SaaS企業の急成長には、優れたプロダクトや適切なマーケット選定、効果的なGTM戦略が不可欠だと言われています。しかし、見過ごされがちな要素もあるのです。それは「CEOのマインドセット」です。
従業員100人を超えるまでの成長フェーズでは、CEOの考え方と時間の使い方が企業の成長速度を左右します。そこで今回、直近のシリーズBで70億円の大型調達を実現させ、急成長を続けるログラスの代表取締役CEO・布川友也さんを招き、その経験を振り返っていただきました。
布川さんは大学卒業後、投資銀行でのM&A・IPOアドバイザリー経験を経て、上場直後のITベンチャー企業で経営戦略を担当。IR・投資・経営管理を中心に携わり、東証一部への市場変更を経験した後、クラウド経営管理システムを提供するログラスを創業しました。
組織規模15人、50人、100人といった各フェーズ、シリーズラウンドが進んでいくなかで直面した課題とその解決策とは何だったのか。1on1やSlack、会議など、あらゆる場面でどのように成長を意識したコミュニケーションを取るべきかをお聞きしました。
ログラスの成長を支える精緻な予算管理
前田:シリーズBで70億円という大型の資金調達、おめでとうございます!それを実現できたのも、投資家や株主と握っている予算の達成が大きな要因だったと思うのですが、目標設定についてはどのようにアプローチしていますか?ストレッチしすぎると絶望的になり、低すぎると緩い空気になってしまいますよね。
布川:SaaSビジネスでは、基本的にパイプラインを見ることが重要です。セールスフォースを年商5億から100億へ成長させた経験が記された『成功しなきゃ、おかしい 「予測できる売上」をつくる技術』にも書かれていますが、目標金額の3倍から5倍のパイプラインがないと絶対に目標未達になります。
ログラスは3ヶ月サイクルなので、例えばクォーターで20億円のARRを目指す場合、100億円くらいのパイプラインが必要です。これだけで3ヶ月先を見通せるんです。
さらに、パイプラインのコンバージョンレートを毎月測定しています。「期初のパイプラインから受注まで落ちていくパーセンテージ」を見ていないSaaS企業が意外に多い。ただ、実はログラスもこの1年ほどでようやく取り組みはじめました。その結果、予測の精度が格段に上がり、さらに1クォーター先の予測もできるようになりました。そうなると、今後の半年ぐらいは科学できることが、SaaSビジネスモデルの良いところだとも言えます。
前田:パイプライン管理の重要性がよく分かりました。具体的にどのような取り組みで精度が上がったのでしょうか?
布川:一番大きいのは、ディールレビューを徹底的に行なうようになったことです。各営業が持っている商談が本当に成立するのか、いつ成立するのか、現在どのフェーズにあるのかなど、言わば「当たり前のこと」を細かくチェックしています。同時に、それをレビューできるマネージャーの育成も行ないました。
最初はお互いに忖度して甘めのレビューになっていたんですが、予測が外れすぎるので、「本当に実現できるのか」と厳しく問うミーティングに変えていきました。この雰囲気の変化が第一歩だったと思います。
また、セールスフォースのダッシュボードも作り込みました。今では、ログラスのSlackチャンネルで、毎日自動的に全社員に対して現在のパイプラインの状況が共有されています。そして、「全社でいくらのパイプラインがないと目標未達で終わる」ということを全社会議で毎週言い続けるようにしているんです。
そうすると、営業だけでなく、マーケティングもカスタマーサクセスも、さらにはエンジニアまでもが数字を見るようになる。みんなが数字を意識することで、全社一丸となって目標に向かって頑張る雰囲気が生まれてきました。
目標設定の精度とプレッシャーのバランス、いかに図るか?
前田:目標でストレッチしすぎている状態や、逆に緩すぎる状態はどのように測っているのでしょうか?何か指標はありますか?
布川:基本的には、達成率や未達率が上下15%以内に収まっていないと高すぎるか低すぎると考えています。例えば、売上目標10億円に対して8.5億円までなら「あと一歩」と思えますが、40%未達だとまったく届かない印象になります。
この15%という数字には理由があって、3ヶ月(約12週間)の期間で考えると、20%は約2.4週間に相当します。20%を越える未達だと2.4週間前の時点で既に無理だと分かってしまう。それ以下なら、あと1週間頑張ればいけるという感覚が生まれます。30%未達だと丸々1ヶ月分足りないことになり、間違いなく無理が生じます。
人間があと一歩、1%頑張って届き得ると感じられる限界値が、大きくて20%くらいなんじゃないかと個人的に思っています。
前田:つまり、個人や組織のケイパビリティの15%上を目指すということですね。
布川:それが理想の水準ではないでしょうか。SmartHRの倉橋隆文COOがおっしゃっていた「全体の7割が達成し、3割が未達になるような目標設計が理想」(記事はこちら)という考えに近いかもしれません。それを私は、全体で15%ビハインドまでしか許容できないと捉えています。
前田:投資家に見せる数字は、社内より15%ディスカウントしているのでしょうか?
布川:実は、私の性格上、ストレッチ目標をそのまま出しています。エクイティ投資家の方々は、多少の未達を「アグレッシブな目標設定だったんだね」と理解してくれます。上場企業では避けるべきかもしれませんが、このフェーズだからこそ、信頼できる投資家の皆さんに対して「是が非でも目指す目標」を提示しています。
前田:このフェーズだからできることでもありますね。
布川:そうですね。信頼できる皆さんだからこそ、という面もあります。
前田:目標達成に向けてのコミュニケーションも重要だと思います。ディールのチェックについてのお話に通じますが、プレッシャーのかけ方はどのようにしていますか?
