2021年、Tiger Globalから大型の資金調達を行った理髪店特化のバーティカルSaaSが「Squire(スクワイア)」です。「理髪店の運営を強化するオールインワンプラットフォーム」を掲げ、予約管理、スタッフの予定管理、在庫管理、POS、決済など、理髪店固有の事情を知り尽くし、それに適するサービスを提供して急成長を続けています。
また、SaaSだけでなく利用者が理髪店へ簡単にお金を払える機能や、理髪店からの家賃を自動的に徴収できる機能など、Fintechプロダクトも並行して展開しています。
Fintechを絡めたSaaS企業は、特にここ最近になって増えている一つのトレンド。彼らはなぜ、こういったプロダクトに取り組むのでしょう。そして、理髪店というニッチ市場であるにもかかわらず、ユニコーン候補として熱視線を注がれる理由とは。
「ALL STAR SAAS CONFERENCE TOKYO 2021」でも注目のセッションより、抜粋・再構成して記事化しました。SquireのCEO & Co-founderであるSonge LaRonさんに、前田ヒロが彼らのストーリーを聞きました。
時代遅れな理髪店が「当たり前」の世界だった
前田:Squireは新生SaaSスタートアップとして注目を集めていますね。まずは、たくさんの選択肢がある中で、なぜ理髪店に特化したSaaSを始めたのか。その背景から教えていただけますか。
Songe:きっかけは、ぼく自身の経験からです。ぼくは6歳くらいから父と一緒に理髪店へ行くようになりました。20年の時が経っても、ニューヨークの法律事務所で忙しく働きながら、変わらず理髪店に通い続けていたんです。
ある日、ぼくは2週間に一度くらいの頻度で、理髪店へ問い合わせの電話を掛けていることに気が付きました。そうしないと、店で何時間も待たされることがあるからです。そもそも予約のハードルも高くて、理容師にメッセージを送るか、とりあえず店へ赴いてみるくらいしか方法がなかった。しかも、支払いは現金のみでクレカだって使えない。
技術やソフトウェアがこれだけ普及しているのに、時代遅れな状態ですよね。でも、どの企業もこの課題に気が付いていなかったんです。Squireの共同創立者であるDave Salvantもニューヨークの金融業界で働いたのですが、同じような経験をしていました。
社会人にとって「時間」は貴重です。理髪店で何時間も待つなんて苦痛でしかありません。ぼくたちは、ただ店へ入って、すぐに髪を切ってもらい、支払って店を出たいんです。これがきっかけですが、製品が進化していくにつれて、ぼくたちの焦点も変わっていきました。
待合スペースでヒアリングを続けた日々
前田:予約の手間や支払いの不便さがなぜ起きているのか。そういう「解消すべきペインポイント」は参入の段階で分かっていたのですか?それとも、理髪店の経営を取り巻く問題を見ながら知ったのですか。
Songe:当初は理髪店の経営問題には注目していませんでしたね。理髪店に通うお客様側の予約や支払いに関する課題だけを見ていました。理髪店側の課題解決プロダクトの開発やB2B市場に参入する考えはあまりなかったです。
だから、まず手掛けたのは、理容師が個人で予約を受け付けて、スケジュールや支払いも管理できるサービスの構築です。
前田:理髪店向けというバーティカルSaaSで進めていこうと思えた「決定打」はあったのですか。例えば、顧客からのエピソードとか。
Songe:フルタイムでビジネスを立ち上げようと決めるまでに、理容師、店のオーナー、理髪店で待っていたお客様など、たくさんの関係者と話しました。待合スペースのお客様に「こういうサービスがあったら使ってみたいですか?」「どんな問題を解決できたら良いと思いますか?」なんて、聞き続ける日をひたすら過ごしていましたね。
理髪店のお客様が持っている不満を整理してみると、「チップ用の現金を用意しにATMへ寄るのが面倒だ」「そもそも現金で支払いが嫌だ」など共通点が多くありました。間違いなくペインポイントで、ニーズがあることは明確です。
そういったプロセスを通じて、「ここには絶対チャンスがある!」と確信したんです。理髪店の人たちもプロダクトを使ってみたいと言ってくれました。彼らは、理髪店ならではの課題を解決してくれる特化型のプロダクトを望んでいたんです。
学びながら調査し続けて進めていった結果、「理髪店業界に自分たちは特化すべきであり、ここでなら大きなビジネスを築いていける」と思いました。
「完璧な価格設定なんて無理だけど……」
前田:起業家がはじめに苦闘することの一つが「プライシング」です。どのように適正価格を算出しましたか?
