SaaS事業成長の鍵を握るのは、顧客との良好な関係を築き続けるカスタマーサクセス(CS)に他なりません。ともすれば属人的になりすぎる仕事を、しっかりと組織化していくためには、戦略や目標設計の観点が欠かせないでしょう。
そこで、CSを組織化する上での必須知識を、下記5つのテーマに分けて解説する『SaaS CS集中講座』を、ALL STAR SAAS FUNDで開講。
- CS組織化のポイントとKPI・KGI設計
- CSMの基本マインドとオンボーディング
- リニューアルマネジメントとエクスパンション
- ヘルススコアとデータ基盤
- カスタマーマーケティングとコミュニティ
講師は、日本におけるカスタマーサクセスの第一人者である山田ひさのりさんをお招きし、豊富な実務経験をもとに解説。さらにALL STAR SAAS FUNDの支援先からもよく聞かれる課題もカバーしたカリキュラムとなっています。
ここでは第5回であり最終回の「カスタマーマーケティングとコミュニティ」の内容を抜粋、記事化しました。カスタマーサクセスを含め、SaaS経営全般のナレッジを私たちのブログでは継続的に発信しています。
これを機会に知ってくださった方は、ぜひ他の記事もご覧ください!
「カスタマーマーケティングは、カスタマーサクセスマーケティングである」
山田ひさのり:今日のテーマは「カスタマーマーケティングとコミュニティ」です。カスタマーマーケティングの定義はあやふやな面もあるので、まずここから説明しますね。
カスタマーマーケティングとは「既存顧客に対するマーケティング活動のすべて」と整理されています。上記は『ハーバード・ビジネス・レビュー』からの抜粋ですが、「新規顧客の獲得は既存顧客からのそれよりも25倍高額である(=コストがかかる)」とよく言われています。継続率が5%アップすると、収益は25%〜95%アップすると。
実際にアメリカのSaaSを研究された結果なので、さまざまなところで引用されています。平たく言うと「既存顧客からの売上をもっと高めましょう」ということです。
そして、早速ですが結論から述べると……
「カスタマーマーケティングは、カスタマーサクセスマーケティングである」
顧客のサクセスを後押しするためのマーケティング活動と、顧客のサクセスを最大訴求ポイントとするマーケティング活動。これが補完し合ったマーケティングを、カスタマーサクセスマーケティングと呼ぶのではないか、というような結論に達しました。
CSとマーケターから見て、既存顧客にいかに向き合ってるかという話でもあるのですが、これらは“山の登り方”の違いだけであって、本質的には変わらないと思っています。
CSとマーケは何が違うのか?
山の登り方について、それぞれ見てみましょう。
CS的な登り方が、上図の左側です。これはサブスクリプションモデルのマーケティングファネルといわれ、フレンチホルン型になっています。右側はマーケ的な登り方で、ダブルファネル型ですね。認知から入って、真ん中のしぼんだところで契約、そのあとはお客さんからの情報発信につながって、アウトセルが出てくるという流れです。
これらは概念的な違いは、ほとんどありません。というか、一緒なんです。要はダブルファネル型は「マーケターが考える既存顧客との付き合い方」であって、フレンチホルン型と同じことを違うように言っているだけだと思っています。つまり、マーケターであっても、CS的な視点はずいぶん前から持っていたんですね。それがカスタマーサクセスという職種が出てきたことで、融合されてきたのが今といえるでしょう。
では、マーケターから見たカスタマーサクセスとは、いかなる存在なのか。さまざまな人と議論をしてみました。中でも、SmartHRの岡本剛典さんからの言葉は、個人的にも頷くところがあったので紹介します。
つまり、カスタマーサクセスが登場する前までは、お客さんが偶然にサクセスしたのを見て、それをマーケティングに活用してきたけれど、そもそもマーケターの方にとってはどのお客さんがサクセスしているのかを、それほど把握はできていなかったようです。
そこにカスタマーサクセスが登場し、サクセスしているお客さんがわかり、さらにはどういったお客さんなら筋が良いのかも知り尽くして、意図をもってアタックをして、成果をマーケティングにも使うようになったんです。
CSのための支援メディアを持つことのススメ
とはいえ、既存顧客を意識したマーケティングは、なかなかまだ各社難しさを感じているようです。
Sansanでは「Sansan Innovation Navi」というメディアを持ち、CSがお客さんを支援するために活用しています。私がSansanでCSに所属したときに作り始め、今では支援策の中心的存在になりましたね。他のSaaS事業者さんも、最近では同様のメディアを持つケースが増えてきていると感じていますが、有効性は確かにあると考えています。