布川:そもそも、ログラスは予算策定や予実管理のSaaSを提供している会社なので、「そういうサービスを作っている会社が目標未達や大幅な予実のずれを出すのはありえない」という前提があります。これはログラスの存在意義そのものに関わる話ですから。
また、WACCという言葉を使っているのですが、これは資本コスト(Weighted Average Cost of Capital)のことです。株主や債権者からの信頼をもとにした、低いハードルレートで資金を提供してもらえるかどうかは、予実の達成率や将来の見通しの透明度に大きく依存します。
ファイナンスの世界では、予実がミートしている会社は同じキャッシュフローでも企業価値が高く評価されます。つまり、予算達成イコール信頼向上、信頼向上イコール企業価値向上という図式です。これを社員には入社時研修や毎月の会議で説明しています。「なぜ目標に到達しなければならないのか」という理由と強い動機づけとも言えます。
例えば、ヒロさんのような投資家がログラスへ投資したとき、ある期待値をもとに株価をつけるわけですが、スタートアップの場合、その期待値は現状のバリュエーションより高いことが多いです。でも、予実がミートしていないということは、その株価に対して私たちが期待に応えていないということになります。だからこそ、目標は絶対に達成しなければいけないし、明らかに不可能な場合は投資家に説明して目標を下げなければならないんです。
前田:なるほど、投資家を含めた外部からの期待を社内にも浸透させることによって、目標の重要度も理解してもらうと。
布川:さらに、ミッションやビジョンとの関連も強調しています。目標に到達しないということは、ミッション達成への速度が落ちているということです。例えば、30年で達成予定のミッションが50年、100年と伸びてしまうかもしれない。そうなると、私たちはもうこの世にいない頃になってしまうかもしれません。そういった観点からも目標達成の重要性を説明しています。
CEOの役割と「戦時のリーダーシップ」
前田:常に全員が順調であるわけではなく、チームや個人によって不調や未達が生じることもあると思います。そういった場合、CEOとしてどのようなコミュニケーションを取られていますか?
布川:私は原則として、未達になった人に対して「どうしてか?」と言っても意味がないと考えています。むしろ、未達になる前や危険な兆候を検知することに努力を注いでいます。
具体的には、ログラスは出社を重視する文化なので、オフィスでのちょっとした接点を大切にしています。お手洗いで隣り合ったり、廊下ですれ違ったり、エレベーターで一緒になったりするたびに、「最近どう?」とか「OKRどんな感じ?」と半ば反射的に聞き続けるようにしています。
CEOがこういった質問をすること自体が、社員に「そういえば、OKRってこんな状況だった」と意識させる効果があります。そのときの返答で「ぼちぼちですね」とか「なんとかやってます」といった曖昧な回答をする人は、だいたい良くない状態です。
そういう場合は、当人に直接言うのではなく、マネージャーに「このKPIは大丈夫?」と確認します。逆に「いい感じです、最高です」なんて答える人は基本的に放っておいても大丈夫なので、「めっちゃ期待してるよ」と言って終わりにすることもあります。
前田:実際に、未達になりそうな状況や未達の状態に対して、具体的にどのような取り組みをされましたか?
布川:具体的に例を挙げると、シリーズBのフェーズに入った頃、インサイドセールスのチームの雲行きが怪しくなった時期がありました。そのとき、私は150人の全社員と15分ずつ1on1を行なったんです。
その際にインサイドセールスチームのメンバーが、こぞって「今の目標は達成できる気がしない」とか「自分は何をすればいいですか」といった、自身の存在意義を問うような質問をしてきたんです。これは目標が高すぎてパニックゾーンに陥っていると判断しました。
対策として、一歩二歩先を行くスタートアップの経営者たちに情報を求め、彼らにインストールしてもらうようお願いしに行きました。そして、インサイドセールスのマネージャーにその話を聞いてもらい、「こうすれば今日にでも達成できるかもしれない」と思えるような戦略をメンバーに落とし込んでもらったんです。
パニックゾーンのときは、単に「頑張れ」と言ったり、プッシュしたり、仕組みを変えたりするだけでは不十分です。そういうときは、外部の情報を取りに行けるようなパイプを作ってあげることが重要だと考えています。
前田:なるほど。CEOの役割として、答えが見つからないチームやメンバーを見つけ出し、解決のきっかけや繋がりを作っていくことが重要なミッションだということですね。
布川:そうですね。理想的には管掌役員がそういった役割を担えればいいのですが、本質的な情報やコアな情報は経営陣が持っていることが多いですし、外部の重要人物を連れてくるには経営陣の力が必要です。だからこそ、一番顔が利くCEOや社内のインフルエンサーがそれを担うのが責務だと考えています。
前田:走っている途中で軌道修正することは難しいと思いますが、そういった判断を迫られた場面はありましたか?
