SaaS事業成長の鍵を握るのは、顧客との良好な関係を築き続けるカスタマーサクセス(CS)に他なりません。ともすれば属人的になりすぎる仕事を、しっかりと組織化していくためには、戦略や目標設計の観点が欠かせないでしょう。
そこで、CSを組織化する上での必須知識を、下記5つのテーマに分けて解説する『SaaS CS集中講座』を、ALL STAR SAAS FUNDで開講。
- CS組織化のポイントとKPI・KGI設計
- CSMの基本マインドとオンボーディング
- リニューアルマネジメントとエクスパンション
- ヘルススコアとデータ基盤
- カスタマーマーケティングとコミュニティ
講師は、日本におけるカスタマーサクセスの第一人者である山田ひさのりさんをお招きし、豊富な実務経験をもとに解説。さらにALL STAR SAAS FUNDの支援先からもよく聞かれる課題もカバーしたカリキュラムとなっています。
ここでは第2回となる「CSMの基本マインドとオンボーディング」の内容を抜粋、記事化しました。カスタマーサクセスを含め、SaaS経営全般のナレッジを私たちのブログでは継続的に発信しています。これを機会に知ってくださった方は、ぜひ他の記事もご覧ください!
Sansanにおける顧客セグメントの変遷
今回は「顧客セグメント」から講義を始めていきます。よろしくお願いします。まずは、Sansanにおける顧客セグメントの区切り方を表した、下記の図をご覧ください。
ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチという言葉はよく聞くはずです。これらの区切り方は「従業員規模」が一般的ですね。
山を登る過程では、Sansanのカスタマーサクセスにも変遷がありました。次にお見せするのは、年代と導入件数によって、組織やメンバーがどのように変わっていったかという、言わば年表のようなものです。まずは、Sansanが誕生した2007年から。
Sansanでは導入件数が約170件までは、創業メンバー全員でCSの導入支援や利用促進をしていました。メンバー数も15人程度でしたが、まさに「全員野球」で取り組んでいました。もっとも、スタートアップのアーリーフェーズではどこも同じだと思いますけれども。
2008年に「サービス部」というカスタマーサクセスの前身が発足し、2012年に「カスタマーサクセス部」に名称変更しました。
2008年から2016年とだいぶ年数は飛びますが、導入が3000件くらいになるまでには、「運用コンサルティンググループ」という部署を設け、9名(後に人員拡大し15名程度に増員)で対応していました。セールスは別の部署が担当しています。
2016年から2018年になり、導入は4000件。この頃にはオンボーディングをする部門とアダプションをする部門が分かれました。
オンボーディングをする部門は50ID以上ですね。当時のSansanはID確認をしていたので「50ID以上」と「50ID未満」で分けていました。根底を支えるのが「CS企画」部門で、全体の資料を作ったり、施策を回したりする業務を担っています。
2018年から2020年で、導入は5000件に乗りました。従業員規模の分け方が変わり、上図では左側がセールス(ERS、MRS、SRS)で、右側がカスタマーサクセス(ECS、MCS、SCS)です。セールスとカスタマーサクセスが同じ組織にいて、それぞれの顧客を両面からフォローしていく体制になりました。
そして、2020年以降は、導入は6000件を超えました。ここで再び従業員規模での切り分け方が変わり、50名未満をスモール、50名から999名までをミディアム、それ以上をエンタープライズと定義づけました。
2つの時期で見る、「顧客ライフサイクル」の基本
次に「顧客ライフサイクル」を見ていきます。顧客ライフサイクルとは、お客さまのジャーニーを指します。基本は「オンボーディング期」と「サクセス期」に分けて考えられます。サクセス期は「アダプション」と言うこともあります。あるいは、オンボーディングと「オンボーディング以降」と呼ぶことも。いずれにしても、この2つを分ければ構いません。
SaaSは年間更新のケースが多いと思いますが、全体の流れとしては、オーダー、契約、オンボーディング、アダプション、リニューアルと進み、その後はアダプションとリニューアルが交互に年単位で訪れます。
それぞれにはフェーズがあり、適切に行うべきアクションを規定しておくことが大切です。特に更新が2回以上あるときは、1回目と2回目でもアクションは変わり、3回目以降は同一にする、といったフェーズ分けも有効です。今日は、オンボーディングにおけるアクションの話をこれからしていきます。
