「コト、モノにかかわる全ての人々の顧客体験を最大化する」というミッションを掲げ、EC基幹システム「ecforce」を展開するSUPER STUDIO。
ecforceは「売るための必須機能」を数多く搭載し、主に定期通販を行うメーカーから支持されるカートシステムとして、シェアを伸ばしてきました。資金調達をせずとも事業を着実に成長させてきた彼らでしたが、2021年6月に総額18億円の調達を発表。
「今、僕らは市場を激変させるチケットを手にしている。それならば、上場してさらに会社を大きくしていくのも楽しいことのはずだ、とモチベーションが切り替わったんです」
そう語るのは、CEOの林紘祐さん。資金調達の意思決定をした背景を掘っていくと、SUPER STUDIOの強さの源に「採用の美学」があることも見えてきました。
「行動で語ることがかっこいい」と信じ続けてきた
スタートアップはVCからの資金調達で事業を伸ばし、さらに資金調達を重ねていくのが定石となっています。ただ、SUPER STUDIOは初めから外部からの資金調達を前提としないで前進してきました。理由としては、自ら稼いだ分を投資し、さらに稼いで会社を大きくしていくという考え方しか、そもそも持ってこなかったのが正直なところです。
自分たちのタイプから言っても、「行動で語っていくことがかっこいい」という美学を持っていましたし、その表れの一つだったんでしょう。あくまで結果論ではありますけれど、今ではそれを貫いてきて良かったのかな、と思っていますね。
SUPER STUDIOを創業するとき、複数の事業を同時に手掛けつつ、中でも稼げる事業を伸ばしていくストーリーを描いていました。創業後の数年は事業のピボットを続け、動画メディア、 受託開発、EC事業と変遷してきました。
しばらくは会社として動画メディアを最前面に置き、「僕らは動画メディアの会社です」という見せ方もしていたのですが、すぐに売り上げがついて利益が出たのはEC事業。その売り上げと利益の規模を見たときに、リソースをそちらに寄せていくべきだというシンプルな判断になり、必然的に動画メディアの事業は縮小していきました。
その後、2017年にecforceをリリース。ecforceは、自分たちがEC事業を手掛ける上で、満足のいくシステムがなかったことが発端です。だから、ecforceを開発する際にも競合調査などはあまりせずに、何より僕たち自身が本当に使いやすいものを作った。結果的に、そのシステム自体がマーケットで自然と受け入れられていったんです。
僕自身がメーカーへ直接営業してみても、「現行システムよりも圧倒的に良い」という生の声が聞けていました。数社が導入してくださると、口コミを介した横の繋がりで、どんどんアカウントが増えていきましたね。
EC事業を伸ばすために自分たちで物作りやマーケティングをして、その成果を反映する形でecforceのシステムも磨き上げていきました。そのサイクルを全メンバーが楽しみながら取り組めていましたし、やればやるほどに「ecforceはSUPER STUDIOにしかできない事業ではないか」と感じてもきました。
つまり、ブランドを持ちながら、システムを強化していくという体制そのものが稀であり、自分たちしかやりきれないだろうと考えたわけです。さらに、この体制であれば参入障壁も非常に高い。やはり必然的に、ecforceを注力事業に定めていきました。
見方を変えればブルーオーシャンだった
対外的には「ECプラットフォーム事業」はレッドオーシャンに見えるかもしれません。その環境下でもecforceが伸びた理由は「メーカー目線」が何より強かったからだと捉えています。痒いところに手が届き、サポートに打ち込むことができており、メーカーのサクセスに貢献できている。その事実をわかりやすく、ストロングポイントとして打ち出してきました。
ecforceというSaaSがメイン事業にはなりましたが、常に物作りもしていますし、マーケティング施策もぶん回しているんです。バリューチェーンにおける資材の領域や、ロジ、コールセンターの理解といった点もアップデートしてきました。メーカー目線は忘れていませんし、今も磨き続けています。
使ってくださるメーカー側の人の全てのバリューチェーン、そのポイントの多さに対して、一つひとつを同じ目線で掘っていくことが重要なんです。メーカー目線に立たないと、機能をとっても何が定量的に行えて、どれが泥臭くなりすぎてしまうのかという差にも気づけません。その差を見極め、積み重ねることが、使いやすさの上でも効いてくる。
培ってきたメーカー目線でレッドオーシャンと言われる市場を見てみたら、実は全くそんなことはなく、僕らにとってはブルーオーシャンが広がっていた、という感じですね。
チケットを持っているなら“満振り”しよう
2014年に創業してから資金調達をせずに、言わばステルスのように事業を伸ばしていくことには、メリットとデメリットの両面がありました。
