「SaaS企業のお手本」といえば、セールスフォース・ジャパン(以下、セールスフォース)。以前にはこのブログでも、SDRチームに所属し、トップクラスで活躍されている森岡優香さんに密着し、一日のスケジュールや働き方を見せていただきました。
多くの人から「参考になった!」と声が寄せられたことから、今回もセールスフォースのインサイドセールス特集・第二弾。マネージャーを務める林田優理さんに、今度は「BDR」について教わりました。インバウンドリードへの対応を行うSDRに対し、アウトバウンドを担うBDRは、どのような指標を持ち、いかにして顧客開拓を続けているのでしょうか。
林田さんは大学卒業後、人材派遣会社でフィールドセールスに従事し、支店長や支店長統括を経験して4年間を過ごします。その後、ヤフーに転じ、地方向けのインターネット広告拡販に関する拠点長を歴任するなど13年間の在籍。そして、SaaSのバイブルともいえる『THE MODEL』と出会い、セールスフォース・ジャパンへ入社し、現在は2年が経ちました。
ALL STAR SAAS FUNDの神前達哉が、林田さんへインタビュー。前回は、セールスフォースのBDRチームの役割や動き方についての記事をお届けました。続く今回は、林田さんのマネジメントスタイルに注目。「週の3割を当てる」という1on1の重要性、そして目標達成のためのプランニングからキャリア形成まで、BDRメンバーを成長を促すポイントを学びます。
BDR組織で大切なのは「自由度を奪わないこと」
──BDRチームを率いる林田さんのマネジメントスタイルについても伺わせてください。普段から心がけていらっしゃることはありますか。
大前提として、BDRは何もない状態から新規開拓していく部隊ですから、 リードに対して打ち返していくSDRと比べると、自由度が非常に高い。私たちマネージャーが意識しているのは、自分のやり方を押し付けて、その自由度を奪わないことです。
「この施策を、こういった手順で進めて」と指示するのと、「ゴールに向かって自由に考えてやってみてよ!」と伝えるのでは、メンバーのモチベーションが全然違ってきます。ただし、押し付けずとも「80点が取れるやり方」を教えるお膳立ては必要と思っています。
私のチームで重視しているのが、過去に卒業していったメンバーの成功事例や失敗事例を、ナレッジとして新しいメンバーにしっかり受け継いでいくことです。
──どのような方法で継承されているのですか?
今の若い世代は、ビジネスに限らずYouTubeでナレッジを見たり、勉強したりする機会が多いこともあって、私たちも動画に撮っています。卒業が決まったメンバーに「マンスリープランの立て方」や「個人ダッシュボードの作り方」といった講義を1時間くらいしてもらうんですね。新人には、その動画を稼働初日に見てもらうことが多いです。
現在のようにテレワーク環境が進むと、隣席で優秀なメンバーがどういうふうに電話しているか、聞き耳が立てられないんですよね。オフィスでの自然発生的な継承から、資料化や動画化によるナレッジの伝承へ、特のこの1年間では切り替えてきました。
そうすると、卒業生のナレッジから「80点が取れるやり方」がわかりますから、あとは本人の工夫や努力で100点を取るか、さらに130点を目指すかは、メンバーに任せていくという進め方をしています。
週の3割は1on1に充てている
──林田さんのカレンダーを拝見すると、毎朝は「おはよう会」が設定されていますね。

最近、私は出られていないんですけど(笑)、一日のスタートにメンバーが集まって、体調を報告したり、「がんばります!」と元気を入れたり、気になるニュースを共有したりしています。「おはよう会」もマネージャーが強制しているのではなく、メンバーが主体的に運営している形ですね。
チームの雰囲気作りにしても、セールスフォースには「メンバー同士で率先して良くしていきましょう」という文化があるので、細かなところにはマネージャーはあえて入っていかないようにしています。
──週で予定を見てみると、メンバーとの1on1に相当の時間を割いています。
ええ、1on1は一コマ30分で実施していて、週の稼働時間の3割程度を割り当てています。1on1はお互いに伝えたいことをしっかり伝える場として有効活用していますね。
他のマネージャーも同様だと思いますが、メンバーの商談一つひとつに、そこまで深くは入り込めていません。「この会社にはこの提案がいいよ」といった具体的な話は、時間的な制限があって難しい部分があります。ですから、1on1では「AEのテリトリープランに沿って動けているかどうか」といった全体戦略を基にしたチェックやアドバイスが中心です。
──その他に、時間を割かれている業務には、どのようなものがありますか。
特筆すべき業務としては「お客様向けのセッション」があります。インサイドセールスに興味を持っているお客様に対して、私からレクチャーをするような時間ですね。これも週に1〜2回ほどAEからリクエストがあって商談に同席しています。
──これだけ日々いろいろ動いていると、リアルタイムでキャッチアップするだけでも大変ですね。「スプレッドシートでコメントを使ったコラボレーション」も情報共有の利便性として優れているのだろうと感じました。
セールスフォースはもちろん、Slackも併用していますね。狙っているところからたまたまリードが入ってきたら、すぐに当たるようにAEとBDRは日頃からやり取りしています。AEチームとBDRチームのSlackチャンネルがありますので、そこには基本的には入っていて、メンバーの動きを見るようにしています。
あとはセールスフォース上に「Chatter」という社内SNS機能もありますから、そこでまとまった活動報告などは目を通します。もっとクイックにやり取りしたいときはSlackで「今話せます?」と声をかけたりと、使い分けしていますね。
──AEとBDRのミーティングも定期的に行われているのですか?
