世界中で注目を集めるユニコーン企業「Notion」、日本市場でも展開され、人気を博しています。Notion、というプロダクトをどう捉えるかという観点で、ユーザーの受け取り方は様々ですが(それが、このサービスの良いところだともいえるのですが)、一例として「クラウド情報プラットフォーム」と捉えた場合には、Notionは決して先陣を切ったわけではないでしょう。
並み居る競合サービスのある中で、彼らが成長を続けられるのはなぜか。そこには、いかなる人材の採用や育成の考え方があるのか。今回、その一端をつかむべく、NotionでHead of Global Recruiting(グローバル採用部門責任者)を務めるKate Taylorさんに、お話を伺う機会をいただきました。
KateさんはNotionの他、Dropboxなどでもキャリアを積み、セールスやプロダクト、セルフサーブ型のサービス展開など、職種としても様々な経験を持っています。「自分が好きな仕事は何なのか」を考えてみた結果、「物事をより良くするためには、どうすれば良いかを考えること」だと気づいたKateさんは、レベニューの領域からHRへとキャリアをチェンジ。
「規模の大きなグループ(チーム)をマネジメントすることが好きですし、チャレンジングな問題を解決することが好き」と話すKateさん。Notionがまだ40人規模の時に入社したという彼女だから知る、Notionの成長の軌跡について、ALL STAR SAAS FUNDのマネージングパートナー・前田ヒロが迫りました。
自分たちの「北極星」を設定することの大切さ
──Kateさんは多様なバックグラウンドをお持ちなので、レベニューとHRにパートを分けて、それぞれお尋ねします。まずはレベニューに関して、DropboxとNotionはどちらも「セルフサーブ型」で、エンタープライズに特化した戦略を持っていますよね。異なるセグメントや規模感にアプローチをすれば、様々な課題もあったでしょう。どんな課題を持って、それらをどういうふうに克服したのか、聞かせてください。
では、Dropboxの話からはじめましょう。Dropboxは当初、学生たちに愛されるプロダクトとなって、そこから彼らの家族や友人などへ広がり、世界中に展開されました。あっという間に世界的なムーブメントになったんです。まるで革命が起きたかのようでした。戦略的にセグメントを決めて、市場を拡大していったというわけではなかったのです。
ユーザーがプロダクトに夢中になっている、という現実に圧倒されながら、私たちは世界中に広がった「Dropbox愛」に必死で追いつこうとしていました。ある時から、チームでDropboxを利用したいという声が想像以上に増えて、「セールスチームを立ち上げなければ!」となりました。
「Dropbox for Teams」プランを設けたのは、支払いを一括で行ないたいというリクエストがあったからです。私は、Dropboxがまだ100名ほどの規模の時にジョインしたのですが、その時にはチーム向けの構想は初期段階でした。
セールスチームを作って、ディールに臨んで......ただ、私たちのビジョンが成熟し切っていなかったため、何年かおきの頻度でピボットが必要になっている状況でした。「エンタープライズへ行こう!」と言っていたかと思えば、今度は「コンシューマー向けだ!」となったりね(笑)。
自分たちがどのセグメントを狙うべきなのか、押し問答が続きました。そこには、収益というものが常につきまとっているような状況があったように思います。「素晴らしいプロダクト」 がたくさんのユーザーを連れてきてくれて、そこからセールスチームを作って……。でも、私たちは実際、「何に勝とうとしているのか」がしっかりと理解できていなかったのです。
実際、数年ごとにピボットしていたわけですが、この経験は本当に辛いことでした。なぜなら、プロダクトチームやエンジニアチームとまったくリズムを合わせることができない状態が続いたからです。
ただ、私が在職している期間の後半では、エンタープライズ向けのプロダクトの展開を強く推し進め、エンタープライズ向けのエンジニアチームやプロダクトチームが立ち上がったことから、Dropboxは大きく前進しましたね。
──その点、Notionは戦略がかなり違うのでしょうか。
Notionでは初期の段階から、ビジネス向けのプロダクトを作るということを強く意識してきました。マルチユーザーによる体験を実現したいと考えてきたんです。Notionは、今の時代の「チーム」のために在りたいと思っていますからね。
これまで、コンシューマーサイドのユーザーが素晴らしいユースケースを作ってくれましたし、学生たちもNotionを活用してくれています。でも、彼らも最終的には、チームでコラボレーションをしながら仕事をしたり、物事を進めることになるでしょう。だから私たちは、個人ユーザーの方々に愛され続けるのはもちろん、チームでの活用も重視していきたいと考えています。
──エンタープライズ、SMB、コンシューマーに近い個人など、様々なユーザーを抱えているスタートアップがいますよね。そういったスタートアップに、複雑な状況を打開したり、チームがアラインしたりするために、Kateさんからレベニューに関するアドバイスをもらえますか?
