1社目のData Domainは数千億円規模でイグジット。2社目のServiceNowは10兆円の評価。そして今、CEOを務めるSnowflakeが圧倒的な成長率を実現──Frank SlootmanさんがCEOとして参画する事業は、いずれも「異次元」と呼べる成長を見せています。彼は、シリコンバレーにおけるプロ経営者の筆頭候補、と言っても過言ではないでしょう。
Frankさんは現在、Snowflakeの会長と最高経営責任者(CEO)を兼務しています。これまでもエンタープライズソフトウェア業界で25年以上にわたって、起業家やエグゼクティブとして活躍してきました。
2022年11月17日に開催した「ALL STAR SAAS CONFERENCE 2022」に、Frankさんが登壇。ALL STAR SAAS FUNDのマネージングパートナーである前田ヒロが、その経営スタイルを直接インタビューしました。
Snowflakeによって、データ分析は「新しい時代を迎えた」
前田:まずは、Snowflakeについて教えてください。手掛けていらっしゃる「データクラウド」とはどんなサービスなのか。お客さまにとって、どんなメリットがあるのか。ぜひご紹介いただけますか。
Frank:Snowflakeは、Oracleに長年在籍していた2人の技術者が創業した会社です。彼らは、データベースにおける最先端技術の中心にいましたが、プラットフォームがマシンとクラスター中心の状態からクラウドコンピューティングへ変化するにつれて、データベースのアーキテクチャについても徹底的に見直すべきだと考えました。
このクラウドプラットフォームによる再考で、パフォーマンス、経済合理性、ビジネスモデルにおいて驚くべきブレークスルーを起こしたのです。それまでのデータベーステクノロジーは、とても高価で、使い方も非常に難しく、最大規模の企業や機関だけが使えるものでした。
しかし、Snowflakeは使った分の利用料しか発生しない仕組みを採用しました。データベースに関するテクノロジーのハードルを大幅に下げることに成功し、世界中の最大規模の企業のみならず、小規模企業でも扱えるようになったわけです。
それだけでなく、イノベーションという点ではいくつかの重要なことを実現しました。たとえば、コンピューティングとストレージの関係を完全に断ち切り、それぞれ購入できるようになったのです。Snowflakeを使っていても、コンピューティングやデータベースを使っていない場合は、クラウドストレージの最低料金だけを支払えばよくなりました。以前までは不可能だったことです。
あとは、ワークロードのプロビジョニングを希望通りに扱えるようにしました。それぞれのデータのワークロードを、個別にプロビジョニングすることもできるのです。これにより、物事を非常に高速に実行したり、ニーズによっては低速で実行したりすることも可能です。
つまり、コンピューティングの時代がはじまってからずっと存在していた障害を打ち破ったのです。このような大規模な分析プロセスは約24時間、または週単位、月単位、四半期単位で実行されていたものですが、それでも完了させられなかったり、何日もかけて実行されているのが実態でした。でも、Snowflakeなら桁違いのパフォーマンスの変化を目の当たりにすることができます。20分かかっていたものが、20秒で動くようになるのですから。
もう1つ、同じデータに対して同時かつ無制限にワークロードを実行できるようになりました。こういった並行処理も以前まで不可能だったんです。膨大な数のバックログが発生し、デマンドが高くなってニーズに合ったプロセスを実行できませんから。処理に膨大な時間がかかってしまいますし、デマンドに対応するための容量が十分に足りていなかったのでね。
こうした制約が、完全になくなりました。分析の世界は、まさに一変しました。これらの変化は漸進的なものではなく、完全に「新しい時代を迎えた」と言っていいほど、大きな一歩となる機能です。
物事に制限をかけたり、限界を見たりするのは、テクノロジーではないのです。むしろ、私たちの想像力と予算なのだと思います。予算はもちろん大切ですが、テクノロジーがあなたを妨げることはないんです。Snowflakeは、すべての制限を取り払うための巨大なイノベーションだと感じます。それらがすべてクラウドで行なわれているわけですからね。
数あるCEOオファーから、Snowflakeを選んだ決め手は?
前田:Frankさんはこれまで、複数の企業でCEOとして就任し、素晴らしい実績を残されてきました。Data Domain、ServiceNow、そしてSnowflake。きっと多くの企業からCEOのオファーがあったのではないかと思います。Snowflakeを選ばれた決め手は何でしたか?