布川:ありますね。シリーズBでSequoia Heritageから資金調達を実施するまでの過程で、新たな水準の目標が設定されました。でも、今のペースや手法ではまったくその目標を達成できないと判断せざるを得ない瞬間があったんです。そのとき、私たちは「OKRをすべて白紙に戻す」という非常にドラスティックな決断をしました。
前田:かなり勇気のいる決断ですね。一度決めた制度やみんなで決めたOKRを変えるのは、簡単ではないと思います。
布川:そうですね。これはAndreessen Horowitzのベン・ホロウィッツが言っていたことですが、「CEOには戦時と平時がある」という有名な話があります。まさに、会社がある方向に進まなければ終わりだという踏み込むべきタイミングでは、CEOは鬼にならなければいけない。
それまでボトムアップでみんなを盛り上げていたところから、戦時には徹底的にトップダウンでやらなければいけないし、目標もそれに合わせて変えなければいけない。個人のキャリアや意思を一時的に押し込めて、この成果に向き合ってもらう瞬間が出てくる。これはスタートアップ共通で起こることだし、それができるCEOかどうかで結果が大きく変わるのではないでしょうか。
前田:いやぁ、私が同じ立場だったら、同じ決断ができないかもしれません……。
布川:ヒロさんは投資家ですから、そういう決断はしない方がいいです。「戦時のVC」なんて本当に嫌な存在です(笑)。VCは常に平時でいてもらわないと。
前田:確かに、戦時のVCは邪魔になりますね(笑)。常に平時でいるようにします。
成長角度を下げてしまう「時間軸のずれ」には要注意
前田:自分自身のマネジメントで、成長角度が上がったと思うエピソードと、逆に下がってしまったエピソードがあれば教えてください。
布川:先ほどの話に関連しますが、成長角度が上がったのは、セールスの案件差配の仕方を変えて、投資家から与えられた目標のために短期フォーカスで全社集中モードになったことです。言わば「戦時化に変えた」ときですね。
やはり、トップダウンによる平時から戦時への切り替えと、それに伴うあらゆる施策の急ハンドルを切ること。そのための目標を絞ったことが、成長角度を引き上げたタイミングだったのかなと思っています。
成長角度が下がったタイミングで言うと、その手前のときです。OKRを四半期に1回立てているのですが、長期のOKRと短期のOKRが入り混じっている頃は、成長角度が下がってしまったんです。具体的に言うと、ログラスのボードメンバーはひたすら中長期のことに手を付けているんですね。一方で、一つ下のレイヤーであるVP陣が3ヶ月から6ヶ月の短期のことを実行していて、レイヤーで時間軸が完全に分かれているんです。それらがぐちゃぐちゃに混ざっていたときは、成長角度が大きく落ちましたね。
例えば、同じ会議体でも時間軸の異なる人が集まってしまうので、議論がまとまらないんですよ。いろいろ議論して、相手の理解が得られないことにお互いがイライラして終わる。だから、経営会議で相手の意見が分からないな、と思うようになったら黄色信号かもしれません。
"Amp It Up"を実践した、ハイペースな組織文化の醸成
前田:布川さんと私の両方が大好きな本に、Snowflakeのフランク・スルートマンさんが書いた『最高を超える -AMP IT UP-』があります。布川さんもこの本から多くの影響を受けられたと思いますが、具体的にどのようなことをテイクアウェイし、実装されていますか?
布川:テイクアウェイしたのは、とにかく超最高水準でコミュニケーションすること以外にありません。まさに表紙にある通り、"Amp It Up"そのものです。
フランクさんは、その基準が狂気的に高い人だと思います。本から伝わってくる圧力が半端ではなかったですね。「グローバル水準でServiceNowとSnowflakeを育てた人は違うな」と感じると同時に、"Amp It Up"の方法も学ぶことができました。
結局、スタートアップにとって最も大切なのは時間です。例えば、メンバーがプロダクト開発やアウトプットの期限を経営にコミットしてくる瞬間があります。そのときに「あと1週間早くできないの?」とか、「なんなら明日にはできないの?」と、とりあえず聞くんです。
"Amp It Up"の本質は、期限を早めるか、品質を上げるかのどちらかしかありません。ただ、品質を上げる方向のコミュニケーションは、私はあまりしない方がいいと思っています。スタートアップは常に朝令暮改で、早く出すことが価値になる。基本的に"Amp It Up"するときは「時期を早める」という問いかけだけを続けるようにしています。これは本を読んではじめたことの一つですね。
前田:実際に具体的な成果はありましたか?
布川:最近の例を挙げると、シリーズBの調達発表時に「海外開発拠点を作ります」とプレスリリースに書いたんです。実はこれ、3日前まで何も決まっていなかった内容なんです。
CTOの坂本龍太と1on1をしたときに、「この会社でCTOとして圧倒的にログラスを非連続に伸ばす方法があるとしたら、今すぐやれと言われたら何をしますか?」と聞いたんです。すると「海外拠点の設置は絶対にやった方がいいですね」と。
「それいつやりますか?」と聞くと、「まあ、ちょっと落ち着いてから、半年後とか来年とかじゃないですかね」と答えたので、「明日じゃダメな理由がありますか?」と聞き返しました。すると色々な「でも......」を答えられましたが、私も「でも、会社は伸びますか?」と問い続けたんです。
傍から聞くとちょっと厳しい会話かもしれませんが(笑)、結果的に「もうすぐにでもやろう」となって、翌週のプレスリリースにも「海外拠点を作ります」と載せることにしました。そこから様々な会社とコミュニケーションがはじまり、一気に話が進みました。このようなコミュニケーションを1on1で行ない、そして外部に一気に出してしまうことで、物事が前に進むんです。これは"Amp It Up"の分かりやすい事例かもしれません。
前田:なるほど、「明日できない理由は何ですか」とひたすら聞くわけですね。
布川:ただし、本質はそこにあるとはいえ、手を替え品を替え、いろいろな言い回しをすることも大切です。毎回「明日までにできないんですか?」と言ってしまうと、メンバーにしたって「いや、どう考えてもできないでしょう」となって信頼を損ねてしまいますからね。
深い信頼関係を築く「非日常の経営合宿」
前田:布川さんが定期的に1on1を行なっている方は何人いるのでしょうか?
