SaaS事業成長の鍵を握るのは、顧客との良好な関係を築き続けるカスタマーサクセス(CS)に他なりません。ともすれば属人的になりすぎる仕事を、しっかりと組織化していくためには、戦略や目標設計の観点が欠かせないでしょう。
そこで、CSを組織化する上での必須知識を、下記5つのテーマに分けて解説する『SaaS CS集中講座』を、ALL STAR SAAS FUNDで開講しています。
1:CS組織化のポイントとKPI・KGI設計
2:CSMの基本マインドとオンボーディング
3:リニューアルマネジメントとエクスパンション
4:ヘルススコアとデータ基盤
5:カスタマーマーケティングとコミュニティ
講師は、日本におけるカスタマーサクセスの第一人者である山田ひさのりさんをお招きし、豊富な実務経験をもとに解説。さらにALL STAR SAAS FUNDの支援先からもよく聞かれる課題もカバーしたカリキュラムとなっています。
ここでは第1回となる「CS組織化のポイントとKPI・KGI設計」の内容を抜粋、記事化しました。カスタマーサクセスを含め、SaaS経営全般のナレッジを私たちのブログでは継続的に発信しています。これを機会に知ってくださった方は、ぜひ他の記事もご覧ください!
B2B SaaSの事業フェーズで必要なCS組織も変わる

この集中講座では、主にB2B SaaSについてお話をしていきます。
まず、CS部門の位置付けは、B2BとB2Cで異なるケースが多いです。CS部門は「営業近接型」と「プロダクト近接型」に分かれ、営業近接型がB2B、プロダクト近接型がB2Cになりやすい傾向です。これは良し悪しの問題ではなく、それぞれに利点と欠点もあります。
営業近接型は、営業からの引き継ぎ方が大切です。雑な引き継ぎだとCSでトラブルの元になりますから、繊細な設計が求められます。営業とCSでPMFをしている顧客を狙いにいくと効率が良いのですが、考えを丁寧に徹底しないと、CSが後々に苦労することにもなりやすいので要注意ですね。ただ、売り上げのためにやむを得ないときもあります……。
プロダクト近接型は、機能追加の優先順位がプロダクトドリブンとなり、それに合わせてCSが連動していきます。PMM(プロダクトマーケティングマネジャー)の権限を柔軟に与えないと、連携がうまくいかないことが多いので注意です。

では、ここからはB2B SaaSの事業フェーズを例に取って、それぞれの時期におけるCSの立ち位置を見てみましょう。
「契約数」を縦に、「時間の流れ」を横に取った仮のグラフを作りました。概ね契約者数ごとに創業期、成長期、拡大期と分けて、必要なCSのあり方は変わっていきます。

だいたい100契約ほどまでの「創業期」は、カスタマーサクセスも一緒に“7人8脚”で成果にこだわる組織を作るのが大切です。もはや全部門が総力戦で、「自分たちのお客さんは誰なのか」を探すとき。いろんなステークホルダーと密接にやり取りしながら、サービスやプロダクトを磨いていきます。

1,000契約を超えるまでは「成長期」です。個別対応を行うハイタッチCSM組織と、チーム対応を行うロータッチCSM組織を作れるといいでしょう。一社ごとにアプローチしていくのが大事ではありながら、その数が多くなっていくのですね。

そして、1,000契約以上を獲得した「拡大期」です。拡大期は契約規模別に合わせてCSM組織化し、CSMを支える様々な支援組織を作っていくフェーズ。
メインのカスタマーサクセスマネジャーが存在するCSMの組織は、規模別あるいはインダストリー別にお客様を定義し、営業と連携していくのが良いでしょう。そのようにセグメンテーションしたCSM組織と、CMS組織を支援するサブ組織に分けていきます。
ここまで来ると、CSのマチュリティレベルも完成に近づいているといえるでしょう。
「CS」という仕事の中身を洗い出してみた

