SaaSビジネスの組織をデザインしていくために、「THE MODEL」の考え方を中心に据えるのが正攻法となってきました。ところが、部署ごとに分かれてKPIを追いかける状態において、各部門がお互いを理解し合えなければ、有機的な連携はありえません。
SaaS専門に支援をするALL STAR SAAS FUNDも、投資先の企業と日々ディスカッションする中で、この「部門間連携」についての課題をよく耳にするようになりました。「ビジネスモデルに矛盾が少なく、美しいSaaS」を志向するうえでも、部門間連携においても、よりよいあり方を考えるのは大切なことだと考えます。
そこで、SaaSのセールス、イネーブルメント、カスタマーサクセス、組織・経営のスペシャリストたちを擁するALL STAR SAAS FUND公式メンターのみなさんにご協力いただき、この「部門間連携」をテーマに語っていただくシリーズ連載の機会を設けました。
今回は「セールスとCS」の連携について考えます。セールスの立場からは、約20年にわたってSMBからエンタープライズのB2Bセールスに従事し、様々な環境下でトップセールスとして活躍した向井俊介さん。CSでは、Sansanでカスタマーサクセス部のDXと既存顧客へのマーケティング強化を推進し、同部門の戦略立案・実行サポートを行う傍ら、IT企業へのカスタマーサクセスアドバイザリーに従事する山田ひさのりさんを招きました。
互いの考え方を明かす中で見えてきた、よりよい連携の理想像を、探っていきましょう。
CSの出現で、営業の生産性やパフォーマンスは上がったか?
山田:CSから見た「セールスとの理想的な連携」は難しいテーマだと思うんです。というのも、私がSansanで経験したこととして、セールスでも特に「リニューアルセールス」で腕の立つ人は、CS活動に加えて顧客と交渉できるスキルも持っていて、むしろCS以上の働きができると感じていたんです。
つまり、CSという職種ができる前から、営業の本質の一つとして担えている人がいた。そこからCSが出現してきた現状を、セールスとしてはどのように見ているのだろうと、興味を持っていました。
向井:CSの出現や「THE MODEL」といった組織体がトレンドになり、今や一般化してきましたが、確かにそれまでのセールスは契約いただいたお客さんを自分でケアし、フォローしてきました。リニューアル、チャーンの阻止、クロスセルやアップセルを狙うといった業務を自身でやっていましたね。
CSが登場して、組織として分かれていくことになると、よくも悪くもそれらに気を払わなくてよくなりました。その空いた時間や意識の工数を、さらなる営業に振り分けることを期待されることになるのですが、会社からの期待値に果たしてそれだけ応えられてるのかというと、僕ははなはだ疑問なわけです。
つまり、CSの出現前と出現後で楽にはなったけれど、「営業の生産性やパフォーマンスは上がったか?」を見ると、疑わしいところがあります。経営層が期待しているレベル感には到達しきれていないのでは?ポジティブに言えば、それだけの伸び代があると捉えています。
「なぜCSを置くのか」という目的は、営業組織を束ねる方か、経営層が改めて自問するといいテーマなのかもしれません。残念ながら、その問いに答えられる方が少なく、組織の有り様として「CSは置くものだ」と組織の形ありきで考えてしまっているように見受けられます。
あるいは、営業組織を作るときに、インサイド、フィールド、CSと先に枠を設けて採用活動をしている企業も目立ちます。
山田:「手段と目的を履き違えていませんか?」というわけですね。目的がはっきりしていて、その上でCSが必要なら構わないけれど。
向井:ただ僕は決して反対派ではありません。実現できれば、有機的に作用する組織構造だと思います。組織やプロセスの形が合う企業は積極的に取り入れるべきでしょう。
ALL STAR SAAS FUINDのある投資先スタートアップでも、CSのオペレーションを回していくことで、アップセルとクロスセルで事業計画の数字を達成するほど、よいコミュニケーションをお客さんと取れている会社もありますから。
山田:向井さんから見て、成果を挙げるCSにはどういったマインドの違いがありますか。
向井:先ほどの成果を挙げたスタートアップを例に取ると、その企業にセールストレーニングをした経験上でいえば、CSのメンバーは「CSとプロダクトチームの営業に対する興味度合い」と「わからないことはその場ですぐクリアにしようとする貪欲さと向上志向」がとても強かったです。質疑応答でも、CSから矢のような質問がいっぱい飛んでくる(笑)。向上心、知的好奇心、素直さ、吸収力への意識が高い人が多くいる印象でしたね。