布川:1on1は5人くらいですね。ほぼボードメンバーと、開発トップのVPoEとやっている程度です。
前田:1on1を行なう際に、意識されていることや好きなテーマはありますか?
布川:基本的には、社内のフォーマットに沿って、相手が話したいことや困っていることを聞くようにしています。ただ、不定期にひたすらコーチングに徹すると決めている時もあります。
日々の1on1では、お互い経営メンバーなので忖度せずにガンガン話すことが多いのですが、それだけではなく、月に一度か2ヶ月に1回くらいは相手の考えを引き出す時間を設けるようにしています。経営者同士だと、いわゆる「Will-Can-Must」で言う「Must」ばかり話すんですが、相手も人間なので、たまには「Will」の話をしたり、潜在的な悩みもテーマにしたりします。
そういったことをコーチングで引き出し、それに対してアクションプランを立てると、お互いが経営者であり人間であるという良い関係が作れると感じています。ただ、本質的にCEOはコーチングが苦手な人が多いと思うので、「コーチングは頑張るもの」と決めるのが良いかもしれません。
前田:布川さん自身もコーチングを受けて、そこから学んで実装しているんですよね。
布川:そうですね。もう3年くらい続けているので、プロのコーチの方が日々発している言葉やスタンスの作り方をかなり学びながらやっています。
前田:ボードメンバーと腹を割って話せる関係性はどのように築いているのでしょうか?何か特別な取り組みはありますか?
布川:非常に難しい質問で……再現性のない話をしてもいいでしょうか。実は、私たちボードメンバーで毎年1回、岐阜県の山奥にこもるという特別な合宿をしているんです。
この合宿は、マネジメント研修を行なっているEVeMの長村禎庸さんが考案したコンセプトに基づいています。「日本三大清流」の一つに数えられる、岐阜県郡上市の長良川源流域で行なうのですが、ここでのポイントは「身体性を取り戻す」ことです。
普段、私たちは脳で会話をしていますが、人間は動物なので体という概念もあります。その体が極度に緊張しているか、またはリラックスしているかが重要なんです。例えば、経営者同士でサウナに行くのも、サウナで緊張状態に持っていき、その後の休憩でリラックス状態に持っていくことで、お互いに胸を開く効果があります。ただ、経営者同士となってくるとより深いコミュニケーションが必要なので、私たちは長良川まで行くわけですね。
この合宿では、長良川の源流域で「シャワークライミング」という川登りもします。この期間はスマートフォンの使用を一切禁止し、ペンとノートだけを持って日々を過ごし、それから1on1を行ないます。森や川の中で、相手の目を見ながら会話をすると、全身で相手の言葉を聞くことができるんです。受け取る情報量が確実に増えます。
これは経営オフサイトと同じような効果があります。ビル・ゲイツも年に一度、誰とも接せずに1週間ほど山籠もりするそうですね。人間のリソースは常に限定されているので、それを解放する瞬間を意図的に作ることには大きな意味があると思います。
重要なのは、こういった場を意図的に作ること、そして決して雑にファシリテーションしないことです。ちゃんとオーガナイザーを外部から招き、参加者がそれに没頭できるようにすることが大切だと考えています。
前田:素晴らしい取り組みですね。私も行ってみたいです。
布川:ぜひ行ってみてください。きっと良い経験になりますよ。
ログラスCEOのSlack、チャンネルミュート率は95%
前田:普段はSlackでコミュニケーションを取られているようですが、特にカルチャー面やバリュー面、あるいはCEOとしての発信で意識されていることはありますか?
布川:明確にシードラウンドと現在のシリーズBで変化がありました。私はシード期には本当に全チャンネルを細かく見ていました。15人から30人程度の組織では、CEOがメンバーの発言の機微や細かいチューニングを全部行なう時期だと考えています。『キングダム』の世界で言えば、一師団の団長くらいのレベルですね。全員のTimesを覗いて、しっかりとコミュニケーションを取っていました。
しかし、100人を超えると、もはやすべてを見ることは不可能です。そこでマネージャーに権限委譲し、自分はより大きな視点に集中するようになりました。具体的には、現在はチャンネルのミュート率が95%くらいで、ほぼすべてのチャンネルをミュートしています。
最近のSlackには未読のスレッドを見る機能がありますが、それでトラブルシューティングをすることに夢中になりがちです。でも、それはほとんど意味がありません。1秒も見ずにシューティングしていると感じたら、そのチャンネルはミュートするようにしています。
前田:スタートアップ初期に「なめるように見ていた」とおっしゃっていたのを思い出しましたね。具体的には何を見ていたのでしょうか?
布川:各部門のKPIの現況、商談の会話内容、各お客さまに対するカスタマーサクセスの発言など、それらを見て、「CEOがすべてを把握している状態」を維持するために見ていました。
前田:コミュニケーションに摩擦が生じた際、フィードバックをすることはありましたか?
布川:当時はそういったこともしていました。今となっては避けるべきだと思いますが、CEOとしてどちらかの立場を取り、「この議論は不要なのでこちらの方針で進めてください」と決めてしまうこともありました。
前田:現在はSlackをあまり見ず、自分宛てのメンションや自分が担当しているプロジェクトのみを見ているのでしょうか?