Sansanの顧客ライフサイクルは、上図のように4つのステップで進みます。
まずは導入期による支援、オンボーディングです。次の運用期は更新1年目まで。活用期が更新の2回目まで。一応、この2つは区切ってウォッチしますが、1年目と2年目以降はそれほど差がないようには感じています。そして、その後は定着期です。
Sansanにはサクセスにも2種類あります。オンボーディングで関係を構築する上で、まずは“Behavioral Success”を目指します。これは現場の「習慣」が変わることを指します。Sansanで名刺取込と共有をするようになり、個々人に閉じていた情報を社内で共有するという行動変容までを対象にして、概ね1年から3年ほどで実現可能です。
その後は“Operational Success”といって、現場の「業務」が変わる状態を目指します。
名刺が共有されることを前提に、業務改善や新しい施策が行われるようになると、Sansanが完全に定着し、サクセスしたといえます。
このように「サクセスにもいくつかの種類がある」と見るのが、私の考えなんです。以前に講座内で「Sansanのように現場直結型のサービスではなく、サクセスが見えにくいツールの場合は、どのように支援すべきですか」と質問を受けることが多かったのですが、このように複数のサクセスに分けて考えてみる、というのが回答ですね。
そこで次に、私の造語なのですが、「ライトサクセス」と「ディープサクセス」という言葉を紹介しましょう。
サクセスは「ライト」と「ディープ」に分ける
「ライトサクセス」は業務課題を解決するサクセスのことで、顧客がQuick Winを繰り返し、結果として現場が満足するサクセスを実現できた状態です。Sansanでいえば、「名刺を持ち歩かなくてもよくなる」といったことです。
ライトサクセスは現場課題を解決に比重が置かれるので、比較的早くに実現可能です。3カ月から半年ほどで達成できるケースが多く、2年ほどは継続しますが、その後にチャーンにつながりやすい。現場業務が楽になるので現場からは喜ばれますが、経営層からは成果が見えにくいというのが実情です。
「ディープサクセス」は、経営課題を解決するサクセスで、提供するプロダクトが業務の現場に完全に定着し、経営層が満足するサクセスを実現できた状態です。経営層まで満足しているので、ROIも出ている状態だといえます。
ディープサクセスは実現に1年以上はかかってきます。ただ、達成するとチャーンされにくいのですが、現場負荷が高く、顧客の心が折れやすいというデメリットもあります。
このようにサクセスも見方によって質が異なってくるのですが、プロダクトによってサクセスのタイプや発生パターンが違ってくることを、今回はぜひ踏まえてもらえたらと思います。私がいくつかの会社を支援していて感じたのは、概ね下記4パターンに分かれます。
まずはライトサクセスのみ発生するAパターン。現場業務は改善されるもROIまでは届かず、結果的に2年程度で解約されるケースも多い。グループウェアやコストカット系のサービスが代表的です。
次に、ディープサクセスのみ発生するBパターン。経営インパクトのある成果を目指すも、現場メリットが少なく顧客を動かしにくいため、常にトップダウンアプローチが必要になります。実現までに時間を要するため、カスタマーサクセスの負荷も高いですね。
Cパターンは、ライトサクセスからディープサクセスへと、段階的に発生します。中長期でサクセスプランをデザインできれば、長きにわたって活用され続ける可能性が大きくなります。SansanはCパターンに近いと感覚的には思っています。現場課題を解決し、フォローしていけば経営課題までつながるタイプで、プロダクトとしてはベターなケースです。
最後はサクセスが同時に発生するDパターン。同時発生のため、Expansionにも即座につながる。個人的にはあまり見たことがないケースですが、あるにはあります。
この4パターンが、私見は入っていますけれども、数多く支援してきた中でたどり着いた現時点の結論です。自分たちが提供するプロダクトがどれに寄っているかを意識すると、戦い方も変わってくるはずです。
たとえば、ライトサクセスのみが起こるAパターンのプロダクトであれば、決定的な利便性の向上を目指し、現場が離れられなくなるようなDaily Use機能を充実させるのが基本の戦い方です。コスト削減文脈でアプローチしつつも、運用フローの工数でディープサクセスが発生できるシナリオを保持し、それで押していく、というストーリーが描けるでしょう。
なぜ、オンボーディングは重要なのか?