山田:でも、言わばそれらは「営業マインド」というか、セールスの基本といえば基本ですね。
向井:基本を徹底し、足腰として身につけている人が割合として多いのでしょう。もっともCSの場合は、山田さんの営業マインドが指す範囲にもよりますが、僕個人の見方としては、多くの企業のCSは「サポートに回る」というスタンスの印象が強いです。
顧客が自覚していない課題を論理的に特定しよう、といった攻めの姿勢よりも、導入していただいたサービスが業務にちゃんとインストールされ、いかに使い続けるかに寄り添っていく活動が大きい。だからこそ、CSがバックグラウンドの人にアップセルやクロスセルを期待しても、なかなか方法や経験がないというのが、ボトルネックになるようですね。
「営業の握りが甘い」というCSの悩み、どうすべき?
山田:CSの方からよく聞く悩みの一つに「営業さんの握りが甘い」というのがあるのですが……。
向井:いやぁ、むずかしいですね(笑)。
山田:だからこそ、聞いてみたくて(笑)。お客さんの期待値がMAXの状態で渡されてしまうケースがあり、営業さんにもう少し調整してもらうための依頼の仕方が悩ましいと。
僕もいまだに明確な答えは持っていないのですが、一つの考えとしては、営業さんがクロージングするときに、CSでやってほしいことをまとめた資料なり、ちょっとしたペーパーなりを作って、それを基にお客さんとコミュニケーションを取り、PDCAを回すというやり方です。これはSansanでもワークしたのでおすすめすることがあります。
営業側から見て、この考え方含めて、どうでしょうか?
向井:まず、えてして営業は風呂敷を広げるんですよね。それを肯定するつもりはないですけれど。
山田:そうですね(笑)。
向井:広がった風呂敷を畳んでいくことが求められてしまうのは、是非はさておき、そのように捉えざるを得ないことだと思うんですよ。ただ、畳めない状態まで広げるのはいかがなものか、というところが閾値でしょうね。「お客さんへ期待を持たせる」とは「コミットしてくれたらこんな未来がある」という絵を見せ続けることで、それは大事ですから。
その閾値を超えないようにするには2つの方法があります。
一つは「仕組みで縛る」。期待値の乖離がある場合はチャーンのリスクが高まるので、たとえば、初回の契約更新時にチャーンした場合は、新規契約をとったセールスのペナルティとする、という制度です。採用されている企業さんもいらっしゃるでしょうが、個人的にはあまりよろしくないかなと。どちらかというと、そうせざるを得ない状態になった最後の手段として導入するものだと思います。
もう一つは「営業のパターンを増やす」。顧客の状態変化によって、サービスの価値定義をセールス側が改めていくことが必要だなと思います。成功パターンが見つかると、それを磨いて他社に繰り返し使い続けることもあるのですが、お客さん側は外部環境、経済環境、社会環境によってビジネスゴールや課題が変わっていかざるを得ません。営業はその変化に沿って、自分たちのサービスの価値や与えられる価値も変えていかないといけない、と考える必要があります。
何よりも、お客さんの変化を最も身近に見聞きできるポジションがCSなんですよね。営業側がパターンを増やすうえでは、CSが「お客さんが自分たちのサービスをどう捉えているのか、何のために、何が不足していて、何を解決したいのか」といったリアルな価値の話を聴き、営業に共有していくという情報流通が肝心です。これがセールスの活動における閾値の是正になるんですね。
山田:とてもわかります。CSに長く携わっている身からすると、お客さんが想像を上回ってサービスを使いこなしてくれるようなことも起こります。自分たちのサービスが最も価値を発揮できるユースケースをクリアにするのは、CSの最重要の仕事だとも思っています。
向井:だからこそ、マーケ→IS→FS→CSといったように「THE MODEL」を一方通行の流れのように表現するのは、僕は違和感があるんです。
山田:同意です。
向井:CSがお客さんと常にコミュニケーションを取っているなら、「THE MODEL」の終着ではない。むしろ、プロダクトサイド、マーケティングサイド、セールスサイドにどんどん情報を渡せるならば、CSは組織の中心点であり、そこから円になる構図を描けるのかが、SaaSにおいては特に重要な考え方だと思いますね。
山田:CSに導入後のお客さんへホスピタリティを発揮する役割を期待されることはあるのですが、必ずしもそれだけではないというのは、僕もよく思うことです。
優れた営業は「時間感覚」と「時間間隔」をクリアにする
向井:すみません、すこし話を遡ると、「営業の握りが甘い」という表現って、山田さんから見ると、逆に「しっかりしている」と捉えられるには、どうすればよいのでしょう?