Frank:Data Domainはストレージの会社で、ServiceNowはアプリケーションレベルの会社です。Snowflakeは、ソフトウェアイネーブルメントとインフラストラクチャーの中間に位置しています。
私は、コンピューティングとテックの世界で自分のキャリアをスタートさせましたが、1980年代後半は「データ分析」がはじまったばかりだったのです。メインフレームのトランザクションシステムを使って、トランザクションレコードからデータ分析のような処理を実行していました。その頃のことはよく覚えていますよ。
何年か経って少しは改善されましたが、あの頃は単純なことですら実行するのがとても難しかった。長い間、何度も、何度も何度も、限界に直面してきました。そんな中、Snowflakeが現れたんです。そして突然、すべての障害や制限、限界が消えたのです。
クラウドコンピューティングとデータベース・アーキテクチャを組み合わせてスケールさせることを実現した。多くの人が、マシンアーキテクチャをクラウドに持ち込んで、マシン中心のアーキテクチャをホストしようとしますが、それでは何も解決できないわけです。でも、ホストするプラットフォームがクラウドに変わっただけで、大きなチャンスの扉が開かれた。
今までは、前日のニュースを24時間以内に伝えることもチャレンジングでした。ダッシュボードを更新し、新しいデータを提供したいだけなのに難しい。けれど、Snowflakeが現れた途端に、クラウド上でデータを学習できるようになり、データセット間の関連性を認識して予測までできるようになったんです。私たちは、これを「データをモビライズする」と呼んでいます。
それまで、ブロッキングやタックリングのような最も基本的なタスクさえ実行できなかったのですから、夢にも思わなかったような秘めていた価値を解き放ったのです。私たちは今、急速に前進していて、とてもエキサイティングな状況にあります。
特にヘルスケア領域は、予測しやすい分野になってきていますね。人々が特定の病気のリスクにさらされるタイミングを膨大な量のデータに基づいて、予測できるようにもなりました。医学は、人々が病気になるのを待って症状を治療するよりも、予測して事前に対処する流れに移行しています。これも、すべてがデータ分析によって実現されるのです。金融業界でも、保険業界でも、メディア業界でも、信じられないようなイノベーションが起きています。まさに革命と言えるでしょう。
そして、誰もが気付きはじめたのです。企業は、もはや仲介業者を通じた販売はせず、直販モデルに移行しているということにね。私たちは、プロダクトやサービスを利用しているお客さまと直接的な関係を築いています。これはデータを通して繋がっているからこそ実現できる。何千、何万、何百万人と、個人的な関係を持つことはできませんからね。データは、現実を分析してオペレーションを推進し、意思決定するための手段となっているのです。
私がSnowflakeを選んだ理由は、これまでできなかった単純なこと、少し前までは想像もつかなかったことを、実現可能にした技術を持っていたからです。とてもエキサイティングな時代ですよ。私のキャリアは、完全に一周したようなものです。私自身はキャリアの後半に差し掛かっていると感じますが、Snowflakeのソフトウェアとテクノロジーは並外れた力を持っていると思います。
SnowflakeのCEOになって「最初の100日間」は何をしたか
前田:Frankさんが、SnowflakeのCEOになられてからの「最初の100日間」について教えてください。先ほどのお話から、プロダクトは非常に良くできているのだと改めて感じました。何から着手されたのでしょうか?
Frank:まずは観察すること。これは本当に重要です。状況を観察して、判断するんです。
私は、プレイブックもアルゴリズムも持っていません。また、他の会社で実践したことを
繰り返すこともしません。どんな状況に遭遇するかで、その都度、判断をしています。自分の役割をどう定義するのか、何をするのか、何を優先するのか。それらは完全にどんな状況に遭遇するかによって変わってきます。
でも、いくつかのテーマはあります。たとえば、何が機能していて、何が機能していないのかは、新しい状況に置かれたとき論理的に考えれば判断ができます。機能していることは、そのままにしておきます。機能してないことは、拡大鏡で見て、何が起きているのかを理解しようとします。
最初の90日間、または30日間のうちにやることは、人員の整理です。「間違った人をバスから降ろして、正しい人をバスに乗せる」というアメリカでよく使われるフレーズがあります。でも、ほとんどの人はそうしません。誰もいなくなることを恐れるから、新しい人を先に見つけようとするんです。私の場合は、適していないと確信したらすぐにアクションをとります。機能していないことに対しては、すぐにでも状況を変えるべきだと考えているからです。
その後に、重要なポジションなどを変えていきます。組織のストラクチャーも変更します。たとえば、カスタマーサポートはエンジニアチームの所属にします。カスタマーサポートの受け手になるのはエンジニアチームですからね。どこの会社でもそうしてきました。論理的な方法なのですが、多くの企業ではそうしないですよね。あるいは、プロフェッショナルサービスはセールスチームに所属します。これも多くの場合、そうはしませんよね。
クリーンでメリハリのある組織をつくれ
前田:経営メンバーについても見直しを?
Frank:私は、COOもChief of Staffも置きません。そのモデルは採用せずに、私が作りたい組織の形に、組織の標準を合わせていくのです。
以前のSnowflakeは、CEO直下に15〜16名の部下がいました。しかし現在、私の直属の部下は5名です。彼らは非常に大きな任務を持っています。日々起こるさまざまなタスクや責任は、すべて彼らに任せるようにしているんです。
もっとも「そうするのが正しい」と言っているのではなく、好みですね。単にそれが私のやり方なのです。私が、直接報告を受けるべき任務があって、その任務に就いている人だけを自分のレポートラインに置いているのです。
CFOのレポートラインは私です。セールス、マーケティング、プロダクト、HRも、私が直接のレポートラインになっています。ただ、CLO(最高法務責任者)のレポートラインはCFOです。私はその方が正しいと考えているからで、多くの企業ではCEOがレポートラインになっているのではないでしょうか。
前田:HRまで見られているのですね。
Frank:HRは、私がとても注意深く見ている部門の1つなので。ちなみに、直属の部下は5〜6名ですが、それ以外にも「Extended Leadership Team」という大きなグループがあります。会社の経営は、私の直属の部下だけでなく、そのグループと一緒に行なっています。このグループのことを「ELT」と呼んでいるのですが、彼らの多くが私の直属の部下のようなものです。
レポートラインは別にいても、私は彼らと直接的に連携しています。階層や組織図にはこだわりません。単に「話をする必要がある人に話をする」というだけです。私は、断片化した組織も望みませんから、メンバークラスが私に直接レポートするようなこともありません。すべての人からレポートを受け取って、すべに目を通していくわけにはいかないのでね。
前田:ELTには、何人のメンバーがいるのですか?