価格設定って、アートとサイエンスの間のようなもの。
初期のスタートアップなら無駄に時間を割かないで。
Songe:今でも正しい設定ができているかは分からないですね。価格設定って、アートとサイエンスの間のようなものだと思うのですが……でも、やっぱりアートよりはサイエンスかな。プライシング専門部門を持つ大企業があるくらいですから、完璧な価格設定なんて無理な話ですよ。初期のスタートアップなら、無駄に時間を割かないように。
でもまずは、自分が最も妥当と思える価格で試してみるべきじゃないでしょうか。ぼくたち自身もそうせざるを得なかったんですよ。いくらであれば支払いたいと思ってくれるのか、競合を調べながら推測しました。
どのようにトランザクションサイドからマネタイズしていくか。ここに、ぼくたちにとっての大きなビジネスチャンスがあることは分かっていました。なので、実はSaaSである必要もないんです。SaaSは、サブスクリプションで収益を得ますからね。
SMBを対象にすると、このモデルの収益では成り立ちません。とはいえ、ユーザーあたりの合計収益に上限を設けてしまうと魅力的とはいえません。トランザクションや取引ベースでマネタイズすれば、顧客の売り上げに連動できるので、より大きなチャンスを切り拓けるのです。
理髪店向けのUber、頓挫する
前田:先ほど、まずは「理容師が個人で予約・支払いを管理できるサービスの構築」から始めたと言いましたね。滑り出しは順調だったんですか?
Songe:実は、それでは店舗全体の課題を解決することはできなかったんです。最終的なピボットを行うまで、ぼくたちの主な弱点となり、成長の妨げとなりました。
前田:バリュープロポジションの観点から、どのようにピボットしたのか教えてもらえますか?
Songe:もちろん。ぼくたちのプロダクトは、iOSアプリで最初は展開していました。お客様が理容師を探して、アプリから料金とチップの支払いができる……「理髪店向けのUber」みたいなもの。ドライバーがスケジュールと一緒に入金額を確認できるのと同じように、理容師も入金額をすぐに確認できました。
「これがあれば今ある課題を全て解消できて、他のサービスよりも長けている。すごいプロダクトができたぞ!」と思っていました。でも、リリースしてみても、市場からの反応が良くないことにすぐに気が付いたんです。理容師たちは、ぼくたちのプロダクトを導入後も色々な方法で予約を受け付け続けていたんです。
ぼくたちのプロダクトは全てのトランザクションで使われていたのではなく、たまに使われる程度だったんです。現金払いがまだまだ発生していたし、予約管理も他のサービスと併用されていて。
前田:なぜ、そういう状況に?
Songe:理髪店のオーナーたちと話をすると、彼らは「このアプリ、便利そうだね」と答えてくれるのですが、「でも……」と続けて、こんなふうに言うんです。
「うちには理容師が5人いて、全員のスケジュールをこのアプリでまとめて管理できる?」
「商品があって在庫も抱えてるんだけど、それらの管理システムとも連携できる?」
「クレジットカード決済をできるようにしたいんだけど、POSシステムはある?」
「クレジットカードリーダーはある?もし無いなら、既存のシステムと連携させられる?」
……などなど。そのような問いに対して、ぼくたちはニーズが存在することさえ思い付かなかったんです。そこで振り出しに戻って、ビジネスオーナーたちのコアな仕事の流れを全てカバーできる、完全なエンド・トゥ・エンド・ソリューションを構築しなくてはならないと気が付いたんです。
理容師それぞれによるスケジュール管理だけでなく、オーナー側が全体のオペレーションを管理できるソリューションを提供することも重要でした。
前田:かなりの大変なリクエストですね。
Songe:そうなんです。まぁ、確かに重要なヒントではあったのですが、全く別のプロダクトを構築するようなものですからね。
全てをSquireに置き換えるためのプロダクトを作る
前田:再びプロダクトを構築するにあたって、どういったステップを踏みましたか?