AE3名につきBDR1名でチームを編成していますから、この4名での1on1は毎週実施しています。つまり、BDRのメンバーは、AEと週3回の1on1をするわけですね。
あとは、AEチームが主導する「チーム会」が毎週1時間ありますので、そこにはBDRから私が参加している形です。AEとBDR、あとはSEも参加して、情報共有などする会です。
メンバーの伸び悩みに対処するための「2つのフォロー」
──なかなか成果を出しきれないメンバーのフォローアップは、どのように実践されていますか。
大きく二通りあります。一つは、優秀なメンバーのモニタリングをさせてもらうこと。私は各メンバーの「真似ると良いポイント」を全て把握していますから、それを伝えた上で、メンバー同士での交流を促しています。メンバー間で1on1することも多いですね。そういった交流から、成果をあげるヒントをつかむケースはよくあります。
もう一つは、私がしっかりと管理する方法です。ただ、推奨もしていませんし、実施することはあまり無いですね。KPIを分解し、マンスリープランを成功させるためにはウィークリーでアクションを立て、それをデイリーに落とし込んで……と、プランを一緒に固めて、最後まで伴走していく形です。
──なるほど。前提として、BDRメンバーは期初にマンスリープランを毎回立てられているのですか?
強制はしていません。プランを立てずとも成果を挙げるメンバーもいれば、立てなければいけないのに「立てられない」メンバーもいる。パフォーマンスが良くない人の共通点は、往々にして「プランの立て方が悪いか、わからない」ものです。結果的にですが、パフォーマンスが高いメンバーは、自ら優れたマンスリープランを作っていることが多いですね。
パイプライン金額の目標を達成するためにはパイプラインが何件必要なのか、それを得るには何件のアポイントが必要で、当たり先が何件あれば良いのか。だからこそ、ターゲットリストは何件を挙げなければいけないのか……といったように、目標から割り戻していった計画づくりをしていますね。
──そのパーセンテージは代々の成功事例からの統計でも見えてきそうですね。
たしかに、「だいたいこのくらいは取れるはずだ」というデータがありますので、あとは微修正しながら合わせていっています。

メンバーとの会話内容は3ヶ月ごとに変える
──BDRメンバーの1on1ではプランニングの他に、キャリアなどについてもお話されるのでしょうか。
そうですね。BDR組織は1年ほどで成績が良い順にAEへ昇格していくキャリアであることはお伝えしましたが、その1年間の中にも、言わばキャリアのフェーズはあると思います。
最初の3ヶ月までは、キャリアに関する悩み相談や将来像よりも、目の前の業務を覚えてもらい、やり方を確立しなければならない時期です。1on1でも、まずは業務の話を中心に、困っていることがないか、何が課題だと感じているかを聞きます。
それに慣れてきた3ヶ月目から6ヶ月目ほどは、しっかりと数字をつくれているか、という話題にフェーズが移ります。AEの方針に沿って動けているか、AEへ何を提案していくか、といった、「対AE」を念頭に置いたディスカッションが多くなります。
業務を覚えて、AEとの関係値も良くなってくると、数字が上がってきます。概ね、6ヶ月から9ヶ月目頃からは、将来どういった方向性に進みたいか、というキャリアの話をします。
9ヶ月目以降は、ここがもしかしたら少しユニークかもしれませんが、チームの話に変わるんですね。チームを良くするために、あなたはどういうことができますか、何を残していきたいですか、というテーマを話し合います。ナレッジの継承の意味でも良いサイクルを生みますから、今では欠かせない時間だと思っています。
このように、タイミングによって1on1のテーマを変えていき、小さな話から大きな話へ移っていくようにしています。
──見るべき視点が個人のタスクからチーム全体にまで広がる仕掛けで、イネーブルメントとしての完成型の一つという印象を受けました。メンバーからすると、それを意識せずとも、必ず成長していけそうです。
むしろ、成長して何か残していかなければならない、というような空気感ですね。
──メンバーの目標達成に関して、注視している点などありますか?