Frank:12人ですね。
前田:それはマジックナンバーなのでしょうか。
Frank:マジックナンバーではありません。私にはそういうマジックのようなものはないのです。すべては状況次第です。別の会社なら増減することもあるでしょう。
たとえば、CIOやCLO、プロダクト部門の幹部もメンバーに入っています。ビジネスの性質によって変わるものですし、人材にもよります。将来、ELTに人が増えていく可能性がないとは言えません。ただ、そのフォーラムに参加するにふさわしい人物でないといけない。誰もがそのフォーラムの一員となれるのではなく、非常に高い信頼と質が必要になります。信頼性の問題などに悩まされるわけにはいかないからです。
とても密なグループになっていて、縦割りでもなく、上下関係もなく、本当にネットワーク化されています。ですので、このグループを運営するためには非常に優れたシニアの人材が必要です。
前田:他にも、組織の設計で気をつけていることはありますか?
Frank:重要なのは、非常にクリーンでメリハリのある組織を作ること。さもなければ、組織が大きくなるにつれて内側から崩壊しはじめるからです。
今年、私たちはすでに1,000人以上を採用しています。これだけ多くの人を受け入れるためには、非常にクリーンな管理体制があること。そして、リソースを効果的に活用できる体制を持たなくてはなりません。組織はどんな飾りでも付けられるクリスマスツリーではないのです。もっと複雑なものですから。
つまり、合理性を標準化し、組織を衛生的にし、コミュニケーションを明確にして、一緒にいる優秀な人材や強力な才能を、より強化させることです。
機能していないことは、とにかく速いスピードで切り離していくべきです。周囲を見渡し、耳を傾けて、質問をすれば必要なことが何かは分かるはずです。そして、オペレーションに落とし込むのです。分単位、時間単位、日単位で実行に移していくのです。すべてのことが物事を正しく変化させ、正しく優先順位づけをする機会になるのです。
日常的に異なる対策を考え、優先順位をつけて、リソースを割り当てていく。そうすることで実行スピードは段々と速くなり、ミッションへの取り組み方が、さらに強化されていく。ミッションは、すべての中心となる北極星のような存在ですからね。すべてを一直線に揃えて、明確にし、本当にすべきことだけに集中させるのです。
最初の90日間は、とても大変で、そこにいる人々をとても不安にさせると思います。申し訳ないと感じますが、避けて通ることはできません。時間が経つにつれて、物事は驚くほど安定し、予測することもできるようになります。
たとえば、エグゼクティブチームの構成は最初に変更して以来、4年間何も変えていません。決して離職率の高い組織というわけではないのです。むしろ、とても安定して、規律正しく、集中できる組織になっています。
それは「平均的な人が売ることができるプロダクト」なのか?
前田:少し角度を変えて、質問させてください。Frankさんがとてもエキサイティングなテクノロジーを持つ会社に出会ったとしましょう。その会社で「壊れていても構わない」と思うものはありますか?要は「修復できること、修復できないこと」についての見解を聞かせてください。
Frank:とても良い質問ですね。私は時々、カードプレイヤーのたとえを使います。トランプを手にする前に大切にすべきことが2つあります。1つ目は「良いカードプレイヤーであること」で、2つ目は「良いカードを持っていること」です。
良いカードがなければ、いくら優れたカードプレイヤーでもあまり意味がありません。逆も然りで、良いカードを持っていても、そのプレイ方法を知らなければ、同様にうまくいきません。
以前、ある大手ソフトウェア企業のCEOが私にこう言ってきたんです。「あなたは本当に優秀なCEOなのか、それとも優秀な企業を選ぶ方法を知っているだけなのか」とね。それで私は「どちらの要素も必要です。どちらか一方だけではうまくいきません」と答えました。
修復できないものもあります。先ほどのたとえなら、持ち手のカードは直せませんよね。つまり、プロダクトとPMFは直すことができません。でも、それ以外は直せます。単純な話だと思いますよ。もちろん、すべての人にとって単純であるとは限りませんが、確実に対処できることであり、修復が可能です。
でも、マーケットに通用しないプロダクトを直すのは、ほとんど不可能です。それは、砂漠で水を探すようなもの。はじめに確認すべきは「これは通用するプロダクトなのか?」「PMFしているのか?」です。世の中はプロダクトで溢れていますからね。他のプロダクトに比べて10倍以上の差別化ができていなければ、本当に価値あるプロダクトでなければ、周囲のノイズを打ち砕くことはできないでしょう。
たとえば、あなたのプロダクトを、あなたが採用したセールス担当が営業するとします。その担当者のセールススキルは平均的なレベルとしましょう。彼にプロダクトを売ってもらうには、プロダクト自体が本当に優れたものでなくてはいけません。そうでなければ、拡大できません。創業者がそのプロダクトを売れるからといって、それが「通用するプロダクト」であるとは限らないのです。