Songe:最初に構築した基礎機能は、ぼくたちが「Commander Product(コマンダープロダクト)」と呼んでいる、理髪店のオーナーが理容師たちのスケジュールを確認できる機能です。ウェブベースのプロダクトで、最高のものとは言えなかったですが……少なくとも機能するものが必要でした。
次に重要だったのは、統合されたPOSシステムの構築。そうしなければ、ただ彼らが現在使っているシステムをAPIで繋げるだけで、実際の処理ができません。それではまとまりのない体験になりますし、複数の異なるプロダクトを管理しなくてはいけない。それは顧客が求めているものではないですよね。彼らはシンプルさを望んでいるわけですから。
ぼくたちは、彼らが現在使っているものを置き換えられるようなシステムが必要なのだと考えました。そう、全てをSquireに置き換えるんです。より大きく、より良く、より包括的なものに。
前田:そこから取り組むことの優先順位はどう付けましたか?需要の高さなのか、何かしらのファクターに基づいて決めたのか。
Songe:店舗のオペレーションに必要なものから着手しましたね。理髪店のオーナーが必要としているものです。この段階ではコマンダーシステムにPOS機能が搭載されていなくても、オーナーはシステムを使ってくれました。理容師全員の予約を受け付け、スケジュールを確認・管理できて、Squireがそれらを処理できるだけでも機能しますからね。
でも、これを逆の順番で着手するのは難しいです。全てを把握できるコマンダーシステムなくして、POSシステムは構築できなかった。あくまでロジックですが、POSシステムを置き換えなくてはいけないことは理解していたし、非常に重要でもありました。
起業という経験は「授けられたもの」
前田:起業したのは2016年でしたよね。過程を振り返ると、最大の学びは何でしたか?
Songe:2015年にアイデアを思い付いたので、もう6年近くになるんですね。時間が過ぎるのは早いものです。
最大の学びは「顧客を深く理解すること」に尽きます。私たちがピボットを迫られたように。でも、あそこで気付けなければ100%失敗していたはずです。
顧客自身よりも、顧客をよりよく理解しようと試みることが目標です。実はそのために、私たちは実際に理髪店の経営もしてみました。私たちのソフトウェアを使ってくれる人がいなかったので、自分たちで使わなくちゃいけなかったんです。約1年間続けて、理髪店のオーナーになるとはどういうことなのか、現場にどんなニーズがあるかを学びました。
もう一つ重要なのは、成長するにつれて常に学ぶ姿勢を持つことです。チームメンバーが10人、50人、100人の時では、会社の状況は全く違うからです。それでも会社のレベルを高める唯一の方法は、常に学ぶこと。立ち往生していては、会社があなたを超えてしまいます。Squireのような急成長企業は、急激に成長するように設計されるわけですが、一方で人間は直線的に成長します。ですから、成長したいのであればチャレンジを続けるしかない。
前田:自己改善と成長のために、習慣としていること、いつも意識していることはありますか?
