「起業家とともに、100年続くSaaS企業をつくる」
私たち、ALL STAR SAAS FUNDが掲げるミッションを実現するために、私たち自身は何を学ぶべきなのか。このミッションを活動や実績で体現されている方々への連載インタビューから、紐解いていきます。
これまでには、Sequoia HeritageのCEO / FOUNDING PARTNERのKeith Johnsonさん、株式会社虎屋 代表取締役社長の黒川光晴さんにご登場いただきました。
続く第3回は、情報システム部門におけるITデバイスやSaaS管理などのノンコア業務を効率化するプラットフォーム「ジョーシス」のCEOである松本恭攝さんにインタビュー。
2023年9月に発表したシリーズBの資金調達で135億円を調達、累計資金調達額は179億円を数える同社。エンタープライズ事業の強化とグローバルでの事業展開を推進していく予定だといいます。2025年末までに100カ国以上でITアウトソーシング・サービスを提供することを目標に、日本発のグローバルスタートアップを志向しています。
松本さんといえば、ネット印刷サービス「ラクスル」の創業者であり、2023年8月に発表されたラクスルの社長交代という意思決定が話題になりました。そのような判断に至った経緯を辿れば、100年続くSaaS企業をつくる上でのヒントも見えてくるでしょう。
聞き手は、ALL STAR SAAS FUNDのマネージング・パートナーである前田ヒロです。
100年後に価値が上がるもの/下がるもの
前田:僕らは今、これから「100年を駆け抜ける」というテーマで、今回のインタビューシリーズを実施しているんです。松本さんは残りの人生、何を軸に活動されますか?
松本:「今はないものをつくっていく」という方針でいます。それは自分自身がアントレプレナーとして先頭に立って作るケースもあれば、他の人たちを支える形としての投資やベンチャーキャピタルの仕事も含まれます。NPOへのフィランソロフィーもその一部です。
つまり、自分がつくるか、誰かがつくっているものやリーダーを支えていくという形で、世の中を変えていく、良くしていく活動を続けていきたいとは思っています。
前田:素晴らしいですね。では「100年後に価値が上がるもの」と、逆に「価値が下がるもの」、松本さんはどう考えられますか?
松本:100年の時間軸で考えると、気候変動は大きなテーマになるでしょう。昨今(2023年8月)、アメリカのマウイで強風による甚大な被害がありましたが、これも気候変動の影響です。気候が変わっていく中で、今は当たり前に思っている多くのことが変わります。
寿司はもちろん、魚を食べられない時代が来たり、夏場は外出が不可能になるほどの気温になったり、台風が鉄筋コンクリートを吹き飛ばすほど強くなったりするかもしれない。これらはSFではなく、学術的な観点から言われている未来像です。水や食料、エネルギーなど、人類が快適に生きていくための基本的な要素は貴重になっていくと思います。
前田:確かに。逆に価値が下がるものは?
松本:3年から5年といった短期的に考えても、ChatGPTに代表されるAIテクノロジーによる効率化が進み、価値が失われる可能性の高いホワイトカラーの仕事はあるでしょう。一方で、行動力やフィードバックを基に学ぶ能力は、今後も価値が上がると考えます。
ロジックや情報整理は「今見えている景色」ですが、立つポイントが変わった時に景色が変わって、新しい事象が発生すると何か学ぶものがある。そうすると物事を有機的に結び付けて新しいアイデアが出てくる。
AIが情報の説明や整理といった作業を効率化する中で、実際に行動を起こし、その結果から学び、PDCAサイクルを回せる人の価値は上がっていくでしょう。
前田:あくまで松本さんなりの考えで教えて欲しいのですが。仮に起業家から100年続く会社を作りたいと言われた時、どのようなアドバイスをされますか?