山田:「時間感覚」と「時間間隔」が極めてクリアになっていることですかね。それらのセットを渡してくれれば、CSは期間内にしなければならないことを把握できますから。
向井:時間軸の概念、大事ですね。
山田:たとえば、サービスを使いこなせるようになるだけでも3カ月から半年かかるのも一般的ですから、その間に「売上3割アップ」を課されても厳しいわけです。それを感じたのは、トライアル導入がうまい営業とCSのセットを過去に見たことがあるからです。二人をつぶさに見ていると、営業が握ってきたレベルをCSがきっちりやりきっていたんです。
向井:おお、すてきです。
山田:すてきですよねぇ。
向井:<yellow-highlight-half-bold>「握り」は、お客さんとの合意形成が中心にあり、その合意形成の中身には「導入することで得られるもの」と「時間軸への概念」がそろっているのが大事<yellow-highlight-half-bold>なわけですね。
営業であれば、中長期的な未来絵図を描くことはよくあるはずです。ただ、SaaSのサービスは、CSが活用サポートの支援に伴走していく中で価値を感じていただき、継続的に使う価値があることを示し、納得してもらわないとなりません。
山田さんのお話を聞く限り、「1年先はこの未来図」「5年先はこんな未来図」と目指すべき場所をCSと合意形成するのが、営業の握り方になるんでしょうかね。
山田:そうですね。営業に風呂敷を広げられすぎても、CSはゴールを見失いやすくて、それをなんとかしようとしてもお客さんとの期待値とずれてしまい、トライアルが決まらないケースも多いですから。
向井:根本的な対策ではないのですが、営業の握りでいえば、自分たちの会社の利益構造やビジネスモデルを自分ごと化できていないところにも、その原因があるかもしれません。ピュアにグロースした部分が従業員に給与のベースアップやコミッションといった形で還元される、という利益構造の概念をわかっていれば、握りが弱い構造にならないはずなんです。
売ったことを理解しているつもりでも、自分ごと化できてない。自分のKPIを達成すればいい人は自社の利益構造や報酬の払われ方をわかっていないのでは?と思います。だから、CSとセールスでハレーションが起きたり、新規チームが既存チームに協力しなかったりしてしまう。職務を超えた協力体制ってマネジメント側からすると期待したいことです。
CSはエクスパンション支援をすべきか否か
山田:ありがとうございます。各論ベースの話になるのですが、CSの業務の一つに「エクスパンションに対する支援」が位置づけられることもあります。私自身も「CSが営業できるのか」を悩むんです。
リアクティブでもお客さんの信頼を得ることによって舞い込んでくるのは感覚的にわかります。ただ、プロアクティブに、お客さんへ切り込んでいく力が養われてはおらず、訓練もしていないので、本当にフィットできるのかが疑問なんです。
私の現時点での解は「商談機会までをセットするのはCS、ゴール決めるのは営業に任せる」です。向井さんなりに、エクスパンションに対してCSと営業はどう向き合ったほうがいいかという見解があれば、聞きたいですね。
向井:僕の見解としては、CSが営業活動ができるか否かは一旦置いておいて、アップセル、クロスセルをプロアクティブに取っていく活動はしないほうがいいと思っています。
お客さんから見たときを考えると、オンボーディングして、半年から1年たって、ある程度使えるようになった状態であれば、CSが新しいサービスを案内してきてもそれほど違和感はないでしょう。
