日本のスタートアップは、世界の市場で戦えるのか。あるいは、世界を獲るまでの規模に至るサービスやプロダクトを生めるのか。日本市場が成熟していくなかで、スタートアップが海外市場へ展開していくことは、今後ますます重要性を増していきます。
去る2022年7月29日に、「スタートアップのグローバル展開」をテーマに開催されたイベントに、ALL STAR SAAS FUNDのマネージングパートナーである前田ヒロがモデレーターとして登壇しました。スピーカーは、株式会社ソラコム代表取締役社長でCEOの玉川憲さんとベンチャーWilのPartnerである代田常浩さん。今回はセッションより、“グローバル展開の学びと経験”に絞って記事化しました。
ソラコムはIoTシステムを構築・運用するためのIoTプラットフォームを手掛ける企業です。2015年創業、日本市場でビジネスをはじめ、2017年に通信キャリア大手であるKDDIの連結子会社としてグループイン。シリーズBで30億円の資金調達後に海外展開へ乗り出し、現在は日本の他にアメリカ、ヨーロッパでもビジネスを拡大しています。
玉川さんは日本IBM基礎研究所にてウェアラブルコンピューターの研究開発や開発プラットフォームのコンサルティング、技術営業を経て、アマゾンデータサービスジャパンにエバンジェリストとして入社。AWSの日本市場立ち上げを技術統括として牽引した後、共同創業者と共にソラコムを設立しました。
ソラコムは、いつからグローバル展開を見据えていたのか。実際に海外展開をしていくうえで、カルチャーや採用について気をつけるポイントはあるのか。自らの失敗を踏まえて共有してくれた玉川さんの学びは、世界を目指す起業家にとっての貴重なメッセージでした。
グローバル展開はDay1から。それでも日本市場でスタートした2つの理由
前田:スタートアップは、まず目の前のカスタマーや市場にフォーカスすべき、というのが鉄則です。そこで玉川さんには「グローバル展開を考えたタイミングはいつか」を取っ掛かりとして伺いたいです。最初から展開を考えていたのか、後から考えはじめたものなのか。実際はどうでしたか?
玉川:結論から言うと、最初からグローバル展開を考えていました。私のバックグラウンドから言うと、ソラコムを立ち上げる前はAWS日本事業の立ち上げに携わっていましたが、当時の上司はアンディ・ジャシーという現在のAmazonのCEOだったんです。アンディがゼロからAWSを立ち上げ、グローバルへ展開してきたのを間近で見てきたのもあって、「自分たちにもできるんじゃないかな」と思ったのです。だから、プラットフォームビジネスに関わるなら、はじめからグローバルを見据えるのは当然だろうと。
ソラコム立ち上げ当初、実はアメリカにエンティティを作ったんです。ただ、ソラコムのプロダクトを開発している中で、結局は日本にフォーカスして事業を展開することに決めました。それには2つの理由があります。
一つは、技術的な理由。我々はコアプロダクトをAWS上に作り、それをどこかの通信キャリアと組んで、IoT通信を提供するモデルです。しかし、アメリカの通信キャリアはインフラを開放してくれなかったのです。歴史的、政治的、ビジネス的な要因から検討して、日本でなければ最初に取り組めないという結論に至りました。日本にはMVNOという仕組みがありましたからね。
もう一つの理由は、共同創業者の経験値です。ソラコムの共同創業者3人はいずれも日本人で、それぞれ海外経験はあるものの、自分たちの強みが最も生きるのは日本市場でした。そこで、シリーズAは日本で立ち上げて、シリーズB以降で海外展開向けに30億円を調達し、アメリカなどの世界へ展開していく順序に決めました。
前田:なるほど。Day1からグローバル展開を考えていたけれど、結果的に日本市場へまずはフォーカスして、世界へステップアップしていこうと。
玉川:そうですね。我々の強みや実力などを考えたときに、いきなりアメリカでソラコムのIoT通信プラットフォームを垂直立ち上げできたかと問われると、おそらくできなかったでしょう。結果的に、良い判断だったと思っています。
I-Rフレームワークに基づき、共同創業者が別々の国にいながらの経営
前田:ソラコムは共同創業者が3名いらっしゃいます。誰が海外展開の担当者として責任を持ったのか、という点を聞かせてください。まずは、共同創業者だけがアメリカへ移られたのですよね?