メディアを持つことで何が良いのか。「支援する目線を持つこと」で戦略が立てやすくなります。たとえば、テクニカルサポートがウェビナーをするための告知掲載、カスタマーサクセスマネージャーの紹介記事、プロダクトやメール配信からのランディングページにするといったように、メディアに集約していくと、筋道が通ってCSが支援しやすくなるのです。
情報発信のソースを一元化し、コンバージョンポイントを集約することで、KPI設定などがしやすくなります。他にも、ユーザーに届けたいメッセージをコントロールしやすいという面もあります。
具体的には、SansanのInnovation Naviには上記のようなコンテンツを用意しています。必須ガイド、活用メソッド、活用事例など、CSの活動に必要なものがそろっています。
必須ガイドは初期設定に関する内容で、オンボーディングのご案内に使いますし、これが極まるとオートメーションですね。
ウェビナーもたくさん開いています。活用メソッドとウェビナーが一緒になると、ウェビナーの参加者が活用記事も回遊して見てくれるケースも多いです。
機能ガイドは、お客さんはすべてのヘルプを見るわけにはいかないですから、ここで体系立ててSansanのことを説明しています。
リリース情報もあります。ヘルプサイトを用意されている方も多いと思うのですが、Sansanの場合は支援メディアを通じています。情報の回遊率を上げる目的もあります。
あとは、サクセス事例ですね。導入事例とサクセス事例がごっちゃになっているケースも多いと思うのですが、Sansanの場合は明確に分けています。
導入事例は「なぜ導入したか」ですから、導入企業の偉い人、要は意思決定者に出てもらって、狙いや期待をヒアリングします。一方、サクセス事例は導入した方の奮闘記や、どういうふうに企業文化を変えていったか、といったストーリーのある記事にしています。
その導入が数年後にどういった結果につながったかは追わないとわかりません。そこで、成果が出た事例は、サクセス事例として分けて書きます。ここが分かれていると、CS活動において導入からサクセスまでのストーリーを持って、お客さんにご案内できるのです。
そして、オンラインコミュニティですね。コミュニティは後ほどまた説明しますが、今の時代はオンライン活動がメインになってきていますから、メディアに含めています。以前まではオフラインのミートアップである「Sansanユーザー会」も開催していました。
さて、メディアを中心にする意図についてお話ししましょう。それは、顧客体験を統合し、コントロールするためです。主には属人性の排除、情報のばらつきの統合、情報との出会いやすさ向上、ジャーニーデザインをしやすくする……このあたりを狙っています。
メディアに集約することによって戦略が立てやすくなるのですが、必ずしもメディアを単独で立ち上げる必要はないです。ヘルプサイトに間借りしてもいいですし、マーケティングサイトのどこかにコーナーを作っても構いません。ただ、お客さんを支援し、長くつき合っていくうえで、情報を掲載できるメディア的な仕組みがあることは非常に効くと思います。
支援メディアやコンテンツはCS有償化にも効く
次に、支援メディアを有効に活用する方法について。実際に作ることで、プロダクトに対してどういう影響があるのか。これは第2回講座でもお話しした事例ですが、メディアへのアクセス頻度が高いお客さんは、プロダクト利用率も高い傾向があります。
上図の点群は、横軸が期間で、縦軸がメディアアクセスの頻度です。プロダクトを使い始めて間もない頃にメディアへよりアクセスしてくれた人は、プロダクト利用率が高い傾向がファクトとして出ています。逆に期間が経ってからメディアを初めて認知した人は、プロダクト利用率が急激に上がったりはしません。
Sansanの支援内容と提供コンテンツは、すべてプランに書き出しています。これだけの支援メニューをメディアにまとめ、さらに足していくことで、支援内容が充実している印象と、実際に提供できることをお客さんに示せます。
SansanはCSの支援内容をプラン化しています。「CSプランベーシック」「CSプランベーシックプラス」といったように区分けして、一部を有償化しています。無償サポートに関してはメディアへ集約し、有償メニューについてはCSがハイタッチで手厚く関わる、というように違いがくっきりと出ています。
このように区分けを見せると、お客さんも比較的納得してくれやすい傾向にあります。CSの有償化に際して納得感が社内外で得られない話もよく聞きますが、その違いをうまく整理できる効果が、支援メディアにも期待できるといえます。
もし、ヘルプサイトと情報発信用のメディアと両方を持っている場合は、導線設計において、ヘルプサイト内にユースケース系の情報が入らないようにしましょう。
Sansanも支援メディアができる前はヘルプサイトですべてまかなっていたのですが、たとえば「操作方法」と「パフォーマンスの最大化」が並列に並ぶと、ヘルプサイトの意義がどうあるべきかがわかりにくくなってしまうのですね。まずはコンテンツを仕分けし、必要に応じて相互リンクすればいいと僕は思います。