Songe:「学ぶ」ということに対するマインドセットだと思います。さきほども言ったように、顧客から学び続けていますし、従業員からも学んでいます。
ある時点で、会社が大きくなりすぎて、会社の内部から切り離されてしまうような状態になるかもしれません。自分が知らないことがたくさん出てくるかもしれません。あなたの会社で働いている人の中には、「自分の会社や業界について、あなたが知らないことを知っている人がいるかもしれない」と認識するのが大切です。「どうしたら周りの人から吸収できるのか」を常に考えましょう。
パーソナルなことで言うと、ジェットコースターのような浮き沈みが必然的にある環境の中においては、バランスを保つことを意識していますね。瞑想や長距離マラソンに取り組むことが助けになっていますよ。
あと、もう一つ。起業家は、全ての経験に心を配りましょう。今はできなくても、そのように意識して練習することは、とても役に立つと思います。
<yellow-highlight-half-bold>人類の歴史で、どれだけの人が急成長スタートアップを作り、経営に携われるかを想像してみてください。その経験は私に「授けられたもの」であり、このようなポジションにいることさえ稀なことなんです。<yellow-highlight-half-bold>自分は本当に恵まれていると思います。だから困難な時であっても、私は一歩下がって、その視点を保たなければならないのです。
Fintechはトランザクションがあれば全て適している
前田:ありがとうございます。僕も背筋が伸びました。ここからは、Squireのビジネスをもとに、Fintechへの考えを伺わせてください。支払い処理はSquireにとってもポイントになる構成要素ですが、なぜ多くのSaaS企業、特にバーティカルSaaS企業は、その機能を自分たちに取り込み、Fintech企業になろうとしていると思いますか?
Songe:バーティカルSaaSが特化した機能を用いて課題を解決することで、特定の優位性が得られるからではないしょうか。一般的なプロダクトでは実現できないユースケースを考えることができますからね。そこに、Fintechのレイヤーを追加すれば、完璧なクローズドループを作り上げられるのです。
「バーティカルであること」こそが、資本力のある大手企業に勝てる唯一の理由なんです。ぼくたちはレーザーのように一点集中しています。ビジネスの観点でも、サブスクリプションで販売するのに対して、顧客の収益によって売り上げが増えるので理にかなっています。
前田:Fintechや決済プロダクトを持つことが最も適しているのは、どういう状況の企業なのでしょうか。また、どういう状況だと適していないと考えますか。
Songe:種類は何でもOKで、トランザクションが発生しているなら適していると思います。SMBによくある傾向ですが、小額でスピーディに、大量の取引が発生するビジネスは
特に適していると言えますよね。
ヘルスケアなどエンタープライズレベルでバーティカルSaaSを展開している場合は、より複雑になってくるので、これまで使っているものを全て置き換えるというのは難しく、ハードルが高くなります。
でも、SMBの場合は使われている製品の切り替えコストがエンタープライズ製品を使っている顧客より高くないんです。したがって、POSシステムを切り替えるハードルも下がるし、給与システムも切り替えさせることができるかもしれません。特定の業界や産業に特化した完全なプロダクトを提供できるなら、売ること自体は難しくないはずです。
従来の銀行では実現できていない、お金の流れを生む
前田:Squireにはバンキングのプロダクトもありますよね。それについて、もう少し教えていただけますか?
Songe:厳密に言うとバンキングではないのですが、キャッシュ管理とデビットカードのプロダクトがあります。そのために、クローズドループについて少しお話ししましょう。ぼくが「Squireエコシステム」と呼んでいるものです。
ぼくたちは、ライフサイクルのあらゆる段階で、顧客に付加価値を提供したいと考えています。Squireを通じて、顧客の帳簿に売上が立って、利益が計上されることを想像してみてください。ぼくたちのバックエンドシステムを用いれば、オンラインでも店舗でも、生じた支払いはまとめて管理できます。
理髪店のオーナーが、理容師にコミッションを払う時も、ぼくたちのシステムを経由して支払えます。そして理容師は、そのお金を受け取って自分のバンク・オブ・アメリカの口座に振り込んでお金を使います。
そういう流れがある中に、ぼくたちはいま、どのようにすればより良い体験を作り出せるのかを考えているんです。彼らが、より早くお金にアクセスできるようにするには、何を、どのように提供すれば良いのだろうと。
一つあるのは、将来のトランザクションが見えているので、前払いでキャッシュを受け取れるようにもできます。運転資金が増え、より早く備品を購入できるようになれば、ビジネスの向上にも大きく貢献できるでしょう。
これらは、顧客のことを考えきれていない従来の銀行では実現できていません。どうしたら、もっと付加価値を高めていくことができるのか。どうしたら、顧客の生活をもっと良くすることができるのか。どうしたら、より良いビジネスオーナーになれるのか……。
そんなことを常に考えていますし、ぼくたちを本当にワクワクさせてくれます。なぜなら、他の誰もやっていないことだからです。同じようなことをしているバーティカルSaaS企業を、ぼくは知りませんしね。きっと存在しているのだとは思うのですが、ぼくらは早期よりこの領域について考え、実践している企業であるというのは、間違いないでしょう。
これって、本当にエキサイティングです。まだベータ版ですが、非常に有望な初期データも出ていますから。
Squireは、他のSaaSプロダクトを使わせない
エンド・トゥ・エンドのソリューションを目指す。
前田:とても興味深いです。つまりSquireは、他のSaaSプロダクトを使わせないエンド・トゥ・エンドのソリューションを目指していると。
Songe:その通りです。それが、ぼくたちのゴールです。
数年前まで、こんなゴールは夢物語でした。実際に共有できるリソースもありませんでしたからね。でも、「最終的にどうしたいか」というビジョンは常にありました。昔のピッチデックで、「未来のビジョン」を説明するスライドを見ることがあるでしょう?