布川:原則的にはそうです。ただし、会社で特定のイシューに取り組む必要がある場合は例外です。例えば、プロダクト開発が停滞しているときは技術負債のチャンネルを見るようにしたり、会社の重要課題に関連するページは一時的にミュートを解除したりします。
一つ、ログラスの特徴的な取り組みとして、全社員が参加する「オールチャンネル」があります。私たちは賞賛文化を推奨しているのですが、このオールチャンネルで「Tocos(タコス)」を送り合う文化があるんです。このチャンネルだけは必ず見るようにしていますね。
前田:タコスとは何ですか?
布川:タコスは絵文字のことで、これを送られた人には10円分のピアボーナスがチャージされる仕組みになっています。
このピアボーナスが発生しているもののなかに、会社として体現してほしいバリューを体現している人が潜んでいると考えています。素晴らしい内容があれば、私も追加でタコスを送ることがありますから、意図的にすべて見るようにしています。基本的に、SlackのURLが貼られていると、その下に具体的なスレッドが表示されますが、そのスレッドで「この人がこんな素晴らしいことをやっている」という内容を押さえておきたいですね。
CEOコミュニケーションは「息を吸うように、Slackへ投げ続ける」
前田:布川さんのSlackのTimesには何が書いてあるのでしょうか?
布川:私のTimesは「Working Out Loud」というスタイルを採用しています。「大声で作業する」、つまりは今何を考えているか、今何をしているのか、ということをひたすら書くようにしているんです。言わば、私の思考を垂れ流すチャンネルですね。これは非常に意図的に行なっています。
前田:それを意図的に行なっている理由は何でしょうか?
布川:スタートアップのテンションが下がる三大理由の一つが「CEOが何をしているか分からない」だと考えています。転職者の方からも「社長が何を考えているか分からない」とか「社長が仕事をしていないから執行役員として求心力を失った感じがする」といった話をよく聞きます。そこで、私は「何をしているのか超分かる人」を目指しているんです。
具体的には、何をしているかを毎日書くことと、月に1回は「今月の布川がやっていることコーナー」という長文を一つ送ることを続けています。透明性の保持にも繋がりますし、社員からすると「CEOが今これを頑張っているから、自分はこっちを守ろう」という気持ちを持ちやすいのではないかと。
前田:素晴らしいですね。布川さんのトップオブマインドも分かりますし、どういったテーマで活動しているかも分かりますね。
布川:そうですね。Working Out Loudは、おそらくエンジニアのなかでも実践されている人がいるのではないでしょうか。特に重要なのは、ログラスは出勤日数の半分がリモートワークということです。現在は週2回出社、週3回リモートワークです。毎日出社する人もいますが、一定のリモート割合があるなかだと「1週間で一度も会わない」というリスクもある。
そうなると、SlackのTimesへオープンに書いておくことで、信頼性や透明性が高まるのを感じます。なるべく意識して、息を吸うようにSlackへ投げ続ける。リモートワークがなければ必要なかったかもしれませんが、今の時代には必要だと思っています。
採用は常にトップギア。フェーズごとに変わる「時間の使い方」
前田:布川さんの「時間の使い方」について伺いたいと思います。私の印象では、かなり先のことを考えて早めに行動に移されているように感じます。まず、どこまで先を考えているのか、そしてどのような基準で優先順位をつけているのでしょうか?
布川:まず、どれくらい先を考えているかについては、18ヶ月を基準にしています。これは『爆速成長マネジメント』という本から学んだことで、穴が空くほど読み込みました。その本にも、基本的に「1年半先のことを考えよう」と書かれています。それ以降はスタートアップの流動性が高すぎるので、あまり意味がないと割り切っています。
優先順位に関しては、採用が常にトップギアです。特にエグゼクティブポジションや、獲得できれば破壊的なイノベーションが起こせるようなメンバーに対しては、どんなに忙しくても時間を割くようにしています。
次点では、その時々の会社全体のボトルネックに対して時間を使うようにしています。例えば、今は営業が重要だとか、プロダクト開発が重要だとか。常に流動的に変化します。
前田:例えば、シード、シリーズA、シリーズBといったフェーズごとで、採用以外に入れ替わるテーマはどのようなものでしょうか?
布川:エンジェルラウンドの頃は、ひたすらプロダクト開発とそれに付随する営業でした。シードラウンドでは、恥ずかしながら営業がなかなか取れなかったので、私自身がずっと営業をしていました。この頃はエンジニアが9割といった組織体制だったのもありますが。
シリーズAに差し掛かったタイミングでようやく権限委譲ができて、前半は引き続き営業をしていましたが、後半はプロダクト開発も行ないました。特に新規事業の立ち上げも一時期やっていたので、既存のプロダクトを伸ばしていく営業と、次の柱を作る新規事業開発、そしてそれを一緒にやってくれる人材の採用をデュアルで行なっていました。その合間合間にファイナンスが入ってくるという感じですね。
前田:振り返ってみて、もう少し早めにやっておいた方が良かったテーマや、逆にこの時点でこういうテーマを考えた方が良い、というアドバイスはありますか?