自分たちの「北極星」を設定しましょう。それは、今日の自分にすぐに影響を与えることはないかもしれません。でも、自分たちがどこに向かっているのか、というビジョンを持つんです。
Notionでは、「ユビキタスの追求」だと、常に明確にしてきました。世界中のすべての人がNotionにアクセスできるようにしたいのです。私たちは、新しい働き方を創造したいのだと。
もっとも、Notionはまだエンタープライズへの道はまだはじまったばかりで、その取り組みはいくつかのフェーズに分かれたアプローチになることも理解しています。いま、私たちのコミュニティ、そしてコンシューマーの中で、素晴らしいモメンタムが起こっていて、チームで活用されるユースケースが過去数年のトレンドとして見受けられます。今は、長期的な視野で、自分たちが何を作り、どこに向かっていきたいのかを意識しながら、ユーザーの声に耳を傾け続けることが大切だと考えています。
長期的なゴールに向かうためのロードマップや道筋を作りながら、そこに到達するための短期的な勝利も考慮に入れるのです。Notionにとって、スタートアップ・コミュニティは常に大きな存在です。
スタートアップは常に最先端を走っていて、将来は偉大なエンタープライズ企業を築き上げるでしょう。早い段階から、未来のエンタープライズにとっての欠かせないパートナーになることが理想ですよね。だから、私たちは「お客さまのために何を作る必要があるのか」を常に考えています。
それから、長期的な視野に立って、並行して進めていくこともあります。エンジニア・チームは、一度にすべてのことをこなすことはできませんからね。課題や要望をブレイクダウンして、優先順位をつけていかなくてはいけません。エンジニアチームも初期のスモールチームの段階では、ただプロダクトを守ることで精一杯じゃないですか。そんな時に大切なのは、目の前にいるお客さまが私たちのプロダクトを好きでいてくれているか、楽しんでくれているか、ですよね。
自分たちは「将来的にはあの場所に向かっていくことになる」ということを意識しながら、どのセグメントを優先するのかを決めていけば良いのです。ただ、早い段階で、長期的な視点でプロダクトを作ろうというマインドを持つべきだと思います。
買っていただくためではなく、疑問を解決するために動く
──他のインタビューで、Kateさんは「Dropboxでインサイドセールスチームの働き方を変えた」と読みました。「ミッションを、ディールを前に進めることから、より連携に注力させることにした」と。興味深いのですが、なぜそういった決断を?
