2025年はソフトウェア業界にとって、どのような1年間だったのでしょうか。そして2026年、業界はどこへ向かうのか……ALL STAR SAAS BLOGでは年末恒例となったコンテンツ、ALL STAR SAAS FUNDのパートナー・前田ヒロ&湊雅之によるセッションをお送りします。
今年の対談で2人が掲げたキーワードは「戦時モード」。GPT-5、DeepSeek、Claude Code、MCP(Model Context Protocol)といった技術進化が目覚ましく、開発コストと期間は大幅に短縮。プロダクト開発の民主化が進む一方で、スタートアップ同士の競争、SIerやBPOとの競争、さらには顧客企業の内製化との競争まで、戦いは多様化しています。
アメリカでは、わずか1.5年でARR100億円に到達する「AIスーパーノバ」企業が登場。VCマネーの64%がAIに流れ、Palantirは売上高マルチプル86倍という異次元の評価を得ています。一方、日本の上場SaaS市場は中央値PSR4倍と低水準が続きますが、この水準はかえってAI時代の勝者を目指すのであれば大きなアップサイドがあることを意味しています。
激変する環境で勝ち抜くために必要な戦略とは何か。孫子やクラウゼヴィッツといった古典の戦略論を引用しながら、2人は「スピード重視」「レバレッジの蓄積」「ディープインサイト」「資源の確保」「実を避けて虚を撃つ」という5つの原則を提示しました。
さらに、2026年に注目すべき6つの投資テーマ──アウトソーシング代替AI、音声領域、規制業界、物理経済向け、プロシューマー向けAI、サイバーセキュリティ──についても語ります。
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2025年、ソフトウェア業界は「戦時モード」に突入した
湊:2025年を振り返ると、一言で表すなら「戦時モード」に入ったと感じています。
前田:特に最近強く感じるのは、スタートアップ同士の競争ですね。隣接領域に入っていくハードルが、開発コストの削減によって下がってきている。
湊:それを後押ししているのが、言わずもがな技術の進化でしょう。2025年も目覚ましい1年でした。GPT-5、DeepSeekによるLLMのコモディティ化、Claude Codeの登場。テーマとしてはMCPやCLI、Mastraのようなエージェントフレームワーク、AIエージェント開発の加速化がありました。最近ではAtlasの話もあり、ブラウザ戦争という様相も呈しています。
AIの進化はソフトウェア市場のルールを大きく4つの観点で変えました。第一に、プロダクト開発のコストと期間の短縮。Claude CodeやCursorのようなツールの影響は大きく、ソフトウェアイノベーション創出のハードルが下がっています。簡単になったとまでは言えませんが、従来よりは確実に参入しやすくなっています。
第二に、AIエージェントの登場。従来のSaaSは「人の業務を支える存在」でしたが、AIは場合によっては人を代替するソフトウェアも登場しつつあります。
第三に、パーソナライゼーション。SaaSはもともと画一的で静的なプロダクトでしたが、AIによってユーザーのデータや嗜好性に合わせた動的なソフトウェアへと進化しています。
第四に、成果報酬やアウトカム課金への移行です。領域によって違いはありますが、日本でもこうした動きがかなり見られるようになったと思います。
ソフトウェアとサービスの境界が溶け合い、市場が拡大
湊:テクノロジーの話から、マーケットへの影響の話に移りましょう。

直近のデータでは、従来のソフトウェア時代は、企業のソフトウェア支出が約10兆円、ヒトにまつわる支出は約300兆円でした。SaaSの支出は1.5兆円規模ありましたが、その予算は基本的にソフトウェア領域からきていました。SaaSは、パッケージソフトウェアや受託開発、Excelの一部業務を提供する形で成長していましたが、ヒトとソフトウェアの境界は強固にあったと言えます。
ところが現在、その境界は曖昧になっていて、ヒトの支出領域に近い部分、たとえばFDEの話では、SIer全体を取っていく、BPOを代替する、コンサルや士業をソフトウェアが代替するといった動きが出てきています。