PMMは「プロダクトのグロースに責任を持つ人」
ここからは「カスタマーサクセスとPMM」を取り上げます。PMM(プロダクトマーケティングマネージャー)については、Sansanから川村良太に登場してもらいましょう。
川村良太:よろしくお願いします。「Sansan」という名刺管理サービスのプロダクトマーケティングマネージャーと、カスタマーサクセス部で「CSプランニング」という組織横断で課題を解いていくところを、両方見ている立場に就いています。
まず、PMMの一番の責任範囲は“Product Marketing Managers Primary Responsibility”といわれています。プロダクトの価値とマーケットをつなぎ、コミュニケーションすることであると。一言で表すなら「プロダクトのグロースに責任を持つ」です。
実はかなり広範囲な役割でして、Sansanでは「Sansan」以外にも「Seminar One」や「Contract One」といったプロダクトを展開していますが、それぞれにPMMが付いています。また「Sansan」をとっても、データベース周り、プライシング、訴求メッセージの策定、新機能の企画、運用までの設計など、幅広く任を負っている形です。
では、なぜPMMが必要なのかというと、「モノではなく、コトを買ってもらう必要があるから」だと考えています。仮に「Sansan」が名刺をスキャンし、データ化し、いつでも見られる便利帳というサービスであれば、おそらくPMMは不要です。いかに速く、手軽に、たくさんデータ化できるかを突き詰めればいいからです。
しかし、Sansanには「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションがあり、あくまで名刺は「出会いの接点としての重要な情報ソース」と捉えているのです。メールでもウェビナーでも統合的にマネージしていき、いかに顧客体験につなげていくかといった世界観まで含めて顧客に伝え、プライシングに反映していくことが欠かせません。だからこそPMMが必要になってきます。
先ほど、「ヘルプサイトと支援メディアの違いは何か」という話がありましたが、一つにはメッセージの存在だと思っています。「このボタンを押したら、こういう事象が起こるよ」という説明ならヘルプサイトで構いませんが、「この機能を使うことで、どんなサクセスが待っているのか」という訴求や、「こういった成果を体現してほしくて、プロダクトを提供しているんだ」という活用に値するようなメッセージは、PMMの範疇だと考えています。
PMMの具体的なKPIは、Sansanの場合、担当ソリューションの売上、導入者数、利用ユーザー数に置いています。厳密に言うとPMMは営業担当ではありませんから、売上が置かれることに驚く方もいるでしょうか。
とはいえ、担当したプロダクトが多くの人に使われ、多くの会社に導入され、その機能が世の中に広まることをSaaSにおいて証明するのは、やはりMRRといった売上に直結していきますから、PMMの役割として見ています。ただ、初期のSaaSであれば、この観点はCEOが持っており、それが権限移譲したという考え方もできると思います。
SansanのPMMは2021年に何をしていたのか?
実際に私の担当ソリューションである「オンライン名刺」で、2021年からどのようなことをしてきたのかをまとめてみました。SansanでもPMM体制は今年の1月から始め、夏頃にすべてのプロダクトに対して配置された状況です。
中でも「オンライン名刺」に先んじてPMMが置かれた背景としては、コロナ禍で顧客接点の減少がビジネス課題として挙がり、早期解決を図る必要があったからです。インサイドセールス、営業、マーケティング、カスタマーサクセスと総力戦で当たってきましたが、全社プロジェクトだったうえに、意思決定をするオーナーが不在だったことで、施策が統制されない状態を抱えていました。
そこでPMMを立て、設定数をいかに増やすか、エンタープライズに対していかにアプローチするか、といった社内調整をしていきました。設定数の増加であれば、Sansanには個々人で設定するのではなく、管理者が支給者全員分の初期設定を済ませられる機能をリリースし、いかに使ってもらうかという指揮をとりました。
また、各部門でばらばらに設定されていたOKRの統一も図っていきましたね。
PMMの役割では、実は情報発信が大事にはなってきます。冒頭で申し上げたように、PMMの一番の責任範囲は「プロダクトの価値とマーケットをつなぎ、コミュニケーションすること」にもありますから、ユーザーボイスを収集し、マーケティングとのズレを起こさないことも非常に重要になってきます。
