スタートアップにおける悩みごとの多くは、組織や人にまつわることと言っても過言ではありません。組織の課題をうまく乗り越えていくために重要なのが「ミドルマネジメント」の存在です。彼らをいかに機能させていけるかによって、事業成長の角度は大きく変わります。
そこで、ALL STAR SAAS FUNDは、スタートアップにおけるマネジメントの第一人者である株式会社EVeMと共に「ベンチャーマネジメント集中講座」を全4回で開催しました。
講師は、EVeMの創業者である長村禎庸さん。大学卒業後、リクルート、DeNA、ハウテレビジョンを経て、ベンチャーマネージャー育成トレーニングを行なうEVeMを設立されました。DeNAでは広告事業部長、株式会社AMoAd取締役、株式会社ぺロリ社長室長兼人事部長などを担当。ハウテレビジョンでは取締役COOとして同社を東証マザーズ上場に導いた経験を持ちます。
いずれの企業でもマネジメントによって組織拡大や事業成長に貢献。その知見をもとに、マネジメントナレッジの展開や、マネジメントプログラムの提供を通じて、ベンチャー企業を中心に組織能力の向上を支援しています。2021年には著書『急成長を導くマネージャーの型〜地位・権力が通用しない時代の“イーブン”なマネジメント〜』も出版されました。
講座第1回のテーマは『ベンチャーマネージャーに求められる「戦略」の視点とは』です。限られたリソースで戦略を立て、どのように成果を残すのかを、ベンチャーマネージャーが担う役割に焦点を当てて解説していただきました。
(この記事では、2023年8月29日に実施した講座の内容を抜粋・再構成しています)
ベンチャーでは「勝利にこだわるマネジメント」が求められる
EVeMとしては「マネジメントの型」があることをお伝えしています。この考えに至ったのは、私がハウテレビジョンに所属していたときの思い出が影響しています。
入社当初は20名弱の企業が、2年足らずで50名近くに成長しました。この規模の変化に伴って、組織の中でのマネジメントの方法も変える必要が出てきました。20名の頃は、だましだましのマネジメントで済んでいましたが、50名を超えると、それだけでは無理です。これ以上はマネージャーが強くならないと組織が大きくならないというフェーズにきたんです。
では「ベンチャーマネジメントとは何か」を考えてみましょう。安定成長を目指す大手企業とは対照的に、ベンチャー企業は急成長を志向している一方で、その事業基盤は弱いのが実情です。大手企業では「和をもって貴し(とうとし)となす」マネジメントが求められるのに対し、ベンチャーでは「勝利にこだわるマネジメント」が求められる、と考えます。
次に、私が「マネジメントの地図」と名付けているものについてお話ししましょう。
上記の図は、マネージャーの役割とその流れを示したものです。具体的には、現状の認識からはじめ、チームの目標設定、方針策定、チームビルディング、そして作った方針とチームが回るように活動を推進する。会議体を作り、四半期や半期のタイミングで評価をする。マネジメントには、こういった一連の流れがあり、この流れをメンバーと対話しながら進めることで、ピープルマネジメントも実施します。
それから、忘れてはならないのが、マネージャー自身のスタンスです。特にベンチャーマネージャーにとって、自身の心構えやスタンスは重要です。大手企業とは異なり、ベンチャーでは会社のブランドや看板に頼ることができません。そのため、マネージャーとしての資質や心得が直接、組織の成果に影響を与えるからです。
この「マネジメントの地図」をもとに、今回の集中講座では各要素を深掘りしていきたいと思います。
マネージャーのミッションは「執行」「活用」「伸張」「連携」
さて、まずは「マネージャーのミッション」について考えていきましょう。マネージャーとはそもそも何の役割を担っているのか。実はこれが最も重要な観点だと思います。
たとえば、半期目標は達成できているが、自分で何でも巻き取ってしまうマネージャーは「良い」のか否か。実際にマネージャーの評価基準は会社ごとに異なりますし、中には評価があっても形骸化しているケースもある。もし、評価基準がない場合は成果を残せば良いのかもしれませんが、それだけがマネージャーの役割ではない、とは強調しておきます。
私が考えるマネージャーのミッションは大きく4つ。それは「執行」「活用」「伸張」「連携」です。
1. 執行:チームの成果、つまり短期的な目標の達成です。ここでの主な仕事は、重要な業務を見極め、それを実行すること。
2. 活用:全メンバーが持続的にパフォーマンスを発揮するために、リソース、意欲、能力を最大限に活用すること。
3. 伸張:採用とメンバーの育成に関わり、チーム全体の力量を高めること。
4. 連携:他の部署や上司との連携を深め、全社の業務の流れをスムーズにすること。
これらを踏まえて、少し私の過去のエピソードをお話ししましょう。かつての私は、執行に関しては常に全力で取り組むタイプでした。目の前のタスクや成果を達成することに集中し、それ以外のことはあまり考えなかったのです。「できない人はやることがないので、そのあたりで見ていて。ここはベンチャー企業なんだから」と言わんばかりのスタイルです。