これによって、競合環境も多様化してきています。日本のソフトウェアマーケットの規模は大きいので、従来は競合スタートアップが2〜3社ある程度で、棲み分けが案外できていた。だから、強烈ともいえるほどの競争は起こっていなかったと言えるでしょう。
しかし、現在はヒトの領域にソフトウェアが参入してきたことによって、競争が激化してきている。
前田:そうなんですよね。隣接領域やお互いの領域に入るハードルが、開発コスト削減によって下がってきている。最近、スタートアップ同士の戦いが激しくなっていると本当に感じます。
湊:場合によってはAIを活用して顧客側で自前開発するケースも出てきていますし。それゆえに競争は多様化し、激化していますよね。
アメリカではAIスーパーノバ企業が異次元の成長を遂げる
湊:それでは次に、先行するアメリカの状況を見てみましょう。かなりのハイスピードで伸びるソフトウェア企業が出てきています。

Bessemer Venture Partnersの「State of AI」によると、ARR100億円のクラウド企業を指す「ケンタウロス企業」は従来約7年かかっていました。ところがOpenAIのような「AIスーパーノバ」と呼ばれる新星企業、あるいは「シューティングスター」というバーティカルAI領域の企業は、それを1.5年で実現する。今までは考えられないスピードの成長です。公表ベースでも、CursorやMercor、Harveyなどが3年未満でこうした売上を達成しています。
ファイナンスの面では、VCマネーがAIに集中して、2025年のデータではアメリカのVCマネーのうち64%がAIに投資されているんですよね。その結果、かなり高いマルチプルで取引されています。

そして、未上場だけでなく、上場マーケットでも同じ現象が起こっています。アメリカの上場SaaSの売上高マルチプル推移を見ると、全体の中央値は5倍前後で大きく変わっていません。一方、トップ5企業、特にAIの カラーが強い企業やアダプションが早い企業は大きく伸びています。
分かりやすいのがPalantirです。昨年のマルチプルは28.4でしたが、今年は86.3という凄まじいマルチプルをつけています。

前田:確かにバブルと言える部分もありますが、実際のIRを見ると、ARR5,000億円を突破したタイミングで68%成長を記録しています。Rule of 40で言うと100に近い異次元な数値を出しているので、AIの恩恵もあってマルチプルが上がっているのでしょう。
日本市場はまだAI銘柄のブレイクスルー前夜
湊:では、日本のVCマネーはどうでしょうか。

2025年上半期の資金調達状況を見ると、SaaSと生成AIが突出して件数と調達金額を集めています。SaaSが1位になったのを僕は初めて見たと思いますが、背景としては、日本でAIを採用したソフトウェアを展開しはじめたのが、SaaS企業が多かったという事情もあると思います。
一方、上場マーケットはどうか。マルチプルのトップ5と中央値を見ると、日本のPSR中央値は現在4倍前後で、かなり低い水準が続いています。過去20年の中央値でも7.3前後なので低い水準です。トップ5も8.7前後で、実際それほど変わっていません。

各社は確かに強いファンダメンタルを出していますが、AIでの爆増や財務インパクトまで示している企業はまだ多くないと感じています。そういう意味では、AIでの戦いを制した企業にはプレミアムが得られる可能性が十分にあるのではないでしょうか。
前田:まだ代表的なAI銘柄が出てきていないのが現状ですよね。AIの恩恵を受けて営業利益が突出している、成長率が尋常でない銘柄が出ていません。だからこそ、マルチプルの差になっているのかなと。その意味では、今後上がる期待は十分にあると思います。
戦時モードを勝ち抜く「5つの戦略」を古典に学ぶ
湊:では、この戦時モードをどう勝ち抜くか。「戦時」といえばやっぱり古典の戦略論だろう、というわけで……今回はそれらをところどころ引用しながら、アメリカや日本で起こっていることと紐づけてお話ししたいと思います。
1. スピード重視、ファウンダーモードで迅速な意思決定を
湊:1つ目は「スピード重視」です。今日のセッションでもキーワードとして出ていましたが、孫子とクラウゼヴィッツという軍事思想家の言葉を引用しましょう。
孫子は『兵は拙速なるを聞くも、未だ巧久なるを睹ざるなり』と言っています。多少は不完全でも早いことで勝つケースはあっても、完璧を目指して長引くことで勝ったのは見たことがない、という意味です。まさに今のAI時代、急速な変化のなかで不完全でも早く市場に投入し、早く改善して勝っていくことが重要なのです。
