近年、グロースチームの重要性が注目され、チームの構築に力を入れはじめている急成長スタートアップが増えてきました。しかし、グロースチームの役割や機能、そして効果的な運営方法については、まだ確立されていない部分が多いのも現状です。
今回、Opendoor、Instacart、Rampなど、シリコンバレーの急成長企業でグロース・リーダーを歴任してきたSri Batchuさん(@sri_batchu)に、グロースチームの重要性と構築方法について、詳しくお話を伺いました。インタビューしたのは、Fond Technologies, Inc. 創業者で、ALL STAR SAAS FUNDのメンターでもある福山太郎(@taro_f)さんです。
Sriさんは、グロースチームの役割について「マーケティングの発展形であり、プロダクトとマーケティングの組み合わせ」と定義づけます。また、グロースチームの構築には、スピード、クオリティ、コストの3つのバランスが重要だと指摘します。
グロースチームの組織構造やKPI設定、優秀なグロースリーダーの採用方法、新メンバーのオンボーディングプロセスなど、Sriさんの豊富な経験に基づく貴重なインサイトが満載の時間になりました。
グロースとはマーケティングの発展形である
福山太郎(以下、福山):Sriさんは、素晴らしい企業で重要なポジションに就いていた経歴をお持ちです。まずは、直近のハイライトを聞かせてもらえますか?
Sri Batchu(以下、Sri):実は私は「期せずして」グロース・マーケティングのリーダーになったんです。「期せずして」は「その仕事が楽しくなかった」という意味ではなく、グロースマーケティングのキャリアを意図して歩んだわけではないんですよ。
私は、どちらかというとトラディショナルな業界でキャリアをスタートさせました。マッキンゼーでコンサルをしたり、PEのBain Capitalで投資業務を行なったり。そんな中で、自分はよりオペレーションの部分に携わりたいと思うようになりました。投資家としてではなく、「中の人」としてビジネスの構築に貢献したかったのです。
1社目に参画したのがスタートアップだった「Opendoor」でした。当時のOpendoorは、シリーズBのステージで従業員数は40人程度。それから4年半の間に、従業員数も2,000人まで増え、売上は50億ドルの規模にまで成長しました。Opendoorでは、セールスや分析、プライシング、ファイナンスなどあらゆるチームをリードしてきました。
その後、パンデミックが起きてしまったタイミングで「Instacart」に参画しました。コアビジネスが爆発的に伸びている中で広告ビジネスを伸ばし、BtoBの収益を上げることが重要なミッションの一つでした。とても興味深い時期に関われたと思いますね。
このミッションを数年ほど担当し、グロース関連業務に特化した活動を経て、「Ramp」に参画しました。当時のRampはARR7,000万ドルほどの規模でしたが、私がRampを卒業するまでの2年弱の間でARR3億ドルにまで成長しています。
それからの経験を経て、現在はラグジュアリーに特化したリセールプラットフォームを展開している「RealReal」という企業でマーケティングのリーダーを務めています。
福山:Sriさんはグロース分野の第一人者として知られていますが、役職に「グロース」を冠したのはいつからですか?誰かにもらったのか、自ら使うようになったのか……。
Sri:シリコンバレー、それからテック業界全体を見ても、CGO(Chief Growth Officer)という役職はまだまだ珍しいと思います。ここ5〜10年の間に生まれたもので、ShopifyのCGOであるLuc Levesqueが、この役職の最も有名な人物でしょう。
未だに珍しい役職ですし、「マーケティング領域の既存ポジションの発展形」という認識が多いはずです。特徴を知るには「グロースとマーケティングは歴史的に見ると何が違うのか?」という問いから考えてみるといいでしょう。
私は「グロースとはマーケティングの発展形である」と考えています。実際に「顧客獲得」が、より一層プロダクトやデータ・ドリブンな機能になって、獲得とリテンション、収益グロースという広い観点を包含する考え方になってきています。
でも従来は、オフラインマーケティングに資金を投じて、顧客を獲得してきましたよね。最近は、プロダクトを通じて見込み客や顧客をエンゲージする方法が増えていますから、資金の多くはデジタルに使われるようになって、よりスマートにROIを見るようになりました。
どのチャネルにどれだけの予算を配分するのか。オンラインとオフラインの特性を踏まえたハイブリッド型アプローチなども熟慮すべきです。
今、マーケティングはますますテクニカルな領域になって、プロダクトのグロースによってマーケティングを加速させるより良い方法がたくさん出てきているんですよ。私は、プロダクトのグロース、またはグロースそのものは、これらの分野を統合したものであり、最終的に企業のトップラインのグロースに対して責任を持つチームであると考えています。
グロース担当者のレポートラインは、誰に設定すべきか?
福山:グロース担当者のレポートラインは、組織図を想定すると、どのように設定することが多いですか。CEO、セールスリーダー、マーケティングリーダーのいずれかでしょうか?