ぼくたちはこの1年で、そのビジョンを実現することができているし、急成長と資金調達も叶えられて、本当に嬉しいです。
ToastやServiceTitanが拓いた、バーティカルSaaSの可能性
前田:バーティカルSaaSの世界でも尊敬され、僕らが学びたいと思える数少ないSaaS企業に、ToastやServiceTitanが挙がります。Songeさんも彼らから学んだり、インスピレーションを受けたりしましたか?
Songe:本当にたくさんの刺激を受けていますね。2016年、ぼくたちがY Combinatorに参加して最初の資金調達をした頃は、「理髪店のためのOpen Table」を自称していたんです。Open Tableは大手企業で、ぼくたちの取り組みを人々へ理解してもらうには良い例え方だったから。
でも、2019年にシリーズAの資金調達をする頃には、「理髪店向けのToastやServiceTitanのようなものです」と例え方を変えていました。これも彼らがいかに優良な企業であるかを物語っていますよね。
実は、ServiceTitanの共同創業者でCEOのAra Mahdessianは、ぼくの友人なんです。手掛けているサービスが似ているから、彼はたくさんのアドバイスをくれます。今では、同じDNAを多く共有しているといってもいい。彼らがどのようにして業界の奥深くまで入り込み、大きくなっていくのかを見てきました。
ToastやServiceTitanのような例があるからこそ、世界のVCや投資家たちが「バーティカルSaaSには何かがあるぞ」と考え始めたのでしょう。顧客一人あたりの収益を拡大でき、そしてその市場が非常に大きくなっていくと。
5〜6年前まではTAM(Total Addressable Market)が十分に大きくないので、多くのVCからは避けられる傾向にあったはずです。でも、ToastとServiceTitanが、それが間違いであることを証明したんです。
前田:Araさんからは、これまでにどんなアドバイスを受けましたか?
Songe:一つ挙げるなら、幹部を採用することの大切さ。ある程度の規模に達すると、良いリーダーがいることは会社も良くなることと同義です。もし、成果を出せなければ解雇が必要だということもね。採用や資金調達についても彼にアドバイスを求めたことがあります。
戦略を練る時に、とても親身になって助けてくれました。
あなたが情熱を注いでいるものは何か?
前田:SaaS企業、特にバーティカルSaaSを手がけようとしている起業家へ、ぜひアドバイスをお願いします。
Songe:理髪業界は狙わない方が良いですよ。ぼくたちは容赦しませんから(笑)。
それから、「あなたが情熱を注いでいるものは何か」を追求してください。これからの10年、自分がそれに取り組んでいる姿がしっかり想像できて、また「そうしたい」と思えることです。
なぜなら、人はバーンアウトしてしまうからです。もし、お金のため、またはチャンスがあるからという理由だけで何かをしようとしても、そのこと自体に関心がないのなら、本物の繋がりがあるとは言えません。ぼくのように本当に関心を持ち、繋がりを感じ、心底から真剣に取り組んでいる人と競争することが難しくなります。
結果として、あなたは単に不利に立場に立たされるでしょう。ですから、自分を有利な立場に置いてください。お金のためだけに起業する人たちは実際にいます。情熱を持つあなたなら、彼らだって打ち負かすことができるでしょう。
あなたは粘り、考え、彼らより深く溶け込むことができる。あなたは眠る直前も、目を覚ました瞬間も、会社や事業のことを考えるはずです。9時から17時までしか考えない彼らに、あなたはきっと勝つことができるのです。これが、ぼくから贈れるアドバイスですね。
前田:素晴らしいアドバイスです。情熱は、欲のためにやっている人たちを常に凌駕し、勝り、上回っていく。それが真の力なのだと思います。
Songe:そして次は、間違いなく市場規模に目を向けるでしょう。将来性のある、何か意味のあるものに時間とエネルギーを費やしたいですからね。非常に小さな市場を狙ったら、勝つことはできるかもしれない。でも、その後はどうする?