玉川:そうです。もともとうちのCTOの安川(健太)は、最初からシアトルにいました。AWS日本事業の開発チームでしたが、「本社で働きたい」という希望からシアトルに移っていて。ソラコム立ち上げ時に、一度は日本に戻ってきてもらって開発しましたが、家族もアメリカのシアトルに住み続けることは、ソラコム創業時から決まっていました。ソラコムのエンジニアは日本にほとんどいますが、CTOは最初からアメリカからのリモート環境だったわけです。
もう一人、COOの舩渡(大地)は、シリーズBで30億円を調達してグローバル展開が決まったときに、テマセク・ホールディングス傘下のファンドから出資を受けた関係もあって、シンガポールへ移り、その後はヨーロッパに移住しました。私は日本にいましたから、早い段階でソラコムの共同創業者3名は、国をまたいで活動してきたことになります。
私のバックグラウンドはエンジニアですが、AWSではエバンジェリストやソリューションアーキテクトといった仕事をしていました。現在は、いわゆるセールスマーケティングの担当として、日本にいながらアメリカとヨーロッパのセールスやマーケを管掌しています。安川はアメリカにいながら日本在住のエンジニアたちと技術部門を担い、舩渡はCOOとしてヨーロッパにいながらバックオフィスやコーポレートを見ている。ソラコムは入り組んだ形のマネジメントをずっと続けています。
前田:トッププレイヤーがそれぞれ違う国にいて経営しているのは、ユニークな体制だと感じました。実際のところ、海外展開するときには「最初に誰が赴くか」は重要ではないかと思うのです。いかなるポジションの人が適任で、どういうバックグラウンドやスキルを持っているべきでしょうか?
玉川:その会社のプロダクトや、どういったマーケットに出すかによります。
ソラコムの社外取締役として、グローバル経営学の専門家である早稲田大学の入山章栄教授に加わってもらっていて、いつも喧々諤々と議論をしているのですが、入山さんはいつもフレームワークについて話してくれるんですね。
たとえば、グローバルビジネスに用いる“Integration-Responsiveness framework”、日本では「I-Rフレームワーク」と呼ばれるものがあります。Integrationは、言ってみればAppleが典型例で、世界を獲れるようなワンプロダクトのこと。Responsivenessは、マーケットごとにプロダクトを変えることです。消費財メーカーが、シャンプーなどの似て非なるものを各国のマーケットごとに発売するのがわかりやすい例です。
ソラコムの場合、「I」か「R」でいえば、グローバルなワンプロダクトを各マーケットに売っていく形になりますから「I」寄りです。その観点で言うと、プロダクトはグローバル向けに集中して作ったほうがいいので、日本を中心に開発を進めるべき。エンジニアは日本在住者が多いので、CTOも日本に居たほうが本当は良いはずです。一方で、CEOなどのビジネスサイドは、時によって変わる注力マーケットに近いところに居たほうがいい。そういった配置が理想的なのだと思います。
前田:I-Rフレームワークによって、戦略の進め方に差も出てくるのですか?
玉川:顕著に出ます。「I」寄りならば、基本的には本社集中で、セールス戦略だけをリージョンに任せる形になるでしょう。「R」に寄っているならば、基本的にはリージョンごとに別会社にして、エンジニアリングやセールスマーケのみならず、バックオフィスも各地に持たせて権限委譲をより図る形になってきます。
ソラコムはフェーズごとに変わってきていて、最近は日本、北米、ヨーロッパという3拠点のマーケットを重視しています。日本のマーケットだけだと1億人しかいないので、やはり数が少ない。アメリカが約3.3億人、ヨーロッパも束ねると3億人以上いますから、大きな市場を獲らないと、グローバルプラットフォームにはなれません。
その観点でいえば、プロダクトとしてはグローバル向けに作りますが、セールスマーケは各リージョンへ依存させています。リージョンごとにプロダクトマネージャーを据え、プライシングストラテジーやGo To Marketのためのパッケージングを担っていく。コーポレートは日本側に集中させているものの、HRやリーガルは各国の状況に合わせていく、という体制になっています。
コーポレートはヘッドクォーター寄り、セールスマーケがリージョン寄りという組み合わせですね。
カルチャーは“自分たちの普通”を貫き通せ