これは、皆さんに覚えておいていただきたい。創業者というのは、とても雄弁で、とても明晰で、情熱的です。それゆえ、彼らからプロダクトを購入しようとするかもしれません。でも、その結果として5人のお客さまを得たとしても、ビジネスにはなりません。「平均的な人が売ることができるプロダクト」になってから、やっと次の領域に入っていけるのです。
セールス責任者よりも、まずはプロダクトを疑え
前田:ご著書の『Amp It Up』は、僕のお気に入りの一冊で、リーダーシップとマネージメントについて多くを学びました。実践的なアドバイスがとても多く、考え方も新鮮でした。その中に「実行のない戦略は、戦略のない実行と同じくらいに価値がない」という言葉がありますね。僕はこの言葉をとても気に入っています。ぜひ、詳しく教えていただけますか。
Frank:後半の部分については、それが正しいのか自信はないんですけどね……ひどい戦略でもうまく実行することで、成功することもありますから。ただ、良い戦略がなければ、上限が限られてしまうのは明らかですよね。素晴らしい戦略があっても、それを実行できなければ何も意味をなさないのです。
かつて「実行に勝る戦略はない」と話してくれた上司がいました。戦略が優れていても、実行が戦略の素晴らしさに応えることができなければ、その戦略も意味がなくなってしまう。そして、実行に優れている人、あるいは良い経営者は、より優れた戦略家にもなれます。なぜなら、その戦略に何が欠けているのかを、より明確に理解できますから。
うまく実行できているかどうかが分からないから、戦略と実行それぞれに問題があったときに、何が問題なのかを区別できないという人が多いのです。
シリコンバレーやソフトウェア業界では「プロダクトに向き合うこと」を恐れる人がよくいます。そして、いつもセールス責任者を解雇しようとします。プロダクトが売れないのは、セールスの実行力に問題があると考えるからです。「セールスがその問題を解消できるはずだ」と非現実的な期待を持っています。でも、それはプロダクトが通用していないだけかもしません。セールスの問題の多くはプロダクトに問題があると、私は捉えています。
「ビジネスをするときは、自分を医者だと思え」という、たとえを使います。原因を正しく分析しなければ、解決できません。私たちは、問題の性質が何なのか、すぐに結論を導こうとする傾向があるんです。そして、リーダーシップやメンバーの配置をすぐに変更してしまいます。「新しい人が問題を解決してくれるだろう」なんて考えるからです。
前田:先ほどの話を深掘りすると、なぜ、セールス責任者が問題だと思うのでしょうか?
Frank:プロダクトを疑う人が少ないんです。プロダクトが良くない、良いPMFをしていない、という疑問をなかなか持てない。よくあることです。これはシリコンバレーに「ゾンビ企業」と呼ばれる会社が多い理由です。ゾンビ企業とは、ひと握りのお客さまはいても、成長スピードが鈍い会社のことです。たいていの場合、プロダクトを売ったのは創業者で、そこから加速しないのです。
そして、単にPMFしていないだけなのに、セールスの問題だと考えてしまう。セールス側がうまく実行していても売れないことがあるなら、問題はセールスにはない確率が高いのです。アーリーアダプターではない、マジョリティと呼ばれるお客さまに初めてプロダクトを売ることは、ある種のキャズムを越える瞬間です。それはとても難しく、そこでやっと本当にマーケットやビジネスが存在し、本当にプロダクトが求められているのかが分かるのです。
この問いの答えを探すのは、最初の何十人にプロダクトを売るよりも難しい。私は、お客さまがいないときの方が、物事は簡単に進むと感じることさえあります。
前田:ゼロであれば判断しやすいですからね。「ゲームオーバーだな」と言って、次に進めますからね。
Frank:お客さまが少しでもいると、「プロダクトが通用している」と思って、さらに投資をして、希望を持ってしまいますよね。でも、そうすべきではないのです。通用しないビジネスかもしれないし、時間とお金を費やした結果、何にも繋がらないという事態に陥るかもしれません。
私がビジネスにおいて最も注目するのは、スピードです。スピードが十分なときには、そこに「何か」があります。人々が、競ってプロダクトを手に入れようとしているのであれば、「何か」が正しく動いていることを示しているのです。
スピードがない場合、そこには深刻な問題があります。克服できず、解決できないかもしれません。ほとんどの企業は、存続することさえできないのです。だから、通用するプロダクトではない可能性を考えなければなりません。
ただ、これは多くの人にとって難しいことです。本来、彼らは自分を信じるべきなのですから。創業者であり起業家であるゆえ、信じなくてはいけない。だからその現実に向き合うことが難しいんです。アメリカでは「That Dog Won't Hunt(あの犬は狩りをしない)」なんて言うのですが、犬が狩りをしなくても、私たちにできることはないんですよ。
創業者とCEOには、大きな違いがある
前田:スピードが大事だとおっしゃいましたが、PMFを達成しているかどうかを判断するための基準や、求めているスピード感などはありますか?