松本:100年続く企業には大きく分けて2つの考え方があります。一つは、絶えず自己否定と変化を受け入れて進化すること。
例えば100年前の1923年は、ロシアとの戦争が終わって十数年後で、日本の主要産業は繊維業でした。繊維のために鉄道が引かれはじめ、繊維で世界一を担っていこうとした気概を持っていた会社が、100年後にどうなっているのか。おそらく今も生き残っているのは、事業形態を変化させていったところではないかと思います。
時代に応じて柔軟であり、自己否定の変化に素直にアジャストできるようになること。それはトップだけではなく、組織カルチャーとして柔軟性の高い組織をつくっていくことが一つの道なのだろうと思います。
もう一つの考え方は、あえて拡大せずに、一つの価値観やスキルを長く継続することです。京都には、陶芸や織物など安土桃山時代から続くような事業を営まれる方も多くいますが、彼らは「拡大をしない」という選択を取り、ファミリーとして事業を継続してきました。拡大をしない代わりに、自分たちの「信じるもの」を次世代に継承していくアプローチをとっているわけです。
拡大して変化し続けていくか、価値観を守り続けて細く長く営むか。100年続くのはどちらかではないかと私は考えますね。
役割に固執せず、最良の人材配置を考えただけ
前田:その観点で言えば、松本さんはまさに「拡大して変化を続けていく」方針を取られているのだと感じます。2023年8月1日をもって、ラクスル株式会社の代表取締役社長CEOを当時CFOだった永見さんにバトンを渡し、いわばラクスル事業の責任者から退きました。現在は、ジョーシス株式会社の代表取締役社長CEOをメインとされていますよね。まずは、それらの意思決定の背景から教えていただけますか。
松本:背景には主に2つの要因があります。一つは事業フェーズの変化で、もう一つは自分の役割の変化です。
ラクスルが2018年に上場した時点では売上総利益が約25億円でしたが、今期は120億円強まで成長しました。利益がほぼゼロだったところから30億円以上のキャッシュフローが出る状態を5年で実現することができています。
この2年を振り返ると、オーガニックな成長だけではなく、M&Aを通じても拡大しています。例えば、ダンボール通販の「ダンボールワン」、印鑑通販の「ハンコヤドットコム」、ホームページ作成ツール「ペライチ」などが新たにラクスルグループに加わりました。
自社立ち上げのビジネスだけでなく、200万人超の顧客と100万以上の法人顧客を有するプラットフォームになった今、M&Aによる成長とオーガニックな成長の両方をマネージメントする必要が出てきたわけです。
前田:そうした中で、自分自身が現在のCEOとして務める役割が変わってきたと。
松本:ええ。私自身はスタートアップのゼロからイチを作るフェーズや、シングル事業のマネジメントは得意ですが、インオーガニックに複数の事業をバランス良く成長させるマネジメントは、まだ経験が浅い。それならば、CFOだった永見が全体をデザインしていく上では、より適切な人選ではないかと考えたんです。
前田:そこで、新しい事業「ジョーシス」に対する関与が深まってきたわけですね。
松本:ジョーシスは2020年に構想をはじめ、2021年にローンチしました。2022年にはシリーズAで44億円を調達して、現在はアメリカやシンガポールでもサービスを展開しています。その運営には多くの時間とエネルギーが必要な状態で、自分自身の時間の使い方やマネジメントのフォーカスも、ジョーシスをより高めていく方向にありました。
さらに、2023年9月にはAPAC、日本でのサービスをローンチしました。我々のチームとしても今は日本人がマジョリティではなく、シリコンバレーでチームを急速に拡大しています。シンガポールでもGo to Marketのチームと、APACをカバーするチームができた。インドには年末までには150名程度のテクノロジーのチームができていきます。日本もGo to Marketの50名程度のチームになりつつあります。
シングルビジネスかつマルチナショナルなマネージメントをしていくことは、私にとっても初めてのチャレンジです。ジョーシスとラクスルのマネージメントを同時にこなすのが難しくなってきたのも、ラクスルのCEOを退任した大きな理由です。
もっとも、退任の1年ほど前から「次のラクスルの体制」を考えていた時に、永見にパスをするのが最も良いのではないかと思っていて。ちょうど永見からも「ジョーシスにフォーカスしたほうがいいなら、CEOを担いましょうか」と提案があって。僕も同じことを考えていたので、スムーズに役職を変更できました。
役割に対する固執ではなくて、どういった体制を取るのがこの会社にとって一番良いのか、をお互いに考えているだけなんですね。
経営のサクセッションには、創業者の「否定」も重要になる
前田:ラクスルはこれから永見さんを筆頭に、インオーガニックな成長をしていく方針とのことですが、そのためのリーダーや経営陣に求められる要素は何でしょうか。