メリットはシンプルで、プロダクトや組織の強化に“満振り”でリソースを割けたこと。フルスイングを超える全力の満振りを、良いタイミングまでやり続けられたのは大きなポイントだったと思います。デメリットは、単純にメディア露出が少なく、社員や会社のイメージが見えづらかったはずです。それによる機会損失も、おそらくはあったことでしょう。
満振りでプロダクトや組織が成長するにつれて、僕ら経営陣も「会社としてどうあるべきか」を、どんどん考えさせられるようになっていきました。経営陣全員が、通過点としてのIPOという選択肢も考え始めてもいた。ただ、本当にそれを成し遂げるなら、生半可な気持ちでは無理ですから、本気のKPIを据えて何が何でも実現まで導かなければなりません。
そんなふうに全員でモヤモヤしていた1年ほど前に、あらためて経営陣で話し合って、資金調達をする意思決定をしたんです。SUPER STUDIOには伸びしろがある。それなのに利益以外の投資をしてこなかったのが、弱みになってしまっているのではないか……それを払拭するためにも、しっかり資金調達をして、スケールさせていくことを決めたんです。
確かに外部株主が入ってくることには、忌避の気持ちもありました。「自分たちのやりたいことができなくなるのではないか」という勝手なイメージもありました。でも、すでに上場されている先輩から経験を聞いたり、同規模の企業で上場を目指している友人と話したりすると、「SUPER STUDIOはチケットを持っている会社だ」と言われて。
その言葉の重みを考え、みんなで話し合う過程で、僕自身も「上場してさらに会社を大きくしていくことのほうが、やっていて楽しいはずだ」とモチベーションが切り替わりました。EC業界においては、ステルスな経営にもかかわらず、SUPER STUDIOの名前は知れ渡るようになってきた。市場自体もすごく伸びている。実際の売り上げも好調である。
そういった状況が揃うなら、確かに今僕らはチケットを手にしていて、次はここに満振りすべきではないか。周囲からもそれを勧められる機会も増え、決意が固まりました。
今回の資金調達では、ALL STAR SAAS FUNDをリードとする計5社を引受先とした第三者割当増資を行いました。最初の面談がALL STAR SAAS FUNDでしたが、マネージングパートナーである前田ヒロさんは、お会いする段階で投資の意思決定をされていました。SaaS 領域に鋭い前提はありながらも、数字やロジックの部分においても早い議論ができた。
さらに、前田さんは経営陣がメンバーに抱いている想いといったことも、深掘ってインタビューをしてくださった。その点は、僕らにもポジティブに働きましたね。他にも、彼らが提供するリソースが「CFOの採用決定」など成果の出ているものであったことなど、段違いで良かったのもポイントとしては大きかったと感じています。
既存社員の66%がリファラル採用
前田さんからはインタビューを通じて、「SUPER STUDIOはお客様に寄り添って考えられるカルチャーがある」と言われました。メーカー目線はもちろん、組織づくりにおいても意識してきた点ですから、会社として浸透している価値観なのだと捉えています。
もっとも、基本的には「いい人と働きたい」に尽きます。採用に関してはCOOの花岡(宏明)を始め、今は信頼して現場に任せているのですが、花岡とは常に「SUPER STUDIOにとってのいい人」をすり合わせるコミュニケーションは続けていますね。
僕らも組織作りをしていく過程でうまくいかなかったこともあるし、チームとしての課題もたくさんありました。だからこそ、過去の経験を踏まえた「いい人」を採用したい。その「いい人」の基準って、会社によってまちまちだと思いますし、言葉にするのは大変難しいんですけれど……端的に表すなら「チームで働ける人」を採用することかな、と。
他にも採用基準として持っているのは、「頭だけで考えて発言するのではなくて、手を動かして結果を出してくるような人」。それから、「いい意味で気を遣える人」も大事。チームで働くにあたってのコミュニケーションでは、一つひとつの言葉にも気遣いを持って話せているかが重要だと感じるからです。
……と、こうやって挙げていくと採用が困難そうに思われるのですが、SUPER STUDIOはリファラル文化がとても強いのが特徴です。対外的にも評価してもらえるポイントなのですが、100人以上いる既存社員の66%がリファラル採用なんです。要は、「チームで働ける人」を重視したメンバーが集まってきていたからこそ、達成できているのだろうと。
もともと、プライベートカンパニーとして良い感じに経営していこう、という方針が骨になっていたからこそ、「スキルがあっても組織を壊してしまうような人」を無理やりに入れなければいけない瞬間がなかったんですね。今に至るまで過剰採用の状況もありません。
実務的な面から見ると、採用コストも非常に細かく見てきました。「1人当たり40万円で採用しよう」と決めて、資金も潤沢ではありませんから、インセンティブのかからない「良き友人の採用」をせざるを得ない状況も続けていました。
