フェーズでどのような点に注意しなければならないか。主にはCS組織の成熟化に責任を持つマネージャー向けの講演ですが、メンバーにとっても示唆を与える内容でした。
それでは以下、山田さんの講演録スタイルでお届けします。
プロダクトの提供価値と、「ビジネス成果」までの距離を測れているか
カスタマーサクセスにおける「サクセス」の定義を、改めて明確にしておきましょう。
サクセスとは状態のことで、プロダクトやサービスを通じて顧客へ価値を提供し、顧客が求める「ビジネス成果」を創出することが目的です。このビジネス成果は以前は「アウトカム(結果・成果)」と呼んでいましたが、言葉を変えました。
さて、カスタマーサクセスの役割は主に2つ。1つ目は、プロダクトの価値を顧客に伝えること。2つ目は、ビジネス成果を創出することです。これらを分けて考え、両者の違いを理解することが大切です。
顧客がサクセス状態になるためには継続性が必要で、ビジネス成果を継続的に達成することで、顧客はサクセス状態になるわけです。プロダクトやサービスが価値を発揮し、顧客に伝わり、ビジネス成果が創出されることが目指すべき状態です。しかし、プロダクトやサービスの提供価値とビジネス成果は異なる概念であることに注意が必要です。
顧客にプロダクトやサービスの価値が伝わった結果から、ビジネス成果が創出されることもある。しかも、複数のビジネス成果が現れるときもあります。それを叶えるために重要なのが、顧客ごとにカスタマイズしたアカウントプランやサクセスプランの必要性です。
具体例として「従業員のストレスチェックSaaS」があったとします。このプロダクトの価値は、従業員や組織のストレス度合いを測定できることです。一方、ビジネス成果としては、従業員の定着率向上が期待されます。
でも、プロダクトが提供できるのは、ストレス度合いの測定まで。それをビジネス成果につなげるために必要なのが、アカウントプランです。例えば測定した結果に合わせた、効果的な1on1の実践方法や働きやすい環境整備への助言があげられるでしょう。プロダクト提供価値とビジネス成果がほど遠い状態では、顧客はサクセス状態にならないため、両者をリンクさせることがカスタマーサクセスの役割となります。
要するに、カスタマーサクセスの重要な役割は、顧客ごとにアカウントプランやサクセスプランをカスタマイズし、顧客の求めるビジネス成果を達成させること。顧客ごとに目指すビジネス成果が異なるため、それに合わせたプランを提供することが求められます。
顧客がサクセスに至る2つのステップ
顧客がサクセスに至るまでのステップには、主に2つのパターンがあります。
1つ目は、顧客が自らビジネス成果を創出してくれるパターンです。プロダクトの価値がきちんと伝わった状態で、顧客が自らビジネス成果を生み出してくれる。プロダクトの質や顧客の推進者の力量によっては成立しやすいパターンといえるでしょう。
2つ目は、顧客ごとにアカウントプランを作成し、ビジネス成果の創出に導くパターンです。顧客が自力でビジネス成果を創出できていないわけなので、サービスの提供側がアカウントプランを作成し、顧客をサポートすることが求められます。ビジネス成果のパターンを見つけだして、その実現を支援することに注力するのです。
前者のほうが多く見受けられるのが現状ですが、いずれのパターンであっても、価値伝達だけではビジネス成果は生まれません。ビジネス成果を生み出すためには、代表的なビジネス成果の創出パターンを理解し、サポートする必要があります。
基本的にはプロダクトベネフィットが自然にもたらしてくれるビジネス成果は小さいものと考えてください。さきほどの「ストレスチェックSaaS」で言うと、プロダクトとしてはストレス度合いを計測できるだけですが、顧客としては従業員が安定的な状態で働けることを望んでいるわけです。つまり、計測できることに価値はあるが、ビジネス成果ではないのです。