そこでこの「VoC(ボイスオブカスタマー)」についてお話もします。VoCは「顧客の声」と「顧客コミュニケーションチャネル」から成り立ちます。上図中央にあるのが「カンパニー=自社」ですね。そして「マーケット=顧客」がいて、それを取り巻く「ソサエティ=社会」がある。
この狭間において、マーケットインか、プロダクトアウトで新しいものを創造していくのかという境目があります。この境目にあるギャップをカスタマーサクセスが埋めていきます。
たとえば、新しい製品をいかに市場で受け入れられるようにするか。普及が広まらないときに、いかに顧客に展開していくか。まさにこのポイントですね。
「顧客の声」を開発に活かすには
そのためには、プロダクトと顧客の間での適切なフィードバックが必要です。
上記はSansanの例ですが、お客さんに普段から顧客折衝をしているCS部やカスタマーサクセスマネージャーが顧客の声を聞き、プロダクトに反映します。そして、プロダクトのリリース予定やプロダクトの詳細を顧客に伝えています。
また、顧客から批判者から賛同者を集め、NPSでスコアリングする「ユーザーリサーチセンター」や「UXリサーチセンター」という部門もあります。彼らがユーザーインタビューをした結果もプロダクトに還元し、開発したものをカスタマーに還元するようなループが生まれています。
具体例で見ていきますと、オンラインコミュニティからは「管理者の操作部署設定を一括変更したい」といった機能の要望が日々統合され、それに対してレスポンスがつきます。顧客同士で会話したり、SansanのCS担当からフォローしたりすることが日々起きています。
もう一つ、これは私が3年前にSansanに入社して印象的だったことなのですが、Slack上で活発に顧客の声や自分の意見をアップする風習があります。CEOの寺田も「一体いつ見ているのだろう」と思うくらいに、すぐにサムズアップのスタンプを押してくれたり(笑)。
Sansanに関する思いつきを、社員がどんどんSlackに書いていくような文化があります。あるいは、お客さんからセミナーで聞かれた声もみんなに共有しながら、フロントやPdMが開発計画を立てることも。その声が、どういったビジネス価値を生むのかをアサインして実装する仕組みなのですね。
みなさんの会社には、VoCをうまく集める仕組みがあるでしょうか。VoCを収集していたとしても、開発計画に生かしているでしょうか。あるいは収集や開発計画への反映まで、よいループで回せているでしょうか。この問いを常に確認しながら、プロダクト開発に活かしてもらえたらと思います。
なぜ、ユーザーコミュニティが必要なのか?
山田:では、ここからは再び私が「なぜコミュニティをやる意義があるのか」について話していきましょう。
カスタマーサクセスドリブンのマーケティングは、先ほど話したようにフレンチホルン型で、口コミを発生させてお客さんを呼び込んでいくのが大上段にあります。そして、この型がコミュニティに取り組む意義の一つとしても捉えられています。
ただ、私が考えているコミュニティの意義はちょっと違います。私自身もCSに関する相談をよく受けるのですが、その一つが「自分たちのプロダクトでは解決できない領域のことを問われたり、要求されたりされることが多い」と悩むCSMからの声があります。
確かにSansanで考えてもそうだったんです。自分なりの答えとしては、上図に書いているように、プロダクトで提供できるサクセスはあれど、「お客さんに提供しなければならないサクセス」はもっと広くあります。当然に、そのプロダクトだけで解決できないことも多いはずです。
そこで、このプロダクトの外にある「お客さんに提供しなければならないサクセス」こそをコミュニティで解決すべきだと思っています。コミュニティとは、そういったことを議論する場であるという切り分け方が最も美しいのではないか、と。
ですから、コミュニティでは自分たちのプロダクトのことがメインテーマにはならないのです。むしろ少なくてしかるべきかもしれません。
以前に、コミュニティが事業活動に及ぼす直接的な貢献として、下記3点を主張していたことがあります。
「サポート&オンボーディングによる工数削減」「プロダクトの活用促進による継続率上昇」「新規顧客へのリファラル効果」です。
確かにこれは事実で、実はこの3つはコミュニティによって向上します。オンボーディングはコミュニティを訪れることで、他のお客さんから導入事例やノウハウなど、いろんなことを教えてもらい、理解が進むこともあるでしょう。
コミュニティが盛り上がっていることで、他のお客さんが呼び込まれるスパイラルが起こったり、リファラルが起こったりすることも確かにあります。ただ、それらの効果は非常に限定的だとも感じます。参加者はコミュニティからのナレッジのキャッチアップと、そこでの自社の立ち位置を確認し続けることで、プロダクト利用推進による継続率が上昇することはあり得ると思います。ただ、新規顧客のリファラルやサポートのオンボーディング工数削減は、やはり期待するほどは望めないというのが、私の見解です。