そうやって徹底した「人格採用」を貫いてきたし、その大切さが共通理解で持てていたのは大きかったですね。組織を大事にする考え方がベースにあるので、その活動をすればするほど、メンバーはまずい人と働かなくて済みますから、心理的安全性も高まります。
入社して1ヶ月に満たないメンバーが、新しい人を紹介してくれるようなことも日常茶飯事です(笑)。それが実現したのは、入社してからのギャップが無いのが理由かもしれません。僕らは採用段階でのステップをとても多く設けているほうだと思います。今も内面的な評価項目で面接していますし、スキルがあっても落ちるケースも珍しくありません。
採用ステップが多いのは、それぞれの持ち場を信じているから
ステップが多くなるのは、SUPER STUDIOでは「カルチャーマッチ」と「スキルの見極め」を見る面接担当者の役割を分けているせいもあるでしょう。主に経営層が前者を、現場は後者を見ますが、互いの持ち場を信じて任せあっています。だから、もし僕が面接をしたならば、スキルのことについて口を挟むことはないんです。
職種によってもステップ数は変わります。ステップが最も少ないのはエンジニア職。まずは人事担当者とエンジニアチームのマネージャーが面談スタイルでお話を聞き、良い人であれば、現場のリーダー面接、CTOの村上(功記)とコーポレート責任者によるセット面接、COOの花岡の面接と進んでいきます。
ビジネス職だと、人事が会社説明を含めつつパーソナリティの部分を見る面接に始まり、現場メンバーとの面接へ。時には現場メンバーは複数回セッティングされたりもします。コーポレート責任者や花岡との面接も含めると、5回のステップを経ることもありますね。
エージェント経由でお会いする方々に対しての通過率は、現場面接では70%ほど、コーポレート責任者の段階で60%ほどでしょうか。 とにかく、メンバーがそれぞれの観点で見極めながらも、全員がOKを出せないと次のステップには進めないのです。
こうやってメンバーを集めていったことで、僕自身も、振り返ると恩恵を受けているシーンが結構あるように感じます。たとえば、僕はハードシングスの記憶があまりなくて。スタートアップらしいハードシングスって、今までもたくさんあったはずなんです。でも、本当にハードシングスになる手前でメンバーが話し合って、誰かが速攻でトラブルシューティングを実施してくれていたから、僕にはそれがハードシングスである感情が湧かなかった。
信頼し合ってるメンバーで常に会話するのは、問題解決のための知恵の一つなんだと思います。それこそ、僕と花岡の“通話履歴”を見たら、お互いの名前だけで全部埋まってるはずです(笑)。何か気になることがあって、その場にいなければすぐに電話して、考えを聞いたり、対処を決めたりして実施してきました。
会話の量と認識合わせの数が段違いに多かったのも、ここまで大きな問題にぶち当たることなく成長してこられた理由なんだと思います。
圧倒的現場主義でいたい
僕らはバリューに3つの言葉を掲げています。
CHANGE - 変われる人であれ
INSIGHT - 本質を見極めろ
HONESTY - 人格者であれ
2018年に経営陣で合宿をして定めたキーワードたちです。SUPER STUDIOに入ってもらいたい人の姿を話し合って、それらを言語化して定めていきました。だからこそ、全社での月例会で僕が話すときを始めとして、この価値観はあらゆるベースになっています。
そして、SUPER STUDIOの今のビジョンを言語化するならば、やはり「圧倒的現場主義」になるんだろうと思っています。ecforceのアカウントが大幅に増え、会社のメンバーも増えてきたなかであっても、僕たち自身は圧倒的現場主義をもって、「コト、モノにかかわる全ての人々の顧客体験を最大化する」というミッションに向かってきました。
自分たちが最もエキサイトしてやりがいを感じられるのも、現場にいるメーカーから「画期的なプロダクトで本当に助けられた」というリアルな声を聞いたときです。そして、その課題解決は僕たちにしかできないという使命感は、強く抱いているつもりです。結果として、利益がついてくる。それくらいに思っています。
今の経営陣は、とてもよくワークできていると考えています。それは、当然のことだと言われるかもしれないけれど、みんなが使命感を背負い、自分の持ち場をしっかりさせようと真面目で、責任感が強いからなのでしょう。
やっぱり、経営って、人が全てです。仲間集めにレバレッジをどう効かせるか。今思い返しても、そればかりをやってきたな、と思う。
やっぱり、経営って、人が全てです。仲間集めにレバレッジをどう効かせるか。今思い返しても、そればかりをやってきたな、と思うんです。「コミュニケーションを取らなきゃ」と働きかける感覚は僕にはなくて、時間があればご飯を一緒に食べて楽しく話したいと、本当に心の底から思えるようなメンバーでチームを作ってきたことが大事だと感じています。
僕はシンプルに、メンバーに対して感謝の気持ちがあります。でも、それこそが、事業を成長させていく上での大事なポイントかもしれません。