このため、カスタマーサクセスにはビジネス成果創出まで練り込んだ、膨大で精緻なアカウントプランが求められることが多いものです。そもそも、ビジネス成果そのものを理解できていないことも組織の課題に上がりやすい。プロダクト価値はわかっているが、ビジネス成果がわかっていないのか。ビジネス成果はわかっているが、アカウントプランが不足しているのか。このあたりを正確に把握して臨むことが大切です。
良いCS組織=「CSアクティビティ」が整っている
次に「良いCS組織とは何か」を考えてみましょう。
良いCS組織とは、個々のカスタマーサクセス担当者がお客さまの立場に立てることも大切ですが、組織全体として良い状態とは、「カスタマーサクセス・アクティビティが整っていること」でしょう。これはアメリカでカスタマーサクセス支援用のSaaSを提供しているGainsightが提唱する「Gainsightエレメント」が元になっています。
CSアクティビティについて、一般的に大まかに16項目からなるグラデーションで表現できます。テックタッチ、ケースサクセス、エクスパンションマネージメントなどの基本的な要素も含まれますが、これらの機能をすべて持っているCS組織は「死角がない」と言っていいでしょう。
実際にどの程度のレベルで運用できているかは様々ですが、CSアクティビティを整え、PDCAサイクルを回し、運用していけば、自然とエクスパンションが高まり、チャーンが抑えられるはずです。
ただ、これらのアクティビティを整えるのは、簡単なことではありません。人員が必要であり、オペレーションが整わなければならず、他部署との連携も欠かせません。それができている組織は、基本的にチャーンレートは確実に低いものです。
CS組織を成長させる5ステップと、事業側がCSに求めるもの
CS組織の成長ステップは一概には言えませんが、私の経験とお会いしてきた組織の方の話を聞く限りでは、以下のような5つのステップにまとめられました。
1:オンボーディングデザイン:オンボーディングは非常に重要で、創業して半年くらいの間に取り組むべき。
2:リニューアルマネジメント:1年後にリニューアルを迎えるため、最初のお客さまのケアが重要です。チャーンがひどい場合は、リニューアルマネジメントから取り組むことも。
3:プロダクト提供価値とビジネス成果の明確化:非常に重要で、PMFを加速させるというカスタマーサクセスの責務にも直結します。
4:ライトサクセスやディープサクセスの定義:顧客が増えるにつれ、顧客の解像度を上げることやTier分けが必要になってきます。
5:組織KPIとCSメトリクスの探索:組織が増えると、専業チームへの移行やシステム化とヘルスコアデザインが求められます。
もっとも前述のCSアクティビティはすべて取り入れる必要はありません。自分が必要だと思うエレメントを選んで取り組めばいいでしょう。そうしてPMFの解像度をアップさせていきます。自分たちのプロダクト提供価値や、アウトカムは何かを明確にしていく。それに伴ってアカウントプランを磨き込んでいき、組織としてそれを促進するための分業化と仕組み化に至るという流れです。
また、事業側がCSに求めることには「典型的な例」があります。過去の経験からスライドに時系列順にまとめてみたのが、以下です。この図は左から右に進んでいきます。大まかには「CSアクティビティと組織の整備」「トップラインへの貢献」「組織の適正化」という順で変化していきます。
カスタマーサクセスの真の責務は「PMFを加速させること」
ここで皆さんに質問させていただきたいのですが、カスタマーサクセスの真の責務って、何だと思いますか?