「カスタマーサクセスの真髄はオンボーディングにあり」といわれるほど、重要なポイントなので、あらためておさらいしましょう。
先ほど言ったライフサイクルのフレームに照らすと、オンボーディング期は学習期間に該当すると考えられますが、これは本当か否かを検証してみたことがあります。
SansanにおけるチャーンとExpansionはヘルススコアと関係がある、という結論に達しました。解約・減金額のうちの50%はヘルススコアが悪い案件から、Expansionの70%はヘルススコアが良い案件から発生しています。
前回の講座で、オンボーディングの成功数値がヘルススコアの良し悪しにつながり、それが契約継続率にもつながっていると話しました。
これらから読み取れる結論は、まず継続案件とチャーン案件の両方で、継続年数が長くなるとヘルススコアは上昇しました。ただし、チャーン案件のヘルススコアは、いずれの値も継続案件よりもおしなべて悪かったです。継続案件は良い状態で上がっていく一方で、チャーン案件は悪い条件でちょっとずつ上がっていくんです。
特に名刺消化率は、チャーンを決定づける主要因になっていたことを発見できました。私はこれを「最大チャーン因子」と命名しました。
オンボーディングの失敗は、ヘルススコアのベースを悪化させます。そして、ベースが悪化したヘルススコアは最大チャーン因子を引き下げ始めます。ということは、オンボーディングに失敗した顧客は、即座にチャーンすることはないけれど、ヘルススコアが低い状態で数年推移しつつ、最大チャーン因子を引き下げ始めます。
そして、最大チャーン因子が顧客期待値の限界を超えたときに、チャーンへと発展します。Sansanだと平均して3〜4年目でした。ただ、セグメントごとに傾向があって、SMBだと2年間などやや早い傾向です。
顧客期待値の限界を突破したときにチャーンが発生します。期待値を代替するような値を探す必要があります。Sansanでいえば、名刺消化率がチャーンの引き金に最もなっていました。
オンボーディングの成功や失敗は、3〜4年後に現れるようです。短期では、なかなか気づけないのですね。だからこそ、オンボーディングを頑張るのは、やはり正しいのです。
オンボーディングでフォーカスすべき3つのポイント
ここからは、オンボーディング設計において重要なポイントを説明します。オンボーディングのメインフォーカスポイントは3つです。
- 期間を決める
- 成功基準を決める
- やることを決める
個人的な感想で申しますと、3番だけ決まっているケースが多いのですが、成功基準と期間が大事です。期間はプロダクトにもよりますが、1カ月から3カ月ほどが一般的。ライトサクセス系ならば数週間で終わるケースもあります。
期間を決める際には、計測期間を揃え、単位期間のオンボーディングの成功率を計測できるようにする必要があります。
お客さまが契約を開始し、カスタマーサクセスが支援を始める時期はばらつきが出てきますから、計測がしにくいのです。だからこそ期間を揃える必要があります。さらに、「延長」の概念を取り入れ、マネジャーの承認制度で運用するのも大事です。腕のいいカスタマーサクセスとは、この設定期間内に終わらせることができること、と言ってもいいでしょう。
たとえ、お客さまの都合があったとしても、あらゆる言葉で説得を試みて、必ず期間内にきっちり押さえる。まさしく腕の良いカスタマーサクセスです。なので、「延長」が発生しなかった場合はCSMに高評価を与えるのが大事です。
なかなかオンボーディングが終わらない会社って、結構あるんですよ。でも、それは、やっぱり良くないんですね。計測も乱れますし、お客さまに振り回されていること自体が望ましくはありませんから。
それから<yellow-highlight-half-bold>成功基準を決める際には、「みんなが使い始めた」とか「現場に定着した」とかいった定性ではなく、定量を採用します<yellow-highlight-half-bold>。たとえば、期間中に10件のオンボーディングをする必要があるなら、「7件は成功させましょう」と決める。毎月、月中、月末に、オンボーディング成功案件の読みを作ります。それをマネジャーが把握するのが大事です。
このあたりは営業数値と似ていますね。月が閉まったら、オンボーディング実績を作り、読みとのギャップを振り返ります。これも営業と一緒です。
そして、やることを決める。まず、オンボーディング成功基準は「導入目的の達成」にしてはなりません。あくまで、導入目的の達成の「準備」としてください。
成功基準にすべきことは、お客さまを問わずに「絶対にやってしかるべき」ことにします。言い換えると、個別化は最低限にとどめ、標準的なアクションプランにすべきです。できれば、最大チャーン因子をここでつぶします。