松本:社内では「経営OSのアップデートが必要」とよく話しています。シングルビジネスであれば、価値の出し方や成長の仕方がある程度は見えているので、そこを磨き込む作業が重要です。
しかし、インオーガニックなマネージメントが必要な場合、多様なプロトコルを持った組織を受け入れ、それを管理していく必要があります。シングルビジネスとマルチビジネスの経営カルチャーも異なります。「よりオープンでローコンテクスト」に変えながら、ラクスルで培ってきた成長角度は下げない仕組みづくりをしていく必要がある。それが「経営OSのアップデート」という言葉なんですね。
これまで我々がやってきたことを、ある意味では自己否定してでも新しいことを手掛けていく。現状の売上が400億円になったとしたら、次の1000億円の売上、3000億円の売上をつくっていくためには、ゼロから400億円をつくった時とは違った経営OSが必要になります。
よりマルチラインのビジネス、もっと言うと自分たちでオーガニックに立ち上げたラクスルといったものだけではなくて、参画していただいた事業の方々がオンボードしやすいようにする。テクノロジーと人事制度で組織カルチャーをつくっていくところが、今回のフェーズの変更に合わせて推し進めていることです。
前田:他の経営者へのサクセッションや、CEOのバトンタッチを考えている経営者に対して、何かアドバイスはありますか?
松本:ラクスルでは機械部品関連の事業を手掛けていらっしゃる「ミスミ」のサクセッションを参考にしています。経営者の交代で、全体方針が「持たざる経営」から、世界最大の半完成品部品工場を有する「世界最大のマニファクチュアリング」になっていった。それこそ売上が約500億円のところから、売上も約3600億円、時価総額も7000億円を超える企業に拡大していった軌跡があります。
創業者が行なったことをアップデートしていく、ある種の「否定」がサクセッションにおいては非常に重要なのかなと。今回、ラクスルでも永見さんには「創業者になってください」とお願いしています。そういう思い切った渡し方をして、これまでとは異なる路線へエンパワーしていく。そして、自分自身で新しいパッションやミッションを持っていくことが大切なのかなと思っています。
前田:永見さんには完全に権限を移譲し、新しい方向性を考える余地を与えたわけですね。
松本:そういったお願いをしていますが、一方でそのためのディスカッションは頻繁に行なっています。以前よりも頻度は増えたくらいです。また、ジョーシスは将来的にラクスルへ再連結する可能性があることはIRでも発表しています。完全に分かれたわけではなく、資本上は非常に近しく、オフィスも隣りですから。
永見さんが全体を見て、私が一事業を担うといった役割分担になってます。コクピットに座るのは永見さんで、私はそのサポート役といったところですね。
「ポストコロナの時代のインフラ」を作るチャレンジを
前田:ここからはジョーシスについて伺わせてください。松本さんはたくさんの事業を見てきた経営者だと思います。さまざまなチャンスやアイデアがある中で、ジョーシスを選んだ理由を教えていただけますか?
松本:一番大きな要因は、新型コロナウイルス感染症の影響です。2020年の4月から5月にかけて社会が大きく変わり、新しいビジネスの可能性が話題になっていました。たとえば、自宅とホテルをアプリで切り替えられる「NOT A HOTEL」というサービスが生まれ、私も個人投資家として支援をさせていただきました。
そしてリモートワークが急速に普及し、ITの浸透が一気に進みました。現在はオフィス回帰の流れもありますが、ハイブリッドワークになっていくだろうと。10年をかけるような変化が、わずか1ヶ月で起きていった。これが日本だけでなく、世界中で同時多発的に起きていったわけです。
これからの新しい時代を支えるのはITであり、そのインフラを作るニーズは非常に大きい。それをグローバルで担えるというのが、ジョーシスを選んだ理由と言っていいでしょう。「グローバルなインフラをつくる」と言うと非常にコンペティティブですが、あらゆる企業はバーニングニーズを持っていて、そこに対して新しい時代の社会インフラをつくっていくチャレンジができるのであれば、思いっきりやってみたいなと。
また、今回は日本ではなく、マルチナショナルに世界中でサービスを提供するチームやビジネスをつくり、オペレーションが実現できれば、世界で使われる「ポストコロナの時代のインフラ」になれるチャンスがあるのも大きいです。
さらに、ソフトウェア事業はグローバル展開がしやすいメリットもあります。仮に、ラクスルをアメリカで展開するとなると、サプライヤーとの関係性も顧客開拓もゼロからはじめないといけません。各国ごとにビジネスシステムを作らなくてはならないのですが、ソフトウェアであればシングルプロダクトで全世界展開が可能です。ITは英語が共通言語というだけでなく、ハードウェアもソフトウェアも国を超える互換性が高いのもポイントです。
「ワンチーム・ワンプロダクト」を実現するためのこだわり
前田:ジョーシスのマネジメントや経営で「とことん、こだわろう」と考えていることはありますか?