しかし、ある時、突然の異動の話が。私は驚きました。常に成果を上げていたのに、どうしてこんなことが起こるのだろうと。でも、今になって振り返れば、その原因は明確です。成果を上げることだけを追求していた私は、他の3つのミッションを軽視していたから、マネージャーとしては不適格だったわけですね。
経営者から大事な仕事を責任者として託される、それがベンチャーのマネージャー
マネージャーのミッションを、マトリックスに落とし込んでみました。「チーム」および「全体」、そして「成果(短期)」と「成長(中長期)」の4つの視点です。
ここで、「チーム」はマネージャーの直接的な管轄や責任範囲、そして「全体」とは会社全体や部門全体を指します。成果とは、短期的なアウトプットやマイルストーンの達成を意味し、成長は、その成果が持続的に達成される状態を指します。
私の過去を思い返すと、執行の部分にのみ集中していました。つまり、短期的な成果の追求のみに焦点を合わせ、他の部分を軽視していました。そうすることでチームは短期的には成果を上げることができても、中長期的な成長は見込めない状態に陥ってしまいます。
メンバーの活用がないので、自分の能力を生かす機会がないと考えるメンバーが離脱します。「人が足りない」と口癖のように言うのに、入ってきたら「使えないから私が巻き取ります」ということを繰り返す。そういう定常的に人が抜ける構造のチームだと、中長期的な成長は期待できませんね。
かといって、活用だけを考えてもおかしくなります。「みんなの力を活用するぞ」と言っても、肝心な執行の概念がないと「何のために仕事をやらせているんですか」となる。活用も執行も両方が必要です。全ての人が100%の力を発揮しながら、執行できている状態があれば、短期的な成果も極大化されますし、中長期的な成長にもつながる。この状態をマネージャーが作らなきゃいけないわけです。
次に、伸張。これはチームの力を上げること、メンバーの成長や採用に重点を置く部分です。伸張が実現されなければ、チームの力は定常的なものとなり、中長期的な成長は見込めません。自部署の力量が上がってくれば、自分自身がそのチームを引き継いで、他のチームに移れたりもします。あるいは、自分のチームのメンバーを、他のチームに移動させることもできます。全体への貢献ですね。
そして、連携。これは上司や他部署との良好な関係を築くことを指します。私は過去に、連携の重要性をないがしろにしていました。上司から「報告しろ」と言われても、「面倒だ」とよく思っていたものです。
しかし、連携がないと、仮に自分のチームは成果を挙げていても、私の管理下がブラックボックスのようになれば、本部全体の意思決定のクオリティーが落ちたり、本部全体としての「やりたいこと」が進みにくくなったりします。結果として、短期的にも中長期的にも他部署を妨げてしまうわけです。
ベンチャー企業におけるマネージャーとは、経営者から直接、またはほぼ直接、業務を委託される存在です。経営者がやりたいけれどもできない仕事を、責任者として託している。だからこそ、経営者と同じ視点での思考や行動が求められます。中長期的な視点を持ち、全社の成長を目指すこと。これが真のマネージャーの役割だと私は考えています。
その意味では、ベンチャーマネージャーは経営陣の一員である、と私は思っています。より直接的に仕事を任されてるので、マインドも含めて経営者と同じ目線で動いてもらわないと会社が回りませんし、経営者だけが中長期的な成長を考えている組織では、中長期的な成長は実現できません。ぜひみなさんも、全てに貢献をして、全社の中長期的な成長を目指せるマネージャーになってください。
マネージャーの4つのミッションは、状況によってウェイトは変わる
ただし、執行、活用、伸張、連携という4つのミッションは、状況によって比重や評価基準が変動することがあります。
たとえば状況A。「このまま販売目標に到達しないと、来月にはキャッシュアウトします」という緊急性が要求される場面では、即時の成果を上げることが最優先となり、執行に全力を尽くさなくてはなりません。
状況Bの場合、「近々でIPOの審査がある」ならば、成果を伸ばして業績を上げるための執行はもちろん、新入社員のオンボーディングや人材の育成も重要ですし、伸張に関しては「将来の役員候補を一人か二人、じっくりと育成しよう」といったウェイトになってくる。
状況Cはメガベンチャーに多いですね。「すでに部署も増えている」としたら、執行や活用だけでなく、他部署との連携が重要となるシチュエーションです。他部署へ人を移す必要性もあるとすれば、4つのミッションに均等で挑む考え方もあるでしょう。
各状況において考えるべき比重、それをしっかりと意識し、自分の立ち位置や業務の焦点を定めることが、効果的なマネジメントのカギとなります。
実務におけるアドバイスとして、ぜひオススメしたいのが「クォーターごとの5分間の整理」です。新しいクォーターがはじまる際に、これら4つの要素の中でどれを最優先にすべきか、どの比重で取り組むべきかを整理しましょう。これだけで、その期間の動きや焦点がクリアになるはずです。