もう一つ、クラウゼヴィッツは「摩擦・フリクション」という概念を提唱しています。机上の戦争計画と実際の現実の戦争にはかなりのギャップがあり、そのギャップを摩擦と呼びました。指揮官は、摩擦を常に前提としたうえで、状況に応じて迅速かつ柔軟に意思決定、修正していく能力が欠かせない。僕らの言葉で表すなら「ファウンダーモード」が不可欠だというのです。
この起点として、アメリカでは2024年9月にY CombinatorのPaul Grahamが、AirbnbのBrian Cheskyのとある話を紹介していました。「マネージャーモードとファウンダーモードがあり、経営スタイルは実は違う。ファウンダーモードを大事にしないといけない」という話です。アメリカでは大きな共感を生んでおり、特にAI時代になって重要視されています。
日本でも、僕らがインタビューをした、LayerXの福島さんやログラスの布川さんといった経営者が同様の考え方を示しています。福島さんは「もはや2年の猶予しか残されていない」と期間やスピードを強調し、布川さんも「AIは初速で劣後したら終わる」とスピードの重要性を説いています。こうした考え方を持つ経営者が増えていると感じます。
前田:市場の変化あるいは技術の変化があるとトップダウンで動くしかないということですよね。ボトムアップ経営はある意味、平和な時代のもの。戦争の時代にはトップダウンでやらないといけないと。
2. 長期目線でレバレッジの効くアセットを蓄積し続ける
湊:2つ目は、長期目線でレバレッジの効くアセットを蓄積し続けることです。
AIの話になると、いろんな会社や顧客がAIのプロジェクトで受注するので、さまざまなテーマが出てきてビジネスが生まれやすい。しかし、ビジネスがアセットになっていくかどうかは別の話です。
孫子の「積水の計」という考え方があります。戦いに勝つ人たちは、満々と水をダムに貯めて一気に決壊させるような勢いを持っている。一瞬の勢いではなく、長期に渡って蓄積したものを爆発させることが大事だという話です。
この考えに近い逸話では「長篠の戦い」があります。当代最強と謳われた「武田の騎馬隊」を織田信長が打ち倒すのに鉄砲隊を組織化しました。勝因は、鉄砲という技術だけの話ではありません。鉄砲を持ったうえに「三段打ち」という組織体制を作り、楽市楽座で経済力を強化し、商人を集積化する。ある意味、仕組みで勝った戦いなのです。
このレバレッジの話は、ソフトウェア業界でも非常に大切だと思います。シリコンバレーの著名な起業家で投資家のNaval Ravikant氏は、著書のなかで「ビジネスのレバレッジは3つしかない」と説いています。「資本(キャピタル)」、「人や組織(ピープル)」、そしてコピーするコストがほとんどかからないメディアやコードといった「プロダクト」です。
SalesMarkerの小笠原さんとお話ししたときも、彼はこのレバレッジを強く意識していたんですよね。AIの時代はスピードが大事で、組織的に開発スピードを上げていく仕組みが必要なわけですが、彼は、意識的な組織づくりや意思決定の方法を蓄積していると感じました。組織力はすぐ真似しようと思っても簡単にできないので、ある意味アセットと言えると思います。
また、彼らは「インテントセールス」という概念を提唱し、いろんなメディアに出てコンテンツを蓄積させることで、ブランドというMoatを築いているのも印象的でした。
前田:ナヴァルの『シリコンバレー最重要思想家 ナヴァル・ラヴィカント』はオススメですね。僕も中期計画を考えるとき、いつもナヴァルの本をまず読んでから取り組んでいます。「レバレッジが効くものをどう最大化できるか」をとにかく考えるんです。それがブランドなのか、仕組みなのか、カルチャーなのか、採用なのか、プロダクトなのか──皆さんにお勧めしたい一冊ですね。
3. 自己認識力を高めて、顧客第一競争、競合第二で情報戦を制する
湊:3つ目は、自己認識力を高めて、顧客第一、競合第二で情報戦を制することです。競合を知らず自分だけのことをわかっていても一勝一敗、両方とも知らなければ負けるという話ですね。