私は、カスタマーサクセスの真の責務とはPMF(Product-Market Fit)を加速させることだと考えています。
PMFを加速させるために具体的に何をすべきか?例えばお客さまのニーズや状況を理解するだけでなく、そこから経営や事業、プロダクトにフィードバックして改善のループを高速で回すことも、カスタマーサクセスの重要な役割なんです。
例えば、あるクラウドセキュリティSaaSのプロダクト提供価値は、ウェブ上のセキュリティホールを検知できることですが、ビジネス成果としては、セキュリティインシデント発生時の経済損失を削減することになります。ここでいうアカウントプランとは、発見されたセキュリティホールに対処する方法を明示し、お客さまがビジネス成果を達成できるようにサポートすることです。
ビジネス成果は複数創出されるケースがあります。先ほどの例ならば「SaaSプロダクトによって、セキュリティエキスパート人材の確保が一定で事足りる」というのも一つでしょう。だからこそ、カスタマーサクセスは顧客のサクセスを注視することが重要なのです。
顧客が増えてきたら、最初に想定していたビジネス成果以外のものが出てくることもあるでしょう。アカウントプランの幅を広げてお客さまをサポートしつつ、想定外のビジネス成果が出ていることに注意を払いましょう。
また、カスタマーサクセスやセールスも、経験を積み重ねてスキルを磨いていかないと、市場を席巻することにはつながりません。カスタマーサクセスはお客さまと直接接している点が強みであり、非常に重要な役割を果たしています。お客さまから得られるフィードバックを、きちんとプロダクトに反映させることも、カスタマーサクセスの大きな責任でもあります。
事業拡大期に訪れる「PMFのズレ」はどう捉えるべきか
事業が成長していくと、ターゲットも自然と広がっていきます。例えば、CMを打ったり、電車広告を出したりすることで、認知度がどんどん上がっていく。そうすると、今まで厳選してインバウンドで取っていた検索ワードや広告から来る人だけではなく、もっと広い範囲から、想定外のお客さまが増えてくるんです。これは、事業拡大の宿命とも言えますね。
ターゲットスコープが広がると、自然とPMFはずれていくのです。これは、営業が変なお客さまを取っているわけではなく(笑)、事業活動が拡大していくにつれて、裾野が広がっていくことの運命(さだめ)と言っていいかもしれません。
そんなとき、カスタマーサクセスがやるべきことは、まずはサクセスしやすいお客さまとそうでないお客さまを見極めて、入り口で分離すること。そして、案件の難易度やアカウントプランを適切に選択していくことです。
PMFがずれること自体は、別にネガティブなことではありません。ただし、PMFのズレが健全か不健全かを把握することも重要です。健全なズレの場合、カスタマーサクセスで対応ができますが、不健全な場合でもカスタマーサクセスは過剰に心配しすぎる必要はありません。
では具体的にはどう対応するか。あくまで私のやり方ですが、顧客層を「Tier」という概念で分ける方法が良いと考えます。
ここでは私が、とあるマーケティングSaaSを支援したときの例を用いましょう。同社は当初、「Tier1」の顧客をメインに取り扱っていましたが、次第に「Tier2」、そして「Tier3」まで顧客層が広がりました。ただし、当初はTierという概念がなかったため、顧客が増えるにつれて従来のサポート方法がフィットしなくなり、対応が困難になりました。そこで、顧客層をTier化して対応することにしました。
この例におけるTierの区分は、消費者がサービスを購入する際にどれだけ計画や努力をするかと、ブランドとコンテンツの強さで決まります。
最初は単価が高く、購買(契約)に向けた計画や努力が大きい顧客を相手にしていましたが、次第に大口アカウントを獲得し、一般消費財を扱うメーカーのような顧客が増えました。大きなメガアカウントを獲得できたことに喜んでいたものの、いつの間にかPMFがずれてしまったのです。
なぜか、それはセールスとして比較的受注が容易で、しかもブランドも強いTier2の顧客を積極的に獲得していったのです。Tier1とTier2は、ブランドの強さでは同じ程度がゆえ、サクセスの難易度が異なることに気づくのが遅れました。さらに、ブランドの弱い顧客も加わることで、状況はさらに複雑化しました。