「ほんとうは将来に向けて活用も大事なのでは?」とか、「半年後や1年後の組織を考えると伸張に力を入れないとまずいぞ」とか、整理するだけで気づけることも多いです。特に、オーナーシップを重視するベンチャー企業においては、強いオーナーシップ感から連携の部分が疎かになることも。連携の部分を意識することで、全体としての生態系や、他の部署との協力関係も見えてくるはずです。
「チームの役割」を言語化し、「目標設定」で成果を最大化する
「クォーターごとの5分間の整理」もその一つですが、「現状認識」はとても大切です。実は、最初に見せた「マネジメントの地図」の中には、私が定めた「19個の型」があります。ただ、今日は時間も限られているので、一部をピックアップして説明していきます。
その一つが「チームの役割」です。基本的ではありますが、多くの人が見落としがちです。チームの役割を言語化することで、会社の期待する役割とのずれを防ぎます。
例として、カスタマーサクセスのチームで考えると、一つは「クライアントの利用をサポートして解約を防ぐ」という役割。もう一つは「クライアントの利用をサポートして、さらにアップセルも行なう」という役割。このような微妙な違いが、目標達成の成果に大きく影響を及ぼすことがあります。
また、HRの例でも、一つは「採用と育成を行なう」という役割。もう一つは「事業成長のためのあらゆるHR施策を実施する」という役割。これらの違いを認識して、チームの役割をしっかり言語化することが、目標設定の前提となります。
大企業でそれほど環境の変化がない場合はずれることもそれほどないかもしれませんが、ベンチャーは変化が激しいものです。目標設定をする前に「自分のチームの役割は何か」を言語化して、経営者と握りあっておくのが大事だと思います。
そもそも、目標設定は何のために行なうのでしょうか。チームが同じ方向を見るため、方向性の一致、成果を測るため……どれも重要な視点ですね。
目標は、チームのパフォーマンスを向上させる「カンフル剤」のようなものだと考えてみてください。100%達成が保証されているような目標では、チームの創意工夫が生まれにくいのです。目標にはある程度の野心的な挑戦性が必要です。
目標設定時は100%の達成保証はなくとも構いません。たとえば、設定時には70%は予測がつくけれど、残りの30%は見通せなくてもいい。この「余白」がチームの創意工夫を促します。その余白を埋める努力こそが、チームの成果を最大化するカギとなります。
ですから、「絶対にこの目標を達成できるのか?」といった保守的な考えは、実は目標設定の本来の意味からしても逸脱しているともいえるわけです。
目標はいつも、「終了日の状態」で設定すべき
目標に関しては、「状態目標」という考え方が大事です。目標は、ある期間の終了時点での状態を示すものです。たとえば、クォーターが7月1日から9月30日だとした場合、9月30日の状態を示すことが求められます。
たとえば、定量目標として「売上1億円」が設定された場合、それは9月30日時点で1億円の売上がある状態を意味しています。こういった定量目標は「Be」で表現されるものになってきます。
しかし、定性目標については、多くの場合が「Do」、すなわち行動を指す形で設定されてしまいがちです。「MVPを開発する」といった表現では、目標の達成状態が不明確です。それでは、終了日にどのような状態であるべきかが不明確となります。そのため、定性目標も「Be」、すなわち状態を示す形で設定する必要があります。
「MVPを開発する」を「Be」で表現するならば、「MVPの開発と検証が完了している」といった状態を示すようにしないと、達成度合いも不明瞭になります。定量目標も定性目標も「Be」で状態を表現する、というのを前提にしましょう。
そして、状態目標の設定によって、目標達成の進捗を明確に可視化することもできます。たとえば、目標の詳細として以下のようなランク分けが考えられます。
S:成功確度の高いプロダクトの要件概要と開発体制が決まっている状態(100%達成)
A:リードエンジニアが採用できている状態(75%達成)
B:成功確度の高いプロダクトの要件が決まっている状態(50%達成)
C:顧客にハンズオンでの提供が完了している状態(25%達成)
これにより、週次の進捗状況も具体的に可視化でき、目標に対する取り組み方や進捗の把握がしやすくなります。定性目標であったとしても定量目標と同じように、週次でロードマップを引き、達成度を明確に定義し、それを目指して取り組むことが重要です。
野心的な目標を掲げるには、挑戦の評価をしなければならない
次に取り上げたいのは、「挑戦の評価」です。具体的には「適切な評価方針を立て、野心的な目標をチームに実装するため」という趣旨となります。
チームや個人の目標設定において、「野心的な目標」と「保守的な目標」、どちらが評価されるべきかという問いに対しての視点を考えてみましょう。
Aさんは、継続的に野心的な目標を掲げ、それに挑戦し続けています。目標も野心的なので、なかなか届かないこともあれば、反省しながら、どうにか届かせようとしてきた。どうにか最後の4Qで達成ができて、1年通じた結果としては「1勝3敗」といった感じです。
Bさんは、常に保守的な目標を掲げて、それに見合った成果を出し続けています。必ず毎回達成していますから「4勝0敗」です。みなさんの会社はどちらの人を評価しますか?