松本:「ワンチーム・ワンプロダクト」という方針が一番のこだわりかもしれません。アーキテクチャとしては、シングルなテクノロジーで世界中にサービスを提供する。国ごとの体制を分けると、提供国を増やせば増やすほど、掛け算で投資が膨れ上がってしまいますから。一つの基盤だけに集中できれば、投資効率が上がると同時に、より大きなテクノロジー投資も可能になります。
もうひとつのこだわりは「ワンチーム」です。これには精神的な要素もあり、実質的なレポートラインでもあります。社内では「First tier citizen, Second tier citizenを作らない」という方針を強く持っています。要は、日本本社と世界支社に分けない、という考えですね。
ヘッドクォーターは「サイバーヘッドクォーター」であって日本本社ではない、という話を強調しています。各国にリーダーシップを配置し、複数のレポートラインを持たせる形です。リーダーは3ヶ月に一度はインパーソンで、私はほぼ毎月インパーソンで会うようにしていますが、これによって本社という概念を持たない組織をつくっていけると考えます。
どの国からジョインした人であっても、全員が「First tier citizen」であるようなカルチャー、レポートライン、マネージメントの設計にしていく。「ワンチーム・ワンプロダクト」を実現するためのこだわりです。
前田:僕にとっては「First tier citizen, Second tier citizenを作らない」と「ヘッドクォーターという概念を作らない」というのは、かなり新しい概念だと感じました。どのようにその考えにたどり着いたのでしょうか。
松本:アメリカ市場でアメリカの会社とストレートに競争するのはすごく大変なことです。一方で、我々が提供しようとしている価値はグローバルです。例えば、顧客となるアメリカの会社は、日本やドイツ、インドなどに支社を持っているケースがあります。アメリカ本社でPCを購入して、それを日本やドイツ、インドに送るなど、各ローカルで情報システム部門のファンクションを設けていない大企業も依然としてあるのです。
我々のサービスは、これらの課題を解消する形になっています。彼らにとって、子会社である日本やドイツ、インドでオンボードした社員に、アメリカ経由で3週間かけてシッピングして渡していたPCを、ワンクリックで次の日に各国の支社で受け取れる形が実現できる。
つまり、従業員体験を高め、「明日から働いてください」と即座にオンボードできるような環境が整います。多国籍な企業をターゲットに、バリュープロポジションを高めていくのが我々の方針です。
前田:現状では競合企業はいるのでしょうか?
松本:ローカルニーズを満たす競合はもちろん存在しますが、我々の場合は、SaaSマネージメントプラン(SMP)や、デバイスマネージメントプラットフォーム(DMP)といわれる領域で、多国籍のITオペレーションの問題を解決していくことがバリューです。
我々は今後2年で100カ国のSaaS展開を目指しています。アメリカの企業だけでなく、日本の大企業など、世界中でビジネス展開している会社の問題も解決できるように進めています。例えば、「アルゼンチンのオペレーションが弱い」といった場合、その部分も我々がカバーするといったバリュープロポジションをつくっていく。会社としても、そういったビジネスに紐づいたカルチャーの作り方になっているといっていいですね。
日本と世界では、シニアレベルの人材採用に大きな差がある
前田:松本さんのようにグローバルな会社を運営している方はまだ少ないと思います。この半年から一年で、特に印象に残ったことや、考えを根本的に変えた要素は何かありますか?
