成長し続ける会社は、現場が強い。その強さは、一朝一夕では得られません。いつもそこには、具体的な施策や工夫、改善を続けてきた人たちがいます。
彼らにスポットライトを当てるように、ALL STAR SAAS FUNDでは「チームメンバー」の取り組みに目を向け、“現場を強くするための学び”を探るべきだと考えました。
会社をたくましくドライブさせる推進力の源となる「立役者」にお話を聞く、インタビュー連載『ALL STAR TALENT』シリーズ。第2回は、フィットネスクラブやヨガスタジオといった月額制店舗に適したCRM・予約・キャッシュレス決済システム「hacomono」を提供する株式会社hacomonoの箕輪優一さんが登場。
地元の茨城県にあるベンチャー企業で学生エンジニアとしてキャリアを始め、組織の拡大に貢献、COOまで務められました。hacomonoには2020年10月に入社され、現在は経営戦略室のVPとして活躍されています。入社後の歩みを振り返りながら、受託開発企業からSaaS企業へ転じた際のギャップをはじめ、さまざまに伺いました。
聞き手は、ALL STAR SAAS FUNDのTalent Partnerで、箕輪さんとはキャリア相談から伴走していった楠田司です。
「逆積み上げ型」のジェネラリストなタイプ
楠田:まずは、これまでのキャリアから教えていただけますか。
箕輪:いまはhacomonoの経営戦略室で、成長していく上で必要になることを、組織横断で潰していく立ち回りをしています。職域で言えば、BizDevやHRがメインです。
今、33歳で、hacomonoは2社目。1社目は、出身地の茨城県で大学まで進んでいたのですが、当時その学内にあった学生ベンチャーに社員数名のフェーズで学生エンジニアとして加わりました。その企業の代表とも意気投合し、社員となって、組織を大きくしていくために必要なことは全て経験したような日々を過ごしていきました。
「小規模ベンチャーで活躍すれば、その後は大きな裁量を持って仕事ができるのではないか」という思いもあったので、本当に「飛び込んでみた」みたいな感じでしたね。最終的にはCOOまで務めることになりました。
楠田:「拡大フェーズで必要なことは全て経験」とは、なかなかできないです。
箕輪:そうですね。最初こそエンジニアとして開発に携わっていましたが、メンバーが増えてくるとプロジェクトマネジメントもしなくてはならない。年齢も若いのに生意気だったとは思うんですけれど(笑)。
売上規模を伸ばすために新規開拓やセールスをやったり、増員に際しての権限移譲をしたり、評価制度を作るために人事として動いたり、コーポレート周りの業務を担ったり……フェーズごとの組織課題の一つひとつを、四半期から半年にかけて集中して越えていくような日々ですね。
まさに、求められていることから発想する「逆積み上げ型」の典型で、ジェネラリストなタイプなのだと思います。
「自分が成すべき残ったこと」を考えてみた
楠田:私が箕輪さんからキャリア相談をお受けしたのが2020年7月くらいで、10月にはhacomonoへ入社されましたね。そもそも、転職のきっかけは何だったのですか?
箕輪:組織が30人規模にまで大きくなって、チームリーダーを設けられたり、セールス担当役員を採用できたりしたのもあって、一旦は自分がいなくても会社として回せる仕組みができたと感じたのは、一つ大きかったです。
その頃には子どもが生まれて、一定の報酬もいただけるようになり、自宅も建てていました。経済的に落ち着いたところで、「自分が成すべき残ったこと」を考えてみたんです。何か世の中に対して「やりきった」と思えることが無ければ、ちょっと人間として駄目なのではないか、と思って(笑)。
楠田:その論は、箕輪さんが私との面談でも熱く語ってくれました(笑)。
箕輪:20代のときはたしかに大変で、会社でなかなか上手くいかないこともありました。それを越えて、家庭を持ったり、ある程度生活に余裕が出てくると、自分としても満足するのではないかと漠然と思っていたのですが……いざクリアすると、人間にとって「社会的に役に立つこと」を大事に感じるようになったのは、自分でも意外でした。
楠田:実際、hacomonoさんへの入社のご決断も相当に早かったですね。
箕輪:経営陣の判断がとても早かったのも印象的でした。代表の蓮田に書類が届いたら、その場で判断してくれて、翌週にはCTOの工藤と面談。そして、オファーをいただいたと。そのスピードには驚きつつも、hacomonoに決められたのは、顧客志向や業界への思いの強さを感じられたからです。
蓮田がそれを言うのは、当たり前といえば当たり前。でも、CTOの工藤も面談で「顧客志向のマインド」をキーワードに語り、 CTO管轄の開発チームといえども顧客と接点を持つことを今後の課題として挙げていました。一部のビジネスサイドだけでなく、エンジニアにも顧客志向マインドを持たせて、会社全体で顧客に向き合っていく強い意思を感じました。
もう一つの理由としては、カジュアル面談でも裏表なく、ストイックにやっていこうとする姿勢を感じられたことです。スタートアップであれば今後は例外なくハードシングスを経験し、軌道修正やトラブルもあるでしょう。その壁に何度かぶち当たったとしても、決してゲームオーバーせずに粘り強くやっていける空気を感じたのは大きかったですね。
楠田:入社して最初に推進されたことは?