この2つのケースを比較する際、どちらのアプローチを重視・評価するかは、組織の文化や方針に大きく左右されます。もし、Bさんのような保守的な目標設定を重視する組織文化であれば、野心的な目標を持つインセンティブが形成されません。野心的な目標を持ったら、ただ損をする仕組みであれば、誰も持とうとはしないでしょう。
野心的な目標をチームや個人に持たせるためには、組織としてその挑戦を評価・報いる文化を形成することが必要です。組織の方針や評価制度を見直し、チャレンジ精神を奨励する文化を築き上げることが大切です。
もう少し具体的な話をすると、まず能力をちゃんと評価してあげましょう。Aさんは野心的な目標を持って、3回ぐらい外してはいるが、ずっとチャレンジを続けているので能力は伸びているわけですね。成果だけでなく、発揮した能力も評価して報いて考えるのです。
みなさんが人事部長やCEOなのであれば、人事制度をそういうふうにアップデートすることを、私としてはお勧めしたいですね。
戦略方針は、「という方向性」で違和感がなければOK
立てた目標をどうやって達成するのか。これこそが、いわゆる「戦略」に当たります。
たとえば、「毎日忙しいのに成果が出ないチーム」があるとして、彼らには何が足りないのでしょうか?
確実に目標に近づくための戦術、振り返り、プロセスの見直し……どれもその要素には違いありません。こうした意見や悩みを解決するのが「戦略方針」です。
戦略方針とは、「最小の工数で目標を達成するための方法や方向性」を示すものです。戦略方針があった上でアクションをすれば、「何が重要か」が見えてくるわけです。
僕もDeNA在籍時から数えて、ベンチャー企業に勤めはじめて14年ほど経ちましたが、人やリソースが足りていると感じたことは一度もありません。それでも高い目標を達成するには「何が重要か」を選別し、それだけに取り組むことが肝心です。
戦略方針をさらに具体的に言うと、具体的なアクションを検討する前に「どういう方向性で」達成するのかを考える、ということです。
たとえば、あるマーケティング部の戦略方針であれば、「マーケティングを強化する」というのは抽象的すぎます。逆に「バナー広告を出す」という方針は具体的すぎます。しかし、「YouTubeチャンネルを立ち上げてグロースさせるという方向性」であれば、具体的かつ抽象的な中間の位置をとっています。このような「ほど良い抽象度」が戦略方針の鍵です。
ほど良い抽象度で戦略方針をまとめるコツとしては、語尾に「という方向性」という言葉を方針文の最後につけてみることをおすすめします。方向性がわかれば、自分でアクションを考えて、どんどんアクションができるようになります。
「YouTubeチャンネルを立ち上げグロースさせるという方向性」ならば、「チャンネルを立ち上げるなら調査が必要だ」とか、「グロースさせていくに当たっては誰かとコラボした方がいいな」とか、「サムネイルをもっと変えた方がいい」とか、アイデアが生まれますよね。
「という方向性」を語尾に付けて、違和感がないかどうかを確認してみてください。うまくいけば、あとは内容を磨いていくだけです。
戦略方針とは“How”の方向性を示すもの。1億円を目指す、は目標
次に、戦略方針のポイントについて、解説していきますね。
まず、戦略方針とは「どのようにそれをやるのか」という“How”の方向性であり、目標やKPIそのものではありません。時々、「売上2,000万を目指す!」といった目標を戦略方針として掲げる方もいますが、これは目標やKPIの範疇になります。
空疎な戦略方針には注意が必要です。たとえば、「顧客に徹底的に向き合い、サービス価値を伝える」というもの。これは営業の基本的な役割を示すもので、戦略方針としては内容が不足しています。もう少し具体的に、どのように顧客に向き合うのか、どうやって価値を伝えるのかを考える必要があります。