一口に「CS」と言っても、多種多様なユニットから成り立ちますので、一旦全体を網羅してみました。組織から考えるというよりも、「何をしなければならないか」というアクションごとに並べています。
上から見ていくと、オンボーディング、アダプション、リニューアル、コンサルティング、トレーニング、コンテンツメディア、イベント&コミュニティ、オペレーションズ、テクニカルサポート、PMM、プランニング、イネーブルメントです。英語ばかりなので、内容が不安な方は付記した説明で確認してみてください。
濃い青を敷いたところが「カスタマーサクセスマネジャー」としてお客様を支援するアクションです。フォロー専用のコンサルティングチームを有償で付けるケースもありますね。
次に薄い青を敷いたところは、顧客がプロダクトを学ぶためのトレーニング機会の提供などを担います。また、既存顧客に対しての新機能追加のお知らせや、良い導入事例を情報発信してエンゲージメントさせていくのも大切です。また、ユーザーカンファレンスの開催やオンラインコミュニティを設けて意見交換といったイベント機能も含まれます。
また、オペレーションズもここに入るでしょう。CS専用のツールを導入したり、データ解析や分析といったことを司ります。既存顧客のデータ分析も大切な仕事ですから、顧客数が増えると自然と必要になってきます。ただ、オペレーションズは営業部門やプロダクト部門にあることも多いので、必ずしもCSに含められるわけでもありません。
それと別に、テクニカルサポートが独立しています。いわゆる顧客支援の部分であり、カスタマーサポートとも呼ばれます。顧客からの問い合わせ対応などが該当します。
最後に赤を敷いたところは、PMM、プランニング、イネーブルメント。入社したてのCSを教育して、戦力化していくイネーブルメントが洗練されたチームは強くなっていきますね。また、事業企画的にチーム全体を束ねるプランニングもCSで行えるといいでしょう。PMMもこのグループに入れていますが、プロダクト組織に位置付けられる場合も多いです。
組織拡大では各ユニットの優先順位を考える

ユニットがどのように関連しているのかを図式にしてみました。
最も右側が「コントロールセンター」としてCSの活動をとりまとめます。たとえば、ツールの導入。「マーケティングオートメーションのツールで業務効率化をしよう」となれば、CMSがそれを使えないといけませんから、導入タイミングを合わせたり、KPIを策定したりもします。
真ん中は「カスタマーサクセスのマネジャーチーム」として全体的な支援を行います。左側は「カスタマーマーケティング」として、顧客のサクセスに貢献していく部分です。

これら全体を見た上で、僕なりの「おすすめの組織拡大プラン」を考えてみました。肩に付いた星の数は「絶対に必要である」という度合いを表しています。
三ツ星はテクニカルサポートとオンボーディングです。これは組織がどうであれ、機能としては絶対に要ります。お客様からの問い合わせに答える、オンボーディングをするのはあらゆるプロダクトに欠かせませんし、疎かにすれば事業としても成り立たなくなります。
次に必要なのはコンテンツ&メディアとオペレーションですね。貯まってきたデータを有効に使ったほうが事業として素早く成長できるので、有るといいでしょう。コンテンツ制作をすると、点ではなく「面」で顧客に当たれるようにもなれます。トレーニングとアダプションは「あれば尚良し」で、無くても何とかなります。
CSのKGI・KPIで指標とすべき数値は?

ここからはSansanでの事例も引きつつ、カスタマーサクセスにおけるKGIやKPIについて説明していきます。みなさん、気になるところではないでしょうか?(笑)
SansanのCSで活用してるのは、「月次解約率」と「月次更新解約率」
SansanのCSで活用してるのは、この二つです。「月次解約率」と「月次更新解約率」ですね。求め方は上図を参照してください。
「月次解約率」は、一般的にチャーンレートと言われるもので、分母に「前月末のMRR総額」を置くということは、新規獲得の影響を受けるわけです。一方の「月次更新解約率」は更新対象月の顧客のみを分母に据えているのが違いです。その点では「更新率」と言い換えてもいいでしょう。
ここで大切なのは「チャーンレート」と言っても、見方次第では、その中身に違いが生じることです。

Sansanの決算資料をもとに、12カ月直近の平均解約率を出しました。1%を切るという低い数値に留まっているように見えますが、これは新規獲得分も分母に含まれている「月次解約率」を参照しているわけです。
「月次解約率」ならば新規も更新も含めた事業成長がわかるわけですから、それを見たいのであれば十分なのです。つまり、Sansanという事業がどれほど順調なのかを知りたければ、新規獲得も含んだチャーンレートで算出するのは、基本的には正しいです。