カスタマーサクセスは、Tier1の顧客を中心に対応していましたが、ディープサクセスを必要としないTier2の顧客からも同等のアカウントプランが求められるようになり、対応が難しくなりました。そこでTierという概念を用いて一度整理して、「Tier2のアカウントプランが不足しているから整えよう」といったように図ったんです。アカウントプランは結果的に共通になることもありますが、前提としてはTierごとにディープサクセスが異なり、つまりはビジネス成果も異なるわけです。
ただ、Tier1に相当するような「単価が高くてブランドが強い顧客」はそうそう数はいません。いずれTier2を狙わないと事業成長が止まるフェーズが来るからこそ、プロダクトをTier2寄りにしていくべきだとも考えられる。こういう思考が「サクセスのしやすさ」でTierを分けると可能になるんですね。それをカスタマーサクセスから発信することが、私は大事だと思っています。
Tierによってマーケティングメッセージやセールスの期待値調整も異なりますから、その違いを理解し、それぞれのTierに合わせた戦略が必要になってきます。サクセスのしやすさでお客さまを分けて考えて、TAMまで出せれば申し分はないでしょう。
事業成長を支えるCS組織の作り方
次に、事業フェーズを意識した組織作りについて解説します。
まず、最初の段階では、お客さまが100社程度の規模であれば、皆さんがマルチタスクをこなしながら、一丸となって成果を目指していきます。カスタマーサクセスという部門分けも考えずに、Sansanでは「7人8脚」なんて言っていましたが、人数も限られているため、できるだけ効率的に業務を進めて、「成果にこだわる組織」を維持したほうがいいでしょう。
事業が大きくなり、契約数が300~400社程度になると、お客さまを個別に対応するハイタッチなアプローチと、自力でサクセスを追求できるお客さま向けのロータッチやテックタッチなアプローチを組織で分けていく必要が出てきます。
この際、ハイタッチやロータッチといった言葉よりも、お客さまがどの程度自力でビジネス成果を創出できるかという観点で区分するほうが、お互いに理解しやすいかもしれませんね。もっとも、自力でサクセス状態まで持っていきやすいプロダクトもあります。そこで区分して、人を配置するというのが成長期に必要なことです。
さらなる拡大期に入ると、カスタマーサクセスマネージャー(CSM)を支援するためのサポートユニットが必要になります。例えば、テクニカルサポートやオペレーションズ、カスタマーマーケティングなど、それぞれの役割を担うチームを組成して、CSMの工数を減らせるようにバックアップすることで、全体として効率的な組織運営が可能となります。
カスタマーマーケティングは、既存顧客に対するマスのアプローチをする人たちです。カスタマーサクセスマネージャーを支援するためのコンテンツや、ウェビナーの内容を考えるのも職務です。マーケ部門が兼務しているケースも結構ありますよね。
テクニカルサポートはプロダクトの一部として機能しているケースも多いと思いますが、最近のトレンドとしては、CSに内包してるようなケースも見られています。オペレーションズは「Ops」とも呼ばれており、顧客情報の基盤を作ったり、データを解析したり、必要なツールを導入して業務改善をしたりする役割を担います。
コントロールセンターは、部門直下にあるケースが多く、全体の整合性を整えるためのプランニングや、人材の戦力化のためのイネーブルメント、キャリアプランニングといった仕事をします。PMM(プロダクトマーケティングマネージャー)をここに置くケースもありますね。PMMはプロダクトとのハブになることが中心的な活動なので、コントロールセンターに入れるのが適切ではないか、と私は考えています。
とはいえ、これらすべてをいきなり揃えるのは難しいでしょう。そこで、どういった順番でそろえるべきかを三ツ星ランクで分けてみました。
星3つはテクニカルサポートとオンボーディングです。星2つはリニューアルを担うユニットですね。カスタマーマーケティングにある「コンテンツ&メディア」はお客さま向けの導入資料や、プロダクト提供価値をわかりやすくまとめた資料を統一して、ハンドリングするようなユニットがあったほうがいいので置いています。組織が拡大してくるほどに、CSMの力量によって価値がぶれないほうがいいため、星2つにしています。
また、オペレーションも星2つです。拡大期には顧客管理が欠かせなくなりますから。情シス部門が担ってくれるなら、それでも構わないでしょう。
星1つはコンサルティングやプロフェッショナルサービスです。ただ、スケールが非常にしづらいユニットなので、導入は慎重に判断する必要があるというのが個人的な見解です。