Amazonは「Customer Obsession」を非常に大事にしており、顧客への執着が勝因だと言っています。顧客への執着が第一であり、特にAI時代になるといかに顧客に深く入っていけるかが大事。こういった顧客第一の考え方はなおさら重要になると思います。
一方、MicrosoftのSatya Nadella氏は、「AIエージェントの時代は、ユーザーのニーズを深く理解することは当然だが、リアルタイムで競合の変化も予測しなければならない」とも言っています。開発スピードやリリースのスピードが上がっているなかで、競合がどう動くかは、場合によっては商談の間に変わる可能性もあるわけです。競合だけを意識して戦うのは間違っていますが、ちゃんと把握しなければいけない状況は以前より起こっています。
前田:グローバルで第一戦で戦っている起業家たちと話してみると、競合や競争環境への理解がとても深いと感じます。どこで負けていて、どこで勝っているのか。競合が弱いのはどこか。それらをすごくわかっていましたね。
湊:日本でも以前は競合を深く理解しなくてもマーケットが取れたのですが、競合理解の意識が非常に強い経営者が増えてきていると率直に思います。
4. リソースを確保し、組織と資本を拡大する
湊:4つ目は、戦い続けていくためにリソースの確保が大事だ、という点です。
スタートアップの観点ではお金、つまり資金調達による資本もありますし、優秀な人材を獲得して組織化すること、そして時間というリソースを確保すること、つまり市場での有利性を獲得するためのリードタイムが大事になってきています。
全体を見るのは難しいですが、一つの現象として、2025年もAIスタートアップの大型調達が非常に目立った年でした。OpenAIもそうですし、Scale AIがMetaに買収されたのもかなり大きな金額でした。最近だとLayerXさんやSakana AIさんといった、AIコンテクストでの投資集中が見られはじめています。
5. 「戦わずして勝つ」を目指し、戦うなら「実を避けて虚を撃つ」
湊:最後です。ここまで戦う戦うと話してきましたが、孫子先生はこんなことも言っています。「百戦百勝は、善の善なるものにあらず。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なるものなり」と。
百戦百勝することがいいことではありません。そもそも戦わないで相手を屈服させることが大事なのです。ただ、AIソフトウェア領域で感じるのは、新しいスペースにすぐ競合が出てくるので、戦わなきゃいけないときも出てきます。そういう意味では『実を避けて虚を撃つ』という考え方です。相手が強いところを避けて、弱いところをいかに突けるのか。
この考え方は、Peter Thielの『Zero to One』の話に近いでしょう。彼は極論でハッキリしたスタンスを取っていて、競争はそもそも利益を薄めるもので敗者のものだと考えています。優れた偉大なビジネスは隠された真実から構築されている、つまり戦わないような場所を見つけることが起点だというのです。
難しい時代ではありますが、そうしたものをいかに見つけられるかがより問われてきています。
2026年に注目すべき6つの投資テーマ
湊:さて、それでは2025年を踏まえて、2026年に私たちALL STAR SAAS FUNDとしても投資していきたい6つのテーマをシェアしたいと思います。

1. アウトソーシング代替AI
湊:1つ目は「アウトソーシング代替AI」です。FDEの話もそうですが、巨大な既存予算が存在しているうえに、高単価が取れるポテンシャルがあると考えています。かつ、AIによって、ホワイトスペースが生まれているんですよね。
LayerX、Karakuri、KenRi、あとはHerixなどがこの領域に近いでしょう。海外ではPalantir、Pilot、Evenupなどがありますね。
前田:わかりやすくプロフェッショナルでアウトソーシングするような領域が多いですね。アカウンティング、リーガル、カスタマーサポートなどが、今のホワイトスペースになっているのかなと。
2. 音声領域
湊:2つ目は、私たちも大好きな「音声領域」です。音声のSaaSやAIは、ある意味では非構造データの塊です。なおかつ、そもそも人のコミュニケーションは時間が取られるので、インパクトも大きい。タイム・トゥ・バリューが短いという点で、非常に魅力的な市場だと考えています。
RevComm、IVRy、JamRoll、海外ではDecagonもこの領域ですね。