箕輪:社員10人ほどの規模でしたが、経営戦略室で今後の経営課題になることを一つずつクリアするのがミッションでした。最初に推進したのは採用オペレーションの立ち上げです。ここに蓮田や工藤の時間が取られてしまっていました。
それから、ALL STAR SAAS FUNDのメンターでもある金田宏之さんにも加わってもらい、人事評価制度の構築も担当しました。1社目の経験を活かして、BizDevとして業界大手向けのhacomono導入プロジェクトのマネージャーも務めましたね。あとは、コーポレートのワークフロー、人事、給与計算を整えるために社内向けSaaSを入れたり。
最初の3ヶ月は、自分からボールを拾う動きを続けていましたね。
予定調和のチームで終わりたくない
楠田:箕輪さんは前職では受託開発をメインとする企業で、SaaSを提供していたわけではありませんが、入社後にギャップは感じなかったですか?
箕輪:ギャップはありました。蓮田からも「これは受託案件ではないからね」と度々釘を差されました。短期的なことだけを見て、小手先でうまくリリースしようとしている時や、顧客に言われたことをそのまま落とし込もうとしていた時でしたね。
中長期的に考えたらどうあるべきか。要望を掘り下げて背景まで考えられているか。そういった点は、最初はしばしば突っ込まれていて。受託系の会社からスタートアップに転職するときに、私としては最もアンラーニングが必要で、考え方を変えなければと感じたところでした。
ただ、それはSaaSやスタートアップの良いところなのだと思います。受託開発であれば予算やスコープ調整を踏まえて、「自分対お客様」の関係になりがちですが、SaaSならば「最終的にたどり着きたい理想型」に向かって、お客様とワンチームになって先行開発をしていけるところがある。そういう意味でも目線が上がりました。
楠田:最初の3ヶ月のプロジェクトをやり終えて、学んだポイントや教訓はありますか。
箕輪:教訓としては、目標が高いからこそ予定調和にならず、チームで本質的なコミュニケーションができるのではないか、と思いました。社内外の様々なチームを巻き込んで、ときにぶつかりながらも体当たりで議論していくと、何らかの突破口が見えてくることがあります。そういう厳しい状況をやりきれたから、自分とメンバーも本当の意味で打ち解けて、チームになれた気がしました。
今後も組織運営していく上で、スタートアップは非連続の成長が求められていくと思います。表面上は仲が良さそうで「チームワークがいい会社です」なんて言う予定調和のチームで終わってしまうくらいなら、高い目標に向かって議論を尽くし、同じ方向へ進んでいけるようになりたいです。今後も、組織運営で大事にしていきたいポイントになりましたね。
「このままだと、“いいひと”で終わってしまうよ?」
楠田:シードフェーズからずっと勤めてきた受託開発企業COOから、10名規模のSaaS企業に移られて、SaaSスタートアップで必要だと感じられたスキルはありましたか?