Sri:それを考えるには、まずはグロースに関する主な意思決定の2つのポイントを踏まえておきましょう。グロースチームが「プロダクトの要素に焦点を当てるのか」、それとも「マーケティングチャネルにも焦点を当てるのか」という2点です。ただ、両方をマネージして、さらに成功させられるリーダーを見つけるのは難しいのですが……。
多くの場合、プロダクトとテクノロジーはGTM(Go-To-Market)とは異なる分野として位置づけられます。グロースが興味深い点として、うまく構成するには「プロダクトの観点におけるグロース」「マーケティング」「GTM」の各要素を同じ屋根の下に置く必要があることです。結果として、組織には摩擦が生まれます。レポートラインの観点でいえば、グロースチームが「誰にレポートすれば良いのか」が不明確になるのです。
典型的なグロース・マーケティングチームで、ペイドマーケティングやSEO、オフラインイベント、フィールドマーケティングが活動の中心なら、レポートラインはCMOやCEOになることが多いでしょう。ただ、アーリーステージの場合はCMOはいないですし、いるべきでもないですから、CEOになってきます。
あるいは、GTMのリーダーやCROがいれば、彼らにレポートすることもあります。その一方で、PLG志向やプロダクト主導の会社ならば、グロースチームはプロダクト寄りであるべきで、基本的にプロダクトマネジメントに関わることになる。この場合はCPOをはじめ、プロダクトや技術を管轄する共同創業者がレポートラインになります。
これらが、私が見てきた典型的なグロースチームの位置づけですね。
福山:マーケティングやプロダクト、セールスのように、グロースチームも独立したチームであるべきなのでしょうか。
Sri:そうですね。グロースチームが独立していると、考え方として、「グロースプロダクト」と「コアプロダクト」が生まれます。
グロースプロダクトは、ファネル上でいう顧客獲得とクロージングに焦点をあてます。ここに、アクティベーションやリテンションに着目した取り組みが含まれることもあります。これらは緊密に連携してコアプロダクトの機能を開発することもありますし、より独立した形で働くこともあります。
顧客獲得はリテンションやアクティベーションに比べると、独立して働く傾向が強いです。この場合は、マーケティングやセールスなどの各機能からは独立させると良いでしょう。とは言え、やはりグロースチームのレポートラインは、プロダクトやマーケティングに設定するのが一般的です。
ただ、プロダクトチームにレポートする場合も、プロダクトチームにはコアプロダクトの機能は残ります。マーケティングチームにレポートする場合であっても、グロースマーケティングの機能とは考えにくいPRやブランド、コミュニケーション、プロダクトマーケティングなどは、マーケティングチームが見ることになります。
クロスファンクショナルなチームが調和するための心がけ
福山:クロスファンクショナルなチームが、調和して働くための心がけとは何でしょうか。マーケティングチームやプロダクトチームが「仕事を奪わないで」と訴えるかもしれません。そのような状況を生まないための対応策はありますか?
Sri:まずは、そのスタートアップがハイパーグロースのフェーズにあるときは、そういう問題はあまり起こらないと思います。どのように仕事の線引きをするにせよ、メンバーがこなせる以上の業務が山ほどありますから。メンバーは最大のインパクトをもたらす仕事に取り組むべきです。
とは言っても、それぞれのメンバーの役割と責任を明確化することは大切でしょう。この問題の最高の解決策に、私たちが「RACIフレームワーク」と呼んでいるものがあります。このフレームワークは意思決定をする際に「誰が責任を持つのか。誰に相談して、誰に情報を共有すべきか」を明確にできるものです。
Rampのグロースチームでは顧客獲得に専念するグロースプロダクトチームがいて、彼らのレポートラインは私でしたが、同時にプロダクトのリーダーにも報告してもらっていました。そして、SEO、ペイドマーケティング、フィールドマーケティングなどを行なうグロースマーケティングチームもありましたが、彼らのレポートラインも私でした。
当初、私のレポートラインはCEOでしたが、会社が成長して大きくなったときにCMOを採用したので、私のレポートラインはCMOに変わりました。
「誰が、どの仕事の責任を負うのか」を明確にした結果、グロースプロダクトは、グロースチームの管轄となったのです。そして、責任がコアプロダクトチームに移るタイミングは「顧客が契約にサインをしたとき」とはっきり線引きしていました。つまり、契約が成立すれば、それ以降に発生するプロダクトに関連するすべての対応は、コアプロダクトチームが担当するわけです。
線の引き方は自由ですが、グロースプロダクトからコアプロダクトへと移る線引きは決めておくことを勧めたいですね。これは、プロダクトを軸にしたマーケティングの考え方になります。
セールスを軸にしたマーケティングの考え方は、マーケティングとセールスのパイプライン目標やチャネルを明確にすることも重要でしょう。そして、パイプラインに対してマーケティングが直接的な責任を持つことが、組織をより良く構築できる方法だと思います。
多くの会社や企業は、マーケティングにMQL(Marketing Qualified Lead)を担当させますよね。そしてMQLがSQL(Sales Qualified Lead)になると、セールスチームはそのパイプラインをクローズする責任を持ちます。