Frank:スピードがあれば、分かります。ないときも、分かります。ミステリーなんてないんです。物事は中途半端にはいかず、「うまくいくか、いかないか」のどちらかです。中間地点なんてありません。
実際にそれは良いことなんですよ。人々はよく資本主義について不満を言いますが、資本主義には何の意見もなく、マーケットはただのデータです。耳を傾ければ、シグナルを発していて、フィードバックを与えてくれるんです。スピードがないときは、マーケットの方から「あなたは何も持ってないんだよ」と教えてくれます。
問題は、それを処理して対処できるかどうかです。あなたが望む状態ではなく、目の前にある本当の課題を理解しなくてはいけない。人はいつも、自分が納得できるような解釈や説明を加えようとします。でも、あなたが受け入れ難い現実とは何なのか。それが真実である可能性はないのだろうか。これを「intellectual honesty(知的誠実性)」と呼びますが、非常に重要なコンセプトだと思います。
創業者たちは「Reality Distortion Field(現実歪曲空間)」に悩むものです。この言葉はスティーブ・ジョブズの全盛期に作られた造語です。彼には現実歪曲空間があったから、クレイジーなアイデアを現実にできました。確かに、それがなければビジネスははじめられませんから創業者には必要なのです。でも、一度でもビジネスになったら問題に変わってしまう。
なぜならCEOは、自分の描いた姿ではなく、ありのままの事実を見なくてはいけないからです。創業者とCEOには大きな違いがあるんです。創業者には思い込みが必要でも、CEOはそうはいきません。ありのままの事実を見て、問題を解決しなくてはならない。だから、創業者の多くは良いCEOではない。そして、逆もまた然りなんです。
前田:Frankさんにとって「これで十分実行できている」と思えるポイントはありますか?または、ハードルは常に上げているのでしょうか。「実行の質」を判断する基準は?
Frank:私たちのカルチャーに「Milk Content(満足を絞り出せ)」という言葉があります。「私たちは決して幸せになることはない。幸せでないことが、幸せだ」ということです。私たちが「こうなりたい」と思っていることと、実際の姿にはいつもギャップがあります。そして、常に現状に不満を持って生きている。それが好きなのです。
自分のことを「誇らしい」と思う瞬間を迎えたとしたら、あなたが限界に達したときです。今いる場所に満足しているわけですからね。でも、心理的に満足できる場所に自分を置くことを決して許してはいけません。だから私は、投資家にこう言うのです。「あなた方が私に望むべきは、私が満足してない姿ですよ」とね。
もし満足しているように見えたら……それは私の心が別の場所にあって、本来在るべき場所にいない、ということになりますから。
キャリブレーションセッションの必要性
前田:『Amp It Up』で、キャリブレーションセッションについても書かれていましたね。キャリブレーションを行なう理由と、どのように機能するのか教えていただけますか。
Frank:組織内の一貫性を評価するプロセスです。それぞれの部署にいる人が、どのように評価されているかを知るものですね。マネージャーによって、部下に対する評価が異なることがあるので、キャリブレーションセッションを通して組織内の一貫性が保てているのかを調べます。もし保てていなければ問題ですから。
あるチームから「任務を遂行できていない人だ」と思われていても、他のチームからは「遂行できている」と思われていることがあるんです。これは問題であり、原因を理解する必要があります。
まず、エグゼクティブ全員が出席するミーティングを開きます。そこではシンプルな4象限グラフを使って、評価対象となる人についてプレゼンしてもらいます。「潜在能力」と「パフォーマンス」を軸に高低を見ます。パフォーマンスが低くても、潜在能力が高いこともあり得ます。その場合、その人には成長が求められるので時間がかかるということですね。
エグゼクティブには、部下それぞれの評価をグラフにしてもらって、残りのエグゼクティブたちに「その評価に同意しますか」と尋ねます。「はい」の場合でも理由を確認することで、評価についてより確かに理解できます。「いいえ」の場合は掘り下げます。
エグゼクティブ同士の意見がぶつかるのは辛いことですし、難しいセッションですよ。でも、こうした問題はいつでも起こりえますし、何らかの方法で対処しなくてはなりません。私は、一貫性のある組織を保つことは非常に重要だと考えています。「私がどう思うか」よりも、「チームがどう感じているか」の方が大切ですから。
私が「特定の人」について知りたいときはエグゼクティブたちに聞くんです。そこで全員から同じような回答が返ってくれば、うまくいっているサイン。回答が異なっていたら、問題です。そのときは、タマネギの皮を剥くように1つずつ原因を理解しようとします。組織のバランスが良く、高い信頼があれば、それぞれが指摘し合うことができ、組織の中で優れた実績を作れるでしょう。でも、少しでもパフォーマンスが低い人がいると、多くの問題を引き起こしてしまう。
多くの人は、その問題に立ち向かおうとはしません。追求するというのは、やはり気まずいことですし、相手の面目をつぶしてしまうと思うかもしれません。でも、リーダーとして、私は追求します。問題を放置するわけにはいきませんから。
仕事に取り組む中で、誰もが「この人は、素晴らしい」と思う人と一緒に働きたいですよね。もし、そう感じないとしたら、原因を追及しなくてはいけません。チームとして団結して話し合います。自分の意見を主張するのではなく、データや状況、そして実際に起きていることを基に話し合います。根拠なく意見を主張する人は、根拠なく却下されます。
前田:セッションは、どのくらいの頻度で行なわれるのですか?