前田:特に注目しているのは、医療現場で患者さんと先生の会話を聞いて、電子カルテに自動入力していくことができるプロダクトを展開しているAbridgeという会社です。医師がどう電子カルテに記録しているかがわかっていないと、正しい記録の仕方や整理の仕方も分からないので、一定の参入障壁になりますし、入り方が面白いなと思います。
他にも、音声を活用していろんな場所……クリニックや警察などでのヒアリングの記録の方法を変えていくチャンスがありそうです。
3. 規制業界特化SaaS/AI
湊:3つ目は、「規制業界」に注目しています。海外のAIスタートアップを見ても、規制業界に特化したSaaSやAIは興味の強い業界として見ています。
規制業界とは製薬、ヘルスケア、金融など、レギュレーションが非常に厳しいところですね。こうした領域はドメインの深さがかなり求められるので、そもそも競合が比較的出にくいです。かつ、レギュレーションというルールがあるので、AIとの相性の良さもあります。
私たちの支援先でいうとMedUp、Shaperon、海外ではヘルスケア領域のTennrなどが興味深い領域です。
4. 物理経済向けSaaS/AI
湊:4つ目は「物理経済向け」です。医療、介護、飲食、製造、物流といったフィジカルなビジネスです。それらはほとんどが労働集約的で、特に日本は労働人口問題で最もペインが大きい。
非構造データや、場合によってはハードウェアと組み合わせることで解決できる課題の深さが変わってきます。複数のものをマルチモーダルにしていくことで、参入障壁は非常に築きやすいと考えています。
国内では、飲食業向けのGoals、介護領域のVoxela、流通領域のAUDERなど。海外だとヒューマノイドのようなロボットと組み合わせて、AIをいかにフィジカルな世界に使っていくかが興味深いなと思っています。
5. プロシューマー向けAI
湊:5つ目は「プロシューマー向けAI」です。
前田:僕が大好きな領域ですね(笑)。
湊:日本でいうとNottaをはじめ、海外ではCursor、Canva、Fyxer.ai、Miroなどです。
プロシューマー向けAIは、特にOpenAIのApp Storeが市場を開放している部分もあるので、逆に参入されやすい。しかし、逆に一斉スタートで戦える部分もあります。AIスーパーノバ級の成長が期待できますし、日本発でグローバルを取っていくソフトウェアが出てくるのではないか。
前田:もっと会いたいです。こういうプロシューマー向け。
6. サイバーセキュリティ・GRC
湊:最後は毎年入れていますが、「サイバーセキュリティとGRCのSaaS/AI」です。
最近、サイバー攻撃のエンタープライズ企業への攻撃が非常にニュースになり、大規模な損害を起こしています。日本でもアテンションが非常に高くなっていますし、そもそもAIによってサイバー攻撃自体が増えて複雑化しています。ドメインの知識が非常にMoatになりやすい領域なので、毎年期待している領域です。
2026年に向けて、勝つための5つの心得
湊:最後に、2026年に向けて大事なことを2人で考えながら書いたのでシェアさせてください。
1. パラノイアになれ
湊:競争環境もそうですし、技術の進化にいかに反応して理解し、キャッチアップしていくかが重要です。
前田:そう、パラノイアになることの重要性がすごく高まっていると思います。変化が激しいときこそ、新しい情報が入ってきたときに反応することが、本当に重要。技術変化なのか、組織の変化なのか、競争環境の変化なのか……本当に機敏に反応しないといけない時代です。
2. 爆発力のあるレバレッジを積み上げろ
湊:レバレッジは、AIプロダクトの特性上いろいろあります。コンテキストデータといったデータ領域も当然ながらありますし、AIをどう評価していくかという「Eval」の仕組みを社内でどう持つかもありますね。
あとは組織力ですね。組織力も本当に難しい一つのレバレッジです。その積み上げの重要度が増しています。
3. ディープインサイトで勝て
湊:今までソフトウェアは人を使うことが前提でしたが、場合によっては人を代替する部分が出てくると、業務を深く理解しなければいけません。Human in the loopで入れなきゃいけないことが出てきます。今までよりも一段深いドメイン知識やワークフローの理解が必要なので、ディープインサイトの観点も欠かせない。