布川:早くやれば良かったのは、営業の権限委譲です。CEOが営業を続けると、ただでさえ1アポあたり1時間以上はかかりますから、それだけの時間を費やしてしまいますし、失注からくるマインド面での悪影響や、会社の成果にも良くない影響があります。PMFの兆しが見えたら、すぐに営業人材の採用に動くべきでしょう。
逆におすすめという観点では、Fond創業者でRice Capitalを立ち上げられた福山太郎さんからのアドバイスなのですが、創業初期はエンジニアドリブンで採用するべきということを忠実に守りました。PMFが確立する前に営業を増やすと、プロダクトと営業のどちらに問題があるのか判断が難しくなります。そのため、PMFまではCEOがひたすら営業をやる。CEOが売れないものは誰も売れないので、これは非常に良かったと振り返って思います。
前田:素晴らしいアドバイスですね。フランク・スルートマンさんも似たようなことを言っていましたよね。未達が続いたら「セールス責任者よりも、まずはプロダクトを疑え」と。
布川:そうですね、その通りです。
PMF前のプロダクトで「避けるべき3つの過ち」
前田:PMFについて話題が出たところで、PMF前のプロダクト企業のCEOに送るアドバイスとして、「避けるべき3つの過ち」があれば教えてください。
布川:1つ目は「自己満プロダクト」ですね。愛が強いがゆえに歪んだプロダクトを作ってしまうこと。CEOの熱量が高いと、お客さまも「あなたが言うなら欲しい気持ちになってきました」なんて言うのですが、結局はセールスにつながらないものです。そんなときこそ、プロダクトを疑う場面でしょう。厳しい現実をよく見ることです。
2つ目はバーンを早く増やしてしまうこと。ログラスはコロナ禍に創業しましたが、社員数3人の頃に家賃15万円のマンションをオフィスにしたり、採用を一時的にストップさせたりすることで、経営が「なんとかなった」という場面があったんです。もし、月のバーンが200〜300万円あったら、おそらくログラスは潰れていた可能性もあります。
3つ目が受託開発に走ること。この意見は宗教戦争みたいなものですが……あえて私の意見を伝えるなら、やはり一度でも踏み込むと戻るのが大変なんですよ。SaaS企業としてプロダクトドリブンで行くと決めたのならば、そちらに邁進する。本心はプロダクトを作りたいのなら、投資家に頭を下げにいく方がいいのではと思います。
前田:PMF前の目標設定はどうしましたか。そして、PMFを確信できた瞬間はありますか?
布川:目標設定は明快で、KPIは「プロダクトがないのになぜか受注している」という魔法を何件起こせているのか。私の場合は10件です。
具体的に言うと、Figmaしかない段階で「このプロダクトを買っていただけますか」と営業するんですね。ある上場企業に社内稟議まで回してもらったこともあります。「プロダクトはないけれど契約書にサインしてください。金額は予定金額で、年間300万です。お支払いはサービスローンチ後で、債権ではありません」みたいな。その契約書に、上場企業が稟議を回してサインしてくれる。これを5件、10件と得られることをKPIにしていました。
PMFを実感した瞬間は、明確にリニューアルのときですね。1年使ってもらって契約更新してもらったら、それはもう100%のPMFです。「2期目がある」というのが確信のタイミングでしたね。
前田:なるほど。プロダクトがなくても買いたいと思わせる、そして実際に更新してもらえるというのがPMFの肝なんですね。
「採用狂気」で徹底的にコミットメント
前田:布川さんは特に採用へのコミットメントがすごいことでも知られていますね。現在、採用にどれくらいの時間を割いていて、今でも自ら採用活動をしているのでしょうか?
布川:採用には1日の30%くらいの時間を使っています。仮に稼働時間が10時間から12時間だとすると、3時間以上は採用に使っています。これはもう歯磨きをするかのように習慣化していますね。
毎日朝9時から10時の時間に必ず採用媒体を見て、スカウトしたい人がいれば、採用を手伝ってくれているメンバーに依頼したり、自分でメッセージを打ったりすることもあります。これは2年以上続けていて、朝1時間採用に時間を使わないと、「今日はちょっとできなかったな……」と後悔するくらい毎日やっています。
前田:これも朝の時間をブロックしているんですね。
布川:はい、朝はブロックしています。カレンダーには「採用狂気」という予定が毎日入っています。
前田:CEOとして時間の確保は重要なことだと思います。常に忙しいなかで、どのように時間を確保されていますか?
布川:私はGoogleカレンダーを活用して、すべての予定を色分けしているんです。そして、Googleカレンダーの集計機能を使って、月に1回振り返りを行なっています。
私の基準では、営業、新規事業開発、ファイナンス、採用など、トップティアの課題に5割以上、できれば6割くらいの時間を使えているかを確認します。それ以外のことに時間を使っているのであれば、何か問題があると考えます。権限委譲ができていないか、優先順位が間違っているかもしれません。
前田:タイムブロックやタイムボクシングなどの手法は使っていますか?
布川:タイムブロックは行なっています。火、水、木曜日は特定の時間をブロックして、新規事業開発以外のことは入れないようにしています。
前田:つまり、自分から時間を設計して、他のミーティングをその周りに入れてもらうということですね。
布川:そうです。やらないと無理ですね。時にはブロックした時間に「布川さん、すみません、ここがブロックされているんですが……」と言われることもありますが、それでも大切にしています。
フェーズに応じて変える、CEOのコミュニケーションスタイル
前田:コミュニケーションのマネジメントスタイルについて、フェーズごとに変えた部分や変えないといけなかった場面はありますか?