ただ、チャーンレートには曖昧な点があるわけです。そこで計算式を改めて分解してみると、こんなふうに疑問が湧いてきます。
そもそも分母は「全てのARR」でいいのか、それとも「同年に更新したARR」だけにすべきか。要は、新規顧客を含めるべきなのか、更新顧客を考えるべきなのか。あるいは分子も、アップセルやクロスセルした分のエクスパンションを含めるのか否か……。
最近のCSにおけるKGIトレンド

そこで最近では、チャーンレートが曖昧がゆえに異なる指標を用いる企業も増えてきました。使われる指標がNDR(Net Dollar Retention)ですね。
1年前に獲得した顧客のARRを分母に、1年前に獲得した同じ顧客の現在のMRRを分子に置いて計算します。チャーンにエクスパンションの分を足して、それを相殺したものがNDRといえます。チャーンが高いと、クロスセルやアップセル、従量課金した分をもちろん上回ってしまいますので、既存顧客はマイナス成長となります。

ただ、エクスパンションは企業ごとに責務を負う部署が異なるもので、CSにその責任がないときは、チャーンだけで見る計算式も用います。「月次解約率」か「月次更新解約率」を用いるのが一般的で、基本的には月次更新解約率のほうがCS向きといえます。
違いとしては、月次解約率は「ARRで10%以下」という一定の基準値がありますが、月次更新解約率は基準がありません。そのため、エクスパンションを含まないCS組織ならば月次更新解約率のほうが良いのです。
基準をいかに見るべきかですが、外部に公開されている情報が少ないだけに、あくまで私が見聞きした感覚では「10%未満」ならば優秀なようです。
CS組織で目標を立てるなら、「2つの基本セット」を活用

次に、CS組織において、おすすめの目標の立て方について紹介します。みなさんも四半期や半年ごとなどに目標を立てますね。
目標を立てるときは、「月次更新解約率から割り出した更新金額」と「月次の追加受注額+月次の新規受注額」が基本的なセット
目標を立てるときは、売り上げ構成で言うと、「月次更新解約率から割り出した更新金額」と「月次の追加受注額+月次の新規受注額」が基本的なセットです。
更新金額というのは、だいたい3月や12月といった決算期で更新を迎える会社が多いはずですので、金額も高くなる傾向になります。そうすると、更新が数多くあるということは、同様に解約される金額も大きくなる傾向にあります。そのため、月次の更新金額を目標で持つときは、更新金額の母数が考慮されていることが大事です。
そして、どちらかというと人員補強といった人的要因よりも、決算期のような季節要因に左右される数値ですから、前年度実績などから照らして目標を立てていくのがポイントです。
一方で、「月次の追加受注額+月次の新規受注額」は人的要因に依存しやすくなります。人員を増やせば売り上げが高まるという理論がある程度成り立つわけです。さらに言うと、自分たちの事業が保有してるプロダクト数が多いと、よりオポチュニティがありますので、基本的には上がりやすい構図でもあります。
もっとも予算編成などによって契約を取りやすい月/取りにくい月も出てきますから、季節要因にも影響されます。ただ、基本的には「月次の追加受注額+月次の新規受注額」は人員とプロダクト数から計算します。
ヘルススコアを有効に活用し、ロジックに背骨を通す

もう一つ重要なのがCSのKPI設計です。
コミュニティ、アダプション、トレーニングといった活動では、何をKPIとして持てばいいのかがわかりにくいため、「とりあえず今月はトレーニングを何回実施しよう」といった決め方になりやすいのです。それが悪いわけではありませんが、いかに正当性を持たせられるかが大切です。
KPIの決め方は「顧客がいかに継続するか」に最もフォーカスを当てること
決め方は「顧客がいかに継続するか」に最もフォーカスを当てること。
そのためには、たとえば、ヘルススコアやプロダクト利用率の向上を指標として、そのためにはオンボーディングを成功させることが鍵になる、というふうに組み立てる。契約継続するための背骨となるロジックを自分たちの中に持ち、その要素にKPIを紐付ければ、強い動機になります。
Sansanの場合は、「ヘルススコアが良い企業のうち、何%は解約しない」というデータを持っていますから、ヘルススコアが上がるほど契約継続率が上がるロジックが担保されています。また、オンボーディングを成功させることがヘルススコアに寄与することもデータでわかっている。だから、オンボーディング数値に貢献できるトレーニングをすべき、という設計が成り立つわけです。
背骨を通るには時間がかかり、データも必要ですが、こういうふうに決められるとKPIの妥当性が上がります。