Frank:3〜4ヶ月ごとくらいですが、決まった頻度はありません。セールスチームでは四半期に一度、業績評価の一環として実施しています。パフォーマンスが高いチームだからこそ、何度も何度も取り組むのです。
セールス担当者というのは、よく「いないよりは、いた方がいい」と考えます。でも、それは間違いです。パフォーマンスの低い誰かがいるくらいなら、誰もいない方がマシです。パフォーマンスを出していない人に対して行動を起こさなければ、リーダーとしての「惹き付ける力」を失います。
このセッションを行なうのは、かなり難しいことだと思います。基本的に、全員が透明性を保つ約束をした上で、お互いに率直なフィードバックを提供することを前提としなければなりませんからね。セッションの目的や実践する理由を、きちんと伝えることも重要になると思います。
前田:「そこから得られるものが何か」を分かってもらう必要がありますよね。Frankさんは、エグゼクティブたちにどのように説明しているのですか?
Frank:全員がもちろん理解していますが、相手への想いが強いときは難しいものです。意見が分かれると、状況によっては集団攻撃を受けているようにさえ感じます。
そうならないためにも、多くの信頼が必要です。そして、実際に見たこと、経験したことに基づいて話をしなくてはなりません。「この人は好きではありません」とか、「私たちは対立し合っている」とかではなくね。まさに「信頼のテスト」なんです。関係性が試されるという意味では、とても健全な取り組みだと思いますよ。
少し前に、ある人が他の人の意見に対して激しく抵抗したことがありました。彼らは感情的になって、議論にならなくなってしまいました。そんなときは、3〜4ヶ月ほど時間を置いてからもう一度話し合います。こういう場面に直面したリーダーは、周りの意見が正しかったということを時間が経ってから感じはじめる傾向があるのです。証拠はどこかから必ず出てきますから、待つのも無駄な時間ではありません。ときにはそういうことも必要なのです。
もっと早く対処できれば...と思うこともあります。でも、私一人で経営しているわけではないですし、一緒にやっていくべき組織があるということを、私も認識しなくてはいけないのです。
優先事項がひとつ以上あったら、それは優先とは言えない
前田:著書の中で「人々をアラインすることの重要性」について何度も言及されていましたね。どのようにアライメントをしているのか、教えていただけますか。キャリブレーションセッションが、その1つの方法だとは思いますが。
Frank:アライメントとフォーカスは、コインの裏表なのです。多くのものが加わり続けることで、組織はとても薄く広がっていきます。私はそれを「幅1マイル、深さ1インチ」と呼んでいます。
組織は、同時にたくさんのことに取り組んでいますが、すべてが迅速に進むわけではありません。でも、誰も減らす取り組みをせず、ただただ追加されていくので、時間とともに悪化していきます。そして、地獄のような遅さで進み続ける。
取締役会で、10個の優先事項を並べてくる人がいますが、それは優先順位がないのと同じことです。アライメントも同じでしょう。人々は何に取り組んでいるのか。コアミッションにアラインできているのか。それともミッションとの関連性が薄いことにたくさん取り組んでしまっているのか。それらを都合の良い形に言い換えて、「ある種の関連性がある」と言うかもしれません。でも、「ある種の関連」なら、関連していないということですよ。
優先すべきは、コアミッションと完全に連動している取り組み。つまり、絶対的に必要なことだけです。ミッションに連動していない取り組みなど、考える必要さえありません。
サイバーセキュリティの世界ではよく言われますが攻撃の角度を狭めるのです。攻撃の角度を狭め、そこに対して自分の時間を使ってください。ミッションにフォーカスして、当たる数を絞ってください。数を減らすことにより、より多くのリソースを使えるようになって、より速く、もっと大きなインパクトを生み出せるのですから。
「幅1マイル、深さ1インチ」ではなく、もっと狭く、深くいくべきです。リソース配分は、本当に重要なことです。リソースを最大限使いこなす必要があります。そうして、やっと物事が進みだします。フォーカスせず、リソースが不足し、うまくいかないケースをたくさん見てきました。人間は、同時に色々なことをするだけで満足してしまう生き物なんです。でも、そうであるべきではないのです。
前田:著書の一節でも「優先事項がひとつ以上あったら、それは優先とは言えない」は記憶に残る格言ですし、とても刺激されました。
Frank:優先(Priority)は、複数形であるべきではないんですよ。単数形であるべきです。
「速すぎる成長」など存在しない
前田:次に「成長」についてお話しさせてください。Frankさんが、これまでの会社で達成された成長は本当に驚くべきものだと思います。僕の観点からは、想像を超えた成長なのですが、会社の成長スピードはどのように決めているのですか?成長スピードが速いのか、遅いのかを、判断するにはどうしたら良いのでしょうか。
Frank:私が経験から言えるのは、速すぎるということはありません。そうやって素直に言える人がいたら会ってみたいくらいです。これまでの20年間、確かに急成長を実現できたと思っています。でも後から考えると、もっとできることがあったとも感じます。
皆さんに伝えたいのは「成長の余地」は必ずあるということ。問題は、成長が速すぎることではないのです。そこに十分な傾斜があるかどうかです。何らかの理由で、十分な傾斜がないと思っても、それが問題というわけではありません。
2011年、 ServiceNowにインタビューをしたとき、彼らはまだ収益7,000万ドル程度の小さな会社でした。彼らは毎年100%成長していて、そのことをとても誇りに感じているようでした。あるとき私は、取締役会の議長に尋ねたんです。「もっと速く成長することはできますか?」と。彼は、自分たちがうまくやっていると思っていたからでしょうが、私の質問にとても腹を立てていました。
私は別に、嫌なやつになろうとしていたわけではありません。彼らが成長についてどのように考えているかを理解したかったのです。ある人にとって、100%成長は信じられない速さかもしれませんが、ある人にとっては、30%が信じられない速さかもしれないでしょう?