このやり方の課題は、リードの品質スコアなどを使って軽減できるかもしれませんが……マーケティングチームがMQLの目標を達成しているにもかかわらず、営業チームが同じ量の商談を成立させることができないケースが多いということなんです。
その結果、典型的な責任のなすりつけ合いが生じます。マーケティングチームは「良いリードを生み出して目標を達成した」と言いますし、「成約できなかったのはセールスチームのクオリティやプロセスの組み方に問題がある」と主張します。でも、セールスチームはまったく逆のことを言うでしょう。「質の高いリードなら成約率は高くなるのに、リード品質に差がある結果なんだ」と。
こういうときに役立つのが、社内で合意された「リード品質スコア」のフレームワークです。そして、解決法がもう一つあって、マーケティングチームの目標に「担当チャネルの契約をクローズさせること」を設定するのです。
Rampでは、この方法を採用していました。MQLを提供するだけでなく、そのパイプラインから発生した契約締結の金額に責任を負っていたんです。これによって、セールスチームとの連携がより深まりました。
ただ、このやり方には難しい点があったのも事実です。なぜなら、コンバージョンプロセスのコントロールが効かなくなってしまうからです。それでも、ファネルに責任を持つチームとして行動して、セールスチームと協力しながらファネルのコンバージョンを改善すべきだと考えました。
インセンティブも適切な形に調整しました。セールスチームはセールスとマーケティング両方から発生したリードに基づいてノルマを達成します。ですから、彼らは案件を成約させることに強いインセンティブを持っていますが、難易度によって、案件に対するプライオリティが変わってしまうことがあるんです。だから、少しの緊張感や意図的な摩擦を持つことが良い働きをすることがあるわけです。
福山:グロースチームの成功を測るには、今お聞きしたKPIが主軸になりますか?つまり重視すべきは2点で、一つは「作り出したリードの数」。もう一つは「契約締結の金額目標」で、担当するチャネルから生まれたリードによるもの、と。
Sri:ええ、そうなりますね。前提として、B2Bのソフトウェアでは、グロースチームやマーケティングチームに担当させたいファネルは自由に選べます。
ただ、もちろん常にトレードオフだってあります。例えば、ビジネスの最終的なゴールがキャッシュフローの創出であれば、マーケティングチームに四半期ごとのキャッシュフロー目標を担当させることだってできます。でも、明らかに彼らの能力とはかけ離れたものであり、おそらく良い指標にはならないと思いますが......。
何がアウトプットにつながるインプットなのかが、彼らには分かりませんから。取り組みに対して、どのような成果が出るのか見えなければ、モチベーションも上がりませんよね。
それに対して、例えばMQLなど、ファネルの上位段階にある指標を選んだとしても、チームは単にその指標を達成するだけで満足してしまい、仕事の全体的な品質には責任を感じなくなる可能性があります。
では、どうすれば良いか。ファネルの下位にある指標を選ぶのです。特に最終的なアウトカム、キャッシュフロー、売上などに相関する指標が良いでしょう。あとはチームの活動に直接的な影響を与える必要もあると思います。よくある例で言うと、SQLパイプラインの金額、契約締結額です。これらの指標をマーケティングやグロースチームに共有すると高い効果があります。多くの会社で通用するやり方だと思いますよ。
グロースチームや専門人材を構築/採用するベストタイミングは?
福山:SaaS企業がグロースチームを設けるべきタイミングは、いつだと考えますか?
Sri:私は、すべてのSaaS企業にグロースチームが必要だと思っていますが、注意しなくてはならないのは「グロース」の定義です。
グロースとは「何を選択するか」という話なんです。グロースのモジュールはたくさんあって、選び方は組織の構造やビジネスモデルに依存します。そして、グロースチームがどれだけ重要な存在になれるのかもポイントです。企業の中には長期にわたってグロースチームしかない会社もあります。マーケティングやセールスチームがないわけです。もし、PLGのプロダクトを展開しているとしたらボトムアップ型になりますよね。
初期のSlackはこの典型例で、彼らは長い間、PLG型の企業でした。そして時間の経過とともにマーケティングチームが構築されたのだと思います。でも実際には、多くの業務がプロダクトドリブンだったのです。このように、グロースチームの設け方は企業のビジネスモデルに依存すると考えています。
グロースは、マーケティングやプロダクトとは、また異なるものでありながら、これら2つの機能の組み合わせでもある。グロースの専門知識を持つ人材の採用は、多くのメリットを得られると感じていますよ。
福山:グロースチームを構築したり、採用したりするステージやタイミングについては、どう考えていますか。Day 1から採用するべきでしょうか?もう少し後のステージでも良いのでしょうか?アドバイスをお願いします。
Sri:グロースのリーダーやシニア人材を採用するのはPMFを完全に達成した後が良いと思います。
プレシリーズAのフェーズでは、グロースは全員、特に創業者のミッションになります。何が上手くいくのか全員が理解する必要があるんです。