当時、セールスチームは案件の成立にとにかく集中していたんです。そこで、こんな実験をしてみました。チームの一部に、ディールを成立させようとするのではなく、お客さまの手助けをすることに集中するということに。「いつ買いますか」「買っていただくために何をすれば良いですか」という質問ではなく、「お客さまの疑問や課題を解決するために、私たちはどんなことができますか」と尋ねていったのです。
すると、お客さまがプロダクトをもっと深く学んでくださるようになって、最終的には、私たちが何も言わなくても、納得して購入してくれるようになりました。結果、SMBのお客さまに対するアプローチでは、カスタマーサービスやホスピタリティに重点を置いた方が、より多くの売上につながることがわかったんです。
Notionでも同じようなアプローチをしています。私たちのサポートチームは、Notionのことを知りたいと言ってくださるインバウンドリードやインバウンドクエリーを多く扱っています。私たちがすることはシンプルで、Notionをもっとより良く使っていただけるようにサポートしたり、私たちの他のプロダクトのことをもっと知っていただけるように手助けしたりしています。
そうすることで、私たちのユーザーに対する愛情が伝播して、プロダクトをもっと使いたくなって、自然にアップグレードしていただけるようになるのです。お客さまをウォームアップして、プロダクトを気に入ってもらい、十分な規模になってセールストークができるようになるころには、まったく違う質問を問いかけるわけです。
Notionに関することではなく、もっと“大きな展開”のための準備の仕方についてなどね。
CSATの高さが、売上高にもつながった
──そのような手助けをする体制を促進するためのチームは、サポート部門にすべきか、マーケティング部門にすべきか、どこに所属させれば良いでしょうか。
Dropboxでは、私のチームの目標は、できるだけ多くのセールスをアシストすることでした。そして、私のチームは「Self Serve Assist」と呼ばれていました。できるだけ多くの人々から、セルフサーブでプロダクトを購入してもらえるようにすることを目指したからです。
どうすればセールスと商談をしなくてもプロダクトを買ってもらえるようになるのか……そういったプロダクトに関する非常に明確なゴール設定ができていたんですよね。
もし、あなたの会社がファンクショナルなコミュニケーション方法を持っており、綿密な関係を築けていて、うまくコミュニケーションをとれるならば、組織図としての構成はどういうものでも構わないでしょう。
──チームの目標設定やKPI設定については、どのように考えていますか?というのも「どのくらい手助けができているか」は、非常に測りにくい指標だと感じるからです。
Dropboxでは指標としては、私たちは「CSAT(顧客満足度)」にフォーカスしていました。お客さまとのやり取りを行なった後に、どんな収益が発生したのかをモニタリングしていたんです。私たちの実験で、高いCSATと収益に相互関係があることも証明できたんですよね。
データサイエンスチームや分析チーム……と言っても、数百万ドル規模の大企業にもかかわらず、3人しかいない小さなチームでしたが、彼らが証明してくれたんです。
CSATは、私たちにとっての北極星でした。でも、CSATはあくまで初期フェーズの指標です。
Notionでも同じようなやり方をしています。お客さまに愛されさえすれば、自然と流れを作ることができるはずですから。Notionを愛してやまないファンやパワーユーザーのような存在である「アンバサダー」に、彼らがプロダクトを愛してくれるようになってくれる働きかけも続けています。
アンバサダーは、私たちにとって長期的な成功への基礎となる要素なんです。だから、プロダクトを愛してくれるユーザーを獲得することに重きを置いてきました。たとえば、初期の頃、CEOのIvanは、Twitterに投稿されるNotionに関する投稿すべてに返信していました。私たちのアンバサダーの多くは、実は私たち自身で見つけて、彼らのコミュニティで活躍できるようにしたのです。この愛に基づく行動は、私たちがDAY1から実行していた戦略でもありますね。
Notionにおける、「最も優れた」人材の定義
──ここからはHRに関して質問させてください。Kateさんは今、Head of Global Recruitingとして活躍されていると思います。Kateさんの現在のゴールと、それを達成するためにどのようなことを日々、行なっているのでしょうか?
私たちが最も重視しているのは、Notionにとって「最も優れた」人材を見つけることです。
この「最も優れた」の概念には、2つのディメンションがあります。一つ目は、その領域において、最高のスキルを持った人材であること。二つ目は、私たちのオペレーティングバリューと一致していることです。つまり、スキルとバリューを一緒に考えることで、その人がNotionにとって「最も優れた」人材であるかどうかを理解できるのです。
──最高の人材を確保するために、どのように採用プロセスを磨いていますか?