Sansanは最大チャーン因子が名刺消化率ですから、Sansanをご契約いただいたときに手元にある名刺を全てSansanに投入してもらうのが最も大事なことです。この重要性を早期に発見できたので、徹底するのがオンボーディングの務めだと決まりました。同様に動けるようになると望ましいですね。
やることを決める際には、これらをさらに分解します。Sansanの場合だと「IDの追加」です。Sansanは名刺管理ソリューションですから、20名の会社がいたとしたなら、20名全員のIDを管理者に追加してもらう。それがステップ1です。
ステップ2は、管理者が運用を回していくのに必要な設定をしてもらいます。そして、ステップ3で社内周知をしてもらい、エンドユーザーに個別設定をしてもらいます。こういうふうにステップを刻み、一つずつに対してマネジャーはCSMと進捗を管理します。
このステップは、後ほど自動化を促進するときのひな型になりますので、すごく大事です。だからこそ、個別化せずに、全顧客に通用するステップにまとめたほうが良いのです。オンボーディング期間はよくばらずに、しっかりと学習期間であることをなるべく貫いていきましょう。
オンボーディング計測期間の揃え方
では「個別化」はどこで行うかといえば、サクセス期以降の達成とすることを私は推奨してます。ただし、事業のフェーズによっては異なりますね。顧客数が少ない時期は、お客さまの解像度を上げるために、オンボーディングとサクセスが多少は一体化しててもよいです。
営業からの流入案件数が増えてきたのを見計らって、オンボーディング期でやることを厳格化し、スケール化の準備をします。
隠れた重要ポイントとしては、お客さま側に推進体制を構築することです。ツリー構造を作ってもらうのがセオリーですね。プロダクト導入継続の最終判断を行っていただく「決済者」には、社内の導入決定アナウンスもお願いします。次に「推進者」はCSチームとともに、プロダクト運用に向けたオペレーショナル設計と、定期的な導入効果の振り返りを行っていただく。その下に「運用担当者」を置きます。プロダクトの運用実務を担います。
決済者と推進者は兼務可ですが、推進者と運用担当者を兼務してしまうと、オンボーディングが止まりかねないので注意です。推進者と運用担当者は、できる限り兼務不可にしてください。
また、SMBだと決済者と運用担当者が兼務のケースも多いのですが、たいていお忙しい方なので、ここもオンボーディングが止まりやすくなります。「誰か協力できる人はいませんか」など、強引にアサインしてもらうぐらいのほうがいいと思います。
オンボーディング成果の測定方法と投入リソースの測り方を、Sansanの例で説明します。
たとえば、2カ月をオンボーディング期間と決めました。案件A、B、C、Dとあったとして、案件Aが7月1日に、案件Bは7月10日ほどに入ってきたとなれば、7月1日から8月31日までがオンボーディング期間になります。
Sansanの場合は、前半案件と後半案件で区切って計測するようになってます。7月10日くらいまでに入ってきたら前半計測案件として、2カ月よりやや短い8月31日でA案件と同時計測します。つまり、遅く入ってくると不利なわけですね。
C案件が7月15日に入ってきたとすると、終わりは9月15日です。ところがD案件は、7月30日に入ってきたとすると、これも9月15日で終わりますから、オンボーディングできる期間は最短の1.5カ月になります。
何が言いたいかというと、基本は「期間を揃えるのが大事」です。
そして、オンボーディング成功率は件数ベースと金額ベースで算出します。
たとえば、7月の前半計測の案件は、全体の案件数を成功案件で割ると、成功パーセンテージが出ますよね。金額ベースでも数字を出しますが、要はMRRです。成功案件件数、案件金額、失敗案件件数、失敗金額が出たら、全体の母数で割って求めます。7月前半と7月後半とそれぞれ出すのと、あとはトータルでも出します。
オンボーディングプロセスがしっかりしていると、成功率がだんだん上がっていくはずです。金額ベースは、金額による案件難易度の傾向をつかめます。基本的には、金額が高い案件のほうが難しいはずです。「大企業でオンボーディングが成功せずに落としてしまうと、3年後に出てくるインパクトも大きくなってしまう。金額が大きなところは失敗しやすい」といった傾向をつかむためにも、件数と金額、両方で出しています。
そこで大事になってくるのが、誰をアサインするか、ということです。Sansanのカスタマーサクセスの場合は、前回説明したように、Trainee、Associate、Manager、Seniorといったグレードがあり、MRRごとに持てる案件をそれぞれで概ね決めています。定量的な判断に加え、営業の引き継ぎメモなどから定性的な顧客対面の難易度も考慮します。