多くのB2B向け企業では最初にファウンダーや投資家が主導してセールスを行ない、何が上手くいくのかを理解します。そして、顧客の数が十分に増えてくれば最初のセールス担当を採用して潜在顧客を開拓し、どこに顧客がいて、彼らが何を大切にしているのか、どのように伝えれば良いかを理解します。
それができてから、グロース担当やグロースチームへの投資を考えはじめると良いでしょう。培ってきたインサイトをどのようにスケールできるか。顧客がどこにいて、彼らが何を欲しがっているか。スケールしたチャネルや様々な活動を通じて、より多くのリードを集められるのか。それらの方法を考えられます。
そしてもちろん、インサイドセールスやセルフサービスで多くのリードを獲得したときに、そのリードをクローズできるように準備しておく必要もあります。
まとめると、PMFを完全に達成するまではグロースは全員の仕事であって、ラウンドBくらいで、フルタイムのグロース人材を採用するとちょうど良いと思います。
面接で見極めたいのは「知的好奇心の旺盛さ、問題解決能力の高さ、フィードバックへの適応力」
福山:「グロースリーダーとして成功しやすい人」の共通点はありますか。まだ新しい職種だとは思うのですが、経歴やバックグラウンドなど、特定のタイプが見えれば嬉しいです。
Sri:グロースリーダーには、3つのタイプがあると考えます。プロダクト出身の人、アナリティクス出身の人、マーケティング的なバックグラウンドを持つ人です。どのタイプの人でも素晴らしいグロースリーダーになれると思います。
ちなみに私が選ぶときは、アナリティクスやファイナンスのバックグラウンドを持つ人を登用しがちです。私自身がそういうバックグラウンドを持っていますからね。でも、あなたが尊敬できる会社があったら、その会社に早期からジョインしていたグロース担当者を見つけるのが良いと思いますよ。
または、そのグロース担当にレポートした人を見つけるのも、良い候補者を探すための採用戦略です。AirtableやNotion、Loomなど、PLGを採用する多くの企業にはグロースリーダーがいます。数多くの企業が良い結果を出しているわけですから、特定のグロースリーダーを見つけてみてください。
プロダクト出身の人材は、LinkedInで見つけるのが一番簡単だと思います。マーケティング出身の人材も比較的見つけやすいはずです。一筋縄でいかないのは、私たちが話したような「他の経歴」の持ち主でしょう。
福山:なるほど。候補者のフィット感を見極めるために、Sriさんが使う「お気に入りの質問」はありますか?
Sri:私が面接で見極めたいのは、知的好奇心の旺盛さ、問題解決能力の高さ、フィードバックへの適応力です。
ドメインの専門知識は薄れていくものですし、仮に持っていなくても学習はできますから。最近は、ドメインの専門知識を学ぶための外部リソースがたくさんありますしね。
私のインタビューでは、正しい質問をして候補者から「何か」を引き出そうとはしません。候補者が過去に聞かれたことや典型的な質問をしても、相手も事前準備を踏まえてインタビューに挑むでしょうから、職場で実績が出せるかは分かりません。そこで私は、候補者が「将来取り組むかもしれない実問題」を模した「ケース面接」のスタイルが好きです。プロセスを通して、候補者が「適切なフォローアップの質問ができるか」を知りたいのです。
問題に対して知的興味を持っているのか。問題を構造化し、解決策を提案できるか。解決策やプロセス全体へのフィードバックをしたとき、どんな対応をするのか。ケース面接を通して、相手のことをよく知ろうとします。
福山:ケース面接の例で、共有できるものはありますか?「今後3年間のSlackの成長戦略はどうあるべきか」といった、シンプルな質問なのでしょうか。
Sri:それは役割によると思います。シニアな候補者であればあるほど、ケースや質問はよりオープンエンドになります。とはいえ、面接で最高の会話をするには、もっと制約の多い、分かりやすい問題が良いですね。私がよく使うのは、過去の実例にインスパイアされた問いです。
例えば、Opendoorでは「プライシング」の課題を抱えていたことがありました。そこで、この課題を活用して質問しました。「仮に一軒あたりの平均コスト構造が見えたとして、実際に請求するとしたら、金額はこれくらいになる。でも、このままでは上手くいきません。最適なプライシングはどうすべきでしょう?」。
オープンエンドの質問でありながら、インプットもあり、制約条件も提示できる質問です。そうすると、候補者が問題を理解するためにどのような追加質問をするのか、どのように問題にアプローチするか、フィードバックにどれだけ適応できるかが分かります。
もう一つ、過去にした別の質問で、私のInstacartでの経験に基づくものもあります。「注文あたり1ドルをグロースへ投資するとしたら、どのように分配しますか」と尋ねました。
福山:かなりハイレベルな質問ですね。
Sri:このようなケース面接は必ずしも正解や不正解があるわけではありません。その候補者がどのように考えているのか、より良い問題解決につながるような思考スタイルを持つのか。それらを理解するためのものです。
福山:このようなケース面接は採用する職務のランクに関係なく行なうのですか?「忙しくて回答をする時間がない」なんて言って、候補者がいなくなるようなこともあるのでは?