まずはトップ・オブ・ファネルからスタートして、多種多様な候補者を集めます。そこで、採用マネージャーにマーケットの全貌を伝えます。例えば、日本でカスタマーサクセスマネージャーを探す時も、様々な人材との接点を構築し、「これが候補者プールのおおよその大きさになりそうだ」という全体マップの情報を示します。
次のステップは、採用担当者と一緒に選考して、技術面を確認します。こうして、オンサイトの段階に入り、チームの様々な人たちと会ってもらう流れになります。採用候補者の方がこれまで何をしてきた人なのか、なぜその人が最高のカスタマーサクセスマネージャーと言えるのか、などを深く理解しようとするわけですね。
最後のステップは、バリューに合っている人なのかどうかの確認です。候補者には、Notionの環境や会社のバリューについて、正直にお話ししています。バリューの一致は入社後のパフォーマンスにも関わるので重要です。
経験が豊富でいわゆる引く手数多な方に対して、企業は過剰にアピールしてしまうこともあると思います、どうしても仲間に加わって欲しいから。でも、Notionはそんなことをしません。とにかく正直に、等身大のNotionのことを伝えます。私たちの会社のバリューにある「Kind and Direct」を体現しているんです。
私たちは正直かつ率直でありたいと考えています。「私たちのビジネスの状況はこんな感じだよ」とか「私たちの成長曲線はこういうものだよ」とか、「これが今の私たちの姿だよ」とかね。逆に、このプロセスが候補者の方を惹きつけていてくれるのではないかと思います。
最大のポイントは「なぜNotionなのか?」なので、私はいつも「あなたはどんな問題を解決したいのですか?」「その問題を誰と解決したいですか?」と聞くようにしています。ある方が今の会社を辞めて別の場所へ移ったとしても、問題の中身こそ違えど、同じ数の問題を抱えたままかもしれませんから。つまり、どの問題を解決したいのか、が重要なのです。
あとは、人によっては「リファレンス」のプロセスを取り入れたり、過去のマネージャーとの5〜10分のクイックコールを行なうケースもあります。リファレンスというプロセスは、候補者をより深く知るための大事なステップです。どのような働き方をしているのかをしっかり見極められますし。面接では、どうしても緊張してしまっていたり、入社したいという想いが強すぎて時に自分のことを良く見せすぎたりすることもありますからね。
採用プロセスを進めるかどうか......トップではなく採用担当者が決める
──採用プロセスに、Kateさんはどのくらい携わっているのですか?採用マネージャーに、どのくらいの権限を与えているのでしょう。最終的な意思決定までさせているのですか?
採用マネージャーが最終的な決定権を持っています。私たちはファネルを築く段階でたくさんの時間を使って、「何が一番大事なのか」「このロールの必須要件と歓迎要件は何か」「このロールの人は何をするのか」をしっかりとクリアにしていきます。だから、私たち一人ひとりが候補者に対して明確なコミュニケーションをとることができます。
状況のアップデートをするブリーフィングでは、採用担当者がその場をファシリテートするんです。基本的には採用マネージャーが、採用プロセスを進めるかどうかを決めることができます。インプットをしてインタビューをして、最終的な判断をする。これらすべてをね。
あとは、Ivanとも話をしますよ。オファーを出す前に、Ivanや経営幹部、またポジションごとの採用に関わる関係者で形成されるコミッティにレビューをしてもらって、オファーを出して良いかどうかの最終判断をしてもらいます。Ivanもインタビュー自体は引き続き担っていますが、すべての候補者のインタビューをしているわけではないので。
Ivanの最終レビューで、候補者の話をするのはその採用担当であるマネージャー自身になります。その人がどんな力を発揮できると思うのか、バリューを出せると思うのか、Notionにとってのどんなサクセスプランが想定できるのかなどを説明してもらいます。だからこそ、インプットがしっかりできている状態にしておくことが、とても重要なんです。
──採用マネージャーは、各部門ごとにいますか?それともファンクションごとですか。
Notionには、Notionの全体を見てくれている「Staff Team」があります。そこには、リーガル、人事、マーケティング、レベニューなどの各担当があって、それぞれ別々のレポートラインを持っています。
基本的には、それぞれのファンクションごとに採用マネージャーがいるのですが、ファンクションのチームによっては、また違う採用マネージャーが存在することもあります。Staff Teamのメンバーも、私が入った当初は11名でしたが、今では20名います。
ベストなレイヤー構造が成長とともに変わった結果、「一つの部署に、一人の採用マネージャー」というシンプルな構造ではなくなってきました。ここはスタッフメンバーが、自分たちのチームを自分でデザインするようにしています。
共通の目標を作り、それに向かって団結させる
──Kateさんは「チーム作り」に関わる仕事をたくさんしてきたと思います。その経験から、ご自身に深く刻み込まれたレッスンや、僕らの仕事に応用できる学びはありますか?