なので、「プロダクトでは解決できないサクセス」をコミュニティで解決していくという方向性が、もっとも正しいのではないかと思っているのですね。
もう一つ、コミュニティにおけるKPIとエンゲージメントスコア分析について話します。コミュニティをやる意義を経営者が理解してくれないといった問題はよく聞くものです。
私の答えは「周辺領域を解決するためにコミュニティを使うのが最も良い」というのに加えて、KPIと効果測定についても併せて伝えるといいでしょう。
Sansanのコミュニティループを示したのが上図です。
Sansanでコミュニティがあるのは、有効な事例を生み出す苗床としての価値があるからだと捉えています。というのも、Sansanの名刺管理サービスは、使うこと自体はそれほど難しくはありません。ただ、名刺管理を使ってどういうふうに組織パフォーマンスを高めるのかが難しい。ですから、コミュニティ設立当初から、話題はそこにフォーカスしようとは決めていました。
しかし、本当に事業貢献できているかについては、多くの人が疑問を抱くことだと思います。今日はそれを証明しましょう。
実測から見る、高エンゲージメントユーザーが必要な理由
「顧客エンゲージメントとは何か」を考えたときに、コミュニティは顧客のエンゲージメントを高めていく活動にほかなりません。つながりを強固にするもので、いわゆる「愛着」につながり、そこでは「見返りがないのに、ついやってしまいたくなる」という振る舞いがしばしば発生します。
コミュニティにエンゲージメントが高い人がいると、製品やプロダクトの伝道師たりえてくれるのですね。社内外で自ら普及活動をしてくれたりします。
つまり、高エンゲージメントユーザーは顧客社内でSansanの利用普及を行っており、リテンションアップに貢献しているはずである、という仮説を打ち出しました。
高エンゲージメントであることを測るために、活用の度合い、ウェブの閲覧率、セミナー参加、ユーザー会参加、Sansanとの接点数、事例に出ているか、アワードのエントリーはあるかといった項目を洗い出し、数値化させました。その数値をもとに、SSランク、Sランク、Aランク……とカテゴリーごとに分けてみました。詳細は省きますが、一定の閾値や条件を超えるとランクが切り替わる仕組みです。
要は、エンゲージメントが高いと言われることを要素分解していき、それについてスコアをつけていったんですね。
結果として、最も大切なのは月次利用率の高さでした。月次利用率が非常に高くないと、そもそもサービスへの愛着は表わせないでしょうからね。そのうえで、全ユーザーを点数にプロットしたところ、Sランクの人は、Aランクの25倍いました。Aランクの人は、下位ランクの92倍いました。
このようにして、高エンゲージメントの人たちがスコア化されました。では、エンゲージメントが高いユーザーが所属してる企業はヘルススコアが高いのかを、次に見ました。
Sansanのヘルススコアは結構精緻に作られているので、従業員規模が少ない順にS規模、M規模、E規模というふうに分けているのですが、Aランク以上が存在する企業は、普通の全企業に比べて1.3倍ヘルススコアが高かったのです。M規模以上の場合は1.2倍、E規模以上の場合は1.15倍高かった。
つまり、高ランクユーザーのいる企業はヘルススコアも相対的に高く、従業員規模が少ないほど伝播しやすいという傾向が見えました。
このあたりは、セールスフォースさんのエンゲージメントスコアの取り組みも参考にしましたので、参考文献として持ってきました。併せて見てみてください。
このような関連性がわかり、高エンゲージメントユーザーを育成することの大切さが証明されたことで、コミュニティに取り組む意義もはっきりしたと考えています。
SaaS CS集中講座、これにて終了!
さて以上で、私が担当した全5回の「SaaS CS集中講座」の全行程が終わりました。5回すべてを聞いた方は「免許皆伝」として、自称していただければと思います。
最後に。カスタマーサクセスは、SaaSの特性を最も体現する役割を担っています。隣で営業さんやマーケが数字でひりひりしていても、決して焦らず年単位で畑を耕しましょう。SaaSは、成長に長い期間が必要だとされていますし、持続させるにも結構な忍耐が必要です。まさに農耕的だといわれることも多いものです。
カスタマーサクセスはそれを最も体現していると、私は思っています。そして、その覚悟も必要です。とはいえ経営ですから悩ましいこともあれど、決して焦らず、年単位で、皆さん頑張ってください。以上で終了です。ありがとうございました。
著者:山田ひさのり
『カスタマーサクセス実行戦略』の著者。ゲームプログラマーとしてキャリアをスタートし、Web開発のPG/SEを経て事業開発にキャリアチェンジ。その後、Sansan株式会社にてCS部門の責任者を歴任。現在はsasket LLCを設立し、2年間で約20社へのCSアドバイザリーを経験。