Sri:私も複数企業を経験しましたが、CxOたちも詳細なケースを作った発表を求められていましたよ。ですので、シニアな候補者だからといって「ケース面接ができない」と考えなくて良いでしょう。
この意見は、カルチャー的な違いもあるかもしれません。ただ、確かOpendoorのときにシニア候補者と面接したことがあったのですが、面接官全員がケース面接を希望して回数が多くなりすぎてしまったことがありました。
これは候補者にとってあまり良い経験ではなかったかもしれません。経験が豊富な候補者の場合、リファレンスが取れていれば、当人の能力について十分なデータがあるはずですから、必ずしも新しくテストを実施する必要はないわけです。とはいえ、ケース面接をすることを嫌がるような人は、そもそもグロースフェーズの企業には向いていないと思います。
私に言わせれば、それは候補者が過去の実績や専門的な分野に固執してしまっている表れであり、新しい問題を解決することに興味関心を高く持てていないということですから。
私は、こうしたアプローチには興味関心の度合いを高く取り組むことができます。企業からデータをもらって「彼らが取り組んでいる問題について考えてほしい」と言われるのは、とても楽しいはずですよ。楽しめないのなら、なぜ、その会社に入ろうとするのでしょう?これこそが、仕事のはずなのに。
福山:その通りです。候補者のコミットメントも確認できますよね。数時間も時間をかけたくないなんて、ロールに対しての真剣みが薄いと受け取れますから。
グロース実験の失敗率は「70%以上」だからこそ、素早く失敗すべき
福山:以前、Sriさんが、あるインタビューで「グロースチームには3つのフェーズがある」とおっしゃっているのを見ました。どういう意味なのか、どんな定義があるのか。ぜひ聞かせてください。
Sri:この3つのポイントは、何かを構築するときの基本概念なんです。スピード、クオリティ、コスト。それらを同時に最適化するのは、とても難しいことですから。
システムの様々な要素に焦点をあてながら進めていかなくてなりません。そして、時間が経つにつれて、3つすべてが重要になり、バランスを取る必要も出てきます。
チームを立ち上げたばかりのタイミングでは、SaaS企業の経営者は「スピードを実現するためのカルチャーとシステムを作りたい」と考えるでしょう。実験を重ねて素早くプロダクトをローンチできるのか。MVPのスコープを作れるのか。実行可能な方法で物事を進める方法を理解しているのか──。
多くの優れた企業がそうであるように、スマートな人をたくさん採用すると、彼らは完璧を求めがちであると分かるでしょう。でも、実際に必要なのは、スピードに対応できる「本能」です。重要なのは、素早く失敗することなんです。
私が繰り返してきた経験の一つとして、様々な企業で多くの実験をした中で見えたことをお伝えします。グロースに関する実験の失敗率はかなり高いです。70%以上は失敗に終わります。だから、完璧なテストを待っていてはだめなんです。プロダクトを素早くローンチして、学習し、判断するのに十分な失敗を素早く行ない、それを繰り返すことに慣れなければなりません。
最初のステップでは、素早く実行することに集中してチームとシステム、カルチャーを構築します。次のステップで、クオリティのレベル向上を図るのです。私たちは良いスコアを出せているか、結論を導くために十分なテストができているか、本当にそれぞれのテストから学習できているか……そういったことを確認していきます。
確認によってスピードは少し落ちてしまいますが、それでもスピードを意識しながらクオリティの向上に集中することができます。「より良い結果を得るために、より良いテストを作ろう」といった感じでね。
この2つ目のステップをクリアできたら、次はコストの最適化に取り組むことになります。テストに5万ドルもかける必要があるのか、この作業をするために1.5人分のリソースが妥当なのかなどを確認していきます。
3つ目のステップとして、テストをコスト面から最適な方法でスケールさせていきます。これらは、考え方の一つであって、他にも色々な進め方があるでしょう。フェーズごとにどう考えるべきか、という点の参考になればと思います。
福山:グロースチームには、プロセスやフェーズがあることが分かりました。もし、私がSaaS企業を経営しているとして、現在ARRが1,000万ドルあるとしましょう。そして「グロースチームを作ろう」となって、グロースリーダーを採用してチームを作るとします。このチームがきちんと機能しているか、進んでいる方向性が正しいか、どれくらいの期間があれば、こういった評価をすることができるでしょうか。
Sri:これは、グロースチームの素晴らしいところですが、結果はすぐに分かりますよ。数字を上げることが仕事なので。
もし、数字が上がらないのであれば何かが間違っているということです。テストが足りていないのか、またはテストの質が高くないのかのどちらかでしょう。
これは先ほどお話ししたステップの中でも、最初のほうの話ですね。もし、半期が経過しても正しいインプットが確認できない場合は、何か変化を起こすべき時期かもしれないと考えます。少なくともインプットは正しくあるべきです。十分なテストを実施しているか、実施しているテストについて熟慮されているか。もし、そう感じることができるならばもっと時間をかけても良いと思いますよ。
繰り返していく中で解決するかもしれません。ただ、これはあくまでも私の推測です。6ヶ月経てば、なんとなく分かってくるはずです。もしインプットが良ければ、もう半期くらいは様子を見ようとするかも。もっとも、かなり早い段階で分かるはずだ、とは言えますね。
オンボーディングセッションで重視する2つのこと
福山:仮に、Sriさんがグロースリーダーで、グロースチームを採用するとします。あなたと新メンバーの「最初の90日」はどのようなものになりますか。例えば、まずは理解を深めてもらおうとしますか。それとも最初から課題を与えますか?