「不確実性をコントロールしながら、スケジュールやリソースを柔軟に運用し、臨機応変に開発を進めていく方向性」と書かれていたら、それはアジャイル開発そのものを言ってますよね。「顧客がアクティブにサービスを使えるような施策展開を徹底し、解約を徹底的に防ぐことにフォーカスする」って、それは要はカスタマーサクセスそのものじゃないですか。
内容がない空疎な戦略方針に注意してください。ちゃんと“How”の中身が分かる方針にしましょう。
そして、戦略方針を策定する際は、思い切って作ることが大切です。要は、アクションに取捨選択を迫るものです。今まではリアルイベントに注力したけれど、戦略方針が「デジタルマーケティングに振り切るという方向性」になれば、リアルイベントはもう開催しない。そういうことも起こり得る話です。
戦略方針を立てたら、それに基づいて業務やアサインメントを見直すことも必要です。役割を担えていないメンバーがいれば、「戦略方針に沿ってあなたのアサインメントも変えますが、それで頑張りましょうね」と伝えるのが、正しいアプローチになります。
もっと言うと、アサインメントの変更を伝えたときのメンバーの顔色や気持ちまで全て考慮した上で、戦略方針は取捨選択を迫るものですから、ある意味では残酷な結論になることもあるかもしれません。そのメンバーがそれで生き生きと仕事をしてて、ほんとに楽しくやっていたのに、その仕事がなくなるかもしれないんです。ただ、それくらいに迫らないと本当に大事なアクションはあぶり出せません。
業務ありきで戦略方針を作成するのではなく、戦略方針をもとに業務を見直し、取捨選択を迫ることが大事なのです。
戦略方針は事実に基づいて策定することも重要です。事実とは、具体的な数値や明確な出来事を指します。たとえば、自社の口コミ数が競合に比べて多いと思っているが、実際にカウントすると競合の方が多い、というような事実誤認は避けるべきです。このような誤った事実に基づいて策定された戦略方針は、適切な結果をもたらすことは難しいでしょう。
チームの状況は5つに分類できる。マッチした方針を採用しよう
ここからは、チームの現状を正しく理解し、それに適した戦略方針を立てることの重要性についてお話しします。
チームの状況は大きく5つに分類できます。それが「立ち上げ」「急拡大」「成功の継続」「軌道修正」「立て直し」となります。各状況の特徴としては、次のとおりです。
・立ち上げ:事業の取り組みがまだ検証段階で、方向性が確定していない。
・急拡大:事業の方向性が定まり、投資を積極的に実行していく段階。
・成功の継続:事業が安定し、成功を継続しつつ新たな取り組みも検討する段階。
・軌道修正:現状の進め方での課題が見えてきて、変更が必要な段階。
・立て直し:今のチームの体制ややり方での成功が難しく、大きな変更が必要な段階。
チームがどの状況にあるのかを正しく認識し、それに合わせた戦略方針を策定することが大切です。たとえば、マネージャーが「立て直し」を目指しているのに、実際のチームの状況が「成功の継続」である場合は、とても危険な状態といえます。せっかく成功しているものを壊そうとしているわけですからね。
状況を的確に捉え、マッチした方針を採用しなければ、チームのポテンシャルを生かせません。
最後に、戦略方針を策定する際の重要な観点として、マネージャーが自分の好みや経験に囚われず、客観的な事実に基づいて方針を立てることが必要です。「自分の好き・嫌いこそが大敵」だと捉えましょう。
イマイチ筋の良い戦略方針が思い浮かばない、あまり目標達成に向けて良い方針が生まれないときほど、「自分がやりたくないことはないか」を問うてみてください。これを問うていただくと、重要度が高いことが頭からごっそりと抜けていることにも気づきます。
戦略方針を考えるときのポイントは、工数が少なく、インパクトの大きな取り組みを目指すのも大切です。私の好きな言葉に「目標を“一撃で”刺すレーザービーム」というものがあります。みなさんの策定する戦略方針が、そのような効果を持つことを心から願っています。