ですから、「これなら速い」「これなら遅い」と一概には言えないんです。状況による、ということですね。それ以上のことができるかどうかに関係なく、私が伝えたいのは、全力で、速く、身を乗り出すことです。「やり過ぎた」というポイントまで到達したかどうかは、あなたが決めるべきです。
ただしそれは「怖くなった」という理由ではダメです。リソースを使っているのですから、リソースがおかしな形で使われていないかなど、不安になることは理解できます。あなたのその恐怖は、正しい感情です。今まさにリソースを注ぎ込んでいるわけですからね。
でも、考えてみてください。あなたのプロダクトが順調に売れていて、もっと利益を出すためにセールス担当者を2人、5人、または10人と増やしたいと考えているとしたら、なぜあなたはそれをしないのでしょうか。何を待つ必要があるのでしょう?
経営者が目指すべきは、利益や収益の成長ではなく、ビジネスの成長なんですよ。5歳の子供でも、大きな利益を得るためには、大きな収益が必要であることは分かるでしょう。そして大きな収益を得るためには、大きな成長が必要です。すべては成長。ここに返ってくるのです。
企業の評価額や市場価値を上げるには、成長しなくてはならない。とにかく、成長に集中すべきです。単純な利益をあげるのではなく、ビジネスの本質的な利益をあげなくてはなりません。そのためには、ビジネスの粗利が高くなければなりません。コストよりも安い価格で何かを売っていたら、それは明らかに存続可能なモデルではありませんから。
必要なのは、本当のユニットエコノミクスです。そうでなければ、拡大させることはできません。営業利益というのは、経営効率からくるものですから。これを売るために、これを作るために、いくらかかるのか。優れたキャッシュフローモデルが必要です。基本的には、成長がすべての原動力になります。
そして戦略的にも、成長は、競合相手との間に差を作ります。そうやって、競合相手を打ち負かすのです。競合相手を追い越し、彼らより成長するのです。彼らより成長するしかないんです。強調してもしきれないほど大切なことです。
資金はいつでも調達できるのですから、自分が持てるすべてを成長のために使うんです。これは「愚かになれ」という意味ではありません。資金は賢く生産的に使うべきです。利益になるなら、リソースを当てて、リソースを解き放つべきでしょう。
計画は実行者に立てさせる
前田:「目標を達成できない」と恐れている人に対して、どう対応していますか。成長を重視されるFrankさんは、常にバーを上げ続けるのではないかと。そうなると、ノルマを達成できない可能性が高くなることもあるのでは、と感じるのですが。
Frank:私もノルマの未達は怖いです。みんな、同じですよ。私は、無理な要求はせずに、彼ら自身に計画を立てさせています。
長い間、一緒に仕事をしてきたセールス責任者がいました。Data Domainの初期の話なのですが、私は彼に「来年の計画を教えてほしい」と尋ねたんです。確かその前年には6,000万ドルを達成していた頃ですが、彼は「1億ドルは達成できると思う」と言いました。しばらく話し合った後、私は「1億2,500万ドルにするためには、どうすれば良いと思う?」と聞いたんです。
すると彼は「やらなくてはならないこと」を次々と挙げはじめたんです。だから私は、「それをやってみようじゃないか」と言いました。彼は、より高い数字を達成するために必要なことを自ら説明したわけです。
人は失敗を恐れるあまり、無難な数字にしようとすることがありますからね。達成率が高ければ、報酬も手厚くなります。でも、より高い成長を実現すれば、会社の価値が高くなることは明らかです。成長率が高ければ高いほど、すべての人に利益をもたらすのです。
それでも人は、困難なことには立ち向かいたくない。「自分の数字を達成しなければ、面目丸潰れだ」と不安がってね。これは信頼が欠如しているんですよ。自分の可能性を最大限に伸ばすしかないんですから。
不景気にCEOはどう立ち向かうべきか?