前田:各国にチームやメンバーがいる状態で、ソラコムのカルチャーはどのように築いていますか?玉川さんなりの「グローバル企業のカルチャーづくり」に対する考えを聞かせてください。
玉川:2015年に創業して以来、ずっと取り組んできました。やはりカルチャーはとても重要で、現地ごとに任せてみたり、ヘッドクォーターで巻き取ってみたりと試行錯誤しました。現時点では「うちの会社の“普通”を、全てのリージョンで統一する」というのが結論です。
最初、アメリカのやり方にある程度任せてみようと、僕らのほうがより気を遣ってもみたけれど、うまくいかなくて。最近では、「ソラコムはこのように考えており、これが普通なんだ」という指針をバシッと示したほうが良くなる、と感じています。
その意味では、ソラコムは共同創業者がリージョンに一人ずつ居るのは、ラッキーと言ってもいいでしょう。ビジョン、ミッション、カルチャーに芯を通す意味でも役立っていますし、採用のときから徹底していました。四半期ごとのパフォーマンスレビューでも、常にカルチャーのことを口酸っぱく言い続けています。それをここ2年ほど続けてきて、やっと「ソラコムらしく」回るようになってきました。
ですから、カルチャーのためには共同創業者だけでなく、日本側からも数人はリージョンへ送り込んで、伝え続ける役回りを担ってもらうことが大切なのでしょう。
給与面やキャリアの考え方は、国ごとに異なるものです。アメリカはだいたい3年ごとに自分のキャリアを見直して進路を考えるのが当然ですし、日本はもっと長く一社で働いていくことも考えますよね。コモンセンスはそれぞれのマーケットで違うものの、ソラコムの場合は「入社から最低3年、もしくはもっと長く、できればずっといてほしい」といった考え方を持っています。社員や家族を大切にしながら、自分が行きたいところで働いてもらうことを徹底したい。そうしたら、アメリカはインフレの影響で給料が全体的に高騰していますが、ソラコムのカルチャーが好きな人は会社に残ってくれました。
給与だけで議論すると、それこそGAFAMに負けてしまう。でも、カルチャーを徹底し、それを気に入ってくれた人は、長く残ってくれる。浮き沈みはあるものの、「日本発のグローバルプラットフォーム」というスタイルをとるのであれば、そちらのほうが良いだろうというのが、現時点での結論です。もっとも、今もあれこれと変えながらではあるので、数年後には異なる意見かもしれません。
国によって言葉のニュアンスを変えないと伝わらない
前田:カルチャー面で続いて、「国によって浸透しやすい、あるいはしづらい」といった要素はあるものですか?
玉川:その質問にピンポイントで答えられてはいませんが、何かを伝えたときに、国ごとにチームが全然違う反応をすることはあります。
たとえば、2017年にKDDIからM&Aされたことをチームに話をしたときのことです。
まずは日本チームに、「実はKDDIにM&Aされました」と日本語で伝えると、みんなが泣き出したんですね。僕としてもびっくりしてしまって……。気持ちを立て直してヨーロッパとアメリカのメンバーに対して英語で伝えると、みんな「うわー!」と盛り上がった。M&Aに対する受け取り方が全く違うのは典型例でしょうね。
だから、ある事柄を伝えたときに、ポジティブと受け取るか、ネガティブと受け取るかは、マーケットによって全然違うことがあるわけです。カルチャーにおいても同様で、僕らが思っている通りに伝わる場合と、気を払わないといけない場合があるのだと思います。
もう一つの例で言うと、ソラコムには元Amazonのメンバーも多いので、「Amazonカルチャー」も体感してきました。Amazonが「Frugality(倹約)」を重視するように、ソラコムには「Avoid Muda」といって、無駄を省こうとするカルチャーがあります。
アメリカ人には「Avoid Muda」を口酸っぱく言うくらいでちょうどよく、そうしないとホテルでも飛行機でも良いクラスのものを使おうとしてしまう。ただ、日本人に「無駄」と言いすぎると、移動でタクシーすら乗らずに徒歩を選んでしまったり。それぞれのカルチャーによってニュアンスを変えないと間違って伝わってしまうのは感じています。
2次面接まではハードスキルを、3次面接からはソフトスキルを
前田:それぞれで無駄の定義が違うのは面白いですね。カルチャーでいえば採用が重要なことは明白かと思いますが、リージョンごとで現地採用を進めていった際の学びや、あるいは気をつけるべきアドバイスはありますか?