どのようなロールのマネージャーにも通用する最大のポイントは、チームを「人」として扱うことです。パーソナルなレベルで、人とつながるという意識が重要なんです。私たちは、会社に行って仕事をして、仕事を終えて家に帰ります。でも、私たちは仕事だけをしているわけではなく、それぞれの生活がそこにあり、日々を積み重ねています。どうも忘れがちなんですけどね。
そして、「勝つチームを作る」ためには、みんなが違うものを持ち寄ることです。スポーツでも仕事でもプライベートでもそうですが、それぞれのスキルを持ち寄った「多様性のあるグループ」を、チームと呼んでいるのです。
もし、全員が同じことを得意としていたら、それは「勝つチーム」とは言えません。プロジェクトマネジメントが得意な人もいれば、ディスカバリーに強く、早い段階から多くの質問を投げかけられる人もいますよね。ある人は実行力に長けていて、ペースセッターと呼ばれるような素早い動きができるかもしれません。
それぞれの強みや可能性を理解して、お互いをよく知った上で、自分のことだけを考えて加速するのではなく、自分が何をすべきかを考える。それが結果的に、他の人も加速させることができると思うのです。
また、チームの中で好奇心を築いていくことも大切です。好奇心が旺盛な人が持つ特徴として、ディテールを追求して、物事を根本的に理解しようという共通点が挙げられます。Notionでは、本当の答えを見つけるべく行動する人のことを「TRUTH SEEKING(真実を追求する)」と呼んでいます。このタイプの人は、たいてい問題を早く解決することができるんです。しかも、これは誰でも持つことができる特徴だと考えています。
──そういった「勝つためのカルチャー」は、どのように浸透させていくことができると思いますか。チームの構成によって作られているものなのでしょうか?
メンバーのバックグラウンドが多様であればあるほど、「共通の目標を作り、それに向かって団結させること」が理想でしょう。
チームとして一緒に何かを成し遂げることに集中して、それぞれの持ち味を際立たせることで、お互いを称え合う。その結果、プロジェクトが完了した時に「私は良い仕事をした!実績を出せた!」ではなく、「チームで勝てた!」と考えられるようになると思います。
──目標にしっかりアラインさせて、チームメンバーがその目的や目標にどう貢献しているかを理解するようにするわけですね。
ええ、その通りです。そして、違いを認めることです。だから、性格を知ったり、過去を共有したりしながら、チームビルディングをすることが多いですね。お互いを知ることで、より良いチームメイトになることができますし、最終的にはチーム全体がより良くなると考えています。
マネージャーとして、好奇心を刺激し、仕事へのワクワクを引き出す
──チームで好奇心を築くことが大切とおっしゃっていましたね。好奇心は生まれつき持っているものなのか。それとも育てられるものなのか。どちらだと思いますか?