Sri:学ぶための最良の方法は実践することであり、最良の学習ペースは自分のペースだと考えています。最初の1週間は、オンボーディングセッションで数多くのトピックを教えたり、たくさんの資料を使ってひたすら説明するというやり方は好きではありません。会社に関する重要なコンテンツは非同期の方法で提供して、新しいメンバーとインタラクティブなセッションを行なうほうが効果的である、と気づいたんです。
例えば、「ここに私たちのマーケティング活動を描いた仕組みがあります。これを読んでみて、理解を深めてもらったうえで明日30分打ち合わせをしましょう」といった感じです。
まぁ、時間はどれだけでも良いのですが、自由に質問できる時間を作るわけですね。そうすることで情報は非同期で吸収できますし、打ち合わせでは自分がディレクションして質問をしたり、その場を進めたりできるので、自分のペースで理解を深めながら学習することもできます。
誰かの講義をただひたすら聞くスタイルは効率が良いとは言えないと思います。ですから、私のオンボーディングは、大きく2つのステップで進みます。
まずは、「自分のペースでオンボーディングをする」という共通理解。そして、「習うより慣れろのスタンスを伝える」です。
私がよくやるのは実際に取り組んでいるものを提供することです。「あと2週間でこのプロダクトやプロジェクトをローンチしたいので、まず学んで把握して、スコープ記述書を用意し、関係者と協力しながら実現させてください」といった感じです。リスクが限定的で小さな課題を与えるのがベスト。達成難易度もハードすぎないほうが良いでしょう。
Rampでは、新メンバーが参画したらすぐにプロジェクトを立ち上げるようにしていました。彼らはオンボーディングをしながらプロジェクトについて学ぶことができます。どちらが先でどちらが後とするのではなく、この2つは同時進行するわけです。そして最初の2~4週間で何かをローンチしてもらい、それを一緒に祝うようにする。Rampのカルチャーとしての大事な要素でした。
あとは、最初の90日間で、仕事の進め方やリズムに早く慣れてもらうようにしなくてはいけません。例えば、彼らが四半期の初めから働きはじめたとしたら、「四半期ごとのOKR」と「その達成に貢献する目標」を与えて、達成する方法を考えてもらいます。
繰り返しになりますが、ここで重要なのは、新メンバーの能力に応じたリスク配分を検討すること。新メンバーの能力を把握できていないのに重要なミッションを任せることはできません。また、プレッシャーがかかりすぎてしまう可能性もありますから。在職期間や能力に応じてプロジェクトを配分するのも一つの方法です。これが私のやり方ですね。
福山:Sriさんは、最初にリーダーとして参画したとき、最初の10日間、30日間、90日間でどのような取り組みをしましたか。
Sri:まずは、リードジェネレーションの仕組みの理解、そしてデータをディープダイブすることです。
リードはどこから来ているのか?帰属データの質は良質なものなのか。信頼度は高いものなのか?ファネル全体のリードのパフォーマンスは?
そういった定量を見たら、次に定性面も見ていきます。私は、顧客の思考を理解するために成約した顧客や失注した顧客とのセールスコールを聞くようにしています。NPSスコアやプロダクトレビューにも目を通し、顧客が何を考えているのかを確認します。できるだけセールスコールにリアルタイムで参加して、顧客の生の反応を見ようともしますね。入社してすぐのタイミングで最も重要なことでしょう。あとは、クロスファンクショナルなステークホルダーの特定と自分のチームのリソース状態の把握も重要です。
その他にも大切なことはありますが、新しい職務に就くために極めて重要な2点と言えるでしょう。個人としても、リーダーとしてもです。
目標設定と進捗で「可能性のアート」を学ぶ
福山:先ほど「四半期の目標」を設定すると、お話しいただきました。OKRでも、その他のフレームワークでも、野心的だけど野心的すぎない、チームにとって適切なストレッチゴールを設定するコツはありますか。特に、以前在籍されていた急成長企業での経験を聞かせてください。
Sri:常にバランスは大切ですよね。低すぎる/高すぎる目標は、設定することそのものがリスクになりますから。
低すぎる目標を達成できても、「少しずつ目標を上げていこう」となってしまいます。「今回はできたから、また少しずつ......」という思考になってしまう。一方、高い目標が「少し未達」でも、長期的かつビジネス的なリスクはかなり少ないはずです。ここで必要なのは「可能性のアート」を学ぶことだからです。
とはいえ、あまりに野心的な目標を設定し、全く目標を達成できない状況が四半期の3期以上も続いたら、チームはあなたの目標設定能力を信頼しなくなるだけでなく、自身の持つ成長する力、学ぶ能力を疑ってしまうかもしれません。
報酬体系がコミッション制になっている人は、特にこのケースが当てはまりますよね。ですから、私はメンバーにあらかじめ「これはストレッチ・ゴールである」と伝えます。「できる限り積極的に、達成するよう努力はしてほしいが、目標の70~80%を達成しているのであれば、あなたはよくやっている」と話しておくんです。
常に目標を上回る必要はないことを伝えて、心理的安全性を確保するのはとても大切です。ただ、先ほどもお話ししたとおり、もし四半期を3期連続で目標を下回ってしまったのなら、そのときは目標設定のフレームワークを考え直すタイミングだと思います。
それからもう一つ、目標設定のプロセスは一方的なものではないことを理解しておくべきです。ボトムアップとトップダウンがあります。私は最終的な目標を設定する前に、まず個々で考えてもらうようにしています。トップダウンの目標は、ファイナンスやアナリティクスチームに協力してもらい、「可能性のアート」について思考をめぐらせ、大半を私が自分で決めています。
私たちはグロースステージのどこに位置しているのか。競合は何をしているのか。私たちが優れていること、足らないことは何か。これらを前提に、この四半期で何を達成できるかということをね。
これに対して、チームは過去を振り返り、今の自分たちの能力を確認しながら、ボトムアップアプローチで目標を考えます。そして最終的に、私たちはその中間を目指します。通常、ボトムアップの目標はトップダウンよりも低くなります。ですから、2つの独立した視点があることで正しい場所にたどり着けるのです。決して、独断で決めるべきではありません。
ほとんどの場合、競合他社を考える必要はない
福山:競合戦略についても聞かせてください。Sriさんは、非常に競争の激しいマーケットに挑んでいる会社で活躍されていましたが、競争相手によってアプローチを変えることはあったのでしょうか?