もう一つは、競争のなかで自分たちのGTMのモーションのどこに欠陥があるのか、場合によってはAIを使ってどう改善していくのか、改善の結果をどう見るのかというインサイトを得続けられるかどうかで、同じことを表面上やっていたとしても、かなり差が出るのが現実です。社内外問わず、ディープインサイトをどう取るかが勝ちのポイントになっています。
前田:DecagonのJesseさんと「AIエージェントの差別化」について話をしたのですが、いかに企業の情報や歴史、お客さまとの問い合わせ対応の仕方や方針を知ったうえで、情報をちゃんと学習して結果を出していくか。つまりは、誰よりも企業を理解することによってAIエージェントの差別化を作りに行くという話をされていましたね。
4. パワフルな一貫性のあるストーリーを追求せよ
湊:AIの技術進化、競合の参入、エンタープライズ企業のAIに関するニュースは、ほぼ毎日のように見ます。AIではホワイトスペースがいっぱい生まれているので、発散するのも大事なことです。一方で、当然ながら発散していくと、組織のマインドシェアやエネルギーが分散していってしまいます。いろんなスタートアップでも起こっている。
バランスが非常に難しい中、一貫性のあるストーリーにおいて、経営として絶対負けられない、社内のエース級人材を張ってでも取り組むポイントを見定められるかが大切です。チーム全体のマインドシェアがばらけてしまうことが起こりやすい市場環境だと思うので、「なぜやるのか」というストーリーを、ハイレベルでなくてもいいので追求しなくてはならないのです。
前田:本当に分散化しやすい時代になりました。AIによって「あれも作れる」「これも作れる」「この市場も入れる」といろんなアイデアが出てきますが、それだけ見ると結構みんな似たような動きをします。
だから唯一の差別化は、ストーリーではないかと。これら全て取り組むうえで、自分たちはこういうミッションやビジョン、あるいは戦略を持って進んでいる。それらを示すことが、採用面でもエクイティストーリー面でも差別化になるポイントになってきそうだなと感じますね。
5. 最先端を理解して最適なサービスを届けよう
湊:最近、アメリカでは量子コンピューターなど、いろんなテクノロジー領域が出てきています。とはいえ、テクノロジーはあくまでもツール、道具でしかないんですよね。スタートアップに期待されるのは、テクノロジーと現実のギャップをどう埋めるかです。顧客理解もその一つでしょう。
領域によっては、AIでなくSaaSで取り組んだほうがいいこともあります。最先端の技術で「何ができるのか」を理解したうえで、顧客にとって「最適なサービスは何なのか」を磨き続けることが大事になっています。
前田:「磨き」は、これからもっと価値が高まるでしょうね。いろんな新しい技術がこれから生まれると思っていて、それらを見境なく取り入れてしまうと、顧客にとって使いづらいものになっていく可能性もあり得ます。場合によってはAIを入れないほうがいいという判断ができることも大切だからこそ、今日の最後にこの言葉を持ってきました。
前田ヒロ(@djtokyo)
ALL STAR SAAS FUND マネージングパートナー
2010年「Open Network Lab」をデジタルガレージ、カカクコムと共同設立。その後、BEENOSのインキュベーション本部長として、国内外のスタートアップ支援・投資事業を統括。2015年にグローバルファンド「BEENEXT」を設立。2016年には『Forbes Asia』が選ぶ「30 Under 30」のベンチャーキャピタル部門に選出。
湊 雅之(@saas_junkie)
ALL STAR SAAS FUND シニアパートナー
2016年より複数の国内VC(STRIVE、Salesforce Ventures、DNX Ventures、ALL STAR SAAS FUND)で、40社以上のBtoBソフトウェア領域でのベンチャー投資と成長支援を担当。それ以前は、ボストン・コンサルティング・グループにて戦略コンサルティング、BASFにてエンタープライズ営業や新規事業開発などに従事。過去の支援先は、ココペリ(東証グロース市場IPO)、カウリス(東証グロース市場IPO)、Resily(M&A)、コミューン、YESOD、エンペイ、アガサ、MyRefer等。