布川:フェーズによってかなり変わりました。30人未満のシード期は、全チャンネルを見て最強のユーティリティプレイヤーとして、あらゆるところで実行を続けるスタイルでした。開発以外は全部やるべきだと思っていたので、「黙って背中を見てくれ」スタイルといいますか。
シリーズAになると、「採用狂気」と各領域での権限委譲が必要になってきます。マネージャー以外の人には厳しいコミュニケーションをなるべくしないようにしました。今まで直接全員に言っていたことをマネージャーだけに言うようになる、という感じです。
前田:そういうときは、できる限りフィードバックはマネージャーを経由して進めていくということですね。
布川:そうです。マネージャーの威厳を奪わないためにも、権限委譲を進めるためにも重要です。CEOがマネージャーを信頼していないと思われたり、マネージャー自身が自分の役割が希薄化すると感じたりしてしまうのを避けるためです。
シードからシリーズAにかけてもう一つ変えたことと言えば、メッセージングがどんどん短くなっていっています。以前は原稿用紙1枚分くらいしゃべってもみんなにコンテキストが伝わっていたのが、フェーズが上がるごとに人数が増えていくので、もう「今回は熱量だ!終わり!」みたいに、短い文しか伝えられなくなってきました。短い時間に魂を込めるというのは、フェーズが上がるごとに意識しています。
スタートアップピッチでも「3分以内」といった制限がありますよね。あれは人数が多かったり時間がなかったりする際にやることなので、短い時間に詰めるのは意識しています。
前田:効率良く熱量を伝えることは、規模が大きくなっていくと求められる部分ですね。
布川:本当にそうだと思います。シリーズBになると、マネージャーの数も30人を超えてきます。スパンオブコントロールも余裕で超えているので、数値のマネジメントと組織単位のマネジメントに変わってきます。ログラスの現状課題を2つくらいに絞って、それだけにフォーカスしていき、それ以外は任せる。Slackもあまり見なくなりました。
経営会議でも、基本は報告を受けて気になるところがあれば深掘りする程度にしています。このように、権限委譲とともにスタイルを変えてきています。
前田:本当にフェーズと組織規模に応じて変えていく必要がありますね。それに気づいて変えられるのはすごいです。
仕事と私生活の葛藤に折り合いをつける「禅の智慧」
前田:CEOとして自分のメンタルをどのように管理しているのか、また仕事とプライベートの葛藤をどのように乗り越えているのか教えてください。
布川:一言で表すなら「自分の無力を認める」です。成長を続ける意欲の高いCEOであればあるほど、仕事以外のことは邪魔と思ってしまいがちです。逆にそう思っていなければ、自分の追い込みが足りないと感じるくらいです。半ば、強迫観念にも似たものが生まれてくるところもある。
私はシリーズAまでの期間に子どもが3人できました。正確には、シードの時に1人、シリーズAで2人です。家庭にコミットしなければいけない瞬間もあるなかで、エグゼクティブコーチングでもかなり悩んでいました。もっと時間を仕事に使いたいのにできない、でも家族との時間を持って子どもに愛情を注ぎたい……自分の想いがバラバラになってしまう。そんな悩みを抱えていました。
そんなときに出会ったのが禅の考え方です。セールスフォースのマーク・ベニオフやAppleのスティーブ・ジョブズも実践していたんですよね。禅の面白いところは、とにかくそうやって悩んでいる自分を「全部受け入れられる」トレーニングをすることです。要するに、マインドフルネスですね。
座禅を組んで悩みや葛藤を手放すトレーニングを続けるうちに、もちろん悩みはするんですが、「悩んでる自分も自分だな」と認められるようになりました。
前田:まさに禅の世界ですね。
布川:何かを言っているようで何も言っていないのですが、やっぱりそういうソリューションしかない、というのに行き着いてしまって。このマインドセットの持ち方はシリーズAで体得したものだと思います。
前田:深いですね。悩んでいる自分や課題を持っている自分を受け入れるというか、それが自分であるということですね。すべてを解消しようとすると、めちゃくちゃストレスになりますもんね。
布川:そうですね。周りの起業家を見ていても、うまくいっている人ほど今の状況を楽しんでいたり、「こんなもんだよね」と俯瞰して捉えていたりする人が多い印象があります。
逆に、周りと比較して「自分はもっとこうありたい」とか思っている人……昔の私がまさにそうでしたが、それをコントロールできていないと競争主義になりすぎて落ち込んだり、行きすぎると心に負担がかかりすぎたりしますから。だから、“Amp It Up”するなかでも、良い意味で自分を受け入れることは大事なんです。
前田:マインド面の変化は大きかったわけですね。家族やお子さんがいるなかで、平日や休日のタイムスケジュール、時間の使い方についてはどのように工夫していますか。シードとシリーズAで変わった点も伺えますか?
布川:シードのときは子どもも家族もいなかったので、24時間365日ずっと働いてました。年末年始も『紅白歌合戦』を流しながら、営業メールを書いて予約送信していましたからね。シードはハードワーキングを徹底する。これは絶対やるべきです。
シリーズAで結婚し、子どもが生まれたタイミングでしたが、土曜日もフルタイムで働いていた記憶があります。週6勤務の平日は夜中まで、日曜だけ休みにしました。
今は、土曜日は2〜3時間は稼働させていただいてて、日曜日はフルで休みですね。平日は会食がよく入っているのもあって、手を動かす時間は少しずつ減っていたかもしれません。
資本主義は、肉体の限界を超えて、影響を広げられる仕組み
前田:資本主義の世界では常に上がいるなかで、シリーズBの調達後、そこから潰されないためにどうすればいいのか、または布川さんのなかで資本主義をどのように整理されているのでしょうか?