例えば、競合他社が何をするかによってグロース戦略を変えていたのでしょうか。それとも自社のマーケットや顧客に集中していたのでしょうか。
Sri:ええ。現実に何が起こっているかというと、参入マーケットや競合他社のポジショニングで大きく違ってくると思います。マーケットの規模にもよりますが、競合他社を考え続けるのは気を散らす原因になる。ほとんどの場合は、考える必要はないんです。
とはいえ、競合他社があなたが考えもしないような極めてロジカルなことをやっていたら、それは真似をする価値があるかもしれません。逆に、競合他社があなたの行動を真似してきて顧客獲得が難しくなることもあります。だから、どのようにイノベーションを起こすかを考える必要があるのです。
良いことも悪いこともありますが、ライバルの存在は基本的には「とても良いこと」。その緊張から、社内の規律や士気、カルチャーが生まれるのです。本当の敵かどうかは別にしてもね。
マイケル・ジョーダンのドキュメンタリーを観たことはありますか?彼が物事をどのように捉えているかを語る素晴らしいドキュメンタリーなのですが、彼は、より良い成果を生むために「小さなインスピレーションを大事にしている」と話していました。ライバル企業を持つことは、この観点で良いことだと思うんです。
Opendoorはカテゴリーリーダーでしたが、そこに業界リーダーのZillowが「iBuying」カテゴリーに特化する形で参入してきました。当時の私たちは、本当に困惑したのを覚えています。でもここには、いくつかのポイントがありました。
1つ目は、私たちにもメリットがあったということ。より大きなプレーヤーが参入してきたことで、このカテゴリーの認知度がかなり高まりました。オーガニックなトラフィックが増えて、競合するZillowのプロダクトを探していた人たちがOpendoorのプロダクトも見つけるようになったんです。もちろん顧客獲得には若干の逆風が吹きましたが、おおむね順調でした。そんな中、私たちが極めて難しい決断を迫られたのは、Zillowが、私たちが適正価格と考えるよりも高い金額をユーザーに提示しはじめたときです。
在庫に過剰な支払いをして顧客を獲得するという一種の顧客獲得の施策ですよね。私たちは決断を迫られました。Zillowの価格に合わせて、損失を出すべきかどうか。結論、私たちは信念を貫き、自分たちの価格を変更しないことに決めました。私たちは、自社の価格が正しいと信じていましたし、これが正しいビジネスのやり方だと考えたからです。
ユーザーが「Zillowの方が良い価格を提示してきた」と言ってきたときには、「お客さまには最高の価格を選んでもらいたいので、Zillowを選んでください」と伝えよう、と。当時はグロースへの影響が予想されたので、この決断は難しいものでしたが、結果的には正しかった。
Zillowは結局、このビジネスではうまくいかず、この事業を停止して、マーケットから撤退をすることになりました。プライシングの設定でミスをしてしまったわけです。Opendoorは、Opendoorで独自の課題は抱えているものの、これは継続的な問題であって、再びこのカテゴリーのリーダーとして返り咲きました。そして今、ZillowはOpendoorと提携して、このカテゴリーを一緒にリードしています。
Instacartも同様です。当時まだあまり競合はいなかったのですが、DoorDashとUber Eatsにより食料品カテゴリーへの参入意欲は明らかでした。そこでInstacartは、自分たちの強みである小売業者とより深いパートナーシップを築いて、小売業者と独占的または半独占的な関係を築くことに専念することにしました。この業界では、商品のセレクションが極めて重要ですからね。でも私たちは、顧客の異なるユースケースに対して、より速いデリバリーを提供する競合他社が現れたことに気づいたんです。
Instacartのコアなユースケースは基本的に毎週1回の食料品の購入だったので、この新しいユースケースに対応するためにイノベーションを起こすことにしました。エクスプレスデリバリー用にオンデマンドの配送プロダクトを新規開発したんです。これは、従来の一括配送と大きく異なるものでした。こうして、私たちはマーケットから学び、そこに私たちの能力を強化させたんです。
Rampのケースでは、具体的な社名は伏せますが、ある有名な競合他社がRampに類似しているポジショニングに変更してきたことがありました。Rampは、ソフトウェア・ファーストで、シンプルさとコスト優位性に重点を置き、企業のパートナーを目指すポジショニングでした。この私たちのポジショニングを真似してくる企業が複数存在したんです。ここでの問題は「そのような状況にどう対抗するか」です。
Rampの場合、競合他社に対抗する必要はありませんでした。実際私たちは、彼らと競合しているわけではないと結論づけたんです。私たちの真の競争相手はレガシーな経費管理ソリューションや、まだソリューションを導入していない企業です。だから私たちはコアのTAMに集中することが正しいことだと判断し、ここまで成長してきました。そして、それが「勝利の方程式」であったことが明らかになりました。Rampは、購入実績において新参の競合他社をすべて追い抜いたからです。
新規獲得とクロスセルは好相性。グロースチームと密接に協力を
福山:通常、グロースでは新規顧客の獲得に重点を置いているのでしょうか。それとも既存顧客の活性化やクロスセルにも重点を置いているのでしょうか?