玉川:アメリカのほうが採用プロセスはしっかりしています。通常はポジションを定義して、ジョブ・ディスクリプションを書いて、求める経験やスキルについても明確にしてから採るので、日本よりも「しっかりとした人材」が採れる。ただ、それはどちらかといえばハードスキルに関する要素であり、カルチャーフィットなどのソフトスキルは図れません。
これはAmazonで学んだ方法ですが、1次面接、2次面接ではハードスキルを見ます。そして、3次面接以降はカルチャーフィットだけを見るんです。ソラコムの15のリーダーシップステートメントに沿って、“Customer Centric”かどうか、”Avoid Muda”の精神を持てるのか、“Just Do It”できるのか……そういったカルチャーフィットだけを重視して判断するようにしています。
実はアメリカで何回か失敗したことがあって、入社した人が、リファラル的にいっぱい人を引っ張ってくるんです。ただ、連れてくるのをそのまま許容してしまうと、結局はカルチャーが合っていない人まで入ってきてしまう。そこで僕は「バーレイザー」(「バーを上げる人」という意味で、採用の基準を高めるために選任される人のこと)というポジションを加えることにしました。採用の基準を高めるための役割ですね。
ハイヤリングマネージャーよりも強い権限を持っていて、一言でも「カルチャーに合ってない」と判断したら採用はできません。というのも、セールス担当者が、セールス人材を採ろうとすると、ビジネスのニーズが強いがために、何かしらのリスクがあっても採用したくなるものです。採用のための基準(バー)が下がっていってしまうんです。前職からの知り合いなら、さらにバーは下がる傾向にある。
組織を弱くしないためにも、それを食い止め、カルチャーフィットができ、レベルが見合う人だけを採用できていけるのかが大切です。海外だと、より目を届かせていないと、採用の失敗が起きやすくなってしまいます。
これについては何度か失敗してきて、最近はハイヤリングマネージャーにも口酸っぱく言ったところです。ただ、向こうとしても「いっぱい人を採ろうと言っているのに採用プロセスを遅らせようとする」と反論はあるのですが、結局はカルチャーフィットしなかったり、レベルが合わなかったりする人がいると、その人も周囲も不幸になり、さらにサポートのための時間も割かれて事業のスピードまで落ちてしまいます。いっそ3倍くらい面倒であっても、採用を軽視しないことが重要なのだ、と説明しました。
前田:採用ミスからの立て直し、時間も精神も負担が大きいですからね。
玉川:メンタルを削られます。カルチャーに対する共通理解があれば、そこから考えや行動のすり合わせをはじめられます。
岡田監督が教えてくれた、自律するチームの作り方
前田:「カルチャーの守護神」であることも、ファウンダーの役割ですね。
玉川:先日、自社開催のイベントで、元サッカー日本代表の監督だった岡田武史さんに「日本のサッカーチームは、いつかワールドカップで優勝できるのか」といった議題でお話しいただいきました。裏テーマとしては「日本のスタートアップが世界を獲る日は来るのか」と似ているわけです。言ってみれば、世界からは2周も3周も遅れているけれども、その上で勝っていけるのかと。
お話は非常に面白くて、同じルールで戦わなきゃいけないので、むしろサッカーのほうが難しいかもしれません。スタートアップは「ルールの裏」を突いたり、「戦うマーケットの定義」を変えたりできるので、サッカーよりマシだという気になりました。
岡田さんは日本サッカーを強くしようと考えたときに「自由にやらせる」をテーマとしたことがあったそうです。日本は体育会系な精神で、監督などから「こうしなさい」と言われたことに従って動くと、一定までは強くなれるのですが、ゴールの近くなど肝心なところでシュートを打たなくもなる。そうではなく、自律するチームを目指して、20年ほど前に岡田さんは「自由にやらせる」を試したが、余計に自律しなくなってしまったといいます。
むしろ「岡田メソッド」と呼ばれる「やるべき基本動作」を16歳くらいまでに叩き込んで、そこから守破離のように、だんだんと離れていくプロセスを踏まないと自律していかないというのです。これはスタートアップのカルチャーも通じるものがあると思います。「こうあるべき」という決め事があり、その上で主体的に自律しないと、会社のカルチャーもなくなり、会社としての動き方もできなくなる。
それを考えると、最近の個人的な“宿題”として、岡田メソッド的かつ経典的な「ソラコムメソッド」を定義して、書かなければいけないのではないか、と考えています。それを日本語や英語と各言語で作れば全体としても楽になるのではないか、というのが課題です。
前田:面白いですね。バリュー、判断基準、振る舞い、スキルといったものは、ある程度の基盤を作った上で自由度を与えたほうが、圧倒的にパフォーマンスが高くなる。今のお話を聞いても、とても納得感があります。ファウンダーの役割として、「海外展開におけるCEOの役割」についても聞いてみたいです。時間の使い方や、気をつけるべきポイントは?