面白い質問です。そうですね……結論から言うと、育てられると思います。誰もが好奇心を持って生まれてくるはずですが、それを育むためには、周りの人たちがどれだけ好奇心の追求をサポートしてくれるのか、という環境も欠かせません。
私も子どもたちに質問をされたら、ただ答えるのではなく、質問を返してより好奇心を刺激するように心がけています。仕事の場でも、マネージャーとして、チームメンバーが好奇心を探求するのをサポートできると思うんです。
インタビューをする時も、このことを頭に入れて話をしていますね。仕事の話だけをするのではなく、相手の好奇心を理解するために、相手がパッションを持っているトピックを見つけるようにしています。
以前、Dropboxで一緒に働いていて、今はNotionにいる社員にインタビューした時のことです。彼は以前、バリスタだったことを教えてくれたんです。私は「なぜ、彼がバリスタになったのか」をもっと教えてほしいと言いました。すると、コーヒーがどうやって作られているのかに強く興味を持って、なぜ特定のコーヒー豆が他の豆よりも良いと言われているのか、といった物事の根本的なところを突き止めたいと思ったからだ、と教えてくれました。私は驚きながら、その話を深掘りしていったんです。
これって、仕事とはまったく関係のない話ですよね。でも、それが仕事の話であろうとなかろうと、チームが好奇心の探求をサポートできれば、様々な方法で好奇心を刺激することができると思うんです。最終的には、仕事の場でも役立つことになるのです。
──どんなトピックであったとしても、その人を知るための「ラビットホール」に深く入ろうとしたら、それはその人が好奇心を持っていることを示すサインだ、ということですね。
好奇心はどんどん広がっていくことが大事なんですよね。相手の在籍期間や経験によっても異なりますが、チームメンバーの仕事に対するワクワクする気持ちを、様々な形で引き出す手助けをするのが、マネージャーとしての一つの仕事だと思っています。
何かトピックを見つけたいと思っていても、何かをより深く理解したいと思っていても、そのやり方を知らないだけかもしれない。そうであれば、サポートしてあげるべきですよね。
「自分は何をしたいのか?」「自分にとって何が大切か」を点検する
──最後に、Kateさんの好奇心についても聞かせてください。ずっと話していられるようなパッションを持っているトピックはありますか?
やっぱり、「チームを作ること」が思い浮かびますね。私はチーム作りが大好きなんです。実は、今日のランチの時にもちょうどこんな話をしていたんです。「この仕事が好きな理由ってなんだろう?」って。もちろん、SMBやレベニューに携わる仕事も同じくらいどちらも大好きですが、「なぜなのだろう?」と。
理由は、素晴らしい人たちと働くのが好きだからで、素晴らしい人たちを見つけて、育てていくことが好きだからでした。
私は、自分を知るために、多くの時間を費やしてきました。「自分は何をしたいのか?」と「自分にとって何が大切か」を、6ヶ月から12ヶ月ごとに見直すのです。そうやってキャリアの転換を決めたのですが、大変なことでした。
本当に忙しい時って、何かに向かってやみくもに突進していると、こうした問いに対する答えを見失ってしまうこともあるじゃないですか。なので、休暇を利用して、3日間コンセントを抜いたような状態を作ったりしながら考えるんです。自分自身との正直な会話ですね。
あるいは、パートナー、友人、兄弟と会話をしてみるのもいいでしょう。今、フォーカスしていることからリセットして、自分が本当にどのように時間を使いたいのかを明確にするためにとても役立ちます。
自分のキャリアやチームについて、その優先順位について考える。時間を使って、自分自身を知り、何を成し遂げたいのか。それが自分の描く全体像と、どう合致するのかを知る。すると、自分でも驚くようなことが思いつくかもしれません。
──そういうことを考えようとする時、自分に問いかける質問は何ですか?
一番大事なのは「自分が何をするのが好きか?」「何が私を駆り立てるのか」「何が私をエキサイトさせるのか」ですね。実際にこれは、チームの人たちにも問いかけています。「自分がやっていることの何が好きで、何が好きでないのか」を話します。
人は大抵、好きではないものを抱えています。そこで、「あなたが好きなことのリストを大きくするにはどうしたらいいのか」を考えるようにします。私は、自分の5ヶ年計画を立てるようなタイプではありません。でも、仕事において何が重要か、今日何が重要か、そして今後2年間は何が重要かを考えたりはするんです。2年くらい先の予測はできるので。
短期的な視点で、自分が好きなこと、重要なことをじっくり考えてみるんです。でも、これって本当に難しいことなんですよね。一歩引いて考えてみようとすると、それだけで一日が終わってしまうくらい。
デトックスをして、心を整える。この時間を持つからこそ、メンタルがクリアな状態を保てるんです。本当に役立ちますよ。