Sri:グロースチームが新規顧客獲得に重点を置いていることはもちろんなのですが、エンドツーエンドでファネル全体を担うかは……正直なところ、企業のPLGの度合いによると思います。
PLGの度合いが高ければ高いほど、グロースチームはエンドツーエンドの収益を担当することになります。ここで言うチームは「グロースプロダクトチーム」に近いと考えてみてください。
リソースの話でいうと、よほどPLGの比重が高いプロダクトでない限り、グロースチームは、リテンションやアクティベーションよりも顧客獲得に重点を置くでしょう。クロスセルは、獲得の異なる形態で予め見込み客リストが準備済みだと考えています。
つまり、獲得とクロスセルは非常に相性が良いので、グロースチームと密接に協力し合うと良いでしょう。リテンションやアクティベーションは、ときにProduct-Ledの活動になることがありますが、グロースチームの担当であることもあれば、ないこともあります。
私がRampに在籍していたときの後半では、CSM部門のレポートラインにはカスタマーサクセス部門のリーダーたちも加えました。同時に、アクティベーションに重点を置いていた私もレポートラインに入っていました。このようにファネルのより多くの部分をグロースチームが担当するような設計は可能です。
でも、私が考えるべきだと思うのは、会社の優先順位とチームが与える影響に基づいてチームの範囲を拡大することです。一度にすべてをやらせるのではありません。範囲を限定し、成功に基づいて範囲を拡大する、それこそ私が考える原則です。
自分にとっての「最高の会社」は、オフィスを訪れた帰り道に分かる
福山:Sriさんは、これまで素晴らしい会社に参画されて活躍されていますが、そういった会社を見つけるコツみたいなものはあるのでしょうか。というよりは、Sriさんが入ったから素晴らしい会社になったのかもしれませんが。
Sri:これらの会社が歩んだ輝かしい道のりを私の手柄にできればいいのですが(笑)、それは間違いなく、素晴らしいチームや創業者のおかげです。会社選びという点で言えることがあるとすると、少なくとも今日のセッションで触れてきた3社は「才能のある人が行くところに行った」といえます。
企業と話をすれば、とても簡単に分かります。人材密度が高く、人材の採用基準が高い企業とそうでない企業です。私はこれまで多くの企業や経営陣と話をしてきました。最高の会社というのは、その会社の大勢の社員と話した後で、「この人たちとなら、誰とでも働ける」と思いながらオフィスを後にする会社です。ポジションや経験に関係なく、この人たちのもとで働きたいと思うのです。
あまり良くない会社にありがちなのは、たいてい1人か2人の優秀な幹部や従業員がいて、残りのメンバーには「うーん......」という印象を持ちます。これが、私がどの会社で働きたいかのバロメーターになっています。このやり方は私にとってうまく機能していて、スマートな人は、正しい選択をしていると思っているのと、もしそうでなかったとしても賢い人は会社の軌道を変えることができますから。
次の仕事を見つける一番簡単な方法、それは、優秀な人材がどこに行くかを見つけることかもしれないですね。
福山:最後の質問です。日本でSriさんのようなグロースリーダーになりたいと考える人へ、アドバイスをお願いします。
Sri:国や地域によっては、私のアドバイスが参考にならないこともあるでしょうし、私は日本の専門家ではないので、日本市場にふさわしい回答になっていないかもしれません。
ただ、それを踏まえても私がお伝えしたいのは、自分が知的好奇心を刺激されてやりがいを感じられることに取り組んでほしいと思います。
そして、チームのメンバーだけでなく、創業者や投資家も含めて素晴らしい人たちと一緒に働くことです。知的好奇心を持ち、順応性を高めること。他のことは、後からついてくると思いますよ。
福山:素晴らしいアドバイスですね。今日は最高のインタビューをありがとうございました。
Sri:お話しできて楽しかったです。ありがとうございました。