布川:資本主義で最も分かりやすいのは利益とそれに紐づく時価総額、要は企業価値です。会社の存在意義はキャッシュフローだと考えていて、キャッシュフローを生み出すまでは、どんぐりの背比べだと思うんです。
利益を出している会社は、大小関係なく偉いはずです。利益を出して初めて納税ができ、キャッシュフローを生み出せるわけですから。それができれば国にも貢献でき、良い景気を作ることにつながる。また、調達がなくても自立自走できる、つまりは独り立ちができる。
それまでは、ありがたいことに「成長をさせてもらっている」というマインドです。投資家の皆さんにも感謝できますし、納税ができずに日本国民として申し訳ないという思いを持って日々経営していますから。この間に関しては、あまり潰される心配はしていません。
ただ、上場して利益が出て、社会の公器として自立しはじめたときのことは、正直まだ分かっていません。でも、我々の目標である「時価総額トップ10入り」は、柳井正さんや孫正義さんのような方々が一代で成しているわけで、私たちができない理由はないはずです。めちゃくちゃ難しいですけどね。
資本主義については、欠陥もあれど、本当に素晴らしい仕組みだと思っています。経済を回していくなかで利益を出し、お客さまに付加価値を届けて、そのコストの差分で利益が出ていく。それが広がれば再投資できる。利益を出している人がより大きくなり、その仕組みをより広範に価値として届けていけるんです。株主配当も得られ、従業員も相対的に給料を上げていける。複利が効くことは、まさに資本主義の原点でしょう。
ビル・ゲイツのように、複利の長者になりすぎてお金が使い切れなくなった人が社会貢献やボランティアにお金を回す。普通なら資本主義の中で絶対にお金が回らないところにお金が回る。それで環境保全ができたり、ESGができたりする。そういうチャレンジができるのがやっぱり資本主義の良いところであり、すごくレバレッジが利く、かつ合理的にできていると日々感じています。
私は親として育児もしていますが、私の両腕で抱えられる子どもは2人だけです。でも、ベビーシッターの方が来てくれれば3人、4人と抱えられる。それがどんどん増えていく。ある意味では、会社も似たようなものではないでしょうか。
資本主義は、自分の肉体の限界を超えて、どんどん影響が広がっていく仕組みなんです。これこそが素晴らしいのだ、と日々思っています。
前田:高い目標、大きな目標を持つことが、小さいところでの比較に潰されないようにする一つの方法なんですね。また、資本主義をツールとして見て、価値を作って、それを活用し社会に貢献していくという視点が大切だと感じました。
布川:そうですね。資本主義のお金の先を見ていないと拝金主義になっちゃうんです。「何のためにやっているのだろう?」となる。その先にあるものをちゃんと見つめて初めて、この仕組みをツールとして見られるのでしょう。
CEOの目線が下がると、付随して様々なものが下がってしまう
前田:最後に、僕のエゴを満たすような質問で恐縮なのですが、ALL STAR SAAS FUNDから投資を受けてから、どのようなサポートを受けたのか教えてください。
布川:具体的に受けたサポートはラウンドごとに違いましたね。シードのときは、それこそ「営業がうまくいかないのですが、どうしましょう」と夜中にメッセージを送ったら、「SPIN営業にまつわる参考書を読んでみて」とアドバイスを受けた記憶があります。
前田:あぁ、懐かしいですね。
布川:当時の私にとっては大きな意味があったんですよね。「こういう本が一般的に読まれているよ」とか、「SaaSにはこういうプラクティスがあるよ」とか、インプットしていただけるのがシードラウンドです。
シリーズAに関して言うと、ファイナンスの部分でリード投資家を改めてAラウンドでも担っていただきました。ALL STAR SAAS FUNDは応援する起業家にずっと寄り添って、フォローも手厚く続けますし、他の投資家にも良いリファレンスを語ってくれるVCなので、シリーズAもトントン拍子で決まった記憶があります。
片や、シリーズA期間は、任せていただく部分も大きかったと思います。例えば、セールスフォースやSnowflakeの経営陣をご紹介いただいて教わる機会もありました。この時期、ログラスではOTE制度の設計をしたのですが、そのヒアリング対象をヒロさんにも協力いただいて集められたのは、大きな価値があったと感じています。シリーズはPR面でもご協力いただき、ALL STAR SAAS BLOGへの露出や、各種セミナーにも呼んでいただき、「SaaS企業でも勢いがある」というブランディングにも貢献してもらったのかなと。
足元であるシリーズBは、もう言わずもがなですね。素晴らしい投資家たちをヒロさんのリファレンスもあって連れてきていただきました。一緒にリード投資をしていただいたSequoia Heritageしかり、海外へのリーチは日本でも有数のファンドではないでしょうか。しかも、日本では他に繋がりのないようなファンドとも通じていますから。
シードやシリーズAと比べると、シリーズBからの方が圧倒的に発揮していただいたバリューが大きかったと個人的には思っています。例えるなら、スルメのように味が出てくるファンド、ですね。
前田:スルメファンド!それをスローガンにしたいと思います(笑)。最後に、スタートアップの経営者へ向けて、成長角度を高めるためのアドバイスをお願いします。
布川:私自身まだまだこれからの経営者ですが、今は景気が大きく変動しているなかで、経営の本質はキャッシュフローであり、お客さまへの提供価値そのものだと捉えています。
投資家から信頼を集める、予実をちゃんと当てる、キャッシュフローを最大化するために日々頭をひねる。そのためにお客さまに価値を届けることを徹底的にやる。
そして、CEOの目線が下がると、とにかく付随して様々なものが下がってくるものです。「1年後だったらやるだろうな」ということを、「なぜ、明日やらないのか?」と言い続ける。それは自分に対しても言い続ける。この2つで“Amp It Up”する。
成長角度に効いてくるのは、キャッシュフロー最大化と“Amp It Up”である、と個人的には思っています。
前田:ありがとうございます。インサイトや具体的な話もお聞きでき、本当に良いセッションでした。ログラスも様々なポジションで全力採用中ですから、ご興味がある方はぜひログラスの採用サイトを見て連絡していただけると、私たちとしても嬉しいです!