箕輪:これはジェネラリストの方に当てはまるかもしれないのですが……最初にいろんなイシューを出し、全体を俯瞰して課題感を把握するまでは良くても、「特にフォーカスすべきもの」は四半期なり半期なりに絞って、徹底的に上位数%の課題にアタックしてやり切ることが大事だと、強く思いました。
失敗談として、コーポレート関連に携わっていると、「本質的にやらなければならないこと」が多く、忙しくなってきてしまう。すると、どうしても他のところのクオリティーも下がってきてしまって。
ある日、面談で蓮田から「箕輪さんはこのままいくと、宙ぶらりんというか、ただの“いいひと”で終わってしまう。それよりは、一つずつフォーカスして結果を出すことが今後のキャリアでも重要になると思う」とフィードバックをもらいました。そこからコーポレートは一旦棚上げして、BizDevとHRにフォーカスしようと仕切り直せたんです。
ジェネラリストであれば、入社後の3ヶ月で周囲の信頼貯金を獲得するのも、たしかに大事だとは思います。自分ができることをいろいろと提案して巻き取ることで、たしかに貯金も増えるものです。ただ、次の3ヶ月間も同じだったり、“いいひと”のままでいたりするのは、ただの自己満足になってしまう。
自分の場合は4ヶ月から6ヶ月目のところで気づきを得て修正に向かえたのですが、反省を伴う失敗談の一つになりました。
言行一致しているかを見極めよう
楠田:なるほど。スタートアップで働く上で、モチベーションの変化はありましたか?
箕輪:やはり、お客様との一体感や持っていただける期待値は大きいですね。hacomonoでは「ウェルネス産業を、新次元へ。」というMissionを掲げているのですが、それをただ掲げているだけではなく、実際にお客様と同じ方向を見て、一体になってチャレンジできることは、モチベーションにつながります。
実は、最初からフィットネスやスクールの領域に強い興味があったかというと、正直、そこまでではありませんでした。他のマネージャーに聞いてみても、同じような反応を返されることもあります。
入社前に自分がその事業領域に100%の熱意を持てるかは、必ずしも必要ではないと思っていて。その中で大切なのは、「やろうと掲げていること」と「実際にやっていること」の言行一致です。
ただ、チームで課題に立ち向かったり、お客様と接したりすると、「この業界の課題を解決して、一緒に目標を達成したい」というように、情熱が醸し出されていくんです。入社前に自分がその事業領域に100%の熱意を持てるかは、必ずしも必要ではないと思っていて。その中で大切なのは、「やろうと掲げていること」と「実際にやっていること」の言行一致です。
もし、hacomonoに限らず、転職など採用ステップへ進もうと考えているなら、掲げている大義だけで判断せず、実際にやっていることが業界や顧客の課題解決に繋がっているか、大義を掲げつつも結局は自分本位の商売になっていないかは、しっかり見極めてほしいです。
しつこいほどに確認するくらいで構いませんし、大事なのではないかと思っています。もし、迷うようなら、楠田さんのようなアドバイザーといった第三者の方、中立の立場で見てくれる方にご相談するのもいいでしょう。
求められたら就業規則でも何でも公開
楠田:採用の話を引き継ぐと、hacomonoは同じフェーズにいるスタートアップと比べても、SaaS経験者や優秀なマネージャークラスの方々がご入社されているように見えます。採用を見られている箕輪さんから思うに、なぜそれほど選ばれているといえますか?
箕輪:ありきたりのところでは「情報のオープンさ」や「入社前に徹底的に議論をして合意形成を図る」といった要素はあります。
たとえば、重要ミーティングの様子を見てもらったり、実際にチームミーティングに参加していただいたり。オファー面談にも、一緒に働く予定のチームメンバーが加わって、チームの今後についてディスカッションすることもあります。
あとは、hacomonoがどのような会社かを知ってもらうためにも、エントランスブックやエントリーマネジメントブックといった、選考フェーズに応じたコンテンツ集を用意して、入社後のギャップを埋めるような工夫をしています。これらのコンテンツ集は、エージェント様の会社理解や、候補者様にhacomonoを伝えるという点でも役に立っているようです。あと、特徴的かもしれないのは、オファーを出してから入社期限を決めていないことですね。何でも情報は提供するし、何回でもディスカッションはするから、本当に「良い」と思った段階で入社してください、と伝えています。HRのチームとしては内心ひやひやですが(笑)、それでも中長期的に考えて、納得した上で入社してほしいですからね。
楠田:私の経験上、hacomonoの採用フローは他社と比較しても長めです。ただ、選考中の方から「他社で内定が出たので辞退します」と伝えられる形も少ないように感じています。
箕輪:社員と求職者さんとで話す内容に差を作らないのはポイントかもしれません。話の内容だけでなく、求職者さんからリクエストがあれば、財務状況でも就業規則でも何でも公開していますね。hacomonoには「オープン&フェアネス」というValueがあるのですが、採用でも、情報を徹底的にオープンにし、候補者様と対等に向き合うことを大切にしています。
情報開示のジャッジを誰かがしているというより、Valueが根底にあって、hacomonoとしては「それは見せるのが当たり前だよね」と思うカルチャーに昇華されていると思っています。だから、「どこまで見せていいですか?」なんていうコミュニケーションは発生していなくて、あるとすれば人事上の他の候補者様に関わることや、顧客の機密情報くらいですかね。それ以外なら、「逆に隠すことって、ある?」というスタンスです。
オファー面談で評価制度やグレードも公開
楠田:これまで推進されてきた施策で、特に採用に効いていると感じるものは何ですか?