会社によってCSにNRRのターゲットを持たせていたり、アップセルやクロスセルの金額ターゲットを持たせていたりするところもあるようですが、そのようなターゲットを持ったCSはお客さんとのコミュニケーションはうまくできているのか?と疑問を持つんです。なぜなら、そもそも、定常的に活用し続ける土台があってこそ、アップセルとクロスセルという「次の商売の機会」は存在するという考えがあるからです。
CSは、まずは安定してお客さんが満足して価値を享受する状態を築き続けるところに、リソースと意識を割いていただきたい。もちろん、その結果として、アップセルやクロスセルの機会が生まれるのであれば、そこは山田さんがおっしゃったとおり、セールスにつなぐという役割を担えばよい。
数字責任でメインのKPIとしてCSがエクスパンションを持つのは、お客さんから見ると、不遜なコミュニケーションになってしまうリスクを生みがちなので、避けたほうがいいんじゃないかなっていう考えを持ってます。
CSが追うべき指標は、NRRとチャーンレートをメインに
山田:やっぱりそうですか!私もそこはすごく思っていて(笑)。実はCSが数字責任を持つケースは僕も見聞きしてはいるのですが、他に注力すべきことが多いのではと思っていたんです。
向井:実際に運用してみて、「NRRとチャーンレートをダブルスタンダードとしてCSのターゲットとする」というのは結果がよかったです。要は、ビジネスモデルや利益構造を分解しましょうという話と同じなのですけれど、CSが営業職に位置づけられるにもかかわらず、チャーンレートだけを課してしまうと、減点方式だけの評価指標になってしまうということに違和感がありました。
なので、加点方式の評価基準があってもいいはずだと、メインKPIをチャーンレートにして全体の6〜7割の評価設定に、サブKPIをNRRにして残りを評価する方式にしました。仮に、自分のクライアントがチャーンして凹んだとしても、ペアリングしている営業へ自身のリソースやユーザーコミュニケーションから得られた知識を渡して営業をサポートして、結果的にNRRが120%になれば、チャーンで凹んだぶんを取り戻せるような図式です。
「いかに営業へうまくつなぎ、そこに貢献できるか」という役割分担にしたら、組織運営としては比較的うまく進んだケースでしたね。
山田:なるほど。すこし話が戻るのですが「CSが営業職に位置づけられるにもかかわらず」と向井さんがおっしゃったことについて、そもそもCSが営業職に位置づけられていいのかを考えてみたいとも感じました。
向井:CSが営業職であることには根拠があって、広義で言う営業活動とは、継続的に利益を創出する活動です。つまり、それは企業活動そのものを指します。継続的に利益を創出する活動とは、別に営業組織だけでなく、総務や人事といった管理系部門の人たちもコスト最適化などで直接貢献できます。もっと言えば、ビジネスサイドがよりよく活動できるために、間接的に貢献することもできるわけですね。
広く言うと、組織に属する人たちは全員が利益創出するために仕事をしているので、「そもそも全員が利益創出という目的のために何からの営業活動をしている」という概念を、まず正しく理解していただきたい、と僕は思っています。
その中で、特に営業組織は、トップラインを伸ばして利益創出をすることに直接貢献できる人たちと捉えると、CSも含まれますね。トップラインを守るための土台として絶対に必要な「収益の基盤」を担ってらっしゃっていて、直接的に顧客コミュニケーションを図り、価値訴求をしている。お客さんへ不利益なり不都合なりがあったときにも、いち早く問題解消をしながら、正しい道にいざなっていく。
そう考えると、直接的に利益貢献している部隊なので、CSは営業職としての役割を担っている……というのが、僕の整理なんですよ。特にSaaSはそうですけれど、お客さん側が明確に課題を言語化できていないスタンスに立たないと、何よりお客さんがかわいそうだと思うんです。
山田:かわいそう、ですか。