前田:Data Domain時代のFrankさんは、2008年の金融危機を経験されましたよね。そして2020年、新型コロナウィルス感染症による不景気にも直面したはずです。これまでの経験から、CEOは不景気にどう対処すべきだと思われますか?実践的なアドバイスがあれば、いただきたいです。
Frank:ニュースに振り回されず、ビジネスの中で起きていることだけに反応すべきです。メディアというのはセンセーショナルに取り上げるものですから。あなたのビジネスは経済全体のほんの一部にすぎないのですから、状況が当てはまらないかもしれません。そして、あなたの現実は隣の人ともまったく異なるかもしれません。
投資家に対してこんなことを言ったことがあります。「私は、マクロが何を意味するのかすら知りません。私に見えているのは、経済全体の中のほんの一部です。だから私が話せることは、自分の現実に起きていることだけです。私は、連邦準備制度理事会のメンバーではありませんし」とね。
自分が見えている現実の範囲では、私も意見を持っていますがね。ビジネスがうまくいっているのにニュースに怯えるなんて愚かなことです。そのビジネスは完全に健全かもしれないわけですから。耳に入ってくるニュースに、実際に苦しめられていないのであれば不安というだけでなぜ減速する必要があるのでしょう?繰り返しますが、愚かなことですよ。
怖がることや、愚か者になるために報酬をもらってるわけではないですよね?「来月……いや、次の四半期に何かが起きるかもしれない」と不安になるかもしれません。でも、それは起こらないかもしれないじゃないですか。
私は、コロナが発生したとき、みんなに「それが何を意味するのかさえ分からないかのように振る舞おう」と伝えたんです。まるで存在していないかのように振る舞うのです。恐れを受け入れてしまった瞬間、あなたはすでに道を見失ってしまう。「言い訳」が成立してしまいますから。「今はコロナが発生しているから......」とかね。
でも、私たちはペースを変えませんでした。それどころか、そんな恐れなど葬ったのです。私たちは、オフィスもマーケティングイベントもすべてを一晩でデジタルに変えました。必要だからやった。それだけのことです。決してコロナを言い訳には使いません。
世の中に惑わされないでください。あなたの世界で何が起きているのかを観察して、判断を下すのです。3ヶ月後に厄介なことが起こったとしても、変化を起こすことはできるんですよ。なぜ早々に手を引こうとするのでしょう?理解できません。
ちなみに、私が経験した最初の景気停滞は2000年のことでした。それはもう本当に厳しかった。5年間はIPOもなく、その数年、世界は終わったかのようでした。とんでもなく長い時間でした。そして、2009年の第一四半期は、実にひどかった。1ヤードラインで取引が止まってしまう。CFOは「できません」ばかり言っていました。とても厳しかったのですが、それが続いたのは、その第一四半期の間だけでした。その後、緩やかになっていったんです。そういう状況を見てきました。
簡単に引き下がるわけにはいかないんですよ。ときどき、会社が大量の社員を解雇しているのを目にします。そんなに必要でないなら、もっと前に辞めてもらえば良かったのにと思うんです。
凡人になるな、そして奮い立たせろ
前田:Frankさんを奮い立たせる源は何ですか。それを交えて、ぜひ読者へメッセージをください。
Frank:その2つの質問の答えは、どちらも「AMP IT UP(奮い立たせろ)」ですね。奮い立たせることで、コアな信念を維持できるのです。これは、私が唯一持っている強い信念で、著書でもその信念を共有したかったのです。
あなたは何かを手に入れたい。私生活にあることでも、何でも構いませんが、何かを手に入れたいとしたら、リソースのアライメントと徹底的なフォーカスが必要です。この概念を完全に理解して、優れたフォーカスとリソースを活用できれば、ほぼすべてのことを達成できるのです。問題は、多くの人が同時に50のことに取り組み、中途半端になって結果を得られず、何度も何度も自分に対して失望してしまうことです。それは、凡人がすることです。
軍隊では「あなたが敵に打ち勝ちたいと思うなら3倍のリソースが必要になる」と言われます。これは彼らの経験則であって、正しいかどうかは分かりませんが、ビジネスでは全力を尽くすのです。あなたが持っているもの、想像できるすべてのものを使い、焦点を絞ります。多くの問題は、意志の力と強い決意、そして考えられる限りのすべてをぶつければ、解決できます。
これを試したことがない人の方が多く、経験したことがないのです。一度経験すれば、解決できないことや対処できないことは何もない、と感じるでしょう。ここで私が唯一、注意していることを共有しますね。それは、多くの問題は解決できますが、解決できないかもしれない問題もあるということです。通用しないプロダクトであるときには、ただ努力するだけではだめなのです。プロダクトの中には、スパークのようなものがあり、魔法があり、捉えることができない要素があります。
私は、大成功した多くの創業者を知っていますが、彼らはみな、何度でもできると考えていました。彼らはシリアルアントレプレナーになり、成功を何度も再現できると考えていたんです。でも、それは無理だと気づきます。できると思い込んでいただけで、非常に難しいことであると気づくのです。想像よりも多くの変数があり、運や自然の摂理の要素が多くあったのだと。
そうしたものがあると思っていますし、私はそれらをリスペクトしています。意志の力だけでプロダクトを成功させられるなら、すべてのプロダクトが成功するかもしれませんから。でも実際は、そうはならないのです。