ヘルススコアに関係した話では、Sansanにおいてはチャーンとエクスパンションにも響いています。
解約減額金額のうちの50%はヘルススコアが悪い案件から発生するんです。エクスパンションは追加購入金額のうち70%はヘルススコアが良い案件から発生します。これらのファクトがありますから、基本的にヘルススコアを上げるほど売り上げが高まり、継続するといえるわけです。

オンボーディングにおいても、ヘルススコアが良いグループほどサクセスしています。
Sansanではオンボーディングにおいては5つのヘルススコアを見ています。顧客が名刺をデータ化してくれているかを示す「名刺取込」のヘルススコアでは、オンボーディングに成功した企業と比べ、失敗している案件は1年後に半分ほどの成果しか挙げられていません。
逆に言うと、1年後にヘルススコアを比べたとき、オンボーディングにした成功した案件は2倍の差がつく。ヘルススコアが良いところは解約せず、さらにエクスパンションするわけですから、是が非でもオンボーディングを成功させるべきである、という論法が成り立つ。
オンボーディングの重要性については、この「集中講座」の第2回で語りますので、もっと詳しく聞きたいという方は次回も受講してくださいね。

よく聞くお話として、まだデータがない、関係性がわからないといった理由で、ロジックの背骨を持てない場合もあります。
一例としては、オンボーディング成功数値、ヘルススコア、契約継続率などの関連が「存在する前提」でKPIを絞り込んで定量数値を決めてしまってもいいと考えます。要は、トレーニングをたくさんしたら利用率が上がるという慣例が存在する前提で定量数値を決める。直感を信じ、振り返りを行う前提で、勇気をもって背骨を自分たちで勝手に作るんです。
ファクトがないところに、成果でファクトを紐付けていくといってもいいでしょう。ツッコミどころを甘んじて受け入れ、社内で話しながら進めていくのです。
CS人材に求められる資質とは?

「CSに求められる8つの資質」について、自著の『カスタマーサクセス実行戦略』でも書きましたが多岐にわたるので、ここでは絞ってお話します。
界隈では「青本」と呼ばれる『カスタマーサクセス──サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』の共著者であるダン・スタインマンさんとお話する機会があって、彼もそういう言い方をしていました。
彼は大きく3つのスキルセットを挙げています。自社の事業領域に関する専門知識、製品の専門知識、非常に優れた顧客対応スキルです。
自社の事業領域に関する専門知識を持っていれば、製品以外でも顧客の悩み問題点についてもディスカッションでき、顧客が気づいていない点を指摘できる。つまりが良好なコミュニケーションが図れるわけです。
製品の専門知識とは、製品の仕様ではなく、ユーザー視点で製品を使うための知識です。マーケティングオートメーションをどう使えばアウトカムが出せるか、CRMはこういうふうに使いこなせばよい、といったようなことですね。
顧客対応スキルはミーティングやヒアリング、段取りといった総合的なものです。
ダンさんは「この3つがあれば良い」と話していますが、これらを鑑みたうえで、私が個人的に最もおすすめしているキャリアホルダーがSIのプロマネやコンサルタントです。
SIは「顧客牽引型」の職種なので、CSにも向いている
SIは社内システムの構築などを手掛けるので、社内の文化を知り尽くし、顧客のことを知り尽くし、そのうえで提案して、実現するために段取りを組む。仕事の全てにCSの素養が求められるんですね。言わば「顧客牽引型」の職種なので、CSにも向いているわけです。

CSの採用で悩まれている企業もあると思うので、一つ有効なワークサンプルテストを紹介します。ワークサンプルテストとは、営業なら製品を売るデモをしてみるといった形でスキルを見ることを指します。CSも同様にロールプレイングをしてみるといいでしょう。
まずはプロダクトの基本的な仕様を渡します。営業資料で構いません。次に、提供プロダクトの価値がわかるサクセス事例を渡し、顧客の疑似的なバックグラウンドシナリオを提示した上で、ロープレしてみます。ここでの疑似顧客は、どういうインダストリーにいるのか、対面なのか非対面なのか、といった環境の定義に近いですね。これらの情報を与えた上で、キックオフに関するロープレなどを行ってみると、採用の参考になります。