たとえば、「代表の鶴の一声で導入が決まり、担当部門に落ちてきているので、現場としてはしぶしぶ従っている感じ。何かにつけて導入に消極的な言動が見られる。ITリテラシーは高めですが、ロジックに納得がいかないときは、細かいところまで気にされる傾向あり。コミュニケーションは慎重に行ってください」と書いてあったら、相応のスキルが求められることもわかるでしょう。成否を左右しますので、慎重に見るべきポイントですね。
CSの支援なくしてオンボーディングを成功させるには
最後に、オンボーディングに投入するリソースの決め方をまとめましょう。
これは結構単純で、月の流入案件数ですね。営業人員の増加によって大きく変化します。だから、営業を増やせば、基本的に増えます。ちゃんとウォッチしていないと、いつの間にか大量に増えていることがままあります。
流入案件数を、CSM一人当たりがオンボーディングできる案件数で割れば、リソースが見えてきます。一人当たり件数は、オンボーディングを繰り返してると、同時に何件こなせるのかがわかってくるはずです。そして、テックタッチなどで効率化できる係数を考慮し、CSM人数以外の効率化で、1.0以下にできる可能性がある場合は加味します。
Sansanはテックタッチには力を入れているほうで、CSMの支援がなくても、18%の顧客はオンボーディングに成功することが実はわかっています。最高で32%までいったことがありますね。
支援なくして、どのようにオンボーディングをどうやって成功させたのか。ポイントは3つあります。
一つは、最短導入マップという小規模顧客向けの導入指南コンテンツをしっかり作り、ステップメールで差し入れました。「導入後1カ月で行うべき全工程」が書いてあります。そして、お客さまが設定条件をクリアしなかった場合、それをキャッチする仕組みを作っています。Call to Actionでキャッチして、CSMがスポット支援をする流れです。
最短導入マップには、推進体制や導入スケジュールのインプット、成功・失敗のポイント、実際の事例紹介、効果的な利用方法、つまずきやすいところなどを紹介しています。これらを見ながら自走したお客さまが、Sansanでは最高30%ほどいたわけですね。
2つ目はステップメールです。ステップメールはHTMLメールで、「あなたは次は何をします」と5段階で案内します。ユーザーの追加を促すメール、名刺取り込みを促すメール……といったように進めて、最後は「これで支援を完了します、おつかれさまでした」メールです。メールにはウェブコンテンツを案内するなどして、自走しやすくします。
もっともこの仕掛けはアーリーフェーズの企業では難しさを感じると思いますが、仕方ありません。Sansanでもだんだん時間をかけて、自動化に行き着きましたから。
そして3つ目はCall to Actionです。お客さまがプロダクトをさわると、プロダクトの裏側のデータと契約データを取得し、必要に応じてCSMにアラートとして飛んできます。たとえば、「名刺を取り込んでいない」というのを察知すれば、アラートが出ますね。
この3つのステップが成功したポイントとしては、最初に「成功の型」をお客様へインプットすることが大きいです。利用状況において、適切な内容を、適切なタイミングでステップメール化できたことが大事でした。
何より導入前の「握り」が成功可否を左右します。事前にお客さまへ、「こういうメールが届きまして、従っていけば御社の導入はうまくいくようになっていますので、一度試してみてください」と伝えておくことです。伝えておかないと、いつ終わるのかもわからず、何通くるのかもわからず、サービスメールだと勘違いされてスルーされかねません。
コネクションロスト案件にならないことも、優れたカスタマーサクセスの条件なのです。コネクションロスト案件とは、何らかの原因でお客様との連絡がつかなくなってしまった案件のことです。コネクションロスト数についてはウォッチしていますし、この数が多いのはCSMの支援に何かしらの問題が発生していると見るべき。「タスクを押しつけすぎた」や「相手に傾聴できなかった」といった細かなところでお客さまの信頼を損ねてしまっている……。
誰にでもあるとは思いますが、しょっちゅう生み出す人と、全然生み出さない人が不思議なことにいるんです。カウントが増えれば振り返りましょう。Sansanでも振り返りのカルチャーがあります。そして、カウントの少ない人とコミュニケーションの取り方などを比較してみます。そうすると、改善のヒントが見えてきますよ。
著者:山田ひさのり
『カスタマーサクセス実行戦略』の著者。ゲームプログラマーとしてキャリアをスタートし、Web開発のPG/SEを経て事業開発にキャリアチェンジ。その後、Sansan株式会社にてCS部門の責任者を歴任。現在はsasket LLCを設立し、2年間で約20社へのCSアドバイザリーを経験。