向井:お客さんに「あなたたちの課題は何ですか?」と聞いて出てくるのは20年前の時代です。今やお客さんは自分たちが何をしていいのかがわからない。それを発見しようにも、情報爆発でいろんな売り手が、あの手この手で金に物を言わせて検索結果をいじくっていますから、正しい情報にリーチできてない状態。そのような中でヒアリングして、果たして課題は明確に出てくるのか?と。
これは2015年に日本語版が出版された、マシュー・ディクソンとブレント・アダムソンの『チャレンジャー・セールス・モデル』の考え方ですが、そこからさらに7年たって、より複雑化していると考えるのが自然かなと。
企業は変化しますから、導入したときのお客さんの課題感と、半年や1年たったときの課題感が同じであるはずがない。その変化した課題を発見するのもCSの役割になってきます。
山田:そのとおりですね。
向井:営業活動の中でも顧客の課題を特定することは、とても必要なコアな部分です。
山田:そういう意味では「ちゃんとやれているCSはすでに営業してるじゃん」とも考えられて。
向井:そうそう。ちゃんとやれている人は営業できてるんですよ、結果的に。
山田:そう言われたら、そんな気はしますね。
向井:なので、数字をどっちが持つか持たないかっていうのは、どちらかというと、お客さんから見たときにどう見えるかを意識したほうがよくて。社内的には両方が同じようにお客さんの課題特定ができて、そこに対して適切な解決策を提示しにいくことを、会話と議論を通じて行えれば、別にどっちがやってもいいと思ってるんですよ。
山田:一方で、経営者だった向井さんに対して質問するとしたら、要は数字責任を持っている人って、日々ひりひりするじゃないですか。CSが数字責任を持っていなかったとしたら、営業から「CSは気楽でいいよな」と思われることもあるのかな、と……(笑)。
それは全体の事業構造や利益配分の公式がわかっていないからだとは感じつつも、いわゆる「隣の芝生は青い」みたいなバイアスもあるはずで、そこはきれいに片づけられないものですか?
向井:きれいには片づけられないでしょうね。少なくとも僕が生きてきた外資系企業の世界は、OTEベースで給与が決まることが多いです。フィールドセールスのOTEは同じ職務レベルでもちょっと高い代わりに、ベースが低くてコミッション割合が高いという非常にアグレッシブな職務ですと。
かたやCSは、OTEレンジは同じ職務領域でもちょっと低いけど、ベースの割合がすごく多いんです。なので、そもそもがアグレッシブにいかないように設計している。その違いが前提にあることをよく共有していましたね。
山田:つまり、CSは頑張ったら得られるリターンの幅がもともと少ない代わりに、低リスクでもあると。
向井:そこはマネジャーとして必要な働きかけかもしれません。お互いの職務にひもづくOTEの中身にポイントがあり、「隣の芝生は実は青くない」というようなことを言ってあげるのも務め、というか(笑)。
山田:それを聞くに、日本の給与システムが、CSや営業といった職責とマッチしてないのもあるんでしょうね、おそらく。
向井:そうかもしれないです。
山田:最近はそういうとこにチャレンジしてる企業さんもたまに聞きますから、そのあたりが正しいリスクテイクになっていくといいですね。
向井:CSに関しては、あなたの昇給や昇格の原資は、トップラインが伸びることによって得られるということを理解してもらい、営業との相互依存関係にあることを意識に埋め込むのがまず第一。それから評価指標としても、カスタマーセールスとカスタマーサクセスの双方にNRRを課すようにすると、自然と協創やコラボレーションが促せるのではないかと。
「組織の情報流通」の中心にCSを据えるメリット
山田:営業からCSに最も期待したいことがあるとしたら何でしょうか?