事業側は質問力や準備力を通して、応募者の実力が十二分にわかる。また候補者も準備やロープレを通して自社とプロダクトの理解を深めてもらう。実際にテストを試してみたログラスの矢納さんからは「エンゲージメントが高まった」と言われました。
候補者からすると、入社前に従事する業務を疑似体験できるのも大きいです。とてもWin-Winな機会になりますよ。
キャリアアップへの意識をもたらす“Job Title”の扱い方

最後に、CSのキャリアプランをもたらす「Job Title」を説明します。Job Titleとは、カスタマーサクセストレーニー、カスタマーサクセスアソシエイト、カスタマーサクセスマネジャー、カスタマーサクセスシニアマネジャーという4段階を踏んでいくこと。いわゆる役職に関した「等級」とも近しいです。
トレーニーは駆け出しCSで、先輩やマネジャーの助力を借りながら案件を進めます。アソシエイトになると一人前。マネジャーになるとよりMRRが高めの案件を持つようになり、さらにその上にシニアマネジャーが就きます。
Sansanのカスタマーサクセス組織には古くからJob Titleという考え方があります。Job Titleがアップするたびに「おめでとう!」と伝え合う文化も存在しており、実はこの存在こそがカスタマーサクセスマネジャーにキャリアアップの意識をもたらしていたことに気づき、今では今ではのCSプラクティスとして広く紹介しています。

上記は人員構成の例です。当然、上位になるほど人数は少なく、取得までに必要な期間もそれぞれ異なります。Job Titleによって扱える案件が決められています。
Job Titleをアップさせるには、外部の営業コンサルからのロープレ試験をクリアする必要があるため、能力を基準に決まります。その基準は、基本的には自社で決めています。

「案件対応の自律性」ならば「マネジメントのサポートがどれだけ必要か」といったように、それぞれで期待される役割を定義していきます。
この設計は難しいものですが、うまく自走できれば、案件アサインの妥当性も高まり、難度高い案件も適切に人員を置けます。一般的にはSMBから始まってエンタープライズの階段を上っていくのがCSMのキャリアです。
あなたのCS組織にもJob Titleに似た仕組みを設計し、キャリアアップの意識をもたらしてみるのも良いでしょう。
人材を育成するための教育ツールとOJT

Job Titleと紐付くものに「教育ツール」があります。基本的には、座学、筆記試験、ロープレ試験で構成されます。座学はSalesforceのTrailheadをSansanでも用いていて、ワークしています。
Sansanの場合はイネーブルメント組織が、このあたりをしっかりとブラッシュアップしていきますから、CSのマチュリティレベルも高くなり、とても助かっています。

また、OJTもあります。基本的に1on1での指導で筆記試験、ロープレ試験、顧客動向に対するフィードバックをします。アソシエイトなら「CSTから経験の浅いCSA」までといった教育対象は決められていますが、教育方針は基本的に個々人にゆだねられています。
ここまで決めておくと、イネーブルメント組織の立ち上げにもつなげやすいですね。

CSMsの評価設計については、私が見聞きしたことにSansanのエッセンスも加えると、4つの軸で決められます。チャーン、エクスパンション、戦略KPI、定性評価です。
これは一つの例ですが、チャーンが最も割合が高く40%。エクスパンションは20%、戦略KPIは10%、定性評価が30%で、合計して100%になるように設計されています。上記の指標を各チームで扱う案件に応じて配分します。
たとえば、SMBのオンボーディングチームはチャーンを持たないので、0%になる代わりエクスパンションや戦略KPI、定性評価の割合が高くなるように設計します。このように配分していくと評価の妥当性が出ます。
大切なのは一律で決めないこと。先ほどのJob Titleとも関連してますよね。縦の列にJob Titleを並べてみて、これらをメッシュにして設計するといいでしょう。
著者:山田ひさのり
『カスタマーサクセス実行戦略』の著者。ゲームプログラマーとしてキャリアをスタートし、Web開発のPG/SEを経て事業開発にキャリアチェンジ。その後、Sansan株式会社にてCS部門の責任者を歴任。現在はsasket LLCを設立し、2年間で約20社へのCSアドバイザリーを経験。