プロフェッショナルサービスは、プロダクトの提供価値とビジネス成果のギャップが大きい場合、アカウントプランが必要になるために、プロフェッショナルサービスをエクスパンションの手段にしようとする戦略もよく見られます。
ただ、私はこの記事で紹介されている考え方と同じく、プロフェッショナルサービスはソフトウェアを補完するものであり、ソフトウェアより重要なものではない、というのが結論ですね。つまり、リカーリング収益の増加をサポートする程度に提供することに重点を置くべきとされています。
この考え方によれば、リカーリング収益を上げるためのプロフェッショナルサービスであれば問題ないということですが、スケールが難しいことや、ソフトウェアよりも重要な収益源として位置づけられることは適切ではないわけです。さらに、プロフェッショナルサービスは収益が増加した後のボーナスと捉えるべきであるとの意見もあり、私も完全に同意です。
チーミングは2パターン、それぞれのメリット・デメリット
最後に、チーミング(チーム構築)について説明します。大きくは「ライフサイクル特化型」と「顧客セグメント寄り添い型」に分かれていて、それぞれメリットとデメリットがあります。
ライフサイクル特化型では、同じライフサイクルのお客さまをサポートします。メリットとしては、同様の業務に取り組む機会が多いために人材の成長スピードが速く、戦力化が早まることです。また、CS内部にキャリアパスを設けやすく、組織全体のプラクティス化やシステム化が容易になります。戦力化を早めたいのであればおすすめといえます。
デメリットとしては、たとえばオンボーディングだけを担当していると、リニューアルといった他のライフサイクルに関する知識や理解が乏しくなりがちで、組織が硬直化しやすいことです。あとは、モチベーションとしても業務が繰り返しになると飽きが出ますから、ケアしたほうがよいでしょう。解決するためには、ジョブローテーションを積極的に行なう必要があります。人材の戦力化スピードが高い一方で、流動性を高める必要があり、お客さまに寄り添いにくいというデメリットもあります。
顧客セグメント寄り添い型では、同じセグメントのお客さまをライフサイクル全体でサポートします。メリットは、セグメントごとの対応ノウハウの蓄積や共有が加速し、顧客との信頼関係が構築しやすくなることです。その結果、ハイタッチが加速します。
デメリットとしては、各セグメントが独自の力学で動くため、プラクティス化やシステム化が難しくなります。このため、組織全体のコントロールセンターの役割が非常に重要になります。また、教育に手間がかかるものの、リーダーが優秀であればうまく機能します。ただし、属人化が進むせいで情報共有では問題を解決しにくくなります。ミーティングや共有情報の機会を増やしても「焼け石に水」でしょう。
最後に。カスタマーサクセスのプラクティスとトレンドについても説明します。
そもそも、プロダクトの価値伝達とビジネス成果の創出は別のものだと、私は解説しましたね。ただ、多くのカスタマーサクセスに関するプラクティスは価値伝達を目的としていて、ピュアなCSMは価値伝達に特化している人材だと思います。一方で、セールスの分野では、お客さまにビジネス成果を創出させることに重きを置いている人が多いです。
例えば、金融系やプラント開発、大型建設プロジェクトなどの営業では、アカウントプランを策定することが一般的ですからね。しかし、これまでアカウントプランは単価の高いお客さまにしか作成されておらず、他のお客さまは購入後に放置されていたようなものです。そこにカスタマーサクセスが登場し、放置せずに多くの顧客にプロダクトの価値を伝える必要性が認識されるようになりました。
最近では、アカウントエグゼクティブというポストが設けられ、価値伝達とビジネス成果の創出を統括する流れが加速しています。これは特に外資系SaaS企業で見られる傾向です。アカウントプランは伝統的にセールスが作成するもので、そのためのプラクティスはセールス分野に多く存在しています。最近の動向からいっても、カスタマーサクセスはセールスから学ぶことが最も合理的であると、私は考えています。
著者:山田ひさのり
『カスタマーサクセス実行戦略』の著者。ゲームプログラマーとしてキャリアをスタートし、Web開発のPG/SEを経て事業開発にキャリアチェンジ。その後、Sansan株式会社にてCS部門の責任者を歴任。現在はsasket LLCを設立し、2年間で約20社へのCSアドバイザリーを経験。