向井:やっぱり情報を流通させていくときの中心にいてもらいたいですよね。CSはCSでリアルな情報をたくさん持っていますし、営業は営業で「売る」に向けた風呂敷の広げ方の情報をたくさん持っている。
マーケティングとしては、新規の獲得をたくさんしていきたいのか、既存の中でどれだけ新しいビジネスをアップセルさせたいのかによって、CSから得られたコンテンツを使うべきか、営業から得られた情報が適切なのかを「選べる」状態にしておくのが、とても豊かだと思います。
ナレッジマネジメントやナレッジシェアのツールを入れましょうという話では全くなく、マネジャーがそのことに意識さえ持っていれば、情報共有の場を設けたり、日常のコミュニケーションでも立派に情報は流通したりできるはず。繰り返しになりますが「THE MODEL」を一本線ではなくて、サイクルで概念として理解しておくところは大事なポイント。安易にツールに走らないでね、と(笑)。
山田:CSが組織の中心にいると話では、CSは情報の還流を加速させる人、というイメージなんです。サービスやプロダクトが有効に働くユースケースを最も解像度高く知るのはCSですから、まずはそれをしっかり捉えること。捉えるためには、お客さんに直接聞くというよりも「見て捉える」心がけが大切です。それらを抽象化して、プラクティスとしてまとめる。そして、他の部署やプロダクトはもちろんのこと、マーケやセールスにも返していく。
向井:確かにそれもありますね。僕は「CSは営業職である」と主張しているわけですが、山田さんにとって「CSとは何か?」と聞かれたら、どう答えますか。
山田:「<yellow-highlight-half-bold>CSはPMFを加速させる人である<yellow-highlight-half-bold>」と、最近は言っています。
向井:おお、PMFを加速させる人、ですか。
山田:分業化されて職責がより細かくなっていたとき、CSがいる究極の目的は、PMFの回転をより速める役割ではないかと。
向井:山田さんとして、プロダクト特性がありながら「PMFができた状態」といえる目安や指標はあるんですか?
山田:だいぶディープなご質問です(笑)。頑張ってお答えすると、そのプロダクトがシングルプロダクトで、そこまで裾野が広がっていかない前提であれば、2周から3周回ればいいと思います。
向井:おお、それでも3回は必要なんですね。
山田:以前のこのブログでも書いたのですが、「ディープサクセスとライトサクセス」という考え方を持っています。ライトサクセスは現場が喜ぶ、ディープサクセスは経営が喜ぶものという分け方です。ディープサクセスに達成するのは、経験上、どうしても3年くらいかかるんですよ。
向井:PLにヒットさせるイメージですよね。
山田:おっしゃるとおりです。PLにヒットさせるのには、早くても1年半から2年はかかってきます。そこまで達すれば、業務にインストールされ、収益も満たしてくれ、お客さんにも喜んでいただける状態になります。一方で、その状態になると、新しいことに対する情報が鈍化する弊害が生まれます。
人間は自分の慣れたやり方をするので、インストールされてしまうと、新機能が出ても全く反応しなくなるんですよ。インストールされてしまったら安全なんだけれど、アップセルでより上のプライシングを出したときにかわされてしまったり、そもそも情報に気づいてもらえなかったりして、CSが苦しむことの一つです(笑)。
それを崩そうとしたら、もう1〜2周が必要になってくる。だから、シングルプロダクトでやっていく前提だと2〜3周で、自分たちの事業成長に合わせてお客さんも成長していってほしいと考えるなら、次のループが必要になるかな、という感じです。
向井:その間にはお客さん側も変化しているので、その都度、お客さん側が何を目指していて、何に困っていて、起きうる課題も時間とともに変化しているわけですから、それを捉えるのがCSにより求められていく役割なのでしょう。
山田:おっしゃるとおりですね。月並みな言い方をすると、3周くらいするとインストールされ、そこから先は時代やお客さんの変化を捉えながら、さらにもう1周回すか、となっていくのだと思います。
向井:ありがとうございます。いやぁ、面白いですね。
山田:今日は聞いてよかったことがたくさんありました。営業さんの真髄と、真髄から導き出された英知を伺わせていただきました。
向井:いえいえ、とんでもないことです。