……また他の市場を探さなくてはならないですよね。それでは業界に特化したソリューションという目的を挫折させるようなものです。ぼくなら「トランザクションボリュームの多さ」と「スピードの速さ」というポイントを追い求めますね。SquireのようなFintechを導入したいので。だから、基本的にはSquireと同じような青写真を描くでしょう。
前田:その方針が好きなんですね。
Songe:そうですね。でもこれらは全て、ぼくの経験からくるものです。ぼくはいつも、自分の経験を大切にしているんです。
理容店みたいな企業であり続けたい
前田:最後に!もし仮に、Songeさんが新たなバーティカルSaaS企業を起業するとしたら、どういった基準で特化する業界を決めますか?
Songe:まずは、現状について考えます。現状ではどのくらいの摩擦があるのか。どのくらいのペインポイントが存在しているのか。どんなビジネスタイプでも、そこから始めます。
もし全てがスムーズに進んでいて順調なのであれば、特にSMBにとっては良いチャンスが存在していないかもしれません。ぼくは小規模ビジネスが好きなんです。オーナーが一生懸命で、パッションを持っている姿が大好きだから。
あとは、どんな人たちと取引するのかを知るためにも、コミュニティ全体と業界全体を見る必要がありますね。理容師は本当に情熱的な人が多いんです。サブカルチャーに親しむような人たちに似ています。彼らの多くは「自分たちのやっていることは職業でも仕事でもない。これは天職なんだ」と言います。
ぼくも、この言葉にはインスパイアされました。バーティカルSaaSである特徴を活かして、彼らが情熱と誇りを持っているものを特別な形に作り上げれば、心から感謝してもらえます。そういうものを探すんです!
業界内で、とてもアクティブに働く人々のグループはどこにいるのか。彼らが関心を持ち、積極的になっていることを見つけ出します。なぜなら、そのカルチャーは自分にも会社にも広がっていくからです。Squireのカルチャーも、理容師や理髪店のカルチャーに大きく影響されていますよ。
前田:Squire自身に影響を与える理髪店カルチャーについて、もう少し教えてください。それはSquireの企業カルチャーとプロダクト、どちらに影響を与えましたか?
Songe:間違いなく企業カルチャーです。理髪店は、人々が訪れては色々な話ができるコミュニティの礎のようなものなんです。政治からファッションの話まで。ありのままの自分を出せる、とてもインフォーマルな環境です。
Squireも、まさにそんな感じ。チームメンバーのほとんどがスニーカーを履いていて、活気のあるカルチャーです。これは理容師カルチャーの特徴ともいえるでしょう。理容師はライフスタイルを重視していますし、流行に敏感です。Squireのセールス担当の多くは、そういった話題で顧客とも話せるんです。
もっと一般的に言うと、ぼくたちは様々なバックグラウンドやアイデアにオープンでありたいと思っています。そして、自分たちのことを深刻に受け止めすぎないようにもしています。理髪店って、人々が冗談を言い合うような場所ですからね。
時には、あなたのことをからかってきたりするかもしれません。でもそれは、温かい心から出てくるものであって、意地悪をしているわけではないのです。ぼくたちのカルチャー、そして企業そのものも、そのような「気さくさ」を持ち続ちたいと思っています。