玉川:フェーズによって変わりますね。CEOは「プロダクトの守護神」であるべきだし、「資金調達の要」でもあるべきです。テックオリエンテッドなスタートアップの場合だと、プロダクトをまず重視して、それを売る段階になって軌道に乗ってくれば、採用が重要になってくると思います。
ソラコムは現在で社員数150人くらいですが、AmazonやIBMでも「マネージャーは1人あたり10人から12人までしか面倒を見られない」と限っています。Slackなどがベースになれば、もしかすると15人から20人くらいは見られるかもしれませんが。その時点で私が見られるマネージャーが最大の15人だとすると、マネージャーが見られるメンバーが15人ですから、合計で200人程度が限度。それ以上は、「マネージャー・オブ・マネージャー」という構成で、間接的にしか見られなくなるから、どうしても権限委譲しないといけません。
世界を獲るスタートアップが、日本から生まれる可能性はある
前田:ありがとうございます。あらゆることに正解はありませんが、自分の状況や環境、状態によって合う戦略が絶対にあるとも思うのです。その意味では、自分から常に合う戦略を求めていくことが、唯一の正解といえるのかもしれません。最後に、グローバルを目指す起業家に向けてアドバイスをいただけますか。
玉川:グローバル展開には苦労が多いものです。「グローバルなんて目指していないほうが楽しかったんじゃないか」と、たまに絶望したときに思うんです。でも、その楽しさの中身は、ラクという意味では確かにそうであっても、喜びという意味においては、やはりグローバルを目指したほうが楽しくある。
僕らは最初からグローバルを目指していたものの、挫折して日本からはじめ、シリーズBからもう一回チャレンジして、なんとか形になってきました。一歩進んで二歩下がって、また三歩進んで二歩下がるという感じです。でも、今はガートナーというグローバルでアナリストレポートを出している由緒正しきアナリスト会社からも、各業界ごとのプロダクトにおいて、ソラコムが一昨年から「Managed IoT Connectivity Services」におけるグローバルプレイヤーとして認められるようになってきた。じわじわとした嬉しさがこみ上げてきましたね。
アメリカでセールスチームも定着して、売上も年間単位で大きく伸びるようになってきて。グローバルメンバーとの1on1やグループミーティングでも英語で話していることが、5年前はすごくつらかったんですけど、まったく苦にならなくなってきました。
最近、僕は「エモーショナルダイバーシティ」とチームのみんなに伝えています。一般的にダイバーシティは推奨されるものですが、感情面においてもダイバーシティがあるほうが良いと思っていて。喜びだけでなく、悲しみ、別れ、つらさもあったほうが、より喜びが際立つ。エモーショナルダイバーシティを味わうためには、グローバル展開は絶対に取り組んだほうがいいことです。
アントレプレナーシップとは、どれくらいのリスクを取れるか、という話だと思っています。自分の実力を度外視して大きなリスクを取りすぎてもサバイブできません。結局は、自分とチームがどのくらいのリスクを今なら取れるのか。グローバルを目指せるなら、絶対に選んだほうがいいでしょう。ソラコムは、それがシリーズBくらいからだった、ということです。
本当にグローバルプラットフォームになれるかどうかは、今後の3年から4年の勝負だと捉えています。今回、こういったテーマで話せて、それを聞きに来てくださる人が増えていることは、10年や20年後の日本にとっても、とても大事なことでしょう。
岡田監督は「2050年までに日本はワールドカップで優勝する」と言っていました。サッカーは30年近く必要だとすれば、もしかしたらスタートアップのほうが早く実現できるかもしれません。世界を獲るスタートアップが何社か出てくる可能性があると、僕は信じています。ぜひ、一緒に挑戦していきましょう。
前田:ありがとうございます。心強く、勇気が出るメッセージでした。日本サッカーがワールドカップを獲る前に、僕らスタートアップ業界でワールドを獲っていきたいですね。