箕輪:早い段階で「評価制度の構築」に取り掛かったことでしょうか。スタートアップ、特に業界特化型SaaSは中長期戦になりますし、優秀な仲間が必要なのは言うまでもありません。たとえば、エンタープライズ企業に在籍されている方や、すでに家族を持つ方を迎えるにあたっては、評価制度の構築は不可欠だと考えています。
給与水準や評価体制がわからないままモヤモヤしていると、仕事に集中できないところは実際にあると思います。それを未然に防ぐ意味でも、評価制度は構築して良かったです。自分が入社する前からプロジェクトとしては動いていたのですが、半年近くかけたのではないでしょうか。
評価のパターンも様々あり、会社のカルチャーや方針で考え方も全く変わってきます。プロダクトに強い会社にしていきたいのか、セールスを重視していきたいフェーズなのか。そういった一つずつを整理しながら進めるので、一定の時間はかかると思います。
楠田:求職者には評価制度を、どのタイミングで、どれぐらいの粒度で説明しますか?
箕輪:エントランスブックにも書いてありますし、カジュアル面談でも話しますが、詳しくはオファー面談の時ですね。基本的には人事と各チームの責任者からのオファー面談が組まれますが、時間のうちの半分は評価制度や人事制度について説明するのに割くことが多いです。その後に、人事評価制度の資料やグレード表も候補者の方へお送りして、「細かいところでも気になったら何でもフィードバックください」と伝えています。
楠田:前提情報も極限までオープンにして、オファー面談のときに評価制度も具体的に説明してしまう。実績を出したあとの期待値も示した上で、最終回答を待つわけですね。
hacomonoに非連続な成長を呼びたい
楠田:異業界からSaaS企業に飛び込みたい人、これから挑戦したいと思っている人に向けて、ぜひ先駆者である箕輪さんからメッセージをいただけますか。
箕輪:キャリアをいろいろと考えたときに、「社会的なところにコミットしたい」とか、「中長期的に取り組んでいきたい」といった希望が浮かぶ人は、SaaS企業ととても相性が良いと思いますので、ぜひ勧めたいです。
一方で、中長期の戦略を持つ企業でチャレンジするからこそ、短期的な好感触で進路は決めないほうがいいでしょう。「カジュアル面談でいいなと感じた」や「良いスカウトメッセージが来たから」ではなく、しっかり相手の会社の言行一致を見極めた上で、最終的には「この人たちと一緒にチャレンジしたい」と思うのであれば、飛び込んでしまいましょう!
私自身も、事業戦略上で重要とされることを着実に解決できるように、一つずつ実行していくための組織を作っていきたいです。事業戦略と組織をしっかり紐づけ、結果を出すことで、hacomonoに非連続な成長を呼ぶような役回りをしたいですね。
箕輪 優一
株式会社hacomono 経営戦略室VP
学生時代にエンジニアとして関わったベンチャー企業に2012年に新卒入社後、組織フェーズの成長に合わせて、プロジェクトマネージャー、営業、事業開発などを担当し、最終的にはCOOとして受託開発事業及びコーポレート部門を統括。その後、2020年10月にhacomonoに入社。現在は経営戦略室VPとして、HRや業界大手企業の事業成長に貢献するためのBizDev組織を担当している。