松本:一つは、シニアレベルの人材採用です。特にシンガポール、シリコンバレー、インドで採用を展開していると、経験豊富な人材が多い印象です。例えば、ビジネスディベロップメントでシニアレベルを採用しようとしたとき、日本で「6大陸マネージメントのトップとして数字をコントロールしてチームをつくってきた人」を採用するのは非常に難しいですよね。でも、それらの国ではゼロからIPOまで経験している人や、多国籍でGo to Market戦略を展開してきたような人に出会いやすくなっています。シリコンバレーなら1週間で10人ほどの採用候補者に出会い、インタビューをした上でフィットする人を選ぶこともできる。
前田:なるほど、豊富な選択肢から人材採用ができるのは大きな利点ですね。
松本:それだけでなく、採用した人たちのプロフェッショナリズムやデリバリー能力が非常に高いです。我々のチームにはエグジット経験のある起業家も参加しており、事業推進力が強いチームができていると感じています。
一方で、厳しい話になりますが、報酬が高い分、求められるデリバリーの結果も高いです。我々としては「それほど早くプルーフはしなくていい」とは言っていますが、やはり3~6ヶ月で明確な成果を出して、できない時には人材流動の可能性もあるという厳しさが、当たり前に全ての会社で敷かれているようです。その点、人材の流動性も非常に高く、結果ベースのコミットメントが非常によく回っていて。日本との差を強く感じます。
前田:フォローアップの質問にはなりますが、「自己評価のスタイル」が国によって違いますよね。たとえば、アメリカ人は長所を強調するのが上手だし、インド人も自分の実績をよく見せる。一方で、日本人はもう少し謙虚です。松本さんが「人の見極め」において特に意識されている点はありますか?
松本:インタビューを確実に実施すること、実績を把握すること、それからワークサンプルテストを重視しています。特に我々が運営しているような急成長するスタートアップでは、機能拡張も速いので「アダプタービリティ」をはじめ、さらに多国籍だからこその「リスペクト」と「ハンブル(謙虚さ)」といったキーワードが重要です。
これらのキーワードは、カルチャーフィットとしての評価基準になっています。つまり、能力があるだけでなく、我々の企業文化に合致しているかどうかを評価します。極端に自己中心的な「シャーク」タイプの人は採用しないようにしています。イメージとしては、南インドのような柔らかなカルチャーを作ることを目指しています。
妄想から世界を実現する。学び続ける起業家としてのスタンス
前田:「起業家」という言葉に対する、松本さん自身の定義について聞きたいと思います。特に、ラクスルをはじめた当初と現在で、その考えに変化はあるのでしょうか?
松本:正しい答えになるかはわかりませんが、僕は「アイデアを信じる」というのが好きなんです。自分が思ったアイデアを具現化して、チームを作り、投資家からの支援を得て、何もなかったところから何か新しいものを生み出す。妄想が実体になり、想像力を活かして世界を作っていけるというプロセスが、起業家の醍醐味だと感じています。
そのプロセスで自分が知らなかったことにたくさん出会って、いろいろと学び、チームと一緒にそれを乗り越えていくことができる。このプロセスそのものはアントレプレナージャーニーとしては楽しいですし、自分が起業家でいる一番の理由かもしれません。
前田:僕は投資家として、その変化や夢を具現化していくプロセスを見るのも非常に楽しいです。確かにこの仕事をやっていてよかった、と思う瞬間ですね。
松本:ラクスルを経営してきた中で、起業家の仕事は難易度が非常に高いのだな、という認識が強まりました。はじめに簡単なプロトタイプ(MVP)を作り、お客さまにお金を払ってもらい、それを継続して支持してもらうビジネスモデルを作るだけでなく、拡張性のある組織、資金調達、効率的な運営など、非常に多くの要素を考慮しなければならない。
この全てのステップを乗り越えながら成長することが求められます。起業家自身が学び続け、成長しないと、巻き込んだ人たちを幸せにすることも、自分のアイデアを形にすることもできません。起業家は学び続けなければならない仕事なんだとは、いつも思っています。
前田:素晴らしいメッセージとアドバイスです。今日は多くの学びがありましたし、僕自身のファンド経営にも応用できそうなことがたくさんありました。ありがとうございました。