数字についてはダッシュボードを使って管理しています。BDRは受注金額をKPIに据えているとはいえ、あまりコントロールできるものではありませんから、基本的にはパイプラインが目標に対して創出できているかを重要視しています。
そこへ至るまでのアポイントの件数は各メンバーごとに一覧で可視化されています。アポイントは取れているのか、それを得る前段階として、電話で担当者につながっているかどうか。このあたりも注視します。
BDRは基本的にメールと電話でやりとりしますが、過去の傾向から電話でアポイントを取った方が商談化しやすいことはわかっていますから、「電話がつながった件数」を月次でチェックします。
そうすると、成績が奮わず、かつ電話がつながっていないメンバーについては、「ひょっとすると、当たり先の確保に苦労しているのではないか」と推察できますから、個別に支援こともあります。あとは、手紙の送付件数も個別で管理していますし、送付に対してフォローの電話を何件入れているのかも、全てチェックしていますね。
いずれも、メンバー個々のプランニング同様に、パイプラインの目標創出金額から、私も逆算してチェックポイントを設けています。
チームの課題はメンバー同士でも話し合ってもらう
──メンバーの様子や健康状態のフォローは、どのように取り組まれていますか。
ストレスチェックについては、社内外のさまざまなサーベイを導入して調査しています。
チーム、マネージャー、会社への不満がないかどうかをサーベイ中心に洗い出したり、メンバーのコンディションに限定したマネージャー会議を月1回必ず実施したりしています。この会議には執行役員も含めて参加しますね。
──林田さん個人として、心理的安全性を高めるために心がけていることは?
二つありまして、一つ目はサーベイの結果を見て、マネージャーがそれを解決しようとするだけではなく、メンバー同士で話し合ってもらうことです。
たとえば、メンバーが適材適所でない、強みをマネージャーが把握していないというサーベイの結果が出たとします。まずは、メンバーでその課題を話し合って、マネージャーに対するリクエストを上げてもらう。あるいは、現場のメンバーだけで取り組めるようなことや、メンバー同士でチームのコンディションを良くするためにできることを考えてもらったり。
もう一つは、交流の時間を設けること。私たちは週に1回の「BDRチーム会」を必ず催しますが、そのうちの15分は雑談に使っています。そこで、今はミーティングに入る前に1人1分くらいでの近況報告や、プライベートの話を交えてもらいます。
コロナ前に出社していたときと同じように、一人ひとりが相互理解し合っているような状況を作るための時間を、あえてしっかり設けるようにしているんです。
──今日は、本当にさまざまな観点からお話を伺えました。最後に、今まさに組織を立ち上げていこうというスタートアップの経営者やセールス担当者に、BDR組織の重要性や期待値について、メッセージをいただけますでしょうか。
やはり何もない状態から商談を生み出す、案件を抱えながら新規を開拓していくというのは、どのような企業においても、なかなか難しいことだと思います。その難しさについて取り組み続けるBDR組織があることは、企業の営業力強化にとても強く働きます。外勤営業が目の前の案件に集中しつつ、BDRが水面下で案件をずっと作り続けられるので、絶対に取り入れた方がいい手法だと考えています。
BDR組織が成長するための運営においては、自由度の高いポジションだけに、あまりガチガチに管理しない方が、みんなが能力を発揮してくれる傾向にあるようです。自分の型を押し付けて、自分と同じような能力の人を増やすよりも、自分を超えるような、一人ひとりの優秀さを伸ばして自由に育てていくマネジメントこそが、実は重要なのでしょう。
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林田 優理
株式会社セールスフォース・ジャパン
セールスディベロップメント本部 エンタープライズ事業部 部長
インターネットメディアの広告営業部長を経て、2019年5月にセールスフォース・ジャパンに入社。
インサイドセールス部隊にて、大手BtoC企業を対象とした新規開拓部門のマネジメントを担当。
インサイドセールスを正しい形で日本中に広めることをミッションとしており、昨年度は計50回以上のインサイドセールス勉強会を大手企業に実施。
※所属・役職は取材時のもので、